がん治療を受けている患者では有害作用がよくみられ,特に血球減少症,消化管への影響,腫瘍崩壊症候群およびサイトカイン放出症候群が重要である。患者のがんに起因した有害作用がみられることもある(例,抑うつ,疼痛)。それらの有害作用をうまく管理することは,生活の質の向上につながるため,重要である(がん治療の概要も参照)。
血球減少症
赤血球,白血球(特に顆粒球),および血小板の血中濃度の低下が,がんに対する様々な全身療法(特に従来の化学療法薬)や放射線療法によって起こる。
貧血
がん患者では赤血球数の低下がよくみられる。赤血球の減少は,がん(特に白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫などの血液および骨髄のがん)の直接的な影響と,がん治療(特に従来のがん治療[化学療法]薬)の影響によって起こる。貧血に対しては治療が不要であることが多い。一部の患者,特に動脈硬化性心血管疾患などの併存症を有する患者では,赤血球輸血が有益となることがある。その他の患者では,遺伝子組換えエリスロポエチンの投与が有益となる場合があり,これは赤血球輸血の代替となりうる。エリスロポエチンの使用はがんの予後に悪影響を及ぼす可能性があり,血栓形成を促進すると示唆するデータもある。赤血球輸血およびエリスロポエチンの使用に関するガイドラインが公開されているが,具体的な推奨事項について議論がある(1)。
血小板減少症
がん患者では血小板数の低下がよくみられる。血小板の減少は,がん(特に白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫などの血液および骨髄のがん)の直接的な影響と,がん治療(特に従来の化学療法薬)の影響によって起こる。出血のリスクは血小板数に反比例する(血小板数と出血リスクの表を参照)。血小板数が10,000/μL(10 × 109/L)未満になると,危険であり,血小板輸血が必要である。エルトロンボパグやアバトロンボパグなど,分子クローニングで作製されたホルモンが用いられるようになっており,それらは巨核球を刺激して血小板を産生させる。
白血球除去血液製剤は,血小板に対する同種免疫応答を予防できる可能性があり,複数のコースから成る化学療法中に血小板輸血が必要になると考えられる患者か,造血細胞移植の適応がある患者に使用すべきである。白血球除去により,サイトメガロウイルス感染症の発生確率も低くなる。
好中球減少症
がん患者では顆粒球数の低下がよくみられる。好中球減少症とは,血中の好中球数が白人患者では1500/μL(1.5 × 109/L)未満,アフリカ系の人々では1200/μL(1.2 × 109/L)未満に減少した状態と考えられている(好中球減少症も参照)。顆粒球の減少は,がん(特に白血病,リンパ腫,多発性骨髄腫などの血液および骨髄のがん)の直接的な影響と,がん治療(特に従来の化学療法薬)の影響によって起こる。感染リスクは顆粒球数に反比例する。顆粒球数が500/μL(0.5 × 109/L)未満になると,感染のリスクが著明に増大する。マスクの着用や手洗い,予防隔離(protective isolation)など,感染予防策が重要である。ときに層流室が使用されるが,その有効性は証明されていない。経口の非吸収性抗菌薬がときに予防投与される。顆粒球低値の期間が長引くと予想される場合,Pneumocystis jiroveciiを予防する薬剤など,抗真菌薬および抗ウイルス薬がときに予防的に投与される。化学療法を受けているがん患者で,発熱性好中球減少症の発生率が20%を超えると予想される場合には,化学療法薬とともにフィルグラストリム(filgrastrim),サルグラモスチム,ペグフィルガストリム(pegfilgastrim)などの骨髄増殖因子製剤が予防的に投与される(2, 3)。
発熱のない好中球減少症の患者では,外来で発熱を検査する綿密な追跡を必要とし,病気の人との接触または多数の人が出入りする場所(例,ショッピングモール,空港)を避けるように指導すべきである。大半の患者で抗菌薬は必要ないが,重度の免疫抑制患者では,Pneumocystis jiroveciiの感染予防として,ときにトリメトプリム/スルファメトキサゾール(2倍量の錠剤を1日1錠)を投与することがある。移植患者または大量化学療法を受けている患者で,血清学的検査により単純ヘルペスウイルス陽性と判定された場合は,抗ウイルス薬による予防(アシクロビル800mgの1日2回の経口投与または400mgの12時間毎の静注)を考慮すべきである。
