約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。
心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異常な易刺激性、体重増加不良などがみられます。幼児では、活動中に疲れやすくなったり、胸痛や心拍数の増加がみられたりします。より年長の小児と青年では、活動の持久力の低下、活動時の胸痛、動悸(心臓の拍動が自覚されること)、めまい、失神などがみられます。
医師は診察時に、皮膚の色の変化、胸の左側での異常な拍動、心雑音やその他の異常な音、心拍が速い、呼吸が速い、息苦しそう、脈拍が弱い、肝臓が大きいなどの徴候に気づくことがあります。
心エコー検査(心臓の超音波検査)は、ほぼすべての心臓の異常を特定するのに役立ちます。
治療法としては、開心術(重症の場合)、弁や血管を開いたり広げたりするためのバルーンを先端に取り付けたカテーテルの使用、特定の孔や 余分な血管をふさぐためにカテーテルで留置するデバイスの使用、薬剤などがあります。
心臓の先天異常で最も多いのが、 大動脈二尖弁 大動脈二尖弁 大動脈二尖弁とは、大動脈弁の弁尖が正常なら3枚あるはずのところ、2枚しかない状態のことです。 大動脈弁は、心臓が拍動するたびに開くことで、血液が心臓から全身に送り出されるように調節している弁です。正常な大動脈弁には3枚の弁尖(葉っぱのような膜)があります。 心臓の先天異常で最も多いのが大動脈二尖弁です。大動脈弁が二尖弁になっていると、大動... さらに読む です。大動脈弁は、心臓が拍動するたびに開くことで、血液が心臓から全身に送り出されるように調節している弁です。正常な大動脈弁には3枚の弁尖(葉っぱのような膜)があります。二尖弁の場合、弁尖が3枚ではなく2枚しかありません。大動脈二尖弁は、乳児期や小児期に問題を引き起こすことは通常ないため、成人になるまで診断されないことがあります。心臓の先天異常のうち乳児期や小児期に診断されることが最も多いものは、 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。... さらに読む (心房や心室の間に穴があいていること)です。
正常な胎児循環
胎児の血液の流れ方は、小児や成人での流れ方とは異なります。
小児と成人では、心臓に戻ってきた血液(静脈から戻ってきた酸素の少ない青い血液)はすべて右心房、右心室を通って肺動脈に流れ、そこから肺へと送られます。この血液は、肺で肺胞から酸素を受け取り、二酸化炭素を放出します(酸素と二酸化炭素の交換 酸素と二酸化炭素の交換 呼吸器系の最も基本的な機能は、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出することです。吸い込まれた酸素は肺へ入り、肺胞に達します。肺胞の内面を覆う細胞の層とそれを取り巻く毛細血管は、それぞれ細胞1個分の厚みしかなく、互いに密接しています。空気と血液を隔てるこの距離は、平均すると約1マイクロメートル(1センチメートルの1/10... さらに読む を参照)。この酸素を豊富に含んだ血液は、肺から左心房と左心室に戻り、そこから大動脈と呼ばれる太い動脈を通って全身へ送り出され、より小さな動脈へと進みます。
胎児は子宮の中にいますが、そこには呼吸するための空気がありません。その代わりに、胎児の血液には胎盤の中で酸素に富んだ母親の血液から酸素が送られます。母親の血液が胎児の体内を流れるわけではなく、母親の血液中の酸素が胎盤の中で胎児の血液に移行し、胎児の血液は臍帯を通って胎児の体に戻ります。胎児の肺はしぼんでいて、液体で満たされています。胎児は呼吸をしていないため、肺に送られる血液は少量でよいことから、胎児では血液が心臓と肺を循環する経路が出生後と異なっています。
生まれる前は、心臓の右側部分に入ってくる静脈からの血液(静脈血)の大部分が、まだ機能していない肺を迂回して、2つある近道を通って胎児の体に送り出されます。近道とは次の2つのことです。
