低体温症

執筆者:Daniel F. Danzl, MD, University of Louisville School of Medicine
Reviewed ByDiane M. Birnbaumer, MD, David Geffen School of Medicine at UCLA
レビュー/改訂 修正済み 2024年 11月
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低体温症とは,深部体温が35℃未満となることである。症状は,シバリングおよび嗜眠から錯乱,昏睡および死亡へと進行する。軽度の低体温症に対する治療は,暖かい環境で断熱性の毛布を用いて行う受動的復温である。重度の低体温症には,体表面(例,温風ブランケット,輻射熱装置)および深部(例,吸入,加温した液の点滴および灌流,体外的血液復温)の両方の能動的復温が必要である。

寒冷障害の概要も参照のこと。)

一次性低体温症は過小報告されることが多く,偶発性(最も多い),殺人性,または自殺性に分類される。二次性低体温症は基礎にある医学的状態によるものであるが,十分に認識されないことがあり,心血管疾患および神経疾患における死亡リスクに有意な影響を及ぼす。

低体温症の病因

低体温症は,身体の熱放散が熱産生を上回る場合に生じる。低体温症は寒冷気候時や冷水に浸かっているときに最もよく起こるが,温暖な気候でも,冷たい表面に動かず横たわっていた場合や(例,酩酊時),水泳用温度の水(例,20~24℃)に非常に長時間入っていた場合に起こることもある。濡れた衣服および風は低体温症のリスクを高める。

意識消失や不動状態,またはこの両方を引き起こす健康状態(例,外傷,低血糖,痙攣性疾患,脳卒中,薬物またはアルコール中毒)が一般的な素因である。高齢者および年少者もリスクが高い。

  • 高齢者ではしばしば温度覚が低下し,移動能力およびコミュニケーションが障害されているため,非常に寒冷な環境に居続ける傾向にある。こうした障害と皮下脂肪の減少とが相まって,ときに寒冷な部屋では屋内であっても高齢者に低体温症が生じる。

  • 年少者は同様に移動能力やコミュニケーション能力が低く,さらに表面積/体重比が高いため熱放散が大きい。

低体温症の病態生理

低体温症は,心血管系および呼吸器系,神経伝導,思考力,神経筋反応時間および代謝速度など,あらゆる生理機能を遅延させる。体温調節は約30℃以下で働かなくなる;その後身体は復温するのに体外の熱源に依存しなければならない。

腎細胞の機能不全およびバソプレシン(ADH)濃度の低下により,大量の希釈尿が産生される(寒冷利尿)。利尿と体液の間質組織への漏出により,循環血液量減少が生じる。低体温症によって生じる血管収縮は,循環血液量減少を覆い隠すことがあるため,末梢血管が拡張する復温中に急性のショックや心停止が現れることで(復温虚脱),循環血液量減少が明らかになることがある。

冷水への浸漬は潜水反射の誘因となり,無呼吸,徐脈,および末梢血管抵抗の増加などが生じる;血液は重要な臓器(例,心臓,脳)へ回される。この反射は年少の小児において最も顕著であり,保護的に作用しうる。さらに,氷点に近い水に全身が浸かることで生じた低体温症では,代謝要求が低下することによって脳が低酸素から保護されることがある。極度の低体温症による長時間の心停止後も生存する場合があることは,おそらくこの代謝要求の低下により説明できる。

低体温症の症状と徴候

激しいシバリングが最初に生じるが,次第に鎮まり,これによって体温はより急激に降下する。体温が低下するにつれて中枢神経機能が低下し,寒さを感じなくなる。嗜眠と巧緻運動障害に続いて錯乱,易刺激性,ときに幻覚が生じ,ついには昏睡に陥る。瞳孔が反応しなくなることがある。呼吸および心拍は遅くなり,最終的には停止する。初期の洞徐脈に続き徐脈性心房細動がみられる;末期の調律は心室細動または心静止である。

低体温症の診断

  • 深部体温の測定

  • 中毒,粘液水腫,敗血症,低血糖,および外傷の考慮

診断は口腔温ではなく深部体温を電子体温計で測定することによる。直腸および食道のプローブによる測定が最も正確である。

低体温症の重症度を分類するための体温の閾値は様々である。Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelinesでは以下を用いている(1):

  • 軽度:32~35℃

  • 中等度:28~32℃

  • 重度:< 28℃

臨床検査として,血算,グルコース(ベッドサイド測定を含む),電解質,血中尿素窒素,クレアチニン,動脈血ガスなどを調べる。動脈血ガスは低体温に関して補正しない。心電図では,J(オズボーン)波(J[オズボーン]波[V4]を示す心電図異常の図を参照)および間隔の延長(PR,QRS,QT)を示すことがある。

