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神経管閉鎖不全と二分脊椎

執筆者:

Stephen J. Falchek

, MD, Nemours/Alfred I. duPont Hospital for Children

レビュー/改訂 2019年 4月
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やさしくわかる病気事典
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神経管閉鎖不全は脳、脊椎、脊髄に生じる先天異常の一種です。

  • 神経管閉鎖不全により、神経損傷、学習障害、麻痺、死亡が起こることがあります。

  • 血液検査、羊水検査、または超音波検査の結果に基づいて出生前から診断できます。

  • 出生後、医師は身体診察を行い、追加の画像検査を行う場合もあります。

  • 母親が妊娠前と第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)に葉酸を摂取することが、これらの異常の予防に役立つ可能性があります。

  • 神経管の欠損部を閉鎖するための手術が必要です。

胎児が成長する過程で、 脳の機能は神秘的であり、驚異的です。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も行っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的な形を認識したり判別したりする、将来の計画を立てる、さらには想像して空想を楽しむことなどを可能... さらに読む 脳 脊髄 脊髄 脊髄は傷つきやすい長い管状の構造物で、脳幹の下端から脊椎の一番下近くまで続いています。脊髄にある神経は、 脳と他の部位との間でやり取りされるメッセージを伝達します。脊髄はまた、膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)などの反射の中枢でもあります( 反射弓:脳を介さない経路)。 脊椎は身体の軸の骨格を形成する骨の柱であり、この骨組みが、体幹を強く柔軟に支え、中に収まっている傷つきやすい脊髄を保護しています。脊椎は互いに垂直に積み重なった33個の... さらに読む はまず1つの溝として発生し、その両側の隆起した部分が合わさって、神経管という管を形成します。正常な場合、この管に由来する組織の層が脳と脊髄、ならびにこれらを覆う組織(脊椎の一部と 髄膜 髄膜 脳の機能は神秘的であり、驚異的です。思考、信念、記憶、行動、気分は、すべて脳から起こります。脳は思考と知能の場所であり、体全体をコントロールしている司令塔です。脳はまた、運動、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚の統合も行っています。人は脳の働きによって、言葉を話して他者とコミュニケーションをとる、数字を理解して計算する、作曲や音楽鑑賞をする、幾何学的な形を認識したり判別したりする、将来の計画を立てる、さらには想像して空想を楽しむことなどを可能... さらに読む 髄膜 を含みます)に変化します。ときに、この神経管が正常に発達せず、脳、脊髄、髄膜が影響を受けることがあります。

無脳症は、神経管閉鎖不全の最も重度の形態です。無脳症では、脳組織が発達できません。この異常は常に死に至ります。

二分脊椎

二分脊椎は、神経管が完全に閉じることができず、開かれたままになることで発生します。二分脊椎では、脊椎の骨(椎骨)が脊髄の周囲を一周するように成長しません。最も起きやすいのは腰椎(腰の部分の脊椎)です。1つまたは複数の椎骨に異常がみられます。

潜在性二分脊椎は、二分脊椎のうち最も軽度のものです。骨だけに欠損があり、脊髄と髄膜は正常です。この一般的な異常が「潜在性」と呼ばれているのは、欠損部が典型的には正常に見える(ときに体毛の小さな束や皮膚の変色がみられることはあります)皮膚の層によって隠されている(覆われている)ためです。通常は症状を引き起こしませんが、大きな欠損がある小児では、脚の筋力低下や膀胱の機能障害などの症状がみられることがあります。

