原発性硬化性胆管炎(PSC)

執筆者:Christina C. Lindenmeyer, MD, Cleveland Clinic
レビュー/改訂 2020年 3月
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原発性硬化性胆管炎(PSC)は,胆管に生じる斑状の炎症,線維化,および狭窄を特徴とする原因不明の疾患である。80%の患者には炎症性腸疾患もみられ,最も多いのは潰瘍性大腸炎である。その他の併存疾患として,結合組織疾患,自己免疫疾患,免疫不全症候群などがあり,ときに日和見感染症を合併することもある。疲労とそう痒が潜行性かつ進行性に発生する。診断は胆道造影(磁気共鳴胆道膵管造影[MRCP]または内視鏡的逆行性胆道膵管造影[ERCP])による。進行例は肝移植の適応となる。

胆道機能の概要も参照のこと。)

PSCは硬化性胆管炎の中で最も頻度の高い病型である。PSC患者の大半(70%)が男性である。診断時の平均年齢は40歳である。

PSCの病因

原因は不明であるが,原発性硬化性胆管炎(PSC)には炎症性腸疾患との関連が認められており,PSC患者の80%で合併がみられる。潰瘍性大腸炎患者の約5%とクローン病患者の約1%が原発性硬化性胆管炎(PSC)を発症する。こうした関連性といくつかの自己抗体(例,抗核抗体[ANA],核周囲型抗好中球抗体[pANCA])の存在から,免疫を介した発生機序が示唆されている。T細胞が胆管の破壊に関与するとみられることから,細胞性免疫の障害が示唆される。この疾患には家系内で集積傾向がみられ,自己免疫疾患との相関がしばしば報告されるHLAB8およびHLADR3を有する人々での頻度がより高いことから,遺伝的素因の存在が示唆される。遺伝的素因のある人々では,おそらく原因不明の誘因(例,細菌感染,虚血性の胆管傷害)によってPSCが引き起こされると考えられる。

PSCの症状と徴候

発症は通常潜行性であり,進行性の疲労とそれに続くそう痒がみられる。黄疸は発生が遅くなる傾向がある。約10~15%の患者では,右上腹部痛と発熱が繰り返し発生し,おそらくは上行性の細菌性胆管炎によるものと考えられる。脂肪便と脂溶性ビタミンの欠乏を来すことがある。持続性の黄疸は疾患の進行を示す前兆である。約75%の患者で症状を伴う胆石総胆管結石症が発生する傾向がみられる。

一部の患者では,晩期まで無症状のまま経過し,最初に肝脾腫や肝硬変を訴えて受診する場合もある。原発性硬化性胆管炎(PSC)は緩徐ながら着実に進行する傾向がある。末期には非代償性肝硬変,門脈圧亢進症腹水,および肝不全を来す。診断から肝不全に至るまでの期間は約12年である。

PSCと炎症性腸疾患との関連性にもかかわらず,これら2つの疾患はそれぞれ独立した経過をたどる傾向がある。潰瘍性大腸炎はPSCより数年早く現れることがあり,PSCと合併した場合には,比較的軽症の経過をたどる傾向がある。同様に,結腸全摘術を施行してもPSCの経過に変化はみられない。

PSCと炎症性腸疾患が両方が存在すると,PSCに対して肝移植を施行したかどうかにかかわらず,大腸癌のリスクが高くなる。PSC患者の10~15%で胆管癌が発生する。

PSCの診断

  • 磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)

原因不明の肝機能検査値異常がある患者,特に炎症性腸疾患がある患者では,原発性硬化性胆管炎(PSC)を疑う。胆汁うっ滞のパターンが典型的であり,アミノトランスフェラーゼ値よりもアルカリホスファターゼ値とγ‐グルタミルトランスフェラーゼ値が上昇する。γ-グロブリン値とIgM値が上昇する傾向がある。通常,抗核抗体とpANCAが陽性となる。抗ミトコンドリア抗体(原発性胆汁性胆管炎では陽性)が陰性となるのが特徴的である。