卵円孔と呼ばれる、上側の2つの心腔(右心房と左心房)の間に開いた孔
動脈管と呼ばれる、心臓から出ていく2つの大きな動脈(肺動脈と大動脈)をつなぐ血管
これらの近道を介して、静脈血がすでに肺を通った血液と混ざります。胎児の体内では、心臓に届いた静脈血には胎盤から受け取った酸素が含まれています。この酸素を豊富に含む血液は、開いている卵円孔と動脈管の2つの連絡路を通って全身に送られるようになっています。この状況は出生後すぐに変化します。産道を通過する際、新生児の肺からは液体が押し出されます。新生児が最初に呼吸したとき、肺は空気で満たされ、酸素が取り込まれます。臍帯が切断されると、胎盤(つまり母親の循環)から新生児の循環への接続がなくなり、新生児の酸素はすべて肺から来るようになります。そのため、卵円孔と動脈管は不要になり、通常は生後数日から数週間で閉鎖し、新生児の循環は成人の循環と同じになります。ときに、卵円孔が閉鎖しないことがありますが(卵円孔開存)、卵円孔開存は通常、健康上の問題を引き起こしません。
胎児での正常な循環
胎児での心臓の血液の流れ方は、出生後の小児と成人での流れ方と異なります。出生後の小児と成人では、血液は肺で酸素を受け取ります。しかし胎児では、心臓に入ってくる血液は、母親から胎盤を通して供給された酸素をすでに含んでいます。少量の血液のみが肺(空気を含んでいません)に行きます。残りの血液は、以下の2つの構造を介して肺を迂回します。
正常なら、これらの2つの構造は出生後まもなく閉鎖します。 |
心臓の異常の種類
先天的な異常のある心臓では、以下の仕組みによって肺と全身への正常な血液の流れが変化します。
血流の短絡
血液が流れる通路の異常
血流の遮断(心臓弁または血管に異常がある場合など)
血流の短絡
通常、短絡は以下に分類されます。
右左短絡
左右短絡
右左短絡では、心臓の右側部分から流入してくる酸素の少ない血液と、全身の組織に送り出される酸素の豊富な血液が混ざり合ってしまいます。酸素が少ない(青い)血液が全身に流れる量が多くなるほど、体の色、特に唇、舌、皮膚、爪床が青く見えます。心臓の多くの異常では、皮膚の色が青みがかる(チアノーゼと呼びます)ことが特徴です。チアノーゼは、酸素の豊富な血液を必要とする組織にそのような血液が十分届いていないことを示します。チアノーゼを引き起こす心臓の先天異常としては様々なものがありますが、そのうち最もよくみられるのが ファロー四徴症 ファロー四徴症 ファロー四徴症では、4つの特有な心臓の異常が同時に発生します。 この病気には、酸素の少ない血液が直接全身に送られてしまう4つの異常が含まれています。 軽度から重度のチアノーゼ(皮膚の色が青みがかる)、生命を脅かす発作、心雑音(狭窄もしくは漏れのある心臓弁または異常な心臓の構造を通る血液の乱流によって生じる音)が症状としてみられます。... さらに読む です。
左右短絡では、心臓の左側部分から高い圧力で送り出された酸素の豊富な血液が、肺動脈を通って肺に送り込まれる酸素の少ない血液と混ざり合ってしまいます。左右短絡が起きると、循環の効率が悪化し、肺への血流が増え、その結果肺動脈内の圧力が上がることもあります。やがて、大量の血流と高い圧力によって肺の血管が損傷し、心臓がその左右両側で酷使され、結果として心不全になる可能性があります(図「 心不全:拡張機能障害と収縮機能障害 心不全:拍出と充満の異常 」を参照)。左右短絡を伴う病気の例として、 心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。... さらに読む 、 心房中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。... さらに読む 、 動脈管開存症 動脈管開存症 動脈管開存症では、通常は出生後まもなく閉鎖する肺動脈と大動脈をつなぐ血管(動脈管)が、閉鎖しません。 動脈管開存症は、心臓の先天異常の1つで、胎児の肺動脈と大動脈をつなぐ正常な血管が出生時に閉鎖しない場合に起こります。 多くの場合、症状はなく、診断は聴診器で聴取される心雑音に基づいて疑われます。... さらに読む 、 房室中隔欠損症 房室中隔欠損症 房室(AV)中隔欠損症は、複数の心臓の異常が組み合わさったものです。そのような異常には、上の心腔間を隔てる壁の孔( 心房中隔欠損症)、上の心腔と下の心腔を隔てる弁が2つではなく1つしかない状態のほか、ときに下の心腔を隔てる壁の孔( 心室中隔欠損症)などがあります。 心室に異常がないか、あってもごく小さなものである場合は、症状がないことがあ... さらに読む が挙げられます。
