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胸部大動脈瘤

執筆者:

Mark A. Farber

, MD, FACS, University of North Carolina;


Federico E. Parodi

, MD, University of North Carolina School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 11月
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胸部大動脈の径が正常より50%以上大きい場合,動脈瘤とみなされる(径の正常値は部位により異なる)。ほとんどの胸部大動脈瘤は無症状であるが,胸痛または背部痛がみられる場合もあるほか,その他の症候は通常,合併症(例,解離,隣接構造の圧迫,血栓塞栓症,破裂)の結果として生じたものである。破裂のリスクは動脈瘤の大きさに比例する。診断はCT血管造影または経食道心エコー検査(TEE)により行う。治療は血管内ステントグラフト内挿術または外科手術である。

胸部大動脈瘤(TAA)は,大動脈が横隔膜より上部で異常に拡張した状態である。TAAは大動脈瘤の4分の1を占める。発生率は男性と女性で同じである。

TAAの発生部位は以下の通りである:

  • 上行大動脈(大動脈基部と腕頭[無名]動脈の間):40%

  • 大動脈弓部(腕頭動脈,頸動脈,鎖骨下動脈を含む):10%

  • 下行大動脈(左鎖骨下動脈より末梢):35%

  • 上腹部ー胸腹部大動脈瘤(TAAA):15%

合併症

TAAの合併症としては以下のものがある:

上行大動脈の動脈瘤は,ときに大動脈基部を侵して, 大動脈弁逆流 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症(AR)は,大動脈弁の閉鎖不全により,拡張期に大動脈から左室に向かって逆流が生じる病態である。原因としては,弁変性および大動脈基部拡張(二尖弁の合併を含む),リウマチ熱,心内膜炎,粘液腫様変性,大動脈基部解離,結合組織疾患(例,マルファン症候群),リウマチ性疾患などがある。症状としては,労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,動悸,胸痛などがある。徴候としては,脈圧増大や拡張早期雑音などがある。診断は身体診察および心... さらに読む 大動脈弁逆流症 または冠動脈口閉塞を引き起こし, 狭心症 狭心症 狭心症とは,梗塞を伴わない一過性の心筋虚血によって前胸部に不快感または圧迫感が生じる臨床症候群である。狭心症は典型的には労作または精神的ストレスにより増悪し,安静またはニトログリセリンの舌下投与により軽快する。診断は症状,心電図,および心筋イメージングによる。治療法としては,抗血小板薬,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,スタチン系薬剤,冠動脈形成術または冠動脈バイパス術などがある。... さらに読む 心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む 急性心筋梗塞 ,失神を惹起する。

胸部大動脈瘤の病因

大半の胸部大動脈瘤の原因は以下の通りである:

胸部大動脈瘤と大動脈解離に共通する危険因子として,長期にわたる 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む 高血圧 脂質異常症 脂質異常症 脂質異常症とは,血漿コレステロール,トリグリセリド(TG)値,もしくはその両方が高値であること,またはHDLコレステロールが低値であることであり, 動脈硬化発生に寄与する。原因には原発性(遺伝性)と二次性とがある。診断は,総コレステロール,TG,および各リポタンパク質の血漿中濃度測定による。治療は食習慣の変更,運動,および脂質低下薬である。 ( 脂質代謝の概要も参照のこと。)... さらに読む 脂質異常症 ,喫煙などがある。TAAのその他の危険因子としては,他部位の動脈瘤,感染症, 大動脈炎 大動脈炎 大動脈炎は大動脈の炎症であり,ときに動脈瘤または閉塞を引き起こす。 大動脈炎はまれであるが,生命を脅かす可能性がある。報告されている発生率は年間100万人当たり1~3例である。 大動脈炎は以下により引き起こされる: 結合組織疾患(例, 高安動脈炎, 巨細胞性動脈炎, 強直性脊椎炎, 再発性多発軟骨炎) 感染症(例, 細菌性心内膜炎, 梅毒, ロッキー山紅斑熱,真菌感染症) さらに読む 大動脈炎 ,高齢(好発年齢は65~70歳)などがある。