好中球減少症のある患者において,2回以上の測定で38.5℃を超える発熱を認めた場合,それは医学的な緊急事態である。考えられる感染源について広範な評価を行い,血液培養を行うべきである。典型的には,培養の結果が判明するまで広域抗菌薬を全身投与し,必要に応じて治療法を変更する。抗菌薬に反応せず発熱が持続する患者には,しばしば抗真菌薬を,また,ときに抗ウイルス薬の全身投与を開始する。即座の胸部X線検査に加え,血液,喀痰,尿,便,および疑わしい皮膚病変の培養を含めた評価を行うべきである。膿瘍の可能性のある部位(例,皮膚,耳,副鼻腔,直腸周囲),ヘルペス感染病変が存在する皮膚および粘膜,感染性塞栓が示唆される網膜脈管病変,ならびにカテーテル挿入部を含めて診察する。直腸診と直腸体温計の使用は避けるべきである。その他の評価は,臨床所見を指針として決定するべきである。
発熱性好中球減少症の患者には,最も可能性が高い病原菌に基づき選択した広域抗菌薬を投与すべきである。典型的なレジメンとしては,培養検体を採取した直後からセフェピムまたはセフタジジム2gを8時間毎に静注する。びまん性肺浸潤がみられる場合は,P. jiroveciiに対する喀痰検査を行い,陽性であれば適切な治療を開始すべきである。経験的抗菌薬の投与開始から72時間以内に発熱が改善した場合は,好中球数が500/μL(0.5 × 109/L)を超えるまで投与を継続する。発熱が持続している場合は,抗真菌薬を追加すべきである。感染に対する再評価も行うが,胸部および腹部CTを含める場合が多い。
顆粒球数は,クローニングされた骨髄増殖因子,例えば顆粒球(G)または顆粒球/マクロファージ(GM)コロニー刺激因子(CSF)(フィルグラスチム,サルグラモスチム,ペグフィルグラスチムなど)を投与することで増加する可能性がある。これらの薬剤の適正使用に関するガイドラインが公開されている(2)。特に大量化学療法の後など,化学療法に関連した好中球減少症を認める選択された患者では,好中球減少症の持続期間を短縮するために,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の投与を開始してもよい。白血球回復を促進するために,G-CSF 5μg/kgの1日1回皮下注を最大14日,および長時間作用型製剤(例,ペグフィルグラスチム6mgを化学療法サイクル毎に1回の皮下注)を使用してもよい。これらの薬剤は化学療法後24時間まで投与してはならず,ペグフィルグラスチムについては,次に予定した化学療法を施行する前の最低でも14日間は避けるべきである。これらの薬剤は,発熱または敗血症の発生時に開始し,発熱のない高リスク患者では好中球数が500/μL未満まで低下した際に開始する。
発熱および好中球減少症を認める低リスク患者で選択された患者に対し,多くの医療機関がG-CSFによる治療を外来で実施している。対象患者には,低血圧,精神状態の変化,呼吸窮迫,コントロール不良の疼痛,または糖尿病,心疾患,高カルシウム血症などの重篤な併存疾患があってはならない。このような症例のレジメンには,毎日のフォローアップとともに,訪問看護サービスおよび自宅での抗菌薬点滴を含めることが多い。一部のレジメンには,シプロフロキサシン750mg,1日2回とアモキシシリン/クラブラン酸875mg,1日2回または500mg,1日3回の併用などのように,経口抗菌薬が含まれている。好中球減少性発熱のフォローアップおよび治療のために外来で利用可能な施設内プログラムが確立されていない場合は,入院が必要である。
血球減少症に関する参考文献
1.Bohlius J, Bohlke K, Castelli R, et al: Management of cancer-associated anemia with erythropoiesis-stimulating agents: ASCO/ASH Clinical Practice Guideline Update.J Clin Oncol 37(15):1336–1351, 2019. doi: 10.1200/JCO.18.02142
2.Crawford J, Becker PS, Armitage JO, et al: Myeloid Growth Factors, Version 2.2017, NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology.J Natl Compr Canc Netw 15, 12; 10.6004/jnccn.2017.0175