血液が流れる通路の異常
大血管転位症 大血管転位症 大血管転位症は、心臓に対する大動脈と肺動脈の接続が正常と比べて逆転している状態です。 大動脈と肺動脈が入れ替わっているため、酸素の少ない血液が全身を循環し、酸素の豊富な血液は肺と心臓の間を循環し、全身には循環しません。 症状は出生時から明らかで、重度のチアノーゼ(唇と皮膚の色が青みがかる)や呼吸困難などがみられます。... さらに読む では、大動脈と肺動脈の心臓との接続が正常な場合と逆になっています。全身に血液を送り出す大動脈が右心室に接続し、肺に血液を送り出す肺動脈が左心室に接続してしまっています。その結果、酸素の少ない血液が全身を循環し、酸素の豊富な血液は肺と心臓の間を循環し、全身には循環しません。すると全身の組織で十分な酸素が得られなくなり、出生後数分で重度のチアノーゼが発生します。
血流の遮断
心臓弁や心臓から出ていく血管で、血流の遮断が起こることがあります。血流の遮断は以下のようにして起こります。
肺への血流:肺動脈弁が狭くなったり(肺動脈弁狭窄症 小児の肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症とは、右心室から肺に血液が流れるときに開く肺動脈弁が狭くなった状態です。 右心室と肺動脈の間にある心臓弁が狭くなっています。 大半の患児では、心雑音が唯一の症状になりますが、乳児期に狭窄が重度になると、皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)や右心不全の徴候(疲労や肝臓の腫大など)がみられることもあります。... さらに読む )、肺動脈そのものの内腔が狭くなったり(肺動脈狭窄症)しているため
大動脈から全身への血流:大動脈弁が狭くなったり(大動脈弁狭窄症 小児の大動脈弁狭窄症 大動脈弁狭窄症とは、血液が左心室から大動脈に(さらに全身に)送り出されるときに開く弁が狭くなった状態です。 この異常がある小児の心臓は、全身に血液を送り出すために通常より激しく収縮する必要があります。 弁狭窄が軽度であれば、ほとんどの場合症状はみられません。 弁狭窄がより重度であれば、疲労、胸痛、労作時の息切れ、労作時の失神などの症状が徐... さらに読む )、大動脈そのものが閉塞したり(大動脈縮窄症 大動脈縮窄症 大動脈縮窄症は、心臓から全身に酸素を豊富に含んだ血液を送り出す動脈である大動脈の一部が狭くなった状態です。 大動脈が狭くなると、下半身に十分な血流を送るのに狭くなった部分を越えて血液を押し出す必要があるため、心臓にかかる負荷が増大します。 重度の縮窄のある乳児は、生後数日目に突然状態が悪化し、心不全と下半身への血流低下の徴候を示します。縮... さらに読む )しているため
心臓の血流:三尖弁(心臓の右側部分にある弁)または僧帽弁(心臓の左側部分にある弁)が狭くなっているため
血流が遮断されると、心不全に至ることがあります。心不全とは、心拍が停止することではなく、心臓発作とは異なります。心不全とは、心臓が正常に血液を送り出すことができない状態を意味します。その結果、血液が肺にたまることがあります。心不全は、心臓の血液を送り出す力が非常に弱い(例えば、心筋が生まれつき弱い場合など)場合にも起こることがあります。
心臓の異常の原因
心臓の先天異常の発生には、環境的要因と遺伝的な要因の両方が関与しています。
