低カルシウム血症

執筆者:James L. Lewis III, MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham
レビュー/改訂 2021年 9月
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低カルシウム血症とは,血漿タンパク質濃度が正常範囲内にある場合に血清総カルシウム濃度が8.8mg/dL(2.20mmol/L)未満であること,または血清イオン化カルシウム濃度が4.7mg/dL(1.17mmol/L)未満となった状態である。原因には,副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏症,および腎疾患がある。症状としては,錯感覚,テタニーのほか,重度であれば痙攣,脳症,心不全などがある。診断には,血清アルブミン値で補正された血清カルシウムの測定が必要である。治療はカルシウム投与により行い,ときにビタミンDを併用する。

カルシウム濃度の異常の概要および新生児の低カルシウム血症も参照のこと。)

低カルシウム血症の病因

低カルシウム血症には,以下を含むいくつかの原因がある:

  • 副甲状腺機能低下症

  • 偽性副甲状腺機能低下症

  • 腎疾患

  • ビタミンD欠乏症と依存症

副甲状腺機能低下症

副甲状腺機能低下症は,低カルシウム血症および高リン血症を特徴とし,しばしば慢性テタニーを引き起こす。副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏に起因し,この欠乏は自己免疫疾患で生じるか,または甲状腺切除術中に複数の副甲状腺が誤って切除または損傷された後で生じる場合がある。甲状腺亜全摘術後には一過性の副甲状腺機能低下症がよくみられるが,恒久的な副甲状腺機能低下症の頻度は,熟練した外科医が甲状腺切除術を執刀した場合,3%を下回る。低カルシウム血症の症状は,通常は術後約24~48時間で出現するが,数カ月後ないし数年後に現れることもある。がんに対する根治的甲状腺切除術や副甲状腺に対する手術(副甲状腺亜全摘術または全摘術)の術後には,PTHの欠乏がより高い頻度で起こる。副甲状腺亜全摘術後の重度低カルシウム血症の危険因子としては以下のものがある:

  • 術前の重度高カルシウム血症

  • 大きな腺腫の切除

  • アルカリホスファターゼ上昇

  • 嚢胞性線維性骨炎(osteitis fibrosa cystica)のX線所見

  • 慢性腎臓病

特発性副甲状腺機能低下症は,副甲状腺が欠損もしくは萎縮する,孤発性または遺伝性のまれな疾患である。小児期に発症する。ときに副甲状腺の欠損がみられるほか,胸腺形成不全と鰓弓から発生する動脈の異常(ディジョージ症候群)がある。その他の遺伝性の病型としては,多腺性自己免疫不全症候群皮膚粘膜カンジダ症に関連する自己免疫性副甲状腺機能低下症,X連鎖潜性(劣性)特発性副甲状腺機能低下症などがある。

偽性副甲状腺機能低下症

偽性副甲状腺機能低下症はまれな疾患群であり,ホルモン欠乏ではなく標的臓器のPTH抵抗性を特徴とする。この疾患群の遺伝による伝達は複雑である。

Ia型偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト遺伝性骨異栄養症)は,アデニル酸シクラーゼ複合体を刺激するGsα1タンパク質(GNAS1)の変異によって引き起こされる。その結果,PTHに対する腎臓の正常なリン利尿反応や尿中cAMP(サイクリックアデノシン一リン酸)の増加が起こらなくなる。患者は通常,低カルシウム血症および高リン血症を呈する。二次性副甲状腺機能亢進症と副甲状腺機能亢進症による骨疾患が起こることがある。合併する異常として,低身長,丸顔,大脳基底核石灰化を伴う知的障害,中手骨および中足骨の短縮,軽度の甲状腺機能低下症,その他の軽微な内分泌異常などがある。腎臓ではGNAS1の母由来のアレルだけが発現するため,異常遺伝子が父由来である患者では,本疾患の身体的特徴が多数認められるにもかかわらず,低カルシウム血症,高リン血症,そして二次性副甲状腺機能亢進症が生じない;この病態はときに偽性偽性副甲状腺機能低下症と呼ばれる。