先天性結合組織異常症(例, マルファン症候群 マルファン症候群 マルファン症候群は結合組織の異常から成り,結果として眼,骨格,および心血管系の異常を来す(例, 大動脈解離につながる上行大動脈の拡張)。診断は臨床的に行う。治療には,上行大動脈の拡張を遅らせるための予防的β遮断薬投与,および予防的大動脈手術などがある。 マルファン症候群の遺伝形式は 常染色体優性である。基礎的な分子生物学的異常は,ミクロフィブリルの主要成分であり細胞の細胞外基質への固定を助ける糖タンパク質フィブリリン-1( さらに読む マルファン症候群 エーラス-ダンロス症候群 エーラス-ダンロス症候群 エーラス-ダンロス症候群は,関節過可動性,皮膚の過弾力性,および広範な組織脆弱性を特徴とする遺伝性のコラーゲンの障害である。診断は臨床的に行う。治療は支持療法による。 遺伝形式は通常, 常染色体優性であるが,エーラス-ダンロス症候群は不均一性である。様々な遺伝子変異が様々なコラーゲンの量,構造,または形成に影響を与える。変異は,コラーゲン(例,I型,III型,V型)またはコラーゲン修飾酵素(例,コラーゲンを切断するプロテアーゼであるリジ... さらに読む エーラス-ダンロス症候群 ,ロイス‐ディーツ症候群)は嚢胞性中膜壊死を引き起こし,この変性変化はTAAに 大動脈解離 大動脈解離 大動脈解離は,大動脈内膜の裂口を介して壁内に血液が急激に流入することで,内膜と中膜が分離して偽腔(チャネル)が生じる病態である。内膜裂口は原発性に生じることもあれば,中膜内の出血に続発することもある。大動脈解離は大動脈のあらゆる部位から始まる可能性があり,さらに中枢または末梢に進展して他の動脈に及ぶこともある。高血圧が重要な寄与因子の1つである。症状と徴候には,胸部または背部に突然生じる引き裂かれるような痛みがあるほか,解離により大動脈... さらに読む 大動脈解離 や大動脈近位部および大動脈弁の拡大(大動脈弁輪拡張症)といった合併をもたらし,これらにより 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症(AR)は,大動脈弁の閉鎖不全により,拡張期に大動脈から左室に向かって逆流が生じる病態である。原因としては,弁変性および大動脈基部拡張(二尖弁の合併を含む),リウマチ熱,心内膜炎,粘液腫様変性,大動脈基部解離,結合組織疾患(例,マルファン症候群),リウマチ性疾患などがある。症状としては,労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,動悸,胸痛などがある。徴候としては,脈圧増大や拡張早期雑音などがある。診断は身体診察および心... さらに読む 大動脈弁逆流症 が惹起される。大動脈弁輪拡張症の症例の50%はマルファン症候群によるものであるが,嚢胞性中膜壊死とその合併症が(たとえ先天性結合組織異常症が存在しない場合でも)若年者に生じる可能性がある。