肝胆道系の画像検査は,肝外胆道閉塞を除外するために超音波検査から始める。超音波検査またはCTでは胆管拡張を確認できるが,診断のためには,肝内および肝外胆管で多発性の狭窄および拡張を描出することが可能な胆道造影が必要である。胆道造影は磁気共鳴胆道膵管造影(MRCP)から始めるべきである。内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)は侵襲性が高いため,通常は第2選択の方法となる。通常,肝生検は診断に必須ではないが,施行した場合には,胆管増生,胆管周囲の線維化,炎症,および胆管の消失が認められる。疾患が進行するにつれて,胆管周囲の線維化が門脈域から拡大していき,最終的には続発性胆汁性肝硬変に至る。

PSCの成人では,6~12カ月毎に腹部画像検査(超音波,腹部CT,またはMRI/MR胆管膵管造影)を施行し,胆嚢癌および胆管癌のスクリーニングを行うべきである。糖鎖抗原(CA)19-9の血清中濃度を定期的に確認すべきである(1)

大腸内視鏡検査生検については,炎症性腸疾患(IBD)がない患者ではPSCの診断時に行うべきであり,IBDを伴うPSC患者では大腸腺癌のリスクが高いため,PSCの診断時から年1回行うべきである。

診断に関する参考文献

  1. Bowlus CL, Lim JK, Lindor KD: AGA Clinical practice update on surveillance for hepatobiliary cancers in patients with primary sclerosing cholangitis: Expert review.Clin Gastroenterol Hepatol 17(12):2416-2422, 2019.doi: 10.1016/j.cgh.2019.07.011.

PSCの治療

  • 支持療法

  • 大きな(優位な)狭窄に対する内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)による拡張術

  • 繰り返す細菌性胆管炎または肝不全の合併症に対する肝移植

通常,無症状の患者はモニタリング(例,身体診察と肝機能検査を年2回)のみを行い,成人の場合は,胆嚢癌および胆管癌のスクリーニングのために定期的な画像検査とCA19-9の測定を行う。ウルソデオキシコール酸(例,最大20mg/kg/日)は,そう痒を緩和し,生化学マーカー値を改善するが,生存率は改善できない。慢性胆汁うっ滞および肝硬変には支持療法が必要である。細菌性胆管炎の発症時には,抗菌薬が必要であり,必要に応じて治療的ERCPも施行する(1)。単一の狭窄が閉塞の主な原因と考えられる場合(優位な狭窄,約20%の患者にみられる)は,ERCPによる拡張術(胆管癌スクリーニングのための擦過細胞診および蛍光in situハイブリダイゼーション[FISH]検査も行う)とステント留置術により症状を緩和することができる。

原発性硬化性胆管炎の患者では肝移植が期待余命を延長する唯一の治療法であり,治癒も可能である。繰り返す細菌性胆管炎または肝疾患末期の合併症(例,難治性腹水門脈大循環性脳症食道静脈瘤出血)は,肝移植の妥当な適応である。

治療に関する参考文献

  1. Aabakken L, Karlsen TH, Albert J, et al: Role of endoscopy in primary sclerosing cholangitis: European Society of Gastrointestinal Endoscopy (ESGE) and European Association for the Study of the Liver (EASL) Clinical Guideline.Endoscopy 49(6):588-608, 2017.doi: 10.1055/s-0043-107029.

PSCの要点

  • PSC患者の大半(80%)に炎症性腸疾患(通常は潰瘍性大腸炎)がみられ,多くで自己抗体がみられる。

  • 原因不明の胆汁うっ滞型の肝機能検査異常がみられる場合(特に炎症性腸疾患の患者)は,PSCを疑う。

  • 超音波検査で肝外胆道閉塞を除外し,続いてMRCPを施行する(または第2の選択肢としてERCP)。

  • 定期的な肝機能検査,胆嚢癌および胆管癌の定期的なスクリーニングによって患者のモニタリングを行い,症状および合併症に対して治療を行う(例,優位な狭窄に対するERCPによる拡張術)。

  • 再発性胆管炎または肝不全の合併症が発生した場合は,肝移植を考慮する。

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