(成人については、甲状腺機能亢進症も参照のこと。)
甲状腺は、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは体の代謝速度を調節します。これには心拍の速さや体温の調節などが含まれます。甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、これらの機能が亢進します。
甲状腺機能亢進症は、発達中の胎児や乳児(新生児の甲状腺機能亢進症を参照)、または小児期や青年期に起こる可能性があります。
乳児
乳児の甲状腺機能亢進症はまれですが、生命を脅かす可能性があります。胎児の甲状腺機能亢進症は、バセドウ病に罹患しているか、罹患していたことのある女性の胎児で起こります。バセドウ病では、異常な抗体が甲状腺を刺激するため、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。こうした抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺の活動を刺激し、早産やさらには胎児の死亡につながる可能性があります。出生後は乳児は母親の抗体にもはやさらされないため、新生児にみられるバセドウ病(新生児バセドウ病)は通常は一過性です(ただし、その期間は様々です)。
小児および青年
症状
甲状腺機能亢進症の症状は、小児の年齢によって異なります。
胎児
乳児
乳児の症状としては、むずかる、授乳困難、高血圧、心拍数の増加、眼球の突出、先天性甲状腺腫、頭蓋骨の異常などがあります。その他の症状には、発育不良、嘔吐、下痢などがあります。
小児および青年
甲状腺機能亢進症の合併症
甲状腺クリーゼとは、甲状腺機能亢進症でまれに起こる重度の合併症で、生命を脅かす緊急事態です。甲状腺クリーゼでは、甲状腺が突然かつ過剰に活動し始めます。全身の機能が危険な水準まで亢進します。甲状腺クリーゼの小児の症状には、極めて速い心拍数、高体温、高血圧、心不全、精神状態の変化などがあります。甲状腺クリーゼは昏睡や死につながる可能性があります。
診断
乳児では、母親が現在バセドウ病にかかっているか、過去にかかったことがあり甲状腺を刺激する抗体の値が高い場合に、医師は甲状腺機能亢進症の診断を検討します。診断を確定するためには、医師は血液中の甲状腺ホルモン濃度を特定する検査(甲状腺機能検査)を行います。
予後(経過の見通し)
乳児が胎児のうちに甲状腺機能亢進症になり、出生までに検出されなかった場合、乳児には大きな問題が生じる可能性があります。頭蓋骨の隙間が早期に閉じてしまい(頭蓋縫合早期癒合症と呼ばれます)、知的障害、発育不良、低身長を呈する可能性があります。約10~15%の乳児は死亡する可能性があります。
新生児バセドウ病の乳児は、ほぼ全員が6カ月以内に回復します。母親が妊娠中に甲状腺ホルモンの分泌量を減少させる薬剤(抗甲状腺薬)を服用しなかった場合、乳児は出生時に甲状腺機能亢進症を発症しています。母親が薬剤を服用している場合は、乳児には甲状腺機能亢進症の症状は約3~7日間みられません。
バセドウ病にかかっている年長の小児は、抗甲状腺薬に反応することもありますが、抗甲状腺薬の効果