シャーガス病は、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)という原虫によって引き起こされる感染症で、
シャーガス病は、サシガメという昆虫(アサシンバグとも呼ばれます)に刺されることで感染します。
侵入部位(刺し傷または眼)の周りが腫れたり、発熱がみられたりすることがあります。
その後、一部の人では、無症状の期間が長く続いた後に、重篤な合併症、特に心臓や消化器の障害が発生することがあります。
血液サンプルや感染した臓器から採取した体液のサンプルに含まれる原虫を特定したり、血液検査を行ったりすることで、診断を確定します。
薬剤を使用して原虫を殺しますが、心臓や消化管の障害は元に戻りません。
原虫は寄生虫の一種です。多様な単細胞の微生物群を構成しています。一部の原虫は、生存するために人または動物の宿主を必要とします。原虫にはいろいろな種類があります。
クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)は腸管外寄生原虫です。腸管外寄生原虫とは、脳、皮膚、心臓などの腸以外の部位にのみ感染症を引き起こすものを意味します。
シャーガス病は、北米、中米、南米の人に発生し、主に貧困が蔓延している農村地域でみられます。こうした地域の環境は、サシガメ(アサシンバグとも呼ばれます)の生息に適しています。サシガメは媒介生物です。媒介生物とは、人に病気を引き起こす寄生虫を運んで感染するものを意味します。シャーガス病では、サシガメがクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)を媒介します。サシガメは、土壁の亀裂部や隙間、草ぶきの屋根の家や農場の建物、岩石や材木の集積地、鶏舎、犬小屋などに好んで生息します。
この写真は、サシガメ(アサシンバグ)を示しています。サシガメからシャーガス病を引き起こす寄生虫への感染が拡大します。
CDC/PDx
世界全体では、約600~800万人がクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)に感染しています。その大半はラテンアメリカで感染しています。2010年には、ラテンアメリカの妊娠可能年齢の女性1.13人がクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)に感染したと推定されます。そして、その子どもの1~5%がシャーガス病をもって生まれると推定されます。毎年、ラテンアメリカで生まれた約15,000人の赤ちゃんがシャーガス病をもって生まれています。幸いにも、ラテンアメリカでの感染の拡大を抑える対策により、シャーガス病の感染者数は減少しています。
シャーガス病は米国ではまれですが、いくつかの州で感染症が発生しています。
(寄生虫感染症の概要も参照のこと。)
シャーガス病の感染経路
シャーガス病は、感染した人または動物(犬、猫、オポッサム、ネズミそのほかの多くの動物)をサシガメが刺した後に、別の人を刺すことで最も一般的に広がります。感染したサシガメが人を刺すときに、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)原虫を含んだ糞を落とします。原虫はその後、刺し傷から人の体内に入ります。
この原虫は結膜(眼球を覆っている透明な膜)または口などの他の粘膜から体内に侵入することもあります。原虫は体内に入ったところで細胞の中に侵入し、最終的に血流に到達します。クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)は免疫系、心臓、筋肉、神経系の細胞など、全身にわたり多くの種類の細胞に感染します。
感染者からの輸血や臓器移植で感染することもあります。食べものを食べたり、感染したサシガメやその糞に汚染された液体(サトウキビ抽出液など)を飲んだりした人が感染することもあります。
さらに、原虫が妊婦の胎盤を通過し、胎児に感染して流産や死産を引き起こす場合や、ときに死に至る重篤な障害を新生児に及ぼす場合があります。
1. 感染した昆虫(サシガメ)が人間を刺し、原虫を含んだ糞を落とします。
2. 原虫はサシガメによる刺し傷や、眼を覆う透明な膜(結膜)などの粘膜から侵入します。
3. その後、原虫は形態を変えて増殖します。
4. 原虫は再び形態を変えて血流に入り、他の組織に移動します。移動した先でさらに形態を変え、症状を引き起こします。
5. 別のサシガメが感染した人間(または動物)を刺し、感染します。
6~7. サシガメの体内では、原虫は形態を変え増殖します。
8. サシガメの腸(後腸)の下部において、原虫は人や動物に感染できる形態に変化します。その後、サシガメの糞とともに排泄されます。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
シャーガス病の症状
シャーガス病には3つの段階があります。症状は第1段階と第3段階で現れます。
第1段階(急性期)
通常、シャーガス病の症状は、原虫が体内に入った1~2週間後に現れます。刺された傷の周辺が赤く隆起することがあります。原虫が眼の周囲の組織から侵入した場合は、眼の周辺が腫れることがあります(ロマーニャ徴候と呼ばれます)。熱が出ることもあります。症状がでていない人の血液中に原虫が見つかることもあります。
この画像は、シャーガス病の小児におけるロマーニャ徴候を示しています。
CDC image courtesy of the WHO/TDR Image Library.