Ib型偽性副甲状腺機能低下症は,あまり知られていない。この疾患の患者には低カルシウム血症,高リン血症,および二次性副甲状腺機能亢進症が認められるが,これら以外に合併する異常はない。

II型偽性副甲状腺機能低下症は,I型よりもさらにまれである。患者に外因性PTHを投与すると,尿中cAMP値は正常に上昇するが,血清カルシウムおよび尿中リンの値は上昇しない。cAMPに対する細胞内抵抗性が機序として提唱されている。

ビタミンDの欠乏症および依存症

ビタミンDの欠乏症および依存症については,本マニュアルの別の箇所で詳細に考察されている。

ビタミンDは,ビタミンDが自然に多く含まれている,またはビタミンDが強化された食物から摂取される。また,日光(紫外線)に反応して皮膚で合成される。ビタミンD欠乏症は,食事からの摂取不足や,肝胆道疾患または腸管での吸収不良による吸収低下に起因すると考えられる。また,ある種の薬物(例,フェニトイン,フェノバルビタール,リファンピシン)に伴うビタミンD代謝における変化や,日光曝露不足に起因する皮膚での合成低下によっても生じる。加齢も皮膚の合成能を低下させる。

皮膚での合成低下は,後天性ビタミンD欠乏症の重要な原因であり,多くの時間を屋内で過ごす人,南北の高緯度地域に居住する人,および全身を完全に覆う服を着用したり日焼け止めを頻繁に使用したりする人にみられる。そのため,無症候性のビタミンD欠乏症はかなり一般的であり,特に温帯地域の冬期に高齢者でよくみられる。施設入所の高齢者は,皮膚の合成能低下,低栄養,および日光曝露不足のために,特にリスクがある。実際,大半の欠乏症患者には,皮膚の合成能低下と食事性の欠乏の両方が認められる。しかしながら,まだ証明されていないビタミンDの中等度低下によるリスクに比べ,皮膚がんの危険性の方がはるかに勝るため,日光への曝露を増やすことや日焼け止めを使わずに過剰な日光を浴びることは勧められないというのが大半の医師の意見である;心配な患者は,ビタミンDのサプリメントを容易に利用できる。

ビタミンD依存症は,ビタミンDを活性型に変換できないか,十分な活性型ビタミンDがあっても標的臓器がそれに反応できない場合に起こる。

  • ビタミンD依存性くる病I型(偽性ビタミンD欠乏性くる病)は,1-α-水酸化酵素をコードする遺伝子の変異が関与する常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患である。1-α-水酸化酵素は正常では腎臓に発現し,不活性型ビタミンDを活性型ビタミンDであるカルシトリオールに変換するために必要な酵素である。

  • ビタミンD依存性くる病II型では,標的臓器がカルシトリオールに反応できない。ビタミンD欠乏症,低カルシウム血症,重度の低リン血症が生じる。筋力低下,疼痛,および典型的な骨変形が起こりうる。

腎疾患

近位および遠位尿細管性アシドーシスなどの尿細管疾患では,腎臓から異常にカルシウムが喪失されたり,腎臓でビタミンDを活性型の1,25(OH)2Dへ変換する能力が低下したりすることにより,重度の低カルシウム血症が生じる場合がある。

腎不全があると,以下の機序により1,25(OH)2Dの産生が低下する;

  • 腎細胞の直接損傷

  • 高リン血症による1-α-水酸化酵素(ビタミンDの変換に必要)の作用抑制

その他の原因

低カルシウム血症のその他の原因としては以下のものがある:

  • 急性膵炎(炎症を起こした膵臓から放出される脂肪分解産物が,カルシウムをキレートする際)

  • 抗てんかん薬(例,フェニトイン,フェノバルビタール)およびリファンピシンなどの薬剤(ビタミンDの代謝を変化させる),ならびに高カルシウム血症の治療に一般に用いられる薬剤

