鼻腔異物の除去

執筆者:Waleed M Abuzeid, BSc, MBBS, University of Washington
レビュー/改訂 2020年 11月
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鼻から異物を除去するには,特殊な器具と技能が必要である。

鼻腔異物は幼児,認知障害患者,および精神障害患者でときにみられる。鼻腔に押し入れられる物体として一般的なものは,綿,紙,小石,ビーズ,豆,種子類,ナッツ,昆虫,ボタン電池などである。

ほとんどの異物は鼻腔前部の最前方部分にあり,鼻鏡で容易に視認できる。

ボタン電池および磁石は,鼻粘膜や鼻中隔に熱傷または穿孔(腐食性の電池内容物の漏出,直接の圧迫,または電撃傷による)を引き起こす可能性があるため,直ちに除去しなければならない。

鼻腔異物も参照のこと。)

適応

  • 単純な鼻腔異物*

*上記の例のような患者が自分で挿入した一般的な異物(弾丸などの発射物,穿通創,またはその他の複雑な状況は含まれない)

禁忌

絶対的禁忌

  • 異物が視認できない,または使用可能な器具で異物に到達できない

相対的禁忌

  • 嵌頓して有意な炎症または浮腫を伴っている異物

  • 異物が小さい,透明,または後方もしくは上方の奥にある

  • 除去の試みが不成功に終わった

異物を除去できるか疑念がある場合,または除去を繰り返し試みても成功しない場合は,耳鼻咽喉科医(鼻の内視鏡検査が必要なこともある)へのコンサルテーションを行う。何度も試みると,損傷のリスクや,異物がより奥に移動して除去がより困難になるリスクが高まる。

合併症

  • 鼻粘膜の損傷とその結果生じる出血

  • 異物の誤嚥(特に鎮静された患者)

器具

  • ヘッドレスト付きの椅子または耳鼻咽喉科用の椅子

  • 光源と額帯鏡または調節可能な細い光線のヘッドランプ

  • 手袋,マスク,ガウン

  • 麻酔薬/血管収縮薬の混合外用剤(例,4%コカイン,1%テトラカイン,または4%リドカイン + 0.5%オキシメタゾリン)

  • 外用剤を塗布するための綿棒または綿球

  • 鼻鏡

  • 吸引装置と様々なサイズのFrazier型吸引管および/または他の吸引管付き吸引カテーテル

  • バイオネット型鑷子(せっし)またはワニ口鉗子

  • ループ状のワイヤーおよび鉤状の鋭匙

  • バルーンカテーテル(5~8FrのフォガティカテーテルまたはKatzエクストラクター)

幼児には典型的には拘束または鎮静が必要である。シーツまたは市販の固定ボードを用いて拘束してもよいが,これは心的外傷につながる。異物が鼻孔に非常に近いところにあり,迅速に除去するのが容易であると思われる場合を除き,通常は鎮静(例,ケタミンまたは他の適切な薬剤を使用する)が望ましいため,それらの薬剤のうち1つまたは複数を使用できるようにしておくべきである。

その他の留意事項

  • ボタン電池および磁石は直ちに除去しなければならない。電池は鼻組織に化学熱傷(電池内容物の漏出による)や電撃傷を引き起こす可能性があり,磁石は鼻中隔などの鼻構造に圧迫壊死を引き起こす可能性がある。そのような症例では,耳鼻咽喉科医への緊急のコンサルテーションを考慮する。

関連する解剖

  • 鼻の側壁には3つの鼻甲介がある。それらは脆弱なことがあり,異物や腫瘍と混同してはならない。

  • 鼻中隔の弯曲は頻度が高く,器具の挿入による鼻中隔の外傷を予防するために,診察時にこれを検索すべきである。

体位

  • 患者を座位にし,頭部を伸展させてスニッフィングポジションをとらせる(耳鼻咽喉科用の椅子が望ましい)。患者の後頭部を支え,突然後方に動かないようにすべきである。患者の鼻が医師の眼と同じ高さに来るようにすべきである。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • 患者に穏やかに鼻をかむよう指示して,粘液および場合によっては異物を除去させる。鼻水がある場合は,異物をさらに後方に押し込まないように,注意深く鼻腔を吸引し粘液を除去する。

  • 感覚を抑制し,粘膜の腫脹を軽減するために,表面麻酔薬および血管収縮薬を塗布する。

  • 麻酔薬と血管収縮薬の効果が現れるまで3~5分待つ。それでも有意な浮腫がみられる場合は,血管収縮薬の外用剤を再度塗布する。

  • 患者の鼻または頬に示指を当て,鼻鏡を柄が床と平行になるように(ブレードが縦に開くように)挿入する。

  • 明るいヘッドランプまたは額帯鏡(片手が空き吸引または器具を操作できる)を使用して,ゆっくりと鼻鏡を開き鼻を診察する。

  • 視界の妨げになる粘液があれば,Frazier型吸引管付き吸引カテーテルを用いて全て除去する。

  • 特定の軟らかい異物および硬い異物で,把持可能な縁が前方にある場合は,鉗子(例,ワニ口鉗子またはバイオネット型鑷子[せっし])で把持して除去する。

  • 比較的硬いまたは大きい異物が前方にある場合は,その奥にループ状のワイヤーまたは鉤状の鋭匙を入れ愛護的に引いて除去する。

  • 滑りやすい丸い異物は吸引カテーテルで除去する;指で操作する調節部を開いたまま,吸引管を異物に当てる。その後,指の調節部を塞いで吸引し,異物を愛護的に除去する。

  • 前方からのアプローチが困難な異物は,バルーンカテーテル(例,8Frの尿道カテーテル)で除去する。しぼんだ状態で潤滑剤を塗布したバルーンを異物の奥に挿入してから,空気でゆっくりとバルーンを膨らませる(幼児では約2mL,より年長の小児では3mL,成人では5mL)。バルーンをゆっくりと引き,抵抗を感じるまで異物を前方に引き寄せた後,異物を除去する。バルーンの空気を抜いて鼻から抜去する。

アフターケア

  • 磁石または電池を除去した後は,異物による鼻の軟部組織損傷のリスクがあるため,耳鼻咽喉科評価のために患者を紹介する。

  • 典型的には異物除去後に抗菌薬は適応とならない。

注意点とよくあるエラー

  • 鼻鏡を側面に向かって開いたり,支えなしで使用したりしてはならない。(鼻鏡を持つ手の指を患者の頬または鼻に当てて支える。)

  • 丸く滑らかな異物を鉗子で把持しようとすると,異物がより奥へと滑り込むことがよくある。

  • 除去の試みがうまくいかない場合は,除去を中止する。繰り返し除去を試みることは,不要な外傷の一般的な原因である。

  • 一般に,直接観察と器具操作による除去が他の方法より望ましい。

アドバイスとこつ

  • 術者がかがむよりも,患者の椅子を眼の高さまで上げた方が,術者の腰にかかる負担が軽くなる。

  • 対側の鼻腔,口腔,および外耳道を診察して,さらなる異物がないか確認する。

  • 異物を除去した後,別の異物の見落としを防ぐため,鼻を再度診察する。

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