3.Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al: Recommendations for the Use of WBC Growth Factors: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update.J Clin Oncol 33(28):3199–3212, 2015. doi: 10.1200/JCO.2015.62.3488
消化管への影響
がん患者では消化管の有害作用がよくみられる。そのような作用は,がん自体,がん治療,またはその両方によって引き起こされる。
食欲不振
食欲不振はがん患者によくみられ,がんが直接原因になることもあれば,がん治療の結果として生じることもある。理想体重の10%を超える体重減少は予後不良の予測因子である。適度な栄養を維持するよう努力すべきである。ときに部分的な静脈栄養または完全静脈栄養(TPN)が必要となる。手術の結果,消化管が遮断された形になる患者には,胃瘻造設術が必要になることがある。食欲を増進させる可能性のある薬剤として,コルチコステロイド,酢酸メゲストロール,アンドロゲン性ステロイド,ドロナビノールなどがある。これらの薬剤に,食欲不振を軽減する,体重減少を回復させる,生活の質を改善する,または生存期間を延長させるという点で確かな効果があるかどうかは不明である。テストステロンなど一部のステロイドは,前立腺癌および肝癌患者では禁忌である。
便秘
便秘はがん患者でよくみられ,疼痛治療に用いられるオピオイドによってしばしば増悪する。オピオイドの反復使用が予想される場合は,センナ2錠,経口,就寝時(最大1日8錠)やビサコジル5~15mg,経口,就寝時など,刺激性下剤を開始すべきである。便秘が持続する場合も,様々な薬剤で治療可能である(例,ビサコジル5~15mg,経口,24時間毎,マグネシアミルク15~30mL,経口,就寝時,ラクツロース15~30mL[10~20g],12~24時間毎,クエン酸マグネシウム195~300mL,24時間毎)。好中球減少症または血小板減少症がある患者では,浣腸および坐薬は避けるべきである。
下痢
下痢は化学療法薬,分子標的薬,および放射線療法による治療の後によくみられ,特に腹部または骨盤が放射線の照射野に含まれる場合に多い。通常はロペラミド2~4mg,経口,軟便発生後毎回またはジフェノキシラート(diphenoxylate)/アトロピン2.5~5mg,経口,6時間毎で治療する。ただし,用量は様々な因子に応じて変わる可能性がある。広域抗菌薬を投与されているがん患者は,Clostridioides(かつてのClostridium)difficileに感染する可能性があるため,その検査を行いバンコマイシンで治療すべきである。下部大腸癌患者には,人工肛門造設術が施行されることがあり,これにより下痢の管理が複雑になる。
口腔病変
炎症や潰瘍などの口腔病変は,化学療法または放射線療法を受けている患者でよくみられる。ときに,これらの病変に感染症が合併する(Candida albicansが多い)。カンジダ症は通常,ナイスタチンで治療する。
口腔カンジダ症は,ナイスタチン口内懸濁液4~6mL(400,000~600,000単位),1日4回,クロトリマゾールトローチ10mg,1日4回,またはフルコナゾール100mg,経口,1日1回で治療できる。
放射線療法による粘膜炎は,疼痛を生じて,十分な経口摂取が困難になり,低栄養および体重減少につながることがある。鎮痛薬および表面麻酔薬(2%リドカインビスカス5~10mLの2時間毎の使用または他の市販の合剤)による食前の含嗽,柑橘類の食物またはジュースを除く無刺激食,極端な温度の回避によって,摂食可能になり,体重を維持できる場合がある。摂食が困難でも,小腸が機能している場合は,栄養チューブが役立つことがある。重度の粘膜炎および下痢,または腸管の機能異常の場合は,静脈栄養法が必要になる場合がある。
悪心および嘔吐
がん治療を受けているか否かにかかわらず,がん患者では悪心および嘔吐がよくみられ,生活の質を低下させる。がん治療薬の投与に続発して悪心および嘔吐が起こる可能性を予測する因子を以下に示す:
薬剤の種類
用量
薬剤の投与方法
薬剤の投与頻度
抗がん剤間の相互作用
抗がん剤とがん性疼痛の治療のために投与された薬剤との相互作用
