妊娠中の体の変化

執筆者:Jessian L. Muñoz, MD, PhD, MPH, Baylor College of Medicine
Reviewed ByOluwatosin Goje, MD, MSCR, Cleveland Clinic, Lerner College of Medicine of Case Western Reserve University
レビュー/改訂 修正済み 2024年 9月
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やさしくわかる病気事典

妊娠することで、女性の体には様々な変化が生じます。その大半は一時的なもので、出産後数日または数週間で妊娠前の状態に戻ります(運動することによって心拍が速くなるなど、正常な状態)。しかし、妊娠中に健康上の問題や合併症を発症した女性では、妊娠による正常な変化ではない症状がみられることがあります。

妊娠中に以下のような症状が現れたら、すぐに医師に相談すべきです(妊娠中の症状も参照)。

  • 第1トリメスター後に始まる吐き気や嘔吐(または第1トリメスターでも重度の吐き気や嘔吐)

  • 性器出血または少量の性器出血

  • 下腹部の痛みやけいれん

  • 発熱、下痢、またはその他の感染徴候

  • 悪臭やかゆみを伴う黄色または緑色の、または血液が混じった腟分泌物

  • 排尿中の痛み、または頻尿になり尿意が強くなる

  • 腟からの液体の漏出(尿のようではない液体の場合)

  • 足や脚の腫れ(特に片足がもう一方より腫れている場合)、手や顔の腫れ

  • 心拍数の急な上昇または胸痛

  • 息切れ

  • ふらつき

  • 重度の頭痛、持続する頭痛、または普段と違う頭痛

  • 視力障害

  • 尿量の減少

  • けいれん発作

  • 胎動の減少

  • 子宮収縮

過去の妊娠において分娩が急速であった場合、妊婦は分娩が始まる何らかの徴候があればすぐに主治医に連絡すべきです。

全身状態

疲労感は一般的な症状で、特に妊娠14週までに多いですが、妊娠後期に再び生じやすくなります。普段よりも多くの休息が必要になることがあります。

生殖器

妊娠12週頃になると子宮が大きくなり、腹部がわずかにせり出してきます。子宮は妊娠期間を通じてどんどん大きくなります。子宮は、20週までにはへその高さまで、36週までには肋骨の下端の高さまで大きくなります。

多くの場合、透明または白色っぽい正常な膣分泌物の量が増えます。分泌物の色やにおいが異常な場合や、腟にかゆみがある場合は医師の診察を受けます。このような症状があるときは腟の感染が疑われます。腟カンジダ症(真菌感染症の一種)は妊娠中によくみられ、治療できます。

乳房

ホルモン(主にエストロゲン)によって母乳を作る準備が始まるため、たいてい乳房が大きくなります。母乳を作る乳腺の数が徐々に増え、母乳を分泌できるようになります。乳房に圧痛が生じることがあります。サイズの合ったブラジャーを選ぶとしっかり支えられるため、楽になることがあります。

妊娠最後の数週間になると、乳房から乳白色または黄色みを帯びてサラサラした分泌液が出ることがあります(初乳)。初乳は分娩後、通常の母乳が作られるまでの数日間も分泌されます。初乳はミネラルと抗体を豊富に含み、乳児の最初の栄養源となります。血が混じった乳頭分泌物は正常ではなく、医師に報告すべきです。

心臓と血流

妊娠中は胎児の成長につれて子宮に送らなければならない血液の量が増えるため、母体の心臓には通常より負荷がかかります。出産間近になると母体の血液量の5分の1が子宮へ送られるようになります。

妊娠中は心臓から送り出される血液量(心拍出量)が平常に比べて30~50%増加します。心拍出量が増加するにつれて、安静時の心拍数は妊娠前の正常心拍数である毎分約70回から毎分約90回にまで上昇します。運動中の心拍出量と心拍数も妊娠していない場合より増加します。妊娠30週頃に、心拍出量がやや減少します。そして分娩時にはさらに30%増加します。分娩後の心拍出量は、初めは急速に減少しますが、その後は徐々に減少していきます。出産からおよそ6週間経つと、心拍出量は妊娠前のレベルに戻ります。

妊娠中は心臓への負荷が増加するため、特定の心雑音や不整脈が現れることがあります。妊娠中に生じるこうした変化は正常です。妊婦自身がこうした不整脈を感じることもあり、心臓疾患の検査が必要かどうか医師に相談する必要があります。心音の異常や不整脈がみられる場合は、治療が必要です。

血圧はたいてい第2トリメスターになると低くなりますが、第3トリメスターには妊娠前の正常な水準に戻ります【訳注:第2トリメスターは日本でいう妊娠中期に、第3トリメスターは妊娠後期にほぼ相当】。

妊娠中の血液量はほぼ50%増加します。血液中の赤血球の数(酸素を運ぶ)よりも、水分量の方が増えます。このため、たとえ赤血球数が増えていても血液検査の結果が軽い貧血となることがありますが、これは正常です。はっきりとした理由は分かっていませんが、妊娠すると白血球の数(感染から体を守る)がわずかに増加し、特に分娩時と分娩後の最初の2~3日間には著しく増加します。

大きくなっていく子宮により、骨盤部の静脈に圧力がかかり、脚や骨盤部から心臓に戻る血流が妨げられます。その結果、むくみ(浮腫)が生じることが多くなり、特に足と足首には生じやすくなりますが、足の重度の腫れやふくらはぎや太もも、手や顔の腫れは、すぐに医師に報告してください。

脚や腟口周囲(外陰部)に静脈瘤ができやすくなります。これらは不快感を伴うこともあります。

以下のような対策により、不快感が緩和されるだけでなく、脚のむくみが軽減し出産後に静脈瘤が消失しやすくなります。

  • 弾性ストッキングを着用する

  • 脚を挙上して頻繁に休息を取る

  • 左側を下にして横になる

子宮が大きくなると下肢から戻る血液を運ぶ太い静脈を圧迫するようになりますが、左側を下にして横になるとこの圧迫が軽くなります。その結果、血流が改善します。

知っていますか?

  • 妊娠中は血液量がほぼ50%増加します。

泌尿器

妊娠中は心臓と同様、腎臓にも負荷がかかります。腎臓がろ過する血液量が増えます。腎臓でろ過される血液量は妊娠16~24週で最大となり、出産直前までその量が続きます。出産直前になると大きくなった子宮の圧力で腎臓への血流がやや減少することがあります。

正常な状態では、腎臓の働きは横になった状態で活性化し、立った状態では低下しますが、妊娠中はこの差がさらに大きくなります。これが妊娠すると眠ろうとすると何度もトイレに行きたくなる理由の1つです。妊娠の後期になると、子宮が大きくなると脚から戻る血液が通過する太い静脈が圧迫されるようになりますが、左側を下にして横になると、この圧迫が軽くなります。このため血行が改善されて、腎臓の働きが活発になります。

子宮が大きくなると膀胱が圧迫されて膀胱の容量が小さくなるため、普段より早く尿がたまるようになります。この圧迫も妊娠すると頻尿になり、尿意が強くなる理由の1つです。さらに、尿管(腎臓から膀胱に尿を運ぶ管)に圧力がかかります。この圧力は、妊婦にとって危険な腎臓の感染症(腎杯腎炎)のリスクを高めます。

呼吸器

妊娠中継続的に分泌されるホルモンであるプロゲステロンの血中濃度が高いと、呼吸が速く深くなるように体に信号が送られます。このため、妊婦は二酸化炭素の濃度を低く保つために、より多くの二酸化炭素を吐き出します。(二酸化炭素は呼吸により排出される老廃物です。) 妊娠すると呼吸が速くなるほかの原因として、子宮が大きくなると息を吸い込むときに横隔膜(肋骨の下)が十分に広がることができないということもあります。妊婦の胸囲はわずかに増えます。

妊婦のほぼ全員が、特に出産が近づくと、運動すると多少の息切れをするようになります。運動に伴って呼吸数が増加する割合も、妊娠すると妊娠前より大きくなります。

送り出される血液の量が増えるため、気道の粘膜に流れ込む血液の量が増えてやや腫れたような状態になり、気道が狭くなります。このため鼻が詰まりやすくなったり、耳管(中耳と鼻腔を結ぶ管)の閉塞が起きたりすることがあります。こうした変化によって、声の高さや質がわずかに変わることがあります。