  • Hungry bone症候群(中等度から重度の副甲状腺機能亢進症において,大幅に上昇したPTHにより骨代謝回転が亢進し血清カルシウム濃度が維持されていた患者に,外科的または内科的是正を行ったことで持続性の低カルシウム血症および低リン血症が生じることをhungry bone症候群という。副甲状腺亜全摘術後,腎移植術後,およびまれにカルシウム受容体作動薬による治療を受けた末期腎不全患者で報告されている)

  • 高リン血症(ほとんど解明されていない機序により低カルシウム血症が引き起こされる;腎不全とそれに続くリン貯留を来した患者では,特にその傾向がある)

  • 低タンパク血症(血清カルシウムのタンパク質結合分画が減少する;タンパク質結合の減少による低カルシウム血症は無症候性である―イオン化カルシウムは変化しないため,これは偽性低カルシウム血症と呼ばれている)

  • ガドリニウムの点滴(カルシウム濃度を見かけ上,低下させる場合がある)

  • マグネシウム不足(通常,血清マグネシウム濃度が1.0mg/dL未満[0.5mmol/L未満]となった場合,相対的な副甲状腺ホルモンの欠乏やPTH作用に対する末梢器官の抵抗性が引き起こされる;マグネシウム補充により,PTH濃度が上昇し,腎臓でのカルシウム保持が改善する)

  • 敗血症性ショック(PTH放出の抑制および25(OH)Dから1,25(OH)2Dへの変換の減少による)

  • クエン酸で抗凝固処理を行った血液の10単位を超える輸血

  • 2価イオンキレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA―血清総カルシウム濃度は変化しないが,生体が利用できるイオン化カルシウムの濃度を低下させる可能性がある)を含有する造影剤の使用

カルシトニン過剰分泌は低カルシウム血症を引き起こすと予想されるかもしれないが,実際にカルシトニンが血清カルシウム濃度に与える影響はわずかである。例えば,甲状腺髄様癌由来のカルシトニンが循環血液中に大量に存在する患者でも,血清カルシウム濃度が低くなることはまれである。

低カルシウム血症の症状と徴候

低カルシウム血症はしばしば無症候性である。

副甲状腺機能低下症の存在は,基礎疾患の臨床症状(例,Ia型偽性副甲状腺機能低下症における,低身長,丸顔,知的障害,大脳基底核石灰化症;自己免疫性副甲状腺機能低下症に伴う白斑)によって示唆されることがある。

低カルシウム血症の主な臨床症状は,細胞膜電位の異常が神経筋の易興奮性をもたらすことによる。

神経症状

背部および下肢の筋痙攣がよくみられる。

潜在性の低カルシウム血症は軽度のびまん性脳症を引き起こすことがあり,原因不明の認知症,抑うつ,または精神症を呈する患者ではこれを疑うべきである。

乳頭浮腫がときに起こる。

血清カルシウム濃度が7mg/dL未満(1.75mmol/L未満)の重度の低カルシウム血症は,反射亢進,テタニー,喉頭痙攣,全身痙攣を引き起こす場合がある。

テタニーは重度の低カルシウム血症に起因するのが特徴であるが,重度のアルカローシスでみられるように,著明な低カルシウム血症を伴わずに血清カルシウムのイオン化分画が減少して生じる場合もある。テタニーは以下を特徴とする:

  • 口唇,舌,手指,および足の錯感覚から成る感覚症状

  • 遷延し有痛性の場合もある手足の攣縮

  • 全身性の筋肉痛

  • 顔面筋の痙攣

テタニーは顕在性で自然に症状が発生することもあれば,潜在性で誘発試験を必要とすることもある。潜在性テタニーは一般に,比較的軽度の低カルシウム血症(7~8mg/dL[1.75~2.20mmol/L])でも生じる。