潜在性脊椎癒合不全は、二分脊椎のうち比較的重度のものですが、この病態では、出生時から背中の下部に目に見える異常が認められます。具体的には、あざ、表面の色素沈着部(血管腫 乳児期の血管腫(イチゴ状血管腫とも呼ばれる) 血管腫は、血管が異常増殖してできる腫瘍で、皮膚の中や体内の他の部分で発生し、赤色または紫色のかたまりに見えます。 ( 皮膚の良性腫瘍の概要と 脈管の増殖と奇形の概要も参照のこと。) 乳児期の血管腫は非常によくみられます。中年以降にも、特に体幹に生じることがあります。 この種の血管腫は乳児期の腫瘍として最も多いものであり、生後1年までの乳児の10~12%にみられます。乳児の血管腫は、生後すぐにできて1年の間に急速に大きくなり、12~18カ... さらに読む 乳児期の血管腫(イチゴ状血管腫とも呼ばれる) と火炎状母斑[ コウノトリの噛み跡 ポートワイン血管腫 ポートワイン血管腫は、生まれつき皮膚にみられる、ピンク色、赤色、紫色などの平らな変色部分で、原因は血管の奇形です。 ( 皮膚の良性腫瘍の概要と 脈管の増殖と奇形の概要も参照のこと。) ポートワイン血管腫は無害な、皮膚の永続的な変色です。とはいえ、美容的な外見は患者にとって気になるものであり、心理的にかなり重荷になることもあります。この血管腫は平坦な斑で、ピンク、赤、紫などの色をしています。大きさは、小さなものから体のかなりの部分を覆うほ... さらに読む ポートワイン血管腫 ])、毛束、皮膚の開口部(皮膚洞)、小さなこぶ(腫瘤)などがあります。下部の脊髄に、脂肪組織の腫瘍(脂肪腫 脂肪腫 脂肪腫は、体脂肪が沈着した軟らかいしこりで、皮膚の下にでき、円形や楕円形のこぶ状になります。 ( 皮膚の良性腫瘍の概要も参照のこと。) 脂肪腫は非常によくみられ、皮膚の下に発生し、滑らかで軟らかいこぶのように感じられます。硬さは様々で、かなり硬く感じられるものもあります。脂肪腫の上の皮膚には異常はみられません。直径約7.5センチメートルよりも大きくなることはまれです。体のどこにでもできますが、特に前腕部、体幹、首によく生じます。女性にで... さらに読む 脂肪腫 )など、神経の損傷につながる異常がみられる場合もあります。

嚢胞性二分脊椎は、二分脊椎のうち最も重篤なもので、椎骨の開口部から髄膜や脊髄の組織が突出することで、以下の異常が引き起こされます。

  • 髄膜瘤:髄膜だけが突出した状態です

  • 髄膜脳瘤:髄膜と脳組織が突出した状態です

  • 脊髄髄膜瘤:髄膜と脊髄組織が突出した状態です

  • 脳瘤:脳組織だけが突出した状態です

  • 脊髄瘤:脊髄組織だけが突出した状態です

二分脊椎:脊椎の異常

二分脊椎では、脊椎の骨(椎骨)が正常に形成されません。二分脊椎の程度には幅があります。

潜在性脊椎癒合不全では、1つまたは複数の椎骨が正常に形成されず、脊髄とそれを包んでいる組織層(髄膜)も影響を受けます。唯一の症状として、欠損部を覆う皮膚の上に体毛の房やくぼみ、色素の沈着がみられることがあります。

髄膜瘤では、形成が不完全な椎骨から髄膜が突出して、皮膚の下に液体で満たされた隆起を形成します。脊髄は正常な位置にあります。

最も重症のものは脊髄髄膜瘤で、脊髄が突出します。患部は生々しく赤く見え、乳児は重い障害を伴う傾向があります。

二分脊椎にぶんせきつい:背骨せぼねの異常いじょう

原因

神経管閉鎖不全には多くの原因があります。ビタミンBの一種である 葉酸 葉酸欠乏症 葉酸欠乏症はよくみられます。体は少量の葉酸しか蓄えていないため、葉酸が少ない食事を続けていると、数カ月以内に葉酸欠乏症になります。 生の葉野菜や柑橘類を十分に摂取しないと、葉酸欠乏症になることがあります。 貧血が生じて、疲労、蒼白、易怒性、息切れ、めまいが現れることがあります。 重度の欠乏症の場合、舌が赤くなって痛み、下痢となり、味覚が低下し、抑うつ、錯乱、認知症が生じることがあります。... さらに読む が妊娠中に欠乏することは、大きな要因です。遺伝的な要因や妊娠中の特定の薬剤(バルプロ酸など)の使用によって、神経管閉鎖不全の可能性が高まる可能性があります。女性が妊娠に気づく前にこれらの異常が発生することもよくあります。