消化管

第1トリメスターでは吐き気や嘔吐が特に午前中によく起こり(つわり)、ときに第2・第3トリメスターまで続きます。これらの症状は、妊娠を維持する2種類のホルモンであるエストロゲンとヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が多量に分泌されていることが原因だと考えられています。

例えば以下のように、食べるものや食事のパターンを変えると吐き気や嘔吐が軽減することがあります。

  • 少しずつ何回にも分けて食べたり飲んだりする

  • 薄味の食品(ブイヨン、コンソメ、米、あっさりしたクラッカーなど)を食べる

  • 炭酸飲料を少しずつ飲む

  • 枕元にクラッカーなどを常備しておき、朝起きる前に1~2枚食べる

必要に応じて、吐き気を抑える薬が投与されます。医師は、妊娠初期でも安全な薬を選択します。ビタミンB6が最初に使用されます。効果がない場合は、別の薬(ドキシラミン、メトクロプラミド、オンダンセトロン、プロメタジン)も投与することがあります。

ときに、吐き気と嘔吐があまりに激しかったり、あまりに長く続いたりするために、脱水や体重減少などの問題が生じます(妊娠悪阻と呼ばれる病気)。この病態になると、吐き気を緩和する薬剤(制吐薬)での治療や、一時的に入院して行う輸液が必要になる場合もあります。

妊娠すると、特につわりがある場合には、唾液の量が多くなることがあります。唾液が増加すると不快に感じることがありますが、害はありません。

胸やけやげっぷ(おくび)もよくみられる症状です。これは、食べものが長時間胃の中にとどまることが原因と考えられています。プロゲステロンの影響と子宮の肥大による圧力により、消化器系の動きが遅くなります。食道下部の輪状の筋肉(括約筋)がゆるみがちになったりして、胃の内容物が食道に逆流することがあります。胸やけを軽減するには、以下のようないくつかの方法があります。

  • 1回の食事の量を減らします。

  • 食後数時間は体を曲げたり水平に横たわらないようにします。

  • カフェインを避けます。

  • 制酸薬を服用します(服用する前に医師に確認する必要があります)

夜間の胸やけは以下の方法により軽減できます。

  • 就寝前の数時間は食事をしないようにします。

  • ベッドの頭側を上げたり枕を使ったりして、頭部と肩が高くなるようにします。

妊娠の経過に伴って大きくなった子宮が直腸や腸の下部を圧迫するため、便秘になることがあります。通常、腸の筋肉の収縮運動の波が起こって食物を先へ送りますが、妊娠中はプロゲステロンが増加するため腸の動きが遅くなり、便秘が悪化することがあります。高繊維食や十分な水分の摂取、定期的な運動は便秘の予防に役立ちます。

も妊娠中によくみられる問題の1つで、大きくなる子宮による圧迫や便秘が原因で起こります。痔核が痛む場合は便軟化剤、マンサク、外用薬(通常は血管を収縮させる薬、炎症を抑える薬、痛みを抑える薬)、温浴などで対処します。

妊娠中は異食症といって、変わった食品や食べられないもの(洗濯のりや粘土など)が無性に食べたくなる人もいます。

胆石は妊娠中に発生しやすいようです。

皮膚

妊娠性肝斑という茶褐色のしみが額や頬にできることがあります。乳頭周辺の皮膚(乳輪)も黒くなります。黒っぽい線(黒線)が腹部中央から下に現れることも普通です。このような皮膚の変化は、胎盤から分泌されるホルモンがメラノサイト(暗褐色のメラニン色素を作る細胞)を刺激するために起こると考えられています。

肝斑かんぱん
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妊娠中にんしんちゅうには、この写真しゃしんしめされているような茶褐色ちゃかっしょくのしみ(妊娠性肝斑にんしんせいかんはん)がひたいほおにできることがあります。