シスプラチンやオキサリプラチンなどのプラチナ製剤を含む一部の化学療法薬は,悪心および嘔吐を特に引き起こす可能性が高い。放射線療法,ホルモン療法,分子標的薬,免疫療法など,他の方法によるがん治療を受けた患者でも,悪心および嘔吐がみられることがある。悪心および嘔吐のコントロールや予防には,以下のようないくつかの薬剤が効果的である:
セロトニン受容体拮抗薬が最も効果的であるが,最も高価な薬剤でもある。グラニセトロンおよびオンダンセトロンでは,頭痛および起立性低血圧を除き,実質的に毒性はみられない。オンダンセトロン0.15mg/kgまたはグラニセトロン10μg/kgを化学療法の30分前に静注する。オンダンセトロンは,1回目投与から4時間後および8時間後に再投与してもよい。プラチナ製剤などの催吐作用の強い薬剤に対する効力は,デキサメタゾンの併用(化学療法の30分前に8mgを静注,その後は8時間毎に4mgを静注)により高めることが可能である。
サブスタンスP/ニューロキニン1受容体拮抗薬であるアプレピタントは,催吐作用の強い化学療法による悪心および嘔吐を抑制することができる。1日目の化学療法の1時間前に125mgを経口投与し,続いて2および3日目の化学療法の1時間前に80mgを経口投与する。
そのほかに従来から使用されてきたフェノチアジン系薬剤(例,プロクロルペラジン10mg,静注,8時間毎,プロメタジン12.5~25mg,経口または静注,8時間毎)およびメトクロプラミド(10mg,経口または静注,化学療法の30分前,その後は6~8時間毎に反復)などの制吐薬は,軽度から中等度の悪心および嘔吐がみられる患者に限定した代替薬である。
ドロナビノール(Δ-9-テトラヒドロカンナビノール[THC])は,化学療法による悪心および嘔吐に対する代替治療である。THCはマリファナの主要な精神活性成分である。その制吐作用の機序は不明であるが,カンナビノイドが前脳のオピオイド受容体に結合し,間接的に嘔吐中枢を抑制する可能性がある。ドロナビノールは5mg/m2を化学療法の1~3時間前に経口投与し,化学療法開始後2~4時間毎に反復投与する(最大1日4~6回)。ただし,経口での生物学的利用能が一定でなく,プラチナ製剤をベースとした化学療法レジメンによる悪心および嘔吐に対しては抑制効果がみられず,重大な有害作用(例,眠気,起立性低血圧,口腔乾燥,気分変動,視覚および時間感覚の変化)がある。マリファナの吸引がより効果的な場合がある。この目的のためにマリファナを合法的に入手できる州もあるが,連邦法では依然として使用が禁じられている。マリファナは入手が制限されており,また多くの患者が吸引に耐えられないため,使用されることはまれである。
ベンゾジアゼピン系薬剤の投与(ロラゼパム1~2mgを化学療法の10~20分前に経口または静脈内投与し,必要に応じて4~6時間毎に反復投与など)は,難治性または予期性の悪心および嘔吐に対してときに役立つ。
疼痛
慢性疼痛と神経障害性疼痛を含む疼痛は,がん患者でよくみられる症状であり,予測して積極的に治療すべきである。
以下のようないくつかの理由から,疼痛に対する治療が不十分になることが多い:
患者が疼痛について医師と話すことに消極的
医師が疼痛について話すことに消極的
オピオイド依存に対する恐怖
これらはいずれも,がん患者に十分な疼痛コントロールをできていないことの正当な理由にはならない。
疼痛の治療にはアスピリン,アセトアミノフェン,イブプロフェンなどが使用される。しかしながら,これらの薬剤はがん性疼痛のコントロールには効果がないことが多く,モルヒネ,オキシコドン,ヒドロモルフォン,フェンタニル,メサドン,オキシモルフォン(oxymorphone)などのオピオイドが必要になることがある。十分な疼痛コントロールには,これらの薬剤の適切な用量および投与スケジュールが不可欠である(オピオイド鎮痛薬の表を参照)。鎮痛薬がいつ必要であるかは,がん患者自身が最もよく判断できることが多い。留置ポンプを用いた自己調節鎮痛法(PCA)により,鎮痛薬の用量および投与タイミングを患者自身が管理することが可能になる。
複数のクラスの薬剤を併用することで,単一のクラスの薬剤のみを使用する場合と比べて,良好な疼痛コントロールが行えるうえ,有害作用も少ないか,重症度が低くなる場合がある。血小板減少症の患者では,アスピリンおよび非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用を避けるべきである。
