リエントリー性上室頻拍(SVT),WPW症候群を含む

(発作性上室頻拍;WPW)

執筆者:L. Brent Mitchell, MD, Libin Cardiovascular Institute of Alberta, University of Calgary
レビュー/改訂 2021年 1月
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リエントリー性上室頻拍(SVT)は,ヒス束分岐部より上位の要素を含むリエントリー性伝導路が関与する。患者には突然始まって突然停止する突発性の動悸がみられ,患者によっては呼吸困難や胸部不快感もみられる。診断は臨床および心電図所見による。通常,初期治療は迷走神経刺激による。それが無効に終わった場合,QRS幅の狭い調律,あるいは房室結節伝導を必要とする変行伝導を伴うリエントリー性SVTと判明しているQRS幅の広い調律は,静注のアデノシンまたは非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で治療する。それ以外のQRS幅の広い調律に対しては,プロカインアミドまたはアミオダロンが効果的である。薬剤が無効であるか,血行動態が不安定である全ての症例に対しては,カルディオバージョンを用いることができる。

不整脈の概要も参照のこと。)

リエントリー性SVTの病態生理

上室頻拍におけるリエントリー伝導路(典型的なリエントリーの機序の図を参照)としては以下のものがある:

  • 心房結節(約50%)

  • 副伝導路(40%)

  • 心房または洞房結節(10%)

房室結節リエントリー性頻拍は,他の点では健康な患者で生じる場合が最も多い。心房性期外収縮により誘発されることが最も多い。

副伝導路リエントリー性頻拍には,正常な房室結合を部分的または完全に迂回する伝導組織の経路(副伝導路)が関与する。心房から直接心室へと走行するものが最も多く,心房から伝導系の一部へ,または伝導系の一部から心室へと走行するものは比較的少ない。これらは,心房性期外収縮または心室性期外収縮.により誘発されうる。

WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群

WPW症候群(早期興奮症候群)は,最も頻度の高い副伝導路によるSVTであり,およそ1000人に1~3人の頻度で発生する。WPW症候群はその多くが特発性であるが,肥大型心筋症や他の病型の心筋症大血管転位症,またはエプスタイン奇形の患者で頻度が高くなっている。WPW症候群には主に以下の2つの病型がある:

  • 古典的

  • 不顕性

古典的(または顕性)WPW症候群では,洞調律中に副伝導路と正常伝導系の双方で順行性伝導が発生する。副伝導路は伝導速度がより速いため,心室の一部をより早く脱分極させ,その結果としてPR間隔は短縮し,QRS波の立ち上がりは不明瞭となる(δ波―古典的WPW[Wolff-Parkinson-White]症候群の図を参照)。

古典的WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群

I,II,III,V3~V6誘導にて,WPW症候群の古典的特徴である洞調律でのPR間隔の短縮とδ波がみられる。

このδ波によりQRS時間が延長して0.12秒を超えるが,δ波を除けば全体的に正常な波形となる。δ波の方向によっては,偽梗塞パターンのQ波を認めることもある。早期に脱分極した心室の一部は再分極も早期に起こすため,T波のベクトルが異常となりうる。

不顕性WPW症候群では,副伝導路が順行方向に伝導せず,そのために前述の心電図異常は出現しない。しかしながら,副伝導路は逆行方向に伝導するため,リエントリー性頻拍の素因となる。

最も頻度の高い病型のリエントリー性頻拍(正方向性回帰性頻拍と呼ばれる)では,回路が正常な房室伝導路を介して心室を刺激し,副伝導路を介して心房へと戻る。したがって,その結果として起こるQRS波は(脚ブロックを併発してしない限り)幅が狭く,δ波を伴わない。正方向性回帰性頻拍は,典型的にはRP時間の短い頻拍であり,ST部分に逆行性P波を伴う。

まれに,このリエントリー回路内で興奮が房室副伝導路を反対方向に通過して心房から心室へと伝導し,心室から正常な房室伝導系を逆方向に回帰する(逆方向性回帰性頻拍と呼ばれる)。心室は異常に興奮するため,QRS幅が広くなる。房室副伝導路が2本ある患者(まれではない)では,一方の副伝導路を順行方向に利用し,もう一方の副伝導路を逆行方向に利用する回帰性頻拍が発生しうる。

WPW症候群の頻拍は,最初から心房細動(AF)として発症する場合と後からAFに増悪する場合があり,AFは非常に危険な状態となりうる。肥大型心筋症や他の病型の心筋症により心房が拡大している場合,WPW症候群患者は心房細動を起こしやすい。

リエントリー性SVTの症状と徴候

ほとんどの患者は若年成人期または中年期に受診する。典型的には,突然発症して突然停止する規則的な速い動悸の発作がみられ,しばしば血行動態障害の症状(例,呼吸困難,胸部不快感,ふらつき)を伴う。発作は数秒だけで収まることもあれば,数時間継続することもある(まれに12時間を超える)。