環境的要因には、母親がもっていたり妊娠中に発症したりする特定の病気や、母親が服用した薬などがあります。乳児に心臓の先天異常が発生するリスクを高める可能性のある病気としては、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に生産しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 糖尿病は神経の損傷をもたらし、触覚の問題を引き起こします。... さらに読む 、 風疹 風疹 風疹は、典型的には関節痛や発疹などの軽い症状を引き起こす感染力の強いウイルス感染症ですが、妊娠中の母親が風疹に感染すると、新生児に重い先天異常が起きます。 風疹の原因はウイルスです。 典型的な症状としては、リンパ節の腫れ、口蓋(こうがい)に出るバラ色の斑点、特徴的な発疹などがあります。... さらに読む 、 全身性エリテマトーデス 全身性エリテマトーデス(SLE) 全身性エリテマトーデスは、関節、腎臓、皮膚、粘膜、血管の壁に起こる慢性かつ 炎症性の自己免疫結合組織疾患です。 関節、神経系、血液、皮膚、腎臓、消化管、肺、その他の組織や臓器に問題が発生します。 診断を下すため、血液検査のほか、ときにその他の検査を行います。 全身性エリテマトーデスの全患者でヒドロキシクロロキンが必要であり、損傷を引き起こ... さらに読む などがあります。リチウム、イソトレチノイン、抗てんかん薬などの特定の薬もリスクを高めます。
心臓の先天異常との関連が強い遺伝的な要因としては、特定の染色体異常などがあります(特に ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は、余分な21番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。 ダウン症候群は、21番染色体が余分にあることで発生します。 ダウン症候群の小児では、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、しばしば低身長がみられます。... さらに読む 、 13トリソミー 13トリソミー 13トリソミーは、余分な13番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、重度の知的障害と様々な身体的異常がみられます。 13トリソミーは、13番染色体が余分にあることで発生します。 この症候群の乳児は、典型的には体格が小さく、しばしば脳、眼、顔面、心臓に重大な異常がみられます。... さらに読む 、 18トリソミー 18トリソミー 18トリソミーは、余分な18番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。 18トリソミーは、18番染色体が余分にあることで発生します。 この症候群の乳児は、典型的には体格が小さく、多くの身体的異常と内臓の機能障害がみられます。 診断を確定するための検査は、出生前でも出生後にも行えます。... さらに読む 、 ターナー症候群 ターナー症候群 ターナー症候群は、女児が2本のX染色体の片方が部分的または完全に欠失した状態で生まれてくる 性染色体異常です。 ターナー症候群は、2本のX染色体のうち1本の一部または全体の欠失によって引き起こされます。 この症候群の女児は、典型的には身長が低く、首の後ろに皮膚のたるみがあり、学習障害がみられ、思春期が始まりません。... さらに読む )。他の遺伝性疾患、例えば ディジョージ症候群 ディジョージ症候群 ディジョージ症候群は、出生時に胸腺がまったくないか、あっても未発達となる先天性の免疫不全疾患の一つで、 T細胞(白血球の一種で異物や異常細胞を識別し、破壊するのを助ける)に問題が生じます。その他の先天異常もみられます。 ディジョージ症候群の小児には、心臓の異常、副甲状腺未発達または欠如、胸腺の未発達または欠如、特徴的な顔つきなど、いくつか... さらに読む 、 マルファン症候群 マルファン症候群 マルファン症候群は、眼、骨、心臓、血管、肺、中枢神経系などに異常が生じるまれな遺伝性結合組織疾患です。 