シャーガス病の第1段階に起こる症状は、ほとんどの場合、治療をしなくても治まります。しかし、少数の人(通常は小児)は、シャーガス病のこの段階で死亡します。その死因は、心不全を引き起こす重い心臓の感染症のこともあれば、脳と髄膜(脳・脊髄を覆う組織)の感染症(髄膜脳炎)のこともあります。
進行HIV感染症(エイズとも呼ばれます)などによって免疫機能が低下している場合、第1段階は重症化することがあり、発疹やまれに脳病変がみられることがあります。
出生前に感染した乳児は、大半が無症状ですが、早産になる場合や、低出生体重、発熱、肝臓や脾臓の腫大、貧血(赤血球数の減少)、血小板減少症(血小板の減少)がみられる場合もあります。感染した乳児の大半では、最終的には治療なしで症状が消失しますが、まれにこの段階で死亡する乳児もいます。
第2段階(慢性潜伏期)
第2段階では、シャーガス病の症状はみられず、心電図検査と心臓や消化器系の画像検査では正常と判定されます。しかし、体内やときに血液中に原虫が存在しています。
多くの人は、何の症状もないまま、生涯この段階にとどまります。
第3段階(慢性期)
数年が経過すると、感染者の20~30%が慢性シャーガス病を発症します。
主な患部は心臓と消化器系です。
心臓が拡大して機能が低下することがあり、患者は疲れやすく、息切れするようになります。心臓の電気刺激伝導系にも影響が及び、失神、不整脈、突然の心停止が起こることがあります。
消化管の筋肉(食道の筋肉など)が機能不全に陥り、ものを飲み込むのが困難になることがあります。ものを飲み込む動作に影響が及ぶと、食べものや飲みもの、唾液などを肺に吸い込んでしまうこと(誤嚥)で肺感染症が起きたり、重度の低栄養に陥ったりします。大腸(結腸)が肥大し、重度の便秘になることがあります。
シャーガス病の診断
第1段階では、顕微鏡を用いた血液または組織サンプルの観察または血液検査
第2段階では、血液検査
第3段階では、血液検査、心電図検査、心臓または消化器系の画像検査
第1段階では通常、顕微鏡で血液サンプル中の原虫を確認することでシャーガス病を診断します。血液サンプルに原虫の遺伝物質(DNA)がないかどうかを確認する検査も行われます。医師は、リンパ節や心臓の組織を診察することもあります。
第2期段階と第3段階では、顕微鏡で血液サンプルを調べても、原虫を確認することはほどんどありません。そのため、医師はこの原虫に対する抗体を調べる血液検査を2種類以上行います。(抗体とは、寄生虫のような特定の異物による攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質のことです。) シャーガス病の抗体検査は、感染していない人でも陽性になることがあります(偽陽性)。そのため、最初の検査で陽性になった場合は、別の抗体検査を行って診断を確定します。
この感染症と診断された場合は、他の検査も行って心臓や消化管の障害が起きていないか確認します。例えば、心電図検査と心エコー検査、さらに場合により胸部X線検査も行って、心臓に異常がないか確認します。
嚥下困難や便秘がみられる場合は、消化管のCT検査またはX線検査を行うことがあります。
シャーガス病がよくみられる地域では、医師は診断に外因診断法と呼ばれる方法を使用します。この方法では、実験室で飼育された感染していないサシガメが、シャーガス病の評価対象者を刺して血中に入ります。サシガメが刺した後、研究者らはその胃内容物を調べてシャーガス病を引き起こす寄生虫がいるかを確認します。サシガメに寄生虫がいれば、シャーガス病があります。
シャーガス病の治療
抗寄生虫薬
心臓または消化管の慢性感染症によって問題が起きている場合は、その治療