症状

軽微な神経管閉鎖不全では、多くの場合、症状はみられません。

神経管閉鎖不全による症状の多くは、脳や脊髄が損傷を受けたことが原因です。

脳が損傷すると、 水頭症 水頭症 水頭症とは、脳内の正常な空間(脳室)や、脳を覆う組織の内側の層および中間の層の間(くも膜下腔)に液体が過剰にたまった状態です。過剰に貯まった液体によって、通常は頭囲の拡大と発達異常が生じます。 脳内の正常な空間(脳室)にある液体が排出されないと水頭症が起こります。 この液体の蓄積には、先天異常、脳内出血、脳腫瘍などの多くの原因があります。 典型的な症状としては、頭の異常な拡大や発達異常などがあります。... さらに読む 水頭症 (脳内に液体がたまった状態)や 学習障害 学習障害 学習障害がある小児は、注意力、記憶力、論理的思考力が欠けているため、特定の技能や情報を習得したり、記憶したり、幅広く使ったりすることができず、学業成績にも影響が出ます。 学習障害の小児は、色の名前や文字を覚えたり、数を数えたり、読み書きを習得したりすることが遅れる場合があります。 学習障害の小児は、学習の専門家のもとで一連の学力検査や知能検査を受け、医師が確立された基準を適用して診断を下します。... さらに読む 嚥下困難 嚥下困難 飲み込みに障害が生じること(嚥下[えんげ]困難)があります。嚥下困難では、食べものや飲みものがのど(咽頭)から胃へと正常に移動しません。のどと胃をつなぐ管(食道)の途中で食べものや飲みものが動かなくなったように感じます。嚥下困難をのどのしこり( 球感覚)と混同してはならず、球感覚ではのどにしこりがある感じがしますが、飲み込みに支障はありません。 嚥下困難によって、口腔分泌物や飲食物を肺に吸い込む誤嚥(ごえん)が生じる可能性があります。誤... さらに読む などの問題が生じることがあります。

脊髄が損傷すると、典型的には腸、膀胱、脚に重度の問題が生じます。具体的には以下のものがあります。

内反足 内反足とその他の足の異常 内反足(内反尖足)は、足と足首の形や位置がねじれる先天異常です。 一般的な内反足は足の後ろ側と足首が下方へ内向きになり、足の前側が内側にねじれます。ときおり、子宮内で不自然な位置に足が押さえつけられていたために異常にみえているだけの場合もあります(胎位性内反足)。それに対し真の内反足は、足に構造的な異常があるもので、真の奇形です。真の内反足では、脚や足の骨あるいはふくらはぎの筋肉がしばしば未発達です。... さらに読む 内反足とその他の足の異常 関節拘縮症 先天性多発性関節拘縮症 先天性多発性関節拘縮症とは、関節の動きの制限がみられる様々な状態のことを指します。 胎児の子宮内での動きを妨げる状態があれば、先天性多発性関節拘縮症が生じる可能性があります。そのような原因としては以下のものがあります。 胎児の動きの制限、例えば、母親の子宮の形に異常がある場合、母親が2人以上の胎児を妊娠している場合、 羊水が不足している場合など 母親の病気、 多発性硬化症など... さらに読む 先天性多発性関節拘縮症 (関節[通常は足関節]が固まって曲げられなくなる)、 股関節脱臼 発育性股関節形成不全 発育性股関節形成不全は、股関節の骨が正しく発育しないことがある先天異常です。 発育性股関節形成不全(以前は先天性股関節脱臼と呼ばれていました)は、正常であれば股関節を形成する新生児の股関節窩(こかんせつか)と大腿骨の一番上(大腿骨頭)が離れる状態をいいます。股関節窩に大腿骨頭を保持するだけの十分な深さがないことが原因であることが多く、以下の場合によくみられます。 骨盤位で(殿部から先に)生まれた新生児... さらに読む 脊柱後弯症 脊柱後弯症 脊柱後弯症とは、脊椎が異常に曲がって猫背を引き起こしている状態です。 ( 小児における骨の病気の概要も参照のこと。) 背中の上部は、正常な場合は前方にいくらか弯曲しています。一部の小児では弯曲の程度が大きい場合があります。過度の弯曲は、以下の場合があります。 柔軟である 固定している(構造上) さらに読む (脊椎の異常な弯曲)など、その他の異常が出生時からみられる場合もあります。

