非中毒性甲状腺腫は,甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症,および炎症のいずれも伴うことなく甲状腺に良性の肥大が生じた病態であり,びまん性の場合と結節性の場合がある。重度のヨウ素欠乏症がある場合を除き,甲状腺機能は正常で,甲状腺に明らかに腫大と圧痛があるのみで,それ以外の症状はみられない。診断は臨床的に行い,甲状腺機能が正常であることを確認する。治療は原因に対して行うが,非常に大きな甲状腺腫には外科的な部分切除が必要になることがある。
(甲状腺機能の概要も参照のこと。)
非中毒性甲状腺腫は最も一般的な甲状腺腫大であり,思春期,妊娠中,および閉経期によく認められる。これらの時期での原因は通常不明である。既知の原因としては以下のものがある:
内因性の甲状腺ホルモン産生の不足
甲状腺ホルモンの合成を阻害する物質(甲状腺腫誘発物質)を含有する食物(例,キャッサバ,ブロッコリー,カリフラワー,キャベツ)の摂取(ヨウ素欠乏症の頻度が高い国々でみられる)
甲状腺ホルモン合成を減少させる可能性がある薬剤(例,アミオダロン,その他のヨウ素含有化合物,リチウム)の使用
ヨウ素欠乏症は北米ではまれであるが,世界的には依然として甲状腺腫の最も頻度の高い原因となっている(地方病性甲状腺腫と呼ばれる)。代償性に甲状腺刺激ホルモン(TSH)のわずかな増加が起きることで,甲状腺機能低下症の発症は阻止されるが,そのTSH刺激の結果として甲状腺腫が形成される。刺激と退縮の周期が繰り返されることで,非中毒性結節性甲状腺腫に至ることもある。しかしながら,ヨウ素摂取量が十分な地域でみられる非中毒性甲状腺腫の大半における真の病因は不明である。
非中毒性甲状腺腫の症状と徴候
甲状腺腫の患者は通常無症状である。比較的大きな甲状腺腫がある患者では,嚥下困難,嗄声,のどの膨満感(咽喉頭異常感)がみられることがある(1)。患者にはヨウ素摂取不足や,食物性甲状腺腫誘発物質の過剰摂取歴が認められる場合があるが,これらの現象は北米ではまれである。
病初期の甲状腺腫は典型的には軟らかく,左右対称で平滑である。後期になると,多発性結節や嚢胞が生じることがある。
症状と徴候に関する参考文献
1.Sajisevi M, Caulley L, Eskander A, et al.Evaluating the Rising Incidence of Thyroid Cancer and Thyroid Nodule Detection Modes: A Multinational, Multi-institutional Analysis. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 2022;148(9):811-818.doi:10.1001/jamaoto.2022.1743
非中毒性甲状腺腫の診断
非中毒性甲状腺腫の治療
原因によって異なる
ヨウ素欠乏地域では,以下の手段によりヨウ素欠乏症を解消する:
塩へのヨウ素添加
ヨード化油の経口投与
年1回のヨード化油の筋肉内投与
水,農作物,または家畜用飼料へのヨウ素添加
いかなる甲状腺腫誘発物質(例,キャッサバ,ブロッコリー,カリフラワー,キャベツ)も摂取を控えさせるべきである。
その他の例として,甲状腺ホルモンにより視床下部-下垂体系を抑制することで,甲状腺刺激ホルモン(TSH)の産生(ひいては甲状腺の刺激)を阻害する方法もある。
若年患者で血清TSH値を正常低値域まで下げるのに,中等量のレボチロキシン(血清TSH値に応じて100~150μg,1日1回,経口投与)が有用である。レボチロキシンは非中毒性結節性甲状腺腫の高齢患者では禁忌であるが,その理由は,それらの甲状腺腫が縮小することはまれであり,自律性を有している可能性があるため,レボチロキシン療法を行うと甲状腺機能亢進症が生じる可能性があるからである。
大きな甲状腺腫では,呼吸障害や嚥下障害を予防できる大きさまで甲状腺を縮小させるために,または美容上の問題を解決するために,ときに手術が必要になる。
大きな甲状腺腫に対するヨウ素131治療は,TSHの抑制によって示される自律機能の明確な証拠が認められる場合を除き,総じて無効である。
要点
甲状腺機能検査は通常正常である。
原因がヨウ素欠乏症である場合は,ヨウ素補充が効果的な治療である。
レボチロキシンの投与による甲状腺刺激ホルモン産生の阻害は,若年患者において甲状腺の刺激を停止させ,甲状腺腫を縮小させるのに有用である。
大きな甲状腺腫には手術が必要になることがある。