この症候群は、フィブリリンというタンパク質をコードしている遺伝子の突然変異によって発生します。 典型的な症状は、軽い場合から重い場合までありますが、腕や指が長いこと、関節が柔軟であること、心臓や肺の障害などがあります。... さらに読む 、 ヌーナン症候群 ヌーナン症候群 ヌーナン症候群は、いくつかの身体的異常を引き起こす遺伝子異常で、通常は 低身長、 心臓の異常、外見の異常などがみられます。 遺伝子とは、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパク質の設計情報が記録された領域で、物質としては DNA(デオキシリボ核酸)で構成されています(遺伝学についての考察は... さらに読む によって、心臓を含む複数の臓器に先天異常が生じることがあります。35歳以上の女性では、胎児に染色体異常がみられるリスクが高まります。染色体異常がなくても、母体の年齢が高いことは心臓の先天異常の独立した危険因子とみられています。父親の年齢が高いことも心臓の先天異常の一因である可能性があります。
家族内に心臓に異常がある小児が1人いる場合、その後の妊娠で心臓の先天異常が起こるリスクは、心臓の異常の種類と特定の染色体異常があるかどうかによって異なります。心疾患のある小児が成人期まで生きられることは増えてきています。子どもを作ると決めた場合は、染色体異常の検査を受け、 遺伝カウンセラーに相談して 妊娠前の遺伝子スクリーニング 遺伝子スクリーニングは、遺伝する遺伝性疾患をもつ子どもが生まれるリスクが高いかどうかを判断するために行う検査です。遺伝する遺伝性疾患とは、次の世代へ受け継がれる 染色体または遺伝子の病気です。 スクリーニングではカップルの家族歴を評価し、必要に応じて血液や組織のサンプル(頬の内側から採取した細胞など)を分析します。... さらに読む 、心臓に異常がある子どもができるリスクの判断を補助してもらうことが重要です。
心臓の異常の症状
心臓の先天異常は、ときに症状をほとんど伴わない場合や、診察しても発見できない場合もあります。軽度の異常では、成長するまで症状が出ないものもあります。幸いなことに、多くの重篤な小児の心臓の異常は、両親が気づく症状や医師が診察で認める異常に基づいて発見できます。
正常な成長、発達、活動には、酸素の豊富な血液の正常な循環が必要なので、心臓に異常のある乳児や小児は正常に発育しない、あるいは体重が増えないことがあります。哺乳や食事が困難であったり、体を動かすとすぐ疲れてしまったりすることもあります。より重症の場合、呼吸に努力を要したり、チアノーゼが発生したりすることもあります。心臓に異常のある比較的年長の小児は、運動時に仲間についていけなかったり、息切れ、失神、胸痛を経験したりし、特に運動時にこの傾向があります。
心臓に異常な血流があると、通常は異常な音(心雑音)が生じ、この音は聴診器で聞こえます。異常な心雑音はしばしば、大きく聞こえたり粗く聞こえたりします。しかし、小児期に生じる心雑音の大多数は、心臓の先天異常が原因ではなく、何らかの問題を示唆する徴候でもありません。心臓の基礎疾患によって引き起こされたものではないこれらの雑音は、通常、無害性雑音や機能性雑音と呼ばれます。
心不全では、心臓の鼓動が速くなり、肺や肝臓に液体がたまることがよくあります。体液の蓄積は、食事中の呼吸困難、速い呼吸、呼吸時のうめき声、パチパチという肺の音、肝臓の腫れをもたらすことがあります。
一部の心臓の異常(心房の壁に開いた孔など)があると、心臓の右側部分に血栓(血液のかたまり)ができ、欠損部を通過して心臓の左側部分に移動し、そこから全身に送られ、その一部が脳の動脈に詰まることで、 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む を起こすリスクが高くなります。しかし、小児期にこのような血栓ができることはまれです。
知っていますか?