シャーガス病に効果的な抗寄生虫薬は、ベンズニダゾールとニフルチモックス(nifurtimox)の2つだけです。これらの薬剤のどれを使用しても、すでに発生した心疾患や消化管疾患を治すことはできません。
この病気の第1段階では、すべての患者を対象として、ベンズニダゾールまたはニフルチモックス(nifurtimox)による治療を行います。これらの薬剤には以下の作用があります。
血液中の原虫の数を速やかに減らす
症状の持続期間を短くする
慢性感染症を起こりにくくさせる
死亡のリスクを低減できる可能性がある
第2段階では、重度の心疾患や消化管疾患の所見が認められない小児と50歳までの成人を対象として、ベンズニダゾールまたはニフルチモックス(nifurtimox)による治療を行います。感染者が若いほど、また治療の開始が早いほど、治療により原虫を駆除できる可能性が高くなります。小児は通常、成人よりも治療によく耐えられます。50歳以上の成人については、医師が治療の効果をリスクと比較します。
ベンズニダゾールとニフルチモックス(nifurtimox)には、いずれも重篤な副作用を起こす可能性があり、これらの副作用は消化管、皮膚、神経系に最もよくみられます。具体的には、食欲不振、体重減少、吐き気、嘔吐、発疹、神経損傷、不眠症、めまいなどが起こります。
どちらの薬剤も、重度の肝疾患または腎疾患のある人には投与されません。
妊娠がシャーガス病と診断された場合は、通常は治療を分娩後まで延期し、出生児が感染していれば治療を行います。妊娠中や授乳(チェストフィーディング)中の人には、ベンズニダゾールやニフルチモックス(nifurtimox)は投与されません。
第3段階では、慢性感染症により心臓または消化管に重度の障害が起きてしまうと、抗寄生虫薬は助けになりません。それらの障害には必要に応じて以下の治療を行います。
心不全:心臓の負荷を減らす薬剤の使用または心臓移植
不整脈:心臓の拍動を整える薬剤(抗不整脈薬)またはペースメーカーの使用
食道の障害:ボツリヌス毒素の投与(下部食道の筋肉を弛緩させるため)または下部食道を広げる(拡張する)手術
結腸の肥大:手術
シャーガス病の予防
壁をしっくい塗りにする、草ぶきの屋根を別のものに変える、効果が長く持続する殺虫剤を繰り返し家に吹きつけるといった対策により、サシガメを減らし、シャーガス病の拡大を抑えることができます。
まれに、この感染症が発生している地域への旅行者が感染することがあります。日干しレンガ造りの家では寝ないようにするか、そうした家で寝る場合は蚊帳を使用することが旅行者の感染予防につながります。
感染症が発生している地域の住民やその地域への旅行者は、露店などの不衛生な供給源から、加熱調理されていない果物やサトウキビ抽出液を摂取しないようにします。
米国をはじめ多くの国では、感染した血液の輸血または臓器移植による感染拡大を予防するために、血液や臓器の提供者に対するスクリーニング検査が行われています。
リスクのある妊娠可能年齢の女性に対して妊娠前にスクリーニングを行い、感染していれば治療をすることで、先天性感染の可能性を低下させます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こうした情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いかねることをご了承ください。
Centers for Disease Control and Prevention (CDC): About Chagas disease(米国疾病予防管理センター:シャーガス病)