診断

  • 出生前:アルファ-フェトプロテイン値を測定するための血液検査または羊水穿刺、もしくは出生前超音波検査

  • 出生後:身体診察と追加の画像検査

神経管閉鎖不全の多くは、 出生前スクリーニング検査 妊婦のスクリーニング 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む によって出生前に発見することが可能です。妊婦の血液や羊水でアルファ-フェトプロテイン値が高いことは、胎児に神経管閉鎖不全があることを意味している可能性があります。そのため、第2トリメスター(訳注:日本の妊娠中期にほぼ相当)に 血液検査 第2トリメスター(訳注:日本の妊娠中期にほぼ相当)のスクリーニング 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む または 羊水穿刺 羊水穿刺 出生前診断は、遺伝性または自然発生的な特定の遺伝性疾患などの特定の異常がないかどうか、出生前に胎児を調べる検査です。 妊婦の血液に含まれる特定の物質の測定に加え、超音波検査を行うことで、胎児の遺伝子異常のリスクを推定できます。 こうした検査は、妊娠中の定期健診の一環として行われることがあります。 検査の結果、リスクが高いことが示唆された場合は、胎児の遺伝物質を分析するために羊水穿刺や絨毛採取などの検査を行うことがあります。... さらに読む (胎児の周囲から液体のサンプルを採取する検査)を行って、この値を測定することがあります。

出生後になると、一部の欠損は身体診察で明らかになります。新生児に潜在性脊椎癒合不全を示唆する異常がみられる場合、脊椎に欠損がないか確認するために、 超音波検査 超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するとともに、コンピュータ上のデジタル画像として記録します。X線は使用しないため、超音波検査で放射線にさらされ... さらに読む 超音波検査 または MRI検査 MRI(磁気共鳴画像)検査 MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるよう... さらに読む MRI(磁気共鳴画像)検査 を行います。 X線検査 単純X線検査 X線は高エネルギーの放射線で、程度の差こそあれ、ほとんどの物質を通過します。医療では、極めて低線量のX線を用いて画像を撮影し、病気の診断に役立てる一方、高線量のX線を用いてがんを治療します(放射線療法)。 X線は単純X線検査のように単独で使用することもありますが、 コンピュータ断層撮影(CT)などの他の手法と組み合わせて使用することもあります。( 画像検査の概要も参照のこと。)... さらに読む も行う場合があります。

予後(経過の見通し)

予防

  • 葉酸

神経管閉鎖不全の子どもの妊娠経験がある女性では、次に生まれる子どもにも同様の障害が発生するリスクが高いため、高用量の葉酸サプリメントを妊娠3カ月前から摂取し始め、妊娠3カ月までそれを継続すべきです。葉酸を摂取することで、神経管閉鎖不全のリスクを75%も減らすことができます。

知っていますか?

  • 妊娠前と妊娠中に葉酸を摂取することにより、神経管閉鎖不全のリスクを減らすことができます。

治療

  • 手術

医療従事者、通常は専門家のチーム(脳神経外科医、泌尿器科医、小児科医、小児のリハビリテーション医学専門医、整形外科医、理学療法士、ナースプラクティショナー、ソーシャルワーカーなど)が、欠損の種類と重症度を評価し、治療やケアをどのように行うことができるかについて家族に説明します。

神経管閉鎖不全は通常は外科的に閉鎖します。特定の欠損、例えば脊髄髄膜瘤などは、通常、出生後すぐに修復されます。

必要に応じて、膀胱、骨、筋肉の問題やその他の問題に対する治療を行います。

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