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アイゼンメンジャー症候群
アイゼンメンジャー症候群は、生後早期に是正されなかった大量の 左右短絡 血流の短絡 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む によって肺の血管に不可逆的な損傷が生じることで発生します。この損傷により、最終的に短絡が右から左に向かう方向に逆転します。
左右短絡では、心臓の左側部分から送り出された酸素の豊富な血液が、肺動脈を通って肺に送り込まれる酸素の少ない血液と混ざり合ってしまいます。左右短絡が起きると、循環の効率が悪化し、肺への血流が増えます。時間の経過とともに、この過剰な血流によって肺の血管が傷つき、血管の壁が異常に厚くなります。これは、 心房中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。... さらに読む などでみられるように何十年もかけてゆっくりと起こることもあれば、 総動脈幹遺残症 総動脈幹遺残症 総動脈幹遺残症は、肺動脈と大動脈が別々に心臓から出るのではなく、単一の太い血管が心臓から出る先天異常です。心臓の右側からの酸素の少ない血液と、心臓の左側部分からの酸素の豊富な血液がともにこの単一の太い血管(総動脈幹)に入り、酸素の豊富な血液と酸素の少ない血液が混ざり合ったものが全身と肺に送られます。... さらに読む などでみられるように急速に起こることもあります。最終的には、傷つき厚くなった肺動脈内の圧力が非常に高くなり、心臓の右側部分から左側部分へと血液が逆流します。この血液の逆流をアイゼンメンジャー症候群といいます。アイゼンメンジャー症候群によって心臓の右側部分が酷使され、心不全が生じる可能性があります。その他の合併症としては、皮膚が青みがかった色になるチアノーゼや、血液の粘度の上昇、肺からの出血、脳卒中などがあります。
アイゼンメンジャー症候群に至る可能性のある病気には以下のようなものがあります。
通常、心臓の先天異常は迅速に診断と治療がなされるため、米国では、アイゼンメンジャー症候群があまり多くみられません。
症状は皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、失神、活動中の息切れ、疲労、胸痛などです。アイゼンメンジャー症候群の原因になっている先天異常に応じて、別の症状がみられることもあります。
アイゼンメンジャー症候群が疑われる場合は、心臓がどの程度機能しているかについてさらに詳しい情報を得るために、心電図検査、心エコー検査、心臓カテーテル検査を行います。また、酸素欠乏による異常を特定するための臨床検査も行います。
アイゼンメンジャー症候群に対する唯一の治療法は 心臓と肺の移植 肺移植および心肺同時移植 肺移植とは、健康な肺または生きている人から肺の一部を手術で摘出し、肺が機能しなくなった人に移植することです。心肺同時移植とは、死亡した直後の人から心臓と肺の両方を手術で摘出し、心臓と肺が機能しなくなった人に移植することです。 ( 移植の概要および 心臓移植も参照のこと。) 肺移植は肺の機能を失った人に対して実施します。移植を受ける人(レシ... さらに読む であるため、心臓の先天異常を特定し、できるだけ早く是正することが重要です。
心臓の異常の診断
心電図検査
胸部X線検査
心エコー検査
心臓カテーテル検査
心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。... さらに読む (心臓の超音波検査)により、心臓の多くの先天異常は出生前に診断できます。産科医によって心臓の異常が診断されるか疑われる場合、母親はしばしば、胎児心エコー検査と呼ばれる特殊な超音波検査を受けます。この検査では、胎児の心臓を詳細に調べることができます。心臓の重篤な異常が確認された場合、新生児の出生直後に行う最適な治療の計画を立てることができます。米国などの多くの国では、生後1~2日の時点で、新生児に心臓の異常がないかスクリーニング検査を行います。スクリーニング検査はパルスオキシメトリー(皮膚にあてるセンサーで血液中の酸素レベルを測定する、痛みのない検査)で行います。出生前や出生直後に発見されない心臓の異常は、新生児または幼児に症状が発生したとき、聴診器で異常な心雑音が聴取されたとき、または心疾患の他の徴候が認められたときに疑われます。