感染性TAAは,全身または局所感染の血行性伝播(例, 敗血症 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む 肺炎 肺炎の概要 肺炎は,感染によって引き起こされる肺の急性炎症である。初期診断は通常,胸部X線および臨床所見に基づいて行う。 原因,症状,治療,予防策,および予後は,その感染が細菌性,抗酸菌性,ウイルス性,真菌性,寄生虫性のいずれであるか,市中または院内のいずれで発生したか,機械的人工換気による治療を受けている患者に発生したかどうか,ならびに患者が免疫能... さらに読む ),リンパ行性伝播(例, 結核 結核 結核は,しばしば初感染から一定期間の潜伏期を経て発症する慢性進行性の抗酸菌感染症である。結核は肺を侵すことが最も多い。症状としては,湿性咳嗽,発熱,体重減少,倦怠感などがある。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多いが,分子生物学に基づく迅速診断検査の利用も増えてきている。治療では複数の抗菌薬を少なくとも6カ月間投与する。... さらに読む 結核 ),または直接進展(例, 骨髄炎 骨髄炎 骨髄炎は,細菌,抗酸菌,または真菌に起因する骨の炎症および破壊である。よくみられる症状は,全身症状を伴う(急性骨髄炎)または全身症状を伴わない(慢性骨髄炎),限局性の骨痛および圧痛である。診断は画像検査および培養による。治療は抗菌薬およびときに手術による。 骨髄炎は以下によって生じる: 感染組織または 感染した人工関節からの連続した進展 血液由来の微生物(血行性骨髄炎) 開放創(汚染された開放骨折または骨の手術による) さらに読む 骨髄炎 心膜炎 心膜炎 心膜炎とは心膜の炎症であり,しばしば心嚢液貯留を伴う。心膜炎は,多くの疾患(例,感染症,心筋梗塞,外傷,腫瘍,代謝性疾患)によって引き起こされるが,特発性のことも多い。症状としては胸痛や胸部圧迫感などがあり,しばしば深呼吸により悪化する。心タンポナーデまたは収縮性心膜炎が発生した場合には,心拍出量が大きく低下することがある。診断は症状,心膜摩擦音,心電図変化,およびX線または心エコー検査での心嚢液貯留の所見に基づく。原因の特定には,さら... さらに読む 心膜炎 )に起因する。細菌性 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 感染性心内膜炎 第3期梅毒 晩期または第3期梅毒 梅毒は,スピロヘータの一種である梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)によって引き起こされる疾患で,臨床的に3つの病期に区別され,それらの間には無症状の潜伏期がみられることを特徴とする。一般的な臨床像としては,陰部潰瘍,皮膚病変,髄膜炎,大動脈疾患,神経症候群などがある。診断は血清学的検査のほか,梅毒の病期に基づいて選択される補助的検査による。第1選択の薬剤はペニシリンである。... さらに読む  晩期または第3期梅毒 は,まれな原因である。TAAは一部の炎症性疾患でも発生する(例, 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎 巨細胞性動脈炎は,胸部大動脈,大動脈から派生する頸部の大型動脈,および頸動脈の頭蓋外分枝を主に侵す。リウマチ性多発筋痛症の症状がよくみられる。症状および徴候には,頭痛,視覚障害,側頭動脈の圧痛,咀嚼時の顎筋の痛みなどがある。発熱,体重減少,倦怠感,疲労もよくみられる。赤血球沈降速度の亢進およびC反応性タンパク(CRP)値の上昇が典型的にみられる。診断は臨床的に行い,側頭動脈生検により確定する。高用量コルチコステロイドおよび/またはトシリ... さらに読む 高安動脈炎 高安動脈炎 高安動脈炎は,大動脈,その分枝,および肺動脈を侵す炎症性疾患である。主に若年女性に発症する。病因は不明である。血管の炎症によって動脈の狭窄,閉塞,拡張,または動脈瘤を生じることがある。患者には,四肢の間(両側の肢の間または同じ側の腕と下肢の間)に非対称性の脈もしくは血圧測定値の不一致,四肢の跛行,脳灌流量の減少による症状(例,一過性視覚障害,一過性脳虚血発作,脳卒中),および高血圧もしくはその合併症がみられることがある。診断は,大動脈造... さらに読む 高安動脈炎 多発血管炎性肉芽腫症 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) 多発血管炎性肉芽腫症は,壊死性肉芽腫性炎症,小型および中型血管の血管炎,およびしばしば半月体形成を伴う巣状壊死性糸球体腎炎を特徴とする。典型的には,上気道と下気道および腎臓が侵されるが,どの臓器も侵される可能性がある。症状は,侵された臓器や器官系によって異なる。患者は上下気道症状(例,繰り返す鼻漏または鼻出血,咳嗽)とそれに続いて高血圧および浮腫,または多臓器障害を反映した症状を呈することがある。診断には通常,生検を必要とする。治療はコ... さらに読む 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) )。

鈍的胸部外傷で生じた大動脈壁の損傷によって仮性動脈瘤(偽性動脈瘤)が形成されることがある;この場合,大動脈の損傷により動脈内腔と周囲の結合組織との間に交通が生じて,大動脈の領域外に血液が漏出することになるが,血管壁の外側に血液で満たされた空間が形成され,それが血栓化して血液の漏出を閉鎖する。

