垂直マットレス縫合による裂創の修復

執筆者:Matthew J. Streitz, MD, San Antonio Uniformed Services Health Education Consortium
レビュー/改訂 2021年 3月
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垂直マットレス縫合では,1回の縫合のうちに幅の広く深い(「far-far」)ループで真皮同士と皮下組織同士を密着させ,続いて幅の狭く浅い(「near-near」)ループで表皮同士を密着させて外反する。この縫合の主な利点は,創縁の整列および外反がうまくできることである。

垂直マットレス縫合の図と裂創および単純結節縫合も参照のこと。)

マットレス縫合(垂直および水平)は,張力のかかっている創傷の閉鎖によく用いられる。縫合糸のループを(創傷の上ではなく)創傷の外側の皮膚に置くことで,張力が創縁から離れて,ループが作られた外側の皮膚に移行する。さらに,縫合糸が裂創の(上ではなく)下を横切ることで,縫合糸を締めたときに創縁を外反させるのに役立つことがある。

垂直マットレス縫合

適応

  • 創縁を揃えたり外反させたりするのが困難な創傷。このような創傷には,鼠径部もしくは後頸部の陥凹した皮膚または肘関節もしくは手背側のたるんだ皮膚など,内反しやすい創傷が含まれる。

  • 中等度の(ただし著明ではない)張力がかかる創傷(2層以上に分けた縫合[layered closure]の代わりに用いる)

禁忌

絶対的禁忌

  • 顔面,手掌,または足底の裂創(深部の埋没縫合は禁忌である)

相対的禁忌

  • 著しい張力がかかっている創傷

  • 汚染されている可能性がある創傷または比較的古く,縫合閉鎖すると感染リスクが高まると考えられる創傷(手足の小さな咬傷,刺創,高速弾丸損傷など)。

深部構造(例,神経,血管,腺管,関節,腱,骨)に及ぶ創傷には,特殊な技法や外科専門医への紹介が必要になる場合があり,広範囲にわたる創傷や顔面または手に及ぶ創傷も同様である。

合併症

  • 感染症

  • 瘢痕化(裂創にかかる張力が軽減されないことによる)

  • 線路状の縫合痕(幅の広い深いループによる皮膚表面の圧迫に起因する)

  • 縫合糸により皮膚が切れる(特に幅の狭い浅いループを使用した場合,中でも特にこのループを幅の広い深いループより先に置いた場合)

  • 虚血および壊死(単純結節縫合または連続縫合よりも発生頻度が高い)

器具

創傷衛生および閉創は無菌操作である必要はない。創傷に接触する器具(例,鑷子[せっし],針,縫合糸)は滅菌されたものでなければならないが,免疫能が正常な患者には,手袋と水は清潔なら滅菌されていないものを使用してよい。滅菌手袋の方が手によくフィットし,バリア効果が高いという理由から,滅菌手袋の使用を好む医師もいる。

清潔操作,バリアによる防護

  • フェイスマスクおよび安全眼鏡(またはフェイスシールド),キャップ,ガウン,手袋

  • 滅菌ドレープ,タオル(創部のデブリドマンと縫合に使用)

  • 持針器,有鈎鑷子(せっし),縫合糸(典型的には非吸収性のモノフィラメント糸を使用する;様々な種類およびサイズの縫合糸に関する詳細な考察については,裂創を参照のこと。)

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード),正方形の滅菌ガーゼ

  • ときに副子またはその他の器具(アフターケアにおいて,縫合糸を引っ張る動きまたは皮膚の張力を制限するため)

  • 創傷の被覆に使用するドレッシング材

体位

  • 患者を座位(背もたれを倒した楽な状態)または仰臥位にする。

  • 術者がベッドサイドに楽に立てるまたは座れるよう,ストレッチャーの高さを調節する。

  • 一般的に,裂創が術者の体の前面とほぼ平行になるように立つ(または座る)。

  • 裂創には十分な照明を当てるべきであり,頭上の処置用ライトを使用するのが望ましい。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

(創傷の修復に必要な準備,麻酔,ドレッシングのステップ-バイ-ステップの手順については,創傷の清浄化,洗浄,デブリドマン,およびドレッシングを参照のこと;器具の取扱い,針の取扱い,および器械結びによる外科結びについては,単純結節縫合による裂創の修復を参照のこと。)

  • 必要に応じて,創傷の清浄化,麻酔,洗浄,およびデブリドマンを行う。

  • 創傷部に滅菌穴あきドレープを当てる。十分に大きな清潔野を確保するため,必要に応じて周辺に追加のドレープを敷く。

  • 一般に,最初の縫合は創傷の中央に置く。その後の縫合は全て,空いているスペースの中点に,間隙がなくなるまで続ける。

垂直マットレス縫合

  • 針の最初の刺入(幅の広い深い縫合)は,単純結節縫合の場合より創縁から離れた位置(例,1cm超)で行う。

  • ほとんど抵抗なく行える場合は,針を両方の創縁に刺入する。有意な抵抗がある場合や,縫合を比較的広いスペースに置く場合(最初の数回など)は,針を1つ目の創縁を通過させた後,裂創の中央から針を引き抜き,再び持針器に付け直し,対側の創縁にもう1度針を通し直して縫合を続ける。

  • 持針器で把持する針の向きを逆にする。

  • 2回目の刺入(幅の狭い浅い縫合)は創縁のより近くから行い,1回目の刺出部と同側から始める。創縁の外反を維持するため,必要に応じて鑷子(せっし)を使う。この2回目の運針では,単純結節縫合とは異なり,創傷の最深部で皮膚表面より縫合幅を広くする必要はない。

  • 縫合糸を結紮して閉創する。

垂直マットレス縫合

アフターケア

  • 創傷をドレッシングする(裂創および創傷の清浄化,洗浄,デブリドマン,およびドレッシングを参照)。

  • 動かすと創傷に張力がかかる関節は副子固定する(例,肘関節背側の裂創では,肘関節に副子を当てる)。

  • ドレッシングをずらすことなく,乾燥した状態に保つように,また,創傷の状態を確認するために2日以内に再受診するように患者に指示しておく。

  • 感染の徴候(例,増強する疼痛,腫脹,発赤,発熱,近位に広がる赤い線条[感染性のリンパ管炎])がみられた場合は再受診するように患者に指示しておく。

  • 抜糸のために再受診する時期(一般的に創傷の部位によって異なる)を患者に伝える:顔面は3~5日後,頭皮および体幹は6~10日後,腕および下肢は10~14日後,関節にかかる創傷は14日後。早期の抜糸には創離開のリスクがあるが,顔面の縫合では瘢痕化や線路状の縫合痕(cross-hatching)を軽減するために,3日目に縫合糸を半分(すなわち1針おきに)除去し,5日目に残りを除去することもある。

注意点とよくあるエラー

  • 合併する周辺組織の損傷,異物,または体腔への貫通に気づかないといったよくあるエラーを回避するため,創傷の処置前の準備の際には,創傷を入念に視診する。

  • 過度にきつい縫合は避け,焼灼は控えめに使用する(どちらも組織虚血を引き起こす可能性があるため)。

アドバイスとこつ

  • 一部の術者は,幅の広く深いループを置きやすくするため,最初に幅の狭く浅いループを作って,時間を節約することを好む。しかしながら,最初に広く深いループを置く従来の方法を用いた方が,狭く浅いループをより正確に置くことが可能であり(創縁をより均一に合わせられる),また,広い幅で縫合を始めるために狭いループを引き上げる際に起こりうる皮膚の裂傷を予防することができる。

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