小児における心臓の先天異常の診断には、 成人での心臓の異常を診断 心臓と血管の病気の診断に関する序 ときに、 病歴聴取と 身体診察の結果だけから、心臓や血管に病気がある可能性が疑われることがあります。しかし、多くの場合には、診断を確定して、病気の範囲や重症度を判定し、治療の計画に役立てる目的から、特別な診断手順が必要になります。 診断法には以下のものがあります。 非侵襲的検査... さらに読む する際と同じ方法が用いられます。医師は家族に具体的な質問をし、診察を行うことで異常を疑うことがよくあります。その場合、一般的に心エコー検査、 心電図検査 心電図検査 心電図検査は心臓の電気刺激を増幅して記録する検査法で、手早く簡単に行える痛みのない方法です。この記録は心電図と呼ばれ、以下に関する情報が得られます。 心臓の1回1回の拍動を引き起こしている、ペースメーカーとしての部分(洞房結節、洞結節) 心臓の神経伝導経路 心拍数や心拍リズム 心電図では、心臓が拡大していること(通常の原因は... さらに読む 、胸部X線検査を行います。
心エコー検査は、具体的な異常のほぼすべての診断に用いられます。 心臓カテーテル検査 心臓カテーテル検査と冠動脈造影検査 心臓カテーテル検査と冠 動脈造影検査は、手術を行わずに心臓とそこに血液を供給する血管(冠動脈)を調べることができる低侵襲検査です。通常、これらの検査は、 非侵襲的な検査では十分な情報が得られない場合や、非侵襲的な検査では心臓や血管の問題が示唆されない場合、患者の症状から心臓や冠動脈の問題が強く疑われる場合に行われます。これらの検査の利点の... さらに読む では、異常の詳細を調べることができ、一部の心臓の異常を治療することもできます。
心臓の異常の治療
開心術
心臓カテーテル法
薬剤
体外式膜型人工肺(ECMO)や補助人工心臓
まれに心移植
直ちに行うケア
生後1週目に起こる心不全またはチアノーゼは、緊急の治療を要する事態です。医師は多くの場合、薬剤をより簡便かつ迅速に投与できるように、臍帯の中にあって新生児の体につながっている臍静脈に細いチューブ(カテーテル)を挿入します。心臓の負担を軽減するとともに、全身に送られる酸素の量を増やすために、プロスタグランジンなどの薬剤が静脈から投与されます。呼吸補助のために新生児に人工呼吸器が必要になることもあります。新生児に特定の異常が存在する場合、酸素が投与されることもあります。
開心術
重篤な心臓の異常の多くは開心術で効果的に治すことができます。どのタイミングで手術を行うかは、異常の種類、症状、異常の程度によって決まります。多くの場合、可能であれば小児がある程度成長するまでは手術を待つのが理想です。しかし、心臓の異常による症状が重い乳児には、生後数日または数週間以内に手術を行う必要があります。複雑な心臓の異常の中には、最初の数週間は修復が非常に難しいものがあり、状態を安定させ、さらなる修復手術が必要になる時期を遅らせるために、心臓を開かない手術が必要になる場合があります。この種の手術の例としては、大動脈と肺動脈の間に迂回路を作る手術があります。
心臓カテーテル法
心臓カテーテル法は、診断または治療を目的として、鼠径部にある静脈または動脈に細い管(カテーテル)を挿入し、先端を心臓まで進めて行う処置です。心臓に到達する方法はほかにもあり、その1つは新生児のへその静脈を利用するものです。カテーテルを心臓内の狭くなっている部分まで通すことで、その部分を広げられることがあります。 カテーテルに付けたバルーンを膨らませることで狭くなった部分を広げるのですが、これを心臓弁(バルーン弁形成術という手技)や血管(バルーン血管形成術という手技)で行います。バルーン形成術は、開心術の代わりに行われたり、開心術の必要性を遅らせたりします。心臓カテーテル法を行う際、カテーテルを介して栓またはその他の特殊なデバイスを挿入することで、 動脈管開存 動脈管開存症 動脈管開存症では、通常は出生後まもなく閉鎖する肺動脈と大動脈をつなぐ血管(動脈管)が、閉鎖しません。 動脈管開存症は、心臓の先天異常の1つで、胎児の肺動脈と大動脈をつなぐ正常な血管が出生時に閉鎖しない場合に起こります。 多くの場合、症状はなく、診断は聴診器で聴取される心雑音に基づいて疑われます。... さらに読む や心臓にある特定の孔(多くの 心房中隔欠損 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。... さらに読む と一部の 心室中隔欠損 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。... さらに読む )が閉鎖されることもあります。心臓カテーテル法は皮膚に大きな傷跡を残さず、患者はしばしば開心術を受けた場合より早期に回復します。