胸部大動脈瘤の症状と徴候

ほとんどの胸部大動脈瘤は合併症(例,血栓塞栓症,破裂,大動脈弁逆流,解離)が発生するまで無症状である。しかしながら,隣接構造の圧迫によって背部痛(脊椎の圧迫による),咳嗽(気管の圧迫による),喘鳴,嚥下困難(食道の圧迫による),嗄声(左反回神経または迷走神経の圧迫による),胸痛(冠動脈圧迫による), 上大静脈症候群 局所浸潤 局所浸潤 が生じる可能性がある。

動脈瘤が肺に侵食すれば喀血や間質性肺炎を来し,食道に侵食すれば(大動脈食道瘻)大量吐血を来す。

解離は引き裂くような胸痛で発症し,しばしば背部肩甲骨間への放散痛を認める。

血栓塞栓症により,脳卒中,腹痛(腸間膜虚血による),四肢痛を来すこともある。

直ちに致死的とならないTAA破裂では,重度の胸痛または背部痛と低血圧またはショックがみられる。破裂による失血は,胸腔内または心膜腔内に生じることが最も多い。

胸部大動脈瘤の診断

  • 偶然のX線所見

  • 確定診断はCT血管造影(CTA),MRアンギオグラフィー(MRA),または経食道心エコー検査(TEE)による

胸部大動脈瘤は通常,胸部X線で縦隔の開大または大動脈球の拡大が認められて最初に疑われる。しかしながら,TAAに対する胸部X線の感度は低く,信頼できる診断手段にはならない(例,胸痛のある患者や大動脈瘤が疑われる患者の場合)。動脈瘤を示唆する胸部X線所見または症候がみられた場合は,断層撮影の画像検査でフォローアップすべきであり,そこでの検査法の選択は,各検査の利用可能性と医療機関の経験に基づいて判断する。

破裂が疑われる場合は,利用可能性に応じてTEE(上行解離が対象)またはCTAを直ちに施行するべきである。胸部CTAでは,動脈瘤の大きさと中枢または末梢への進展範囲を描出でき,また血液の漏出を検出し,併存症を同定することができる。MRAでも同様の詳細な情報が得られる。経胸壁心エコー検査(TTE)では,上行大動脈の動脈瘤の大きさと進展範囲を描出し,血液の漏出を検出することができるが,下行大動脈には有用でない。TEEは胸部大動脈全体を描出することはできないが,大動脈解離の入口部を検出する上では極めて有用となりうる。

歴史的に血管造影が標準の画像検査であった。血管造影では動脈腔の最良の像が得られるが,血管外構造の情報(すなわち別の診断)は得られない。さらに血管造影は,侵襲的な検査であり,腎および四肢の動脈硬化性塞栓症および造影剤腎症の重大なリスクがある。

大動脈基部の拡張または原因不明の上行大動脈瘤には,梅毒の血清学的検査が必要である。感染性動脈瘤が疑われる場合は,細菌および真菌の血液培養を行う。

胸部大動脈瘤の予後

胸部大動脈瘤は平均3~5mm/年のペースで増大する。急速な増大の危険因子としては,動脈瘤が大きいこと,下行大動脈に位置すること,壁在血栓の存在などがある。

年間破裂リスクは以下の通りである:

  • 5cm未満の動脈瘤は2%

  • 5~5.9cmの動脈瘤は3%

  • 6cm以上の動脈瘤は8~10%

TAAの直径が6cmに達すると,リスクが突然高くなるようである。破裂時点での瘤径の中央値は上行動脈瘤で6cm,下行動脈瘤で7cmであり,特に結合組織疾患または嚢状動脈瘤の患者では,より小さな段階で破裂することもある。

大きなTAAを有する患者の無治療での生存率は,1年で65%,5年で20%である。TAAA破裂の死亡率は97%である。

胸部大動脈瘤の治療

  • 血管内ステントグラフト内挿術または開胸下の外科的修復

  • 高血圧および他の併存症のコントロール

手術適応になるまでは,高血圧,脂質異常症,糖尿病,および呼吸器疾患の至適コントロールによる内科的管理が適切な治療となる。治療法は,解剖学的に可能であれば血管内ステントグラフト内挿術,より複雑な動脈瘤には開胸下の外科的修復である。高血圧を直ちにコントロールすることが不可欠である。