乳児では,間欠的な息切れ,嗜眠,授乳困難,または速い前胸部拍動で発症する。頻拍が長引くと,乳児では心不全を来す可能性がある。

診察は通常,心拍数が160~240/分であることを除けば特記すべき事項はない。

リエントリー性SVTの診断

  • 心電図検査

上室頻拍の診断は,心電図検査で規則的な速い頻拍を認めることによる。過去の心電図記録が入手できれば,顕性WPW症候群の徴候がないか確認する。

P波は一定ではない。房室結節リエントリーの大半の症例では,QRS波の終末部に逆行性P波が出現する(V1誘導ではしばしば偽性R波が生じる);約3分の1がQRS波の直後に生じ,QRS波の前にみられることはほとんどない。WPW症候群の正方向性回帰性頻拍では,P波は常にQRS波の後にみられる。

脚ブロック,逆方向性回帰性頻拍,または二重副伝導路回帰性頻拍を併発している場合を除けば,QRS幅は狭い。QRS幅の広い頻拍は,心室頻拍と鑑別しなければならない(植込み型除細動器の適応の表と古典的なWPW[Wolff-Parkinson-White]症候群およびQRS幅の狭い頻拍の図を参照)。

パール&ピットフォール

  • ほとんどの上室頻拍はQRS幅が狭いが,QRS幅が広いものもあり,心室頻拍との鑑別が必要になる。

QRS幅の狭い頻拍:WPW症候群における副伝導路を介した正方向性回帰性頻拍

興奮は房室結節,ヒス-プルキンエ系,心室,副伝導路,心房の順に伝導する。P波はQRS波のすぐ後ろに認められ,RPの短い頻拍である(PR > RP)。

リエントリー性SVTの治療

  • 迷走神経刺激

  • アデノシン

  • QRS幅が狭い場合はベラパミルまたはジルチアゼム

  • 頻回の再発には,アブレーション

多くのエピソードは治療開始前に自然に停止する。

迷走神経刺激(例,バルサルバ法,片側頸動脈洞マッサージ,氷水に顔をつける,氷水を飲み込む)により,特に早期に用いた場合,頻拍性不整脈を停止できることがあり,一部の患者はこれらの方法を自宅で用いている。

迷走神経刺激が無効で,かつQRS幅が狭い(順行性伝導を示唆する)場合は,房室伝導抑制薬を使用する;房室結節を介する伝導を1回の拍動で遮断することでリエントリーのサイクルを停止させる。アデノシンが第1選択である。用量は6mgの急速静注(小児では0.05~0.1mg/kg)であり,続いて生理食塩水20mLを急速投与する。この用量で無効の場合は,続いて12mgを5分間隔で2回投与する。アデノシンはときに短時間(2~3秒)の心拍停止を引き起こし,患者に苦痛を与え,医師を動揺させることがある。代替薬はベラパミル5mg静注またはジルチアゼム0.25~0.35mg/kg静注である。

QRS幅の広い規則的な頻拍で,二重副伝導路が関与しない逆方向性回帰性頻拍であることが判明している(既往歴から同定する必要があり,短時間に確定することはできない)場合にも,房室伝導抑制薬が効果的となりうる。しかしながら,頻拍の発生機序が不明で,心室頻拍を除外できない場合は,心室頻拍を悪化させる可能性のある房室伝導抑制薬の使用は避けるべきである。このような症例(または薬剤が無効な症例)では,静注のプロカインアミドまたはアミオダロンを使用することができる。あるいは,50ジュール(小児では0.5~2ジュール/kg)のカルディオバージョンが迅速かつ安全であり,これらの毒性の強い薬剤よりも望ましい可能性がある。

房室結節リエントリー性頻拍の発作が頻回または患者にとって煩わしい場合は,抗不整脈薬の長期投与または経静脈的なカテーテルアブレーションも選択肢に含まれる。一般にアブレーションが推奨されるが,これが許容されない場合は,予防的薬物療法を通常はジゴキシンから開始し,必要に応じてβ遮断薬,非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬,またはこれらの併用へと進み,その後はIa群,Ic群,またはIII群の抗不整脈薬を1剤または複数投与する(抗不整脈薬の表を参照)。しかしながら,青年期を過ぎた顕性WPW症候群患者(心房細動が発生する可能性が高くなる)には,ジゴキシンまたは非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を単独で投与してはならない(心房細動とWPW[Wolff-Parkinson-White]症候群も参照)。

リエントリー性SVTの要点

  • リエントリー性上室頻拍の症状は突然始まり,突然終わる。

  • WPW症候群(早期興奮症候群)は,最も頻度の高い副伝導路によるSVTである。

  • 典型的にはQRS波は狭く,速く,規則的であるが,幅が広い場合もあり,心室頻拍との鑑別が必要になる。

  • 迷走神経刺激(例,バルサルバ法)がときに有用である。

  • QRS幅の狭い頻拍には房室伝導抑制薬を使用するが,第1選択薬はアデノシンで,それが無効に終わった場合の代替薬はベラパミルまたはジルチアゼムである。

  • QRS幅の広い頻拍への房室伝導抑制薬の使用は避け,カルディオバージョンまたはプロカインアミドもしくはアミオダロンを用いる。

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