神経障害性疼痛はガバペンチンにより治療可能である;高用量(最大1200mgの1日3回経口投与)が必要であるが,低用量(例,300mgの1日3回投与)で開始し,数週間かけて増量しなければならない。あるいは,三環系抗うつ薬(例,就寝時にノルトリプチリン25~75mgの経口投与)を試みることができる。用量は患者間で大きく異なることがある。
オピオイドはがん患者における疼痛コントロールの中心であり,十分に使用されていないことが多い。鎮痛薬は,目標とする水準の疼痛コントロールを達成できる用量およびスケジュールで投与すべきである。がん患者では,疼痛コントロールが十分になされていないことがあまりにも多い。
特別な状況下では,疼痛をコントロールするために他のアプローチが必要になることがある。例えば,骨痛に対しては放射線療法が必要となることが多い。神経経路を遮断するために,神経ブロックおよび手術を行うことがある。
抑うつ
腫瘍崩壊症候群およびサイトカイン放出症候群
腫瘍崩壊症候群
腫瘍崩壊症候群は,細胞傷害性薬剤や特定の種類の免疫療法(例,CAR-T細胞療法)によってがん細胞が急速に殺傷される結果,細胞内成分,特に核酸(尿酸に分解されて高尿酸血症を引き起こす),リン,およびカリウムが血流中に放出されることで発生する。尿酸は尿細管内で析出して急性腎障害を引き起こす可能性がある(急性尿酸性腎症も参照)。リンとカルシウムの濃度積に応じて,高リン血症により尿細管および心臓の刺激伝導系にリン酸カルシウムが沈着する可能性があり,また低カルシウム血症からテタニーを起こすこともある。高カリウム血症は不整脈を引き起こすことがある。腫瘍崩壊症候群の症状としては,嗜眠,食欲不振,悪心,嘔吐,痙攣発作などがある。
腫瘍崩壊症候群は主に白血病とリンパ腫で発生するが,他の造血器腫瘍に加え,まれであるが固形がんの治療後に発生することもある。B細胞白血病の治療に用いられるT細胞ワクチンは,ワクチン接種の数日から数週間後に生命を脅かす腫瘍崩壊およびサイトカイン放出を引き起こすことがある。
腫瘍崩壊症候群の診断基準には以下が含まれている:
低カルシウム血症(カルシウム < 7mg/dL[1.75mmol/L])
高尿酸血症(尿酸 > 8mg/dL[0.48mmol/L])
高リン血症(リン > 6.5mg/dL[2mmol/L])
高カリウム血症(カリウム > 6mEq/L[6mmol/L])
腫瘍崩壊症候群の治療はアロプリノール200~400mg/m2,1日1回(1日最大600mg)によるほか,入念な臨床検査および心臓モニタリングとともに生理食塩水の静注を開始して,尿量が2L/日を超えるまで行うべきである。尿をアルカリ化して尿酸の可溶化を促進させるために炭酸水素ナトリウムの静注を主張する医師もいるが,高リン血症患者ではアルカリ化によりリン酸カルシウムの沈着が促進される場合があるため,pHが7を超える事態は避けるべきである。高カリウム血症の治療は血清カリウム値に応じて行われ,具体的にはカリウム降下薬の経口投与,カルシウムの静脈内投与,グルコースおよびインスリンの静脈内投与などが行われる。低カルシウム血症の治療はカルシウムの静注によるが,これによりリン酸カルシウムの析出が増加する可能性があるため,高リン血症が是正されない限り,無症候性の低カルシウム血症に対してカルシウムを投与すべきではない。症状がみられる低カルシウム血症の患者(例,不整脈,テタニー)には,血清リン濃度にかかわらずカルシウムを静脈内投与すべきである。
腫瘍崩壊症候群の予防が望ましい。腫瘍崩壊症候群の発生はしばしば予測可能であり(例,細胞増殖の速いがんを治療する場合),化学療法の開始前やときに免疫療法(二重特異性モノクローナル抗体またはCAR-T細胞など)の開始前に大量の輸液とアロプリノールまたはラスブリカーゼを投与することにより,尿酸による障害から腎臓を保護することができる。治療前に100mL/時間以上の尿量を確保するために,全例に対して輸液による水分補給を精力的に行うべきである。また,化学療法の開始2日以上前から施行中にかけてアロプリノールも投与すべきであり,腫瘍量が多い患者では,このレジメンを治療後10~14日間にわたり継続してもよい。ラスブリカーゼは,尿酸を酸化してアラントイン(より溶解性の高い分子)に変換する酵素であり,0.15~0.2mg/kgを30分かけて1日1回静注し,これを5~7日間継続するが,典型的には最初の化学療法の4~24時間前に開始する。有害作用として,アナフィラキシー,溶血,ヘモグロビン尿症,およびメトヘモグロビン血症がみられる場合がある。