TAA破裂は,無治療では例外なく死に至る。漏出のある動脈瘤や急性解離または急性弁逆流を起こしている動脈瘤と同様に,即時の介入が必要である。

手術では,胸骨正中切開(上行動脈および大動脈弓の動脈瘤の場合)または左開胸もしくは胸腔・後腹膜露出(下行動脈および胸腹部の動脈瘤の場合)から人工血管への置換を行う。緊急開胸手術を行った場合の1カ月死亡率は約40~50%である。生存例では,重篤な合併症(例,腎不全,呼吸不全,重度の神経損傷)の発生率が高い。

下行大動脈のTAAおよびTAAAに対する血管内ステントグラフト(挿入型人工血管)の経カテーテル的留置術が,開胸手術に代わる侵襲性の低い方法として,よく施行されるようになっている。

以下に該当する動脈瘤は待機手術の適応である:

  • 大型のもの

  • 急速に増大しているもの(0.5cm/年超)

  • 気管支圧迫を引き起こしているもの

  • 大動脈気管支瘻または大動脈食道瘻を引き起こしているもの

  • 症候性のもの

  • 外傷性のもの

  • 真菌性のもの

上行大動脈の動脈瘤は一般に,直径が5.5cmもしくは正常時の直径の2倍を超える場合,またはaortic size index(大動脈径と体表面積の関係)が2.75cm/m2以上の場合に大型とみなされる。下行大動脈では,6cmを超える動脈瘤が一般に大型とみなされる。マルファン症候群の患者では,部位を問わず4.5~5cm以上の動脈瘤を大型とみなす。

感染性動脈瘤の治療は,特定の病原体に対する積極的な抗菌薬療法である。一般に,この種の動脈瘤には外科的な修復も必要になる。

損傷のないTAAでは直視下での外科的修復により予後が改善するが,それでも30日死亡率が5~10%を超えることがあり,10年死亡率は40~50%である。血管内ステントグラフトでは死亡率がより低くなる。動脈瘤に加えて合併症(例,大動脈弓または胸腹部大動脈に存在)がある場合のほか,高齢患者,冠動脈疾患もしくはその症状のある患者,および以前から腎機能不全がある患者では,死亡リスクが大幅に上昇する。周術期合併症(例,脳卒中,脊髄損傷,腎不全)は約10~20%の頻度で発生する。

待機手術または血管内治療による修復の基準を満たさない無症状の動脈瘤は,β遮断薬とその他の降圧薬を必要に応じて使用する積極的な 血圧コントロール 治療 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む 治療 によって治療する。 禁煙 禁煙 ほとんどの喫煙者は禁煙したいと願い,それを試みているが,成功率は限られている。効果的な介入としては,禁煙カウンセリングとバレニクリン,ブプロピオン,ニコチン代替製品などの薬剤投与がある。 米国の喫煙者の約70%は,喫煙をやめることを望んでおり,少なくとも1回は禁煙を試みたことがあると言う。ニコチンの離脱症状は,禁煙の重大な障壁となりうる。 ( タバコおよび ベイピングも参照のこと。)... さらに読む が不可欠である。脂質異常症,糖尿病,および呼吸器疾患は全て治療すべきである。症状の有無を確認するための頻回のフォローアップと6~12カ月毎の一連のCTまたは超音波検査が必要である。画像検査の頻度は動脈瘤の大きさに依存する。

胸部大動脈瘤の要点

  • 胸部大動脈瘤(TAA)とは,胸部大動脈の径が50%以上増大した状態である。

  • TAAは解離や隣接構造の圧迫または侵食を引き起こすことがあり,血栓塞栓症,血液の漏出,破裂などを来す。

  • 破裂時点での瘤径の中央値は,上行動脈瘤で6cm,下行動脈瘤で7cmである。

  • 最初はX線またはCTで偶然認められた所見から疑われる場合が多いが,確定診断にはCT血管造影,MRアンギオグラフィー,または経胸壁心エコー検査を用いる。

  • 無症状の小さなTAAに対する治療は,血圧および脂質異常症の積極的な管理と禁煙による。

  • 大きなTAAおよび症状を呈するTAAに対する治療は,解剖学的に可能な場合は血管内ステントグラフト内挿術,より複雑な動脈瘤の場合は開胸下の外科的修復による。

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