エキノコックス症は、単包条虫および多包条虫という種類のイヌ条虫によって引き起こされる感染症です。これらの条虫は、人間に感染して肝臓などの臓器に液体で満たされた嚢胞(のうほう)や腫瘤を形成することがあります。
人への感染は、イヌの体内から糞とともに排出されたエキノコックスの虫卵で土や水、食べものが汚染され、人がそれを意図せず摂取することによって起きるのが通常です。
肝臓や肺などの臓器で嚢胞が形成され、これが痛みなどの様々な症状を引き起こします。
医師は、画像検査(超音波検査やCT検査など)により嚢胞の有無を確認し、血液検査により条虫に対する抗体がないか調べ、嚢胞液の分析により診断を確定します。
治療では通常、嚢胞の切除や嚢胞液の除去、寄生虫を殺傷するための嚢胞への食塩水の注入とその後の食塩水の除去などが行われ、アルベンダゾールという薬が投与されます。
単包条虫や多包条虫と呼ばれる条虫の成虫は、イヌや他のイヌ科動物(キツネやコヨーテ)の腸に寄生します。これらの条虫はときに人間に感染し、肝臓などの臓器に嚢胞を作ることがあります。
単包条虫は、地中海、中東、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、南米のヒツジを飼育している地域によくみられます。また、北米の一部の地域でもまれにみられます。
多包条虫は、主に中欧、アラスカ、カナダ、シベリアにみられます。また、ワイオミング州、ダコタ州、北中西部でもまれに発生します。
イヌ条虫のライフサイクル
イヌ、特に牧羊犬が、感染した動物(ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタなど)の組織に含まれている条虫のシストを体内に取り込むと感染します。このシスト(包虫嚢胞)はイヌの腸内で成虫になります。感染したイヌは条虫の虫卵を糞とともに排泄します。ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタが、イヌの糞で汚染された土中に存在している虫卵を体内に取り込みます。これらの動物の体内で虫卵から条虫がふ化し、内臓でシストになります。
人(多くは羊の飼育者)は、イヌの体内から糞とともに排出されたエキノコックスの虫卵で汚染された土、水、食べものを意図せずに摂取することで感染します。
エキノコックス(Echinococcus)の虫卵は土の中で最長1年生存できます。虫卵は感染した動物から作られた毛皮に存在していることもあります。人間が感染した動物に触った後、手に付着した虫卵が口に運ばれたり食べものに付いたりして、感染を引き起こします。
この虫卵は腸内でふ化し、条虫の幼虫を中に含んだ球体(六鉤幼虫と呼ばれます)を放出します。この球体は腸壁を貫通し、血流に乗って肝臓や肺などの様々な臓器に移動します。その臓器で球体がシストになり、徐々に大きくなって、人間に症状を引き起こします。こうして起こる感染症をエキノコックス症といいます。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention Image Library.
エキノコックス症の症状
エキノコックス症の診断
エキノコックス症の予防
エキノコックス症は以下の対策で予防できます。
入念な手洗い
エキノコックス症の発生地域では、イヌの糞で汚染されている可能性のある食べものや水を飲食しない
エキノコックス症の治療
手術による嚢胞の切除または排液
寄生虫を殺傷するための食塩水の注入
アルベンダゾール
手術で単包条虫の嚢胞を切除するか、針を用いて嚢胞を吸引する処置がしばしば行われます。嚢胞から排液する場合は、超音波検査によって位置を確認しながら針を刺します。そして嚢胞から液体を除去し、その嚢胞に食塩水を注入して寄生虫を殺傷し、食塩水を除去します。多包条虫による腫瘤は外科的に切除されます。
アルベンダゾールは、様々な寄生虫による感染症の治療に使用される経口の処方薬です。嚢胞の内容液がこぼれて感染が広がるのを防ぐため、手術や針で嚢胞を排液する施術の前と最中にアルベンダゾールが投与されます。アルベンダゾールは通常、術後1~6カ月間投与されます。これにより、嚢胞が再発したり広がったりする可能性を低下させます。アルベンダゾールのみでもある程度のシストを殺傷できます。アルベンダゾールの投与には、手術で切除したり吸引したりできないシストの増殖を抑えるという目的もあります。
ときに、感染が重度の場合は、肝移植が行われます。