脂肪酸酸化異常症

執筆者:Matt Demczko, MD, Mitochondrial Medicine, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2021年 12月
プロフェッショナル版を見る

脂肪酸酸化異常症は、脂肪の分解に必要な酵素の欠損や欠乏によって引き起こされる脂質の代謝障害で、精神的な発達と身体的な発達の遅延をもたらします。脂肪酸酸化異常症は、これらの病気を引き起こす欠陥のある遺伝子が親から子どもに受け継がれることで発生します。

遺伝性疾患には様々な種類があります。脂肪酸酸化異常症では、患児の両親がともに異常な遺伝子のコピーをもっています。通常、病気の発生には異常な遺伝子のコピーが2つ必要であるため、普通はいずれの親にも疾患は現れていません。(遺伝性代謝疾患の概要も参照のこと。)

脂肪(脂質)は体にとって重要なエネルギー源です。体は蓄えた脂肪を分解したり再合成したりすることで、エネルギーの需要と食べた分とのバランスを常に保っています。脂肪はいくつかの酵素の働きによって分解され、エネルギーに変換されます。

脂肪酸酸化異常症の小児では、脂肪を分解(代謝)するために必要な酵素が欠損または欠乏しています。これらの酵素がないと、体はエネルギー不足になり、アシルCoAのような分解産物が蓄積します。欠乏することが最も多い酵素は、中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)です。その他の酵素欠損症には、短鎖アシルCoA脱水素酵素(SCAD)欠損症、長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)欠損症極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症グルタル酸血症II型、ミトコンドリア三頭酵素(TFP)欠損症などがあります。これらのほとんどは乳児期に始まります。

脂肪酸酸化異常症の治療は、血液や組織に蓄積する脂肪性物質の種類によって異なります。

中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症

MCAD欠損症は最も一般的な遺伝性の代謝性疾患の1つで、特に北欧系の人でよくみられます。

MCAD欠損症の症状は通常、生後2~3カ月で現れます。症状が最も現れやすいのは、一定期間何も食べなかったとき(他のエネルギー源を枯渇させる)、または運動や病気のためにカロリーの需要が増加したときです。血中の糖(グルコース)の濃度が大幅に低下し(低血糖)、錯乱または昏睡に陥ります。小児は脱力し、嘔吐またはけいれん発作を起こすことがあります。精神発達や身体発育の遅れ、肝臓の腫れ、心筋の衰弱、不整脈などが徐々に現れます。突然死亡することもあります。

今日では米国のすべての州が、血液検査によるMCAD欠損症のスクリーニングをすべての新生児に義務づけています。尿や他の組織の検査が行われることもあります。DNA検査により診断を確定できます。

MCAD欠損症の発作時の緊急治療はブドウ糖の静脈内投与です。長期的な治療としては、小児の食事の回数を増やして食事を抜かないようにするほか、高炭水化物・低脂肪の食事をとらせるようにします。アミノ酸であるカルニチンを含むサプリメントが役に立つことがあります。血糖値が低くなりすぎるのを防ぐために、夜間にコーンスターチを与えなければならないことがあります。長期的な経過は一般に良好です。

長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)欠損症

この病気は、2番目に多い脂肪酸酸化異常症で、MCAD欠損症と同様の症状を引き起こします。また、心臓の壁を構成する筋肉の構造と機能が障害される進行性の病気(心筋症)、手足の神経の損傷、肝機能の異常がみられることもあります。運動などの激しい活動をすると、筋肉組織が破壊され(横紋筋融解症)、損傷した筋肉がミオグロビンというタンパク質を放出し、尿が茶色になったり尿に血が混じったりします(ミオグロビン尿)。

LCHAD欠損症の胎児を妊娠している女性では、妊娠中に溶血(赤血球の分解)、肝酵素の濃度の上昇(肝傷害を示します)、血小板数の低下がみられることがよくあります(この3つの徴候を合わせてHELLP症候群と呼びます)。

医師は、血液検査で特定の酸の蓄積を調べることにより、LCHAD欠損症を診断します。特定の酵素の濃度を調べるために、皮膚細胞に対して検査が行われます。遺伝性の遺伝子疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行う検査である、遺伝子検査も利用できます。今日では米国のすべての州が、血液検査によるLCHAD欠損症のスクリーニングをすべての新生児に義務づけています。

LCHAD欠損症の発作時の緊急治療は、静脈からの水分とブドウ糖の補給、床上安静、カルニチンというアミノ酸のサプリメントによって行われます。長期的な治療としては、小児の食事の回数を増やし、激しい運動を回避させ、高炭水化物の食事をとらせるようにします。トリグリセリドのサプリメントも処方されます。

極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症

この病気はLCHAD欠損症に似ているほか、一般に重度の心筋症がみられます。

グルタル酸血症II型

この病気の小児には、空腹時の血糖値の低下(空腹時低血糖)、重度の血液中への酸の蓄積(代謝性アシドーシス)、血中アンモニア濃度の上昇(高アンモニア血症)がみられます。

医師は、血液を分析して特定の分子の蓄積を調べることで、グルタル酸血症II型を診断します。特定の酵素の濃度を調べるために、皮膚細胞に対して検査が行われます。遺伝子検査も利用できます。

グルタル酸血症II型の治療は、MCAD欠損症の治療と似ていますが、それに加えて、医師はリボフラビン(ビタミンB2)のサプリメントを処方することがあります。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 全米希少疾患患者協議会(National Organization for Rare Disorders[NORD]):希少疾患の一覧や支援団体、臨床試験に関する資料などの希少疾患に関する情報が親および家族向けに提供されています。

  2. 遺伝性疾患・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center[GARD]):希少疾患および遺伝性疾患に関する情報が分かりやすく提供されています。

quizzes_lightbulb_red
医学知識をチェックTake a Quiz!
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS