演技性パーソナリティ症(histrionic personality disorder)は,過度の情動性および注意を引きたいという欲求の広汎なパターンを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神力動的精神療法による。
(パーソナリティ症の概要も参照のこと。)
演技性パーソナリティ症の患者は,自分の身体的外見を利用して,他者の注意を得るために不適切に誘惑的または挑発的な形で行動する。患者は自己主導の感覚を欠いており,非常に被暗示性が高く,しばしば他者の注意を維持するために服従的に行動する。
推定有病率は一般集団の2%未満である(1)。男女別の有病率は女性と男性で同程度である。女性で有病率が高いとされた過去の報告については,病院ベースの研究であったことによる確認バイアスの影響を受けていた可能性がある。
併存症,特に他のパーソナリティ症(反社会性,ボーダーライン,自己愛性)がよくみられる(2)。身体症状症も認められる患者がおり,これが受診理由となる場合がある。うつ病,持続性抑うつ症,および変換症が併存することもある。
総論の参考文献
1.Morgan TA, Zimmerman M: Epidemiology of personality disorders.In Handbook of Personality Disorders: Theory, Research, and Treatment.2nd ed, edited by WJ Livesley, R Larstone, New York, NY: The Guilford Press, 2018, pp.173-196.
2.Zimmerman M, Rothschild L, Chelminski I: The prevalence of DSM-IV personality disorders in psychiatric outpatients.Am J Psychiatry 162:1911-1918, 2005.doi: 10.1176/appi.ajp.162.10.1911
演技性パーソナリティ症の症状と徴候
演技性パーソナリティ症の患者は,継続的に注目の的になることを求め,注目されていない場合にしばしば抑うつを生じる。患者はしばしば活発で,芝居がかっており,情熱的でなれなれしく,新しい知人を魅了することもある。
このような患者は,潜在的な恋愛的関心によってだけでなく,様々な状況(例,職場,学校)でしばしば不適切に誘惑的かつ挑発的な形で衣服を着用し,行動する。外見で自分のことを他者に印象づけたいとの欲求から,自身の外見にとらわれていることが多い。
感情の表現は表面的(急に感情を消したり,見せたりする)で誇張されていることがある。話しかたは芝居がかっていて,強い意見を述べるが,その意見を裏付ける事実または詳細はほとんどない。
演技性パーソナリティ症の患者は,他者および最新の流行に容易に影響を受ける。非常に人を信用しやすく,特に,自分のあらゆる問題を解決してくれると考える権威者を盲信する。しばしば自分と他者との関係を実際よりも親密であると考える。新奇なものを渇望し,すぐに飽きる。このため,仕事や友人を頻繁に変えることがある。充足感の遅れは患者にとって不満であるため,しばしば即座に満足が得られるようにする。
感情的または性的に親密な関係を得ることが困難な場合がある。患者は,しばしば気づくことなく,ある役割(例,被害者)を演じることがある。患者は誘惑的または感情的操作を利用してパートナーを支配しようとする一方で,パートナーに強く依存するようになることがある。
演技性パーソナリティ症の診断
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th Ed, Text Revision(DSM-5-TR)の診断基準
演技性パーソナリティ症の診断(1)を下すには,患者に以下が認められる必要がある:
過度の情動性および注意を引きたいという欲求を示す持続的なパターン
このパターンは,以下のうちの5つ以上が認められることによって示される:
自分が注目の的になっていないと落ち着かない
他者との交流が不適切なほど性的に誘惑的または挑発的である
感情の表現が浅薄で急激に変化する
他者の注意を引くために一貫して自身の身体的外見を利用する
極端に印象的だが漠然とした話し方をする
自己演劇化,芝居がかった振る舞い,および大げさな感情表現がみられる
被暗示的である(他者または状況に容易に影響を受ける)
対人関係を実際より親密なものと解釈する
また,症状が成人期早期までに始まっている必要もある。
鑑別診断
演技性パーソナリティ症は,特有な特徴に基づいて他のパーソナリティ症と鑑別することが可能である:
自己愛性パーソナリティ症:自己愛性パーソナリティ症患者も注意を引こうとするが,演技性パーソナリティ症患者とは異なり,それにより賞賛されていると感じたり,高揚感を覚えたりすることを望んでいる;演技性パーソナリティ症患者は自分が得る注目の種類についてそれほどえり好みすることはなく,気取っていると思われようが,ばかげていると思われようが気に留めない。
ボーダーラインパーソナリティ症:ボーダーラインパーソナリティ症の患者は,自分を悪い人間であると考え,感情を強く深く体験する;演技性パーソナリティ症の患者は,他者の反応に依存する傾向が低い自尊心によるものである可能性はあっても,自分を悪い人間であると考えることはない。
依存性パーソナリティ症:依存性パーソナリティ症の患者は,演技性パーソナリティ症患者と同様,他者に近づこうとするが,より不安が強く,抑制的,服従的である(拒絶されることを恐れているため);演技性パーソナリティ症の患者はそれほど抑制的ではなく,より華やかである。
診断に関する参考文献
1. American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed, Text Revision (DSM-5-TR).Washington, DC, American Psychiatric Association, 2022, pp.757-760.
演技性パーソナリティ症の治療
精神力動的精神療法
演技性パーソナリティ症の治療における一般原則は,全てのパーソナリティ症に対するそれと同じである。
演技性パーソナリティ症に対する認知行動療法および薬物療法の有効性に関してはほとんど知られていない。
基礎にある葛藤に焦点を当てた精神力動的精神療法を試みてもよい。治療者は発言を行動に置き換えるよう患者を促すことから始め,それにより,あまり芝居がからない形で他者とコミュニケーションを取れるようにする。治療者はまた,他者の注意を引いて自分の自尊心を保つ上で演技的行動がどれほど不適応なやり方であるかを患者が理解するように支援することもできる。