Chvostek徴候およびTrousseau徴候はベッドサイドで容易に誘発され,潜在性テタニーを確認できる。

Chvostek徴候とは,外耳道のすぐ前方の顔面神経を軽く叩打すると誘発される顔面筋の不随意収縮である。これは健常者の10%以下,急性低カルシウム血症患者の大半に認められるが,慢性低カルシウム血症患者ではしばしば存在しない。

Trousseau徴候とは,手への血液供給を抑えることで誘発される手の攣縮であり,これを誘発するには駆血帯または収縮期血圧を20mmHg上回るように膨らませた血圧測定用カフで前腕を3分間加圧する。Trousseau徴候はアルカローシス,低マグネシウム血症,低カリウム血症,高カリウム血症でもみられ,また電解質異常が同定できない人の約6%に生じる。

その他の臨床像

慢性低カルシウム血症の患者では,そのほかにも乾燥した鱗状の皮膚,割れやすい爪,粗造な毛髪など多くの異常が認められる。カンジダ(Candida)感染がときに低カルシウム血症でみられるが,特発性副甲状腺機能低下症患者でみられることが最も多い。低カルシウム血症が遷延するときに白内障が起こり,これは血清カルシウムを是正しても改善しない。

低カルシウム血症の診断

  • イオン化カルシウム(生理的に活性のあるカルシウム)の推定または測定

  • ときにさらなる検査として,マグネシウム,PTH,リン,アルカリホスファターゼ,およびビタミンDの血中濃度,ならびにcAMPおよびリンの尿中濃度を測定する

低カルシウム血症は,特徴的な神経症状または不整脈がみられる患者に疑われる場合があるが,しばしば偶然発見される。血清総カルシウム濃度が8.8mg/dL未満(2.2mmol/L未満)であれば低カルシウム血症と診断される。しかし,血漿タンパク質濃度の低下によって血清中の総カルシウム濃度は低下するがイオン化カルシウム濃度は低下しないため,イオン化カルシウムはアルブミン濃度に基づいて推定すべきである。

イオン化カルシウム低値が疑われれば,血清総カルシウム値が正常範囲内であっても直接測定が必須となる。血清イオン化カルシウム < 4.7mg/dL(< 1.17mmol/L)は低値である。

低カルシウム血症患者では,腎機能(例,BUN[血中尿素窒素],クレアチニン),血清リン,マグネシウム,アルカリホスファターゼを測定すべきである。

病因(例,アルカローシス,腎不全,薬剤,または大量輸血)が明らかでない場合は,さらなる検査が必要となる(低カルシウム血症を引き起こす疾患での典型的な臨床検査結果の表を参照)。

追加の検査は,マグネシウム,リン,副甲状腺ホルモン,アルカリホスファターゼ,およびときにビタミンD(25(OH)D,および1,25(OH)2Dの両方)の血清中濃度から始める。偽性副甲状腺機能低下症が疑われる場合には,リンおよびcAMPの尿中濃度を測定する。

インタクトPTHの濃度を測定すべきである。低カルシウム血症はPTH分泌の主要な刺激因子であるため,正常であれば低カルシウム血症に反応してPTH値が上昇するはずである。したがって:

  • PTH濃度が低値,または正常低値であっても不適切であり,副甲状腺機能低下症が示唆される。

  • PTH濃度が検出限界未満であれば,特発性副甲状腺機能低下症が示唆される。

  • PTH濃度の高値は,偽性副甲状腺機能低下症またはビタミンDの代謝異常を示唆する。

副甲状腺機能低下症はさらに,高い血清リン値と正常範囲内のアルカリホスファターゼ値も特徴とする。

I型偽性副甲状腺機能低下症では,血中PTH濃度が高値であるにもかかわらず,尿中にcAMPおよびリンは認められない。副甲状腺抽出物または遺伝子組換えヒトPTHを注射して行う誘発試験では,血清中または尿中のcAMP濃度は上昇しない。Ia型偽性副甲状腺機能低下症患者には,低身長および第1,4,5中手骨の短縮といった骨格異常もしばしばみられる。Ib型患者には,腎症状はあるが骨格異常はない。