腫瘍崩壊症候群の評価および管理に関するガイドラインが公開されている(1, 2)。
サイトカイン放出症候群
サイトカイン放出症候群(CRS)は,腫瘍崩壊症候群と関係はあるものの,明確に異なる病態である。サイトカイン放出症候群は,大量の免疫細胞が活性化され,インターロイキン6(IL-6)やインターフェロンγなどの炎症性サイトカインが放出されることで発生する。二重特異性モノクローナル抗体やCAR-T細胞などの免疫療法で高頻度にみられる合併症である。
臨床的特徴としては,発熱,疲労,食欲不振,筋肉痛,関節痛,悪心,嘔吐,下痢,発疹,頭痛などがある。頻呼吸,頻脈,低血圧,振戦,協調運動障害,痙攣発作,およびせん妄が生じることがある。
典型的な特徴としては以下のものがある:
低酸素症
脈圧増大
心拍出量の増加または減少
血中尿素窒素(BUN),Dダイマー,肝酵素,およびビリルビンの上昇
フィブリノーゲン濃度低値
サイトカイン放出症候群の重症度分類(3)は以下の通りである:
グレード1:症状(例,発熱,悪心,疲労,頭痛,筋肉痛,倦怠感)は生命を脅かすものではなく,対症療法のみを必要としている。
グレード2:FIO2 40%までの酸素投与による中程度の介入を必要とする症状があり,それに反応しているか,輸液もしくは低用量の昇圧薬に反応する低血圧,またはグレード2の臓器毒性がみられる。
グレード3:FIO2 40%以上の酸素投与による積極的な介入を必要とする症状があり,それに反応しているか,高用量もしくは複数の昇圧薬を必要とする低血圧,またはグレード3の臓器毒性もしくはグレード4のtransaminitis(高トランスアミナーゼ血症)がみられる。
グレード4:人工呼吸器による呼吸補助が必要であるなど,症状により生命が脅かされているか,グレード4の臓器毒性(transaminitisを除く)がみられる。
グレード5:死亡
グレードの低いCRSに対する治療は支持療法による。中等度のCRSには,酸素療法と輸液に加えて,血圧を上昇させるために1剤または複数の昇圧薬が必要である。中等度および重度(すなわちグレード3および4)のCRSは,コルチコステロイドなどの免疫抑制薬で治療する。重度のCRSでは,抗インターロイキン6(IL-6)モノクローナル抗体であるトシリズマブも使用される。
免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(Immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)は,免疫療法を受けたがん患者の一部に発生する神経精神医学的症候群である。また,サイトカインを介した毒性とも関連しており,サイトカイン放出脳症症候群(cytokine release encephalopathy syndrome:CRES)と呼ばれている。症状としては,錯乱,意識レベル低下,注意力の障害,嗜眠,精神状態の変化,せん妄,めまい,筋攣縮,筋力低下などがある(1)。
軽度の神経毒性は支持療法で治療する。より重度の神経毒性はデキサメタゾンまたはメチルプレドニゾロンで治療する。重度の神経毒性を有する患者には,集中治療室での治療が必要になる場合がある。
腫瘍崩壊症候群とサイトカイン放出症候群に関する参考文献
1.Cairo MS, Coiffier B, Reiter A, et al: Recommendations for the evaluation of risk and prophylaxis of tumour lysis syndrome (TLS) in adults and children with malignant diseases: an expert TLS panel consensus.Br J Haematol 149(4):578–586, 2010. doi: 10.1111/j.1365-2141.2010.08143.x
2.Coiffier B, Altman A, Pui CH, et al: Guidelines for the management of pediatric and adult tumor lysis syndrome: an evidence-based review.J Clin Oncol 26(16):2767–2778, 2008. doi: 10.1200/JCO.2007.15.0177
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