はしか（麻疹）・おたふくかぜ（流行性耳下腺炎、ムンプス）・風疹（MMR）ワクチンは、この3種のウイルス感染症の予防に役立つ混合ワクチンです。
はしかは発疹、発熱、せきを引き起こします。主に小児に発生し、非常に重篤になることがあります。脳損傷、肺炎を引き起こし、時には死亡に至ることもあります。
おたふくかぜ（ムンプス、流行性耳下腺炎）では唾液腺が腫れて痛みが生じます。特に成人では、精巣、脳、膵臓（すいぞう）が侵されることがあります。成人のほうが重症化します。
風疹（三日ばしか）は、鼻水、リンパ節の腫れ、顔から広がる発疹を引き起こします。成人では関節痛が生じることがあります。妊婦が風疹にかかった場合、流産したり、胎児が死亡したり、赤ちゃんに重度の先天異常が生じることがあります。
（免疫化の基礎知識も参照）
ワクチンの種類
MMRワクチンは弱毒化生ワクチンであり、病原性を弱めた（弱毒化）生きたはしか、おたふくかぜ、風疹ウイルスそのものを含みます。ウイルスの病原性が弱められているため、はしか、おたふくかぜ、風疹などの感染症を引き起こすことはありませんが、免疫系に強い反応を誘発します（能動免疫化を参照）。これら3種類の病気のうちのいずれかに対して予防が必要な人は、残りの2種類の病気に対しても予防が必要であるため、この混合ワクチンが推奨されています。この3種類のワクチンを個別に接種することはできません。
MMRワクチンと水痘（水ぼうそう）ワクチンの混合ワクチン（MMRVワクチン）も接種することができます。
MMRワクチンの用量および推奨事項
MMRワクチンは皮下に注射します。接種回数は、年齢やその他の要因によって異なります。
このワクチンを接種すべき人
MMRワクチンは小児期の定期予防接種に組み込まれています。接種は生後12～15ヵ月と4～6歳の2回行います。（CDC：出生から6歳までに推奨される予防接種、米国、2025年版[Recommended Immunizations for Birth Through 6 Years, United States, 2025]を参照。）
1957年以降に生まれたすべての成人は、MMRワクチンの接種記録が1回でもあることを示す証拠が認められた場合や、ワクチンの接種を受けられない場合（例えば、ワクチンの成分にアレルギーがある場合）、臨床検査で3種類の感染症のすべてに対する免疫があることが明らかになった場合を除き、ワクチンの接種を1回受けるべきです。
1957年より前に生まれた人は、医療従事者を除き、一般にはしか、おたふくかぜ、風疹に対する免疫を持っていることの十分な証拠とみなされます。1957年より前に生まれた医療従事者は、予防接種を受けるか、または免疫の証拠を確認するための臨床検査を受けるべきです。
これらの感染症に曝露される可能性が高い成人は、2回目のワクチンを接種するべきです。これには次のような人が含まれます。
1957年以降に生まれ、医療に従事しており、はしか、おたふくかぜ、風疹に対する免疫を持っていない
高校卒業後に大学またはその他の教育機関に入学する
海外旅行、または1種類以上の感染症の大流行が発生している地域で感染源に曝露される可能性がある
HIV感染症にかかっており（免疫機能が著しく低下している場合を除く）、はしか、おたふくかぜ、風疹に対する免疫を持っていない
2回目の接種を受けるべきその他の成人には、以下のような人が含まれます。
免疫機能が低下している人と同じ家で生活している
1963～1967年（はしかが個別のワクチンであった時代）に不活化（死菌）はしかワクチンまたは型不明のはしかワクチンを接種した
1979年（おたふくかぜが個別のワクチンであった時代）より前に死菌おたふくかぜワクチンまたは型不明のおたふくかぜワクチンの接種を受けており、おたふくかぜへの曝露リスクが高い
（CDC：19歳以上の成人に推奨される予防接種、米国、2025年版[Recommended Immunizations for Adults Aged 19 Years and Older, United States, 2025]を参照。）
妊娠中に風疹にかかった場合、流産したり、赤ちゃんに重度の先天異常が生じたりすることがあります。したがって、出生年に関わらず妊娠する可能性のある人はもれなく風疹に対する免疫があるかどうかを検査する必要があります。風疹に対する免疫の存在が記録されておらず、妊娠していない人はワクチンを接種し、妊婦は妊娠の終了後に速やかにワクチンを接種するべきです。
生後6～12ヵ月の乳児を含め、はしかに対する免疫の存在が証明されておらず、MMRまたはMMRVワクチンを安全に接種できる海外旅行者は、理想的には出発の2週間以上前にいずれかのワクチンの接種を受けるべきです。
このワクチンを接種すべきでない人
MMRワクチンのいずれかの成分に対して、または前回このワクチンを接種したときに、生命を脅かす重篤なアレルギー反応（アナフィラキシー反応など）を起こしたことがある人は、このワクチンを接種するべきではありません。
白血病、リンパ腫、進行したHIV感染症、化学療法、免疫抑制剤の長期使用によって免疫系の機能が著しく低下している人は、MMRワクチンの接種を受けるべきではありません。
妊婦や、ゼラチンまたは特定の抗菌薬（特にネオマイシン）に対して強いアレルギー反応を起こしたことがある人は、このワクチンを接種するべきではありません。妊婦は妊娠の終了後にワクチンを接種します。ワクチン接種を受けた人は、妊娠初期にワクチンに含まれるウイルスが胎児に感染する可能性があるため、接種後28日間以上は妊娠を避けるべきです。
他の特定の病気がワクチン接種を受けるべきかどうかや接種時期に影響を及ぼすことがあります（CDC：これらのワクチンを接種すべきでない人[Who Should NOT Get Vaccinated With These Vaccines?]）
一時的な病気がある場合、通常ワクチンは病気が消散してから投与します。
MMRワクチンの副作用
発熱、全身のだるさ（けん怠感）、発疹などの軽い副作用が現れることがあります。女性では関節に一時的なこわばりや痛みが現れることがあります。
まれですが、重篤な副作用として脳の炎症、発熱によるけいれん発作（熱性けいれん）や血液凝固障害（血栓性血小板減少性紫斑病）が起こるリスクがわずかにあります。
MMRワクチンは自閉症スペクトラム障害の原因になりません（はしか・おたふくかぜ・風疹ワクチン[Measles-Mumps-Rubella (MMR) Vaccine]およびCDC：自閉症とワクチン[Autism and Vaccines]も参照）。
副作用の詳細については、添付文書を参照してください。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いかねることをご了承ください。
米国疾病予防管理センター(CDC)：MMR（はしか・おたふくかぜ・風疹）ワクチン情報提供文書(MMR Vaccine Information Statement)
欧州疾病予防管理センター(ECDC)：はしか(Measles) 推奨される予防接種(Recommended vaccinations)
ECDC：はしか(Mumps)：推奨される予防接種(Recommended vaccinations)
ECDC：風疹：推奨される予防接種(Recommended vaccinations)