DR P.MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY
黒線
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妊娠中には、腹部中央の下方に黒い線(黒線と呼ばれます)が現れることがあります。

© Springer Science+Business Media

ときに暗い色、ピンク色、または白色/銀色の妊娠線が腹部にできることがあります。この変化は子宮の急激な成長と副腎ホルモンの分泌増加によるものと考えられています。

細い血管が通常は腰より上の皮膚に蜘蛛のような形に浮き出てくることがあります。これはくも状血管腫と呼ばれるものです。

血管壁の薄い毛細血管が拡張して、とりわけ下肢などに浮き出てくることもあります。

くも状血管腫じょうけっかんしゅ
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くも状血管腫じょうけっかんしゅは、あざやかな赤色あかいろちいさな斑点はんてん周囲しゅうい微細びさい血管けっかん毛細血管もうさいけっかん)がかこんだもので、その毛細血管もうさいけっかんがクモのあしのようにえます。健康けんこうひとにみられるくも状血管腫じょうけっかんしゅは、おおくの場合ばあい正常せいじょうです。妊娠中にんしんちゅう女性じょせい経口避妊薬けいこうひにんやく使用しようしている女性じょせい肝硬変かんこうへんのあるひとによくみられます。

Image provided by Thomas Habif, MD.

妊娠期にのみ生じる皮膚疾患がいくつかあり、以下の非常にかゆみの強い発疹が含まれます。

  • 多形妊娠疹は、典型的には妊娠の最後の2~3週間で出現するが、妊娠24週以降であればいつでも生じる可能性があります。ときに分娩後に現れることもあります。間質性膀胱炎の原因は不明ですが、

  • 妊娠性類天疱瘡(ヘルペス)は妊娠12週以降であればいつでも生じる可能性があり、出産直後に生じることもあります。異常な抗体が自分の組織を攻撃する自己免疫反応が原因と考えられています。

ホルモン

妊娠の初期にはエストロゲンプロゲステロンが増加しますが、これは胎盤から分泌される主要なホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピンによって卵巣が刺激され、これらのホルモンの持続的な分泌を促すからです。妊娠9~10週以降は、胎盤自体からも多量のエストロゲンプロゲステロンが分泌されるようになります。エストロゲンプロゲステロンは妊娠の維持を助けます。

妊娠すると事実上体内のすべてのホルモンに影響が生じますが、これは主に胎盤から分泌されるホルモンの作用によるものです。例えば、胎盤は母体の甲状腺を刺激するホルモンを分泌し、母体の甲状腺が活性化されて大量の甲状腺ホルモンが分泌されます。甲状腺の働きが活発になると心拍数が上がり、妊婦は動悸を感じるようになります。しかし、妊娠中に甲状腺機能亢進症(甲状腺の過活動)が起こることはまれです。

胎盤が副腎を刺激するため、アルドステロンと(腎臓が排泄する水分量を調節する)コルチゾールの分泌が増えます。その結果、体内に保たれる水分量が増えます。

妊娠中のホルモン量の変化は、体内での糖の代謝にも影響を及ぼします。妊娠後期になると、身体はインスリン(血糖値を調節するホルモン)に対していつものとおりには反応しなくなります。その結果、血糖値が上昇します。妊娠中は、インスリン(血糖値を調節するホルモン)の必要量が上昇します。このため、すでに糖尿病がある場合には、妊娠中に病状が悪化することがあります。また、妊娠中には糖尿病を発症する可能性もあります。これを妊娠糖尿病といいます。

関節および筋肉

骨盤内の関節と靱帯(骨と骨をつないでいる線維組織と軟骨)がゆるんで柔軟になります。こうした変化は子宮の成長や胎児の分娩に備えるものです。

大きくなった子宮の重みを反り返って支えるために背骨のカーブがきつくなり、程度は様々ですが背部痛が生じます。重い物を持ち上げない、ものを拾うときには(腰をかがめずに)膝を曲げる、よい姿勢を保つといったことを心がけるとよいでしょう。しっかりと足を支えられるように底が平らな靴を履いたり、軽い妊婦用腹帯を着用したりすることで、腰の負担が軽くなります。

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