ビタミンD欠乏症では,骨軟化症またはくる病がみられる場合があり,通常はX線で典型的な骨格異常が認められる。ビタミンDの欠乏症および依存症の診断ならびにビタミンD濃度の測定については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

表&コラム
表&コラム

重度の低カルシウム血症は心電図に影響する場合がある。心電図は,典型的にはQTcおよびST間隔の延長を示す。T波の増高尖鋭化または逆転などの,再分極の変化も起こる。重度の低カルシウム血症患者では,心電図で不整脈または心ブロックがときに示されることがある。ただし,低カルシウム血症が単独でみられる場合は,心電図検査は必須ではない。

イオン化カルシウム濃度の推定

イオン化カルシウム濃度はルーチンの臨床検査から推定でき,通常は精度も妥当である。

低アルブミン血症では,主にタンパク質結合カルシウム濃度の低値を反映して血清カルシウムの測定値はしばしば低くなるが,一方でイオン化カルシウムは正常範囲内の場合もある。血清総カルシウムの測定濃度は,アルブミンが1g/dL低下または上昇する毎に約0.8mg/dL(0.2mmol/L)低下または上昇する。したがって,アルブミン濃度が2.0g/dL(20g/L)(正常値4.0g/dL[40g/L])であれば,それだけで血清カルシウムの測定値は1.6mg/dL(0.4mmol/L)低下するはずである。

同様に,多発性骨髄腫にみられるような血清タンパク質の増加は血清総カルシウム濃度を上昇させうる。アシドーシスではタンパク質結合の減少によってイオン化カルシウムが増加する一方,アルカローシスではイオン化カルシウムは減少する。

低カルシウム血症の治療

  • テタニーに対しては,グルコン酸カルシウムの静脈内投与

  • 術後副甲状腺機能低下症に対しては,カルシウムの経口投与

  • 慢性低カルシウム血症に対しては,カルシウムおよびビタミンDの経口投与

テタニー

テタニーには,グルコン酸カルシウムの10%溶液10mLを10分かけて静注する。反応は劇的であるが,おそらくわずか数時間しか持続しない。反復ボーラス投与を行うか,10%グルコン酸カルシウム20~30mLを5%ブドウ糖液1Lに溶解し,引き続き12~24時間かけて持続的に追加点滴する必要が生じることがある。カルシウム点滴は,ジゴキシンを投与されている患者では危険であるため,緩徐に行い,低カリウム血症がないか確認してあれば是正したあと,継続的に心電図モニタリングを行うべきである。

テタニーが低マグネシウム血症に関連している場合は,カルシウムまたはカリウムの投与に一過性に反応することもあるが,恒久的な改善はマグネシウムを補充することによってのみ得られ,通常は10%硫酸マグネシウム溶液(1g/10mL)の静脈内投与に続いてマグネシウム塩を経口投与(例,グルコン酸マグネシウム500~1000mg,1日3回経口投与)する。

パール&ピットフォール

  • カルシウム点滴は,ジゴキシンを投与されている患者では危険であるため,緩徐に行い,低カリウム血症がないか確認してあれば是正したあと,継続的に心電図モニタリングを行うべきである。

一過性の副甲状腺機能低下症

甲状腺切除術後または副甲状腺部分摘出術後の一過性の副甲状腺機能低下症には,カルシウムの経口補給で十分な場合がある:1日1~2gのカルシウムをグルコン酸カルシウム(1g当たりカルシウム90mg)または炭酸カルシウム(1g当たりカルシウム400mg)として投与することがある。