低体温症の原因が不明の場合は,寄与因子を検出するための検査として,血清アルコール濃度,甲状腺刺激ホルモン(TSH),遊離サイロキシン,およびコルチゾールの測定に加え,他の曝露(すなわち,特定の薬剤,毒素または違法薬物などの物質)のスクリーニングなどを行う。敗血症および潜在する頭部や骨の外傷を考慮すべきである。副腎機能低下症および甲状腺機能低下症(粘液水腫を含む)が低体温症の一因となることがあるが,しばしばこれらは潜在性であり,耐寒性低下,乾燥皮膚,関節痛,倦怠感の病歴がない。復温しないことが手がかりである。粘液水腫は,足関節反射の収縮相よりも弛緩相を延長させるのが特徴である。

J(オズボーン)波(V4)を示す心電図異常

J(オズボーン)波は,QRS波とST部分の接合部にみられるこぶ状の波形である。コンピュータプログラムでは,J波の異常を心筋障害電流と確実に区別することはできない。

医学計算ツール(学習用)

診断に関する参考文献

  1. 1.Dow J, Giesbrecht GG, Danzl DF, et al.Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Out-of-Hospital Evaluation and Treatment of Accidental Hypothermia: 2019 Update.Wilderness Environ Med.30(4S):S47-S69, 2019.doi: 10.1016/j.wem.2019.10.002

低体温症の治療

  • 乾燥と断熱

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)

  • 能動的復温(低体温症が軽度かつ偶発性で,合併症がない場合を除く)

最優先されるのは,濡れた衣服を脱がせ,患者を断熱しさらなる熱放散を防止することである。以降の処置は,低体温症の重症度および心血管系の不安定性の有無によって異なる。正常体温への復温は,軽度の低体温症では重度の高体温症のときほど患者にとっては緊急ではない。安定している患者では,深部体温を1時間当たり1℃上昇させてよい。

典型的には細胞外液量の減少を来すため,輸液蘇生(fluid resuscitation)が不可欠である。500cc~2Lの生理食塩水(小児には20mL/kg)を静脈内投与する;可能であれば輸液を40~42℃まで加温する。灌流の維持のため,必要に応じてさらに輸液する。

パール&ピットフォール

  • 中等度から重度の低体温症では,末梢血管が拡張する際の心血管虚脱(復温虚脱)を防ぐため,四肢の復温の前に深部体温の安定化を図るべきである。

受動的復温

軽度の低体温症(体温が32~35℃)で体温調節がみられるならば(シバリングにより示唆される)(1),温めた毛布で患者をくるみ,温かい飲料を与えれば十分である。

能動的復温

以下の所見を1つでも認める場合は能動的復温が必要である:

  • 体温 < 32℃

  • 心血管系の不安定性

  • ホルモンの機能不全(副腎機能低下症や甲状腺機能低下症など)

  • 外傷に続発する低体温症

  • 毒素(トキシン)に続発する低体温症

  • 素因となる疾患

中等度の低体温症(体温が28~32℃の上限付近にある)では(1),温風ブランケットなどによる外部からの復温を用いてもよい。四肢を温めると低下した心血管系に代謝要求がかかるため,外部からの復温は胸部に行うのが最善である。

重度の低体温症(体温28℃未満)では(1),特に低血圧や心停止を伴う場合,深部の復温を必要とする。

深部の復温の選択肢としては,以下のものがある:

  • 吸入

  • 点滴静注

  • 灌流

  • 体外的深部復温(extracorporeal core rewarming)(ECR)

加温(40~45℃)および加湿した酸素をフェースマスクまたは気管内チューブを介して吸入させることにより,呼吸による熱放散をなくし,復温速度を1~2℃/時上げることが可能である。

電解質輸液または血液は40~42℃に加温すべきであり,特に大量輸液の場合は加温すべきである。

2本の胸腔ドレーンによる閉鎖式の胸腔内灌流(胸腔ドレナージを参照)は重症例に非常に有効である。40~45℃に加温した透析液による腹膜灌流では排液吸引ができる2本のカテーテルを用いるが,横紋筋融解症,毒性物質摂取,または電解質異常を来した重度の低体温症患者に特に有用である。加温した灌流液による膀胱および消化管の灌流は,ごくわずかな熱を伝えるだけである。

