頭部後屈あご先挙上法および下顎挙上法

執筆者:Dorothy Habrat, DO, University of New Mexico School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 8月
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挿管前および救急人工呼吸手技の一環としての頭部後屈あご先挙上法および下顎挙上法は,舌が声門を閉塞している場合に(これは意識障害または意識喪失のある患者でよく生じる),上気道の開存を回復させるのに役立つ非侵襲的な用手的処置である。

呼吸停止および気道確保および管理も参照のこと。)

これらの方法では,処置者が積極的に関与を続ける必要があり,バッグバルブマスク換気(BVM)の重要な要素を成している。

可能なかぎり患者に適切なスニッフィングポジションをとらせることは,これらの用手的方法だけでなく,侵襲的な気道管理方法(すなわち,声門上エアウェイの挿入や気管挿管)にも必要な条件である。

経口または経鼻エアウェイの使用時にも,これらの方法を補助的に使用すべきである。

持続気道陽圧を加えると,これらの用手的方法だけではうまくいかないときも気道の開通を確保できる可能性がある。

適応

  • 意識障害があるまたは反応のない患者において上気道閉塞が疑われる場合の治療

  • 呼吸停止または切迫する呼吸停止に対する最初の救急治療の一環として

  • BVM換気中,ときに自発呼吸中であっても気道の開通を改善するため

  • 無呼吸化どうかの確認

禁忌

絶対的禁忌

  • 患者の換気を補助することに対する医学的な禁忌はない;ただし,法的な禁忌(蘇生処置拒否指示または特定の事前指示書)がある場合がある。

相対的禁忌

  • 頸椎損傷またはその疑い

頭部の後屈またはその他の方法で頸部を動かすことは,頸椎損傷が疑われる患者では禁忌であるが,気道および換気を維持することの方が優先順位が高い。頸椎損傷が疑われる状況では,頭部の後屈あご先挙上法よりも,頸部を中立位に保つ下顎挙上法が優先される。

合併症

合併症はまれであるが,以下のものがある:

  • 頸椎に不安定な骨損傷または靱帯損傷を伴う脊髄損傷

  • 下顎損傷の増悪

器具

  • 手袋,マスク,ガウン,および眼の保護具(すなわち,普遍的予防策[ユニバーサルプリコーション])

  • タオル,シーツ,または頭頸部を最適な位置へ挙上させる市販のデバイス

  • 吸引装置およびYankauer吸引カテーテル;場合によっては(異物を取り除く必要があり,異物が容易にアクセス可能で,患者に咽頭反射がない場合)咽頭から異物を除去するためのマギル鉗子

その他の留意事項

  • 上気道から異物を除去するために必要であれば吸引装置を使用すべきである。

体位

スニッフィングポジション―頸椎損傷がない場合に限る

  • ストレッチャーの上で患者を仰臥位にする。

  • 正しいスニッフィングポジションをとらせることで,上気道を空気が最も通りやすい形にする。正しいスニッフィングポジションでは,外耳道と胸骨切痕が同一平面上に並ぶ。スニッフィングポジションをとらせるには,折りたたんだタオルなどを頭部,頸部,または肩の下に置く必要があることもあり,そうすることで頸部が体幹に固定され,頭部が伸展される。肥満患者では肩および頸部を十分に挙上するために,たくさんの折りたたんだタオルまたは市販の傾斜装置が必要になる場合がある。小児の場合は通常,後頭部の突出に合わせて肩の後ろにパッドを置く必要がある。

気道開通のための頭頸部の姿勢:スニッフィングポジション

A:ストレッチャー上で頭部が平坦となっている;気道は圧迫されている。B:顔面が天井と平行になり,耳と胸骨切痕が同一平面上に並び(スニッフィングポジション),気道が開通している。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: The airway Cam Pocket Guide to Intubation, ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007. 

頸椎損傷の可能性がある場合

  • 患者をストレッチャー上でわずかに傾斜をつけた仰臥位にする。

  • 頸部を動かさないようにし,まず下顎挙上法を行う(その後,気道の開通に必要であれば頭部後屈あご先挙上法を試みる)。

関連する解剖

  • 外耳道が胸骨切痕と同一平面上になるようにすることで,上気道が開通し,また気管挿管が必要になった場合にも気道の可視化に最適な位置を確保できる。

  • 耳が胸骨切痕と同一平面上になるようにするために必要な頭部の挙上の程度は様々である(例,後頭部の大きな小児では挙上せず,肥満患者では大幅に行う)。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

頭部後屈あご先挙上法

  • 患者の額を押し下げることで,頭部を後屈させる。

  • 示指および中指の先端をあごの下に置き,下顎を持ち上げる(軟部組織は持ち上げない)。こうすることで舌が咽頭後壁から離れ,気道の開通性が向上する。

    下顎の骨性部のみを持ち上げるようにする。下顎の軟部組織に圧をかけると気道が閉塞する恐れがある。

下顎挙上法

  • ストレッチャーの頭側に立ち,手掌を患者の側頭部に置き,指を下顎枝の下に置く。

  • 頸椎損傷の可能性がある患者では,頸椎の伸展を避ける。

  • 少なくとも下切歯が上切歯を超える高さまで,下顎を指で持ち上げる。これにより,舌が下顎骨とともに持ち上げられ,上気道の閉塞が緩和される。

    下顎の骨性部のみを持ち上げるようにする。下顎の軟部組織に圧をかけると気道が閉塞する恐れがある。

下顎挙上法

アフターケア

  • 必要な限りこの体位を維持する。

より詳細な情報

  1. Berg RA, Hemphill R, Abella BS, et al: Part 5: Adult basic life support: 2010 American Heart Association guidelines for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care.Circulation 122:S685-S705, 2010.

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