副甲状腺亜全摘術は,特に重度で遷延する低カルシウム血症の原因になることがあり,慢性腎臓病の患者と大きな腫瘍を摘出した患者では特にその可能性が高い。術後には注射剤によるカルシウム投与が長期にわたって必要になる場合があり,経口剤のカルシウムおよびビタミンDで十分になるまでの間,1g/日もの高用量でのカルシウム投与(例,10mL当たりカルシウム90mgを含有するグルコン酸カルシウムとして111mL/日)が5~10日間必要になることもある。このような患者における血清アルカリホスファターゼ高値は,カルシウムが急速に骨に取り込まれている徴候である可能性がある。注射剤による大量のカルシウム投与は,通常はアルカリホスファターゼ値が低下し始めるまで必要である。

慢性低カルシウム血症

慢性低カルシウム血症では,カルシウムおよびときにビタミンDの経口補給で通常は十分である:1日1~2gのカルシウムをグルコン酸カルシウムまたは炭酸カルシウムとして投与する場合がある。腎不全または副甲状腺機能低下症がみられない患者には,ビタミンDは標準的な経口補給薬(例,ビタミンD3,コレカルシフェロール20μg[800IU],1日1回)として投与する。カルシウムおよびリンが食事やサプリメントからも十分に補給されない限りビタミンD療法は無効である。

腎不全患者には,腎での代謝変換を必要としないカルシトリオールまたは他のビタミンD誘導体(例,アルファカルシドール[alfacalcidiol],ジヒドロタキステロール)を使用すべきである。副甲状腺機能低下症患者も,コレカルシフェロールをその活性型に変換するのが困難であり,通常はカルシトリオール(通常,0.5~2μg,1日1回経口投与)を必要とする。偽性副甲状腺機能低下症はときにカルシウムの経口補給のみで管理できるが,カルシトリオールが上記の用量で必要になることがある。ジヒドロタキステロールは通常,経口,0.8~2.4mg,1日1回の投与を数日間続け,その後0.2~1.0mg,1日1回の投与を行う。†アルファカルシドール[alfacalcidiol]は米国では入手できない。

ビタミンD誘導体の使用は,ビタミンD中毒とそれに伴う重度の症候性高カルシウム血症を合併する可能性がある。血清カルシウム濃度のモニタリングを最初は毎週,カルシウム濃度安定後は1~3カ月間隔で行うべきである。通常,カルシトリオールまたはその類似体であるジヒドロタキステロールの維持量は時間とともに減少する。

カルシウムおよびビタミンDの補充に十分に反応しない副甲状腺機能低下症には,遺伝子組換え副甲状腺ホルモン(rhPTH 1-84)による治療が必要になることがあり,これはまた副甲状腺機能低下症の長期合併症(例,高カルシウム尿症,骨強度の低下)のリスクを低下させ,カルシウムおよびビタミンDの必要量を減少させる可能性がある。rhPTH 1-84の投与は,50μg,1日1回,皮下投与から開始し,同時にビタミンDの用量を50%減量する。血清カルシウム濃度および血清リン濃度を綿密にモニタリングし,rhPTH 1-84の用量を最大で100μg,1日1回,最小で25μg,1日1回として,必要に応じて数週間毎に調節する。rhPTH 1-34は慢性副甲状腺機能低下症の治療にも効果的であることが示されているが,米国ではこの用途に対して承認されていない。

要点

  • 低カルシウム血症の原因としては,副甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏症,腎不全などがある。

  • 軽度の低カルシウム血症は無症状であるか,または筋痙攣を引き起こすことがある。

  • 重度の低カルシウム血症(血清カルシウム7mg/dL未満[1.75mmol/L未満])は,反射亢進,テタニー(口唇,舌,手指,および足の錯感覚,手足および/または顔面の痙攣,筋肉痛),または全身痙攣を引き起こす場合がある。

  • 血清中のイオン化カルシウム(総カルシウムではない)の推定または測定により診断する。

  • 一般的には,マグネシウム,リン,副甲状腺ホルモン,アルカリホスファターゼのほか,ときにビタミンDの血清中濃度を測定する。

  • テタニーがみられる患者にはグルコン酸カルシウムを静脈内投与する;それ以外の患者は,カルシウムの経口補給により治療する。

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