血液透析,静脈静脈(V-V)または連続流式静脈動脈(V-A)体外式膜型人工肺(ECMO)や人工心肺など,いくつかの種類の体外救命処置が選択肢となりうる。これらの処置には,適切な専門家による事前のプロトコルが必要である。直感では魅力的で大胆な方法に思えるが,これらの方法はルーチンには行えず,多くの病院で一般的に行われているわけでもない。

心肺蘇生(CPR)

低血圧および徐脈は,深部体温が低いときに予期される事象である。これらの症状が低体温症のみに起因する場合は,積極的に治療する必要はない。

酸素化後の気管挿管が必要な場合は,灌流を伴わない不整脈を誘発してしまわないように,愛護的に行わなければならない。

ベッドサイドでの心臓超音波検査で心拍動がないことにより真の心停止が確認されない限り,患者に灌流リズム(perfusing rhythm)がみられるならば,CPRを行うべきではない。輸液と能動的復温で治療する。胸骨圧迫は以下の理由により行わない:

  • 復温すれば脈は速やかに戻りうる。

  • 胸骨圧迫により,灌流リズム(perfusing rhythm)が非灌流リズム(nonperfusing rhythm)に変わる可能性がある。

非灌流リズム(nonperfusing rhythm)(心室細動または心静止)の患者には胸骨圧迫および気管挿管を伴うCPRが必要である。体温が低いと除細動の成功は困難である;除細動器の最大エネルギー設定(二相性除細動器では200J,単相性除細動器では360J)で1回試みてもよいが,効果的でなければ,さらなる試行は一般に体温が30℃を上回るまで延期する。

二次救命処置で用いる薬剤(例,抗不整脈薬,昇圧薬,強心薬)は,体温が30℃を上回るまで通常は投与しない。低用量ドパミン(1~5μg/kg/分)または他のカテコラミンの点滴は,一般的には,不相応に重度の低血圧を呈し輸液蘇生(fluid resuscitation)および復温に反応しない患者に限って用いる(2)。

明らかな致死的傷害や疾患がない限り,体温が32℃に到達するまで二次救命処置を続けるべきである。蘇生術中の重度高カリウム血症(> 12mEq/L[12mmol/L])は,一般的に致死的転帰を示唆し,蘇生努力を終了する決定の指針となりうる(2)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Musi ME, Sheets A, Zafren K, et al.Clinical staging of accidental hypothermia: The Revised Swiss System: Clinical staging of accidental hypothermia: The Revised Swiss System: Recommendation of the International Commission for Mountain Emergency Medicine (ICAR MedCom).Resuscitation.162:182, 2021.doi: 10.1016/j.resuscitation.2021.02.038

  2. 2.Lott C, Truhlar A, Alfonzo A, et al.European Resuscitation Council Guidelines 2021: Cardiac arrest in special circumstances.Resuscitation.2021.161:152

低体温症の予後

氷水に1時間あるいは(まれに)それ以上長く浸かっていた患者で,深部体温が非常に低かったか瞳孔反応がなかった場合でも,永続的な脳損傷を起こさず良好に復温されている例がある(溺水:予後を参照)。予後の予測は困難であり,グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale)に基づいて判断することはできない。

予後不良を示唆するマーカーには以下のものが含まれる:

  • 細胞溶解の所見(血清カリウム値 > 12mEq/L[12mmol/L])

  • 血管内血栓形成(フィブリノーゲン < 50mg/dL[1.47μmol/L])

  • 非灌流リズム(nonperfusing cardiac rhythm)(心室細動または心静止)

程度および持続時間が同じである低体温症に対して,小児は成人より回復の可能性が高い。

要点

  • 直腸または食道の深部体温は,電子的測定装置またはプローブを用いて測定する。

  • 約32℃以上では,温めた毛布と温かい飲み物による保温が十分な治療である。

  • 約32℃以下では,一般的には温風ブランケット,加温加湿した酸素,加温した輸液,およびときに加温液による灌流または体外循環(例,人工心肺,血液透析)を用いて能動的復温を行うべきである。

  • 体温がより低いと,患者は細胞外液量の減少を来し,輸液蘇生を必要とする。

  • 灌流リズム(perfusing rhythm)がみられれば,CPRは行わない。

  • 非灌流リズム(nonperfusing rhythm)の患者にCPRを行う場合,除細動は初めの1回を試みた後は体温が約30℃になるまで延期する。

  • 二次救命処置で用いる薬剤は,体温が約30℃に達するまで通常は投与しない。

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