虫垂炎とは、虫垂に起こる炎症や感染症です。
硬い便が詰まったり(糞石[ふんせき])、様々な感染に伴い腸のリンパ節が腫れて虫垂をふさいでしまうと、虫垂炎が起こるようです。
痛みは典型的にへそ(臍)の辺りから始まって、右下腹部に移動しますが、広範囲にわたることもあり、痛みから小児が怒りっぽくなったり、元気がなくなったりすることがあります。
診断は困難で、血液検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、腹腔鏡検査が必要になることがあります。
炎症を起こした虫垂は、通常手術で切除されます。
(成人については、虫垂炎を参照のこと。)
虫垂は小指ほどの長さの腸の一部で、身体的に重要な機能は特にありません。しかし、虫垂炎は緊急の治療を要する事態で、手術を必要とします。1歳未満の小児の虫垂炎はまれですが、成長するに従って多くなり、青年と20代の成人で最も多くなります。
硬い便(糞石)や、様々な感染に伴い腸のリンパ節が腫れて虫垂をふさいでしまうと、虫垂炎が起こるようです。いずれの場合も虫垂は腫れ、虫垂内部で細菌が増殖します。まれに、飲み込んだ異物や特定の寄生虫による感染症(糞線虫症など)でも虫垂炎が起こる可能性があります。
虫垂炎の合併症
虫垂炎の症状
2~3歳以上の小児では、1つの症状そのものよりも症状が現れる順序が重要です。最初に現れる症状は痛みです。虫垂炎ではほぼ必ず痛みが生じます。痛みは腹部中央のへその辺りから始まって、右下腹部に移動します。ただし、痛みが右下腹部だけに限られず、腹部全体に広がっていることもあります(特に乳児や小児の場合)。年齢の低い小児では、どこが痛いのかをはっきり伝えられないことがあり、極めて怒りっぽくなったり、元気がなくなったりすることもあります。
多くの小児で、痛みが始まった後に吐き気や嘔吐がみられ、食事を食べたがらなくなります。その後に医師が腹部を押すと、通常は虫垂がある辺りに圧痛がみられます。次に現れる微熱(37.7~38.3℃)もよく起こる症状の1つです。最後に、発熱に続いて白血球数が多いなどの臨床検査結果で感染症が示されます。この症状の順序はウイルス性胃腸炎の場合とは異なり、ウイルス性胃腸炎では、典型的にはまず嘔吐が起こり、その後に痛みと下痢が起きます。虫垂炎の小児において、ひどい下痢がみられることはまれです。
虫垂炎の診断
超音波検査
ときに他の画像検査
ときに腹腔鏡検査
小児の虫垂炎の診断は、様々な理由から困難な場合があります。ウイルス性胃腸炎、メッケル憩室、腸重積、クローン病など、同じような症状を引き起こす病気が多くあります。小児(特に年齢の低い小児)では、とりわけ虫垂が右下腹部の通常の位置にない場合など、典型的な症状や身体所見が現れないこともしばしばです。このように典型的な症状がみられないことは、医師の判断を迷わせる可能性があります。
ほとんどの場合、患児を放射線にさらさない、超音波検査が行われます。診断がはっきりしない場合、CT検査やMRI検査が行われることがあります。虫垂炎が疑われる場合、血液検査、尿検査、画像検査の結果を待つ間に、通常は輸液と抗菌薬の静脈内投与が行われます。
診断がはっきりしない場合、細い内視鏡を腹壁から挿入し、腹部内を観察する腹腔鏡検査を行うことがあります。腹腔鏡検査の際に虫垂炎が見つかれば、腹腔鏡を用いて虫垂を切除します。あるいは、特に症状と所見が虫垂炎に典型的なものでない小児では、身体診察を繰り返すだけの場合もあります。時間の経過に伴って症状と圧痛が悪化するか緩和するかを把握することは、虫垂炎であるかどうかを判断するために役立ちます。医師は症状が現れた順序にも注目します。
虫垂炎の予後(経過の見通し)
早期に治療を行えば、小児の虫垂炎の全体的な予後は非常に良好です。患児の死亡率は0.1%(1000人に1人)未満です。虫垂が破裂しなかった場合でも、患児の約3%で合併症がみられます。
虫垂が破裂するまで治療しなかった場合(2歳未満の小児で最も多くみられます)、予後は悪くなります。虫垂の破裂に対して手術を受けた患児の約10~15%で合併症が発生します。
治療せずに、虫垂炎が自然に治まることはまれです。一方、虫垂炎を治療しないと、通常は進行して腹膜炎と腹腔内膿瘍を起こし、ときに死に至ります。
虫垂炎の治療
虫垂切除術
抗菌薬の静脈内投与
虫垂炎の最適な治療法は、炎症を起こした虫垂を手術で切除することです(虫垂切除術)。手術の前に抗菌薬を静脈内投与し、合併症のリスクを抑えます。虫垂炎は、抗菌薬のみによる治療が成功する場合があることが最近明らかにされました。抗菌薬による治療が成功しない場合は、手術を行います。抗菌薬による治療が成功した場合でも、虫垂炎が再発することがあります。手術による虫垂の切除が、現在でも一般的に推奨されている虫垂炎の治療法です。
虫垂切除術は比較的簡単で安全な手術であり、虫垂の破裂などの合併症がなければ入院も2~3日で済みます。虫垂が破裂した場合は、虫垂を切除してから腹腔内を液体で洗浄し、抗菌薬を数日間投与して、感染症や腸閉塞などの合併症が起こらないか観察します。虫垂が破裂した小児は、一般的に比較的長く入院する必要があります。
外科医が虫垂切除術を行っている最中に虫垂が正常だと分かることが10%程度あります。虫垂炎が疑われる場合に手術が遅れると深刻な結果につながるため、このような例は医療ミスとはみなされません。 虫垂が正常だと分かった場合には、痛みの原因がほかにないか腹部を調べます。 通常は、小児が将来虫垂炎を発症しないよう、正常な虫垂を切除します。