大血管転位症 大血管転位症 大血管転位症は、心臓に対する大動脈と肺動脈の接続が正常と比べて逆転している状態です。 大動脈と肺動脈が入れ替わっているため、酸素の少ない血液が全身を循環し、酸素の豊富な血液は肺と心臓の間を循環し、全身には循環しません。 症状は出生時から明らかで、重度のチアノーゼ(唇と皮膚の色が青みがかる)や呼吸困難などがみられます。... さらに読む などの新生児には、心臓カテーテル法を行う際にバルーン心房中隔裂開術と呼ばれる処置が行われることがあります。この処置では、バルーンを使用して卵円孔(上側の2つの心腔の間に開いた孔)を拡大し、体内への酸素の流れを改善します。この処置は通常、開心術前に乳児を安定させるために行われます。
薬剤
新生児の全身または肺への血流が大幅に遮断されている場合には、プロスタグランジンと呼ばれる薬剤を投与して、動脈管が開いた状態を維持することが救命につながります。
心臓に異常がある小児によく使用されるその他の薬剤には、以下のものがあります。
フロセミドなどの利尿薬(全身と肺から余分な水分を除去するのを助ける)
カプトプリル、エナラプリル、リシノプリルなどのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(血管を弛緩させ、心臓が血液を送り出しやすくする薬)
ジゴキシン(心臓が血液を送り出す力を強くする薬)
ミルリノン(心臓を刺激してより強く拍動させ、狭くなった血管を弛緩させるために、静脈から投与される強力な薬)
心臓の機能を助ける装置
近年、重度の心不全があって薬剤で効果が得られない小児の心臓を補助するために、高度な医療機器が使用されています。このような機器には、心臓が効果的に血液を送り出せなくなったときに肺と全身に十分な血流を送れるように補助するポンプが搭載されています。このような機器は数日から数週間、あるいは数カ月間にわたって使用されることもあり、その目的は小児の心臓がウイルス感染症もしくは大規模な開心術から回復できるようにすること、または心臓移植ができるまで小児を安定させることです。
体外式膜型人工肺(ECMO)は血液に酸素を加えて二酸化炭素を除去するもので、小児の血液をこの機械を通して循環させ、その後小児に戻します。
補助人工心臓と呼ばれるいくつかの装置は体内に挿入できます。補助人工心臓は、心臓から全身に血液を送り出します。
心臓移植
まれな例ですが、ほかの治療法では効果が得られない場合は 心臓移植 心臓移植 心臓移植とは、死亡した直後の人から健康な心臓を摘出し、薬や移植以外の手術では有効な治療効果がもはや得られない重度の心疾患のある人に移植することです。 ( 移植の概要も参照のこと。) 心臓移植は、以下のいずれかの疾患があり、薬や移植以外の手術では有効な治療効果が得られない場合に限って行います。... さらに読む が行われます。しかし心臓のドナーは非常に不足しているため、この方法を利用するには限界があります。
長期的な管理
年長の乳児や小児に対する治療法としては、薬の使用や食習慣の変更(例えば塩分制限および比較的少量の液体に高カロリーが含まれる人工乳)などがあります。このような治療は、心臓にかかる負担を減らします。
重大な心臓の異常があるか、心臓の異常を修復する手術を受けた一部の小児は、歯科受診や特定の手術(呼吸器の手術など)の前に抗菌薬を服用する必要があります。それらの抗菌薬は、 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む と呼ばれる重篤な心臓の感染症を予防するために使用されます。しかし、心臓に異常のある小児の大半では、手術を受けたかどうかにかかわらず、このような抗菌薬の使用は必要ありません。ただし、心臓に異常のあるすべての小児では、感染が心臓に広がるリスクを低下させるために、歯と歯ぐきのケアに十分気を配る必要があります。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国心臓協会:一般的な心臓の異常(American Heart Association: Common Heart Defects):親と養育者に向けて一般的な心臓の先天異常の概要を提供している
米国心臓協会:感染性心内膜炎(American Heart Association: Infective Endocarditis):親と養育者に向けて感染性心内膜炎の概要(抗菌薬使用の要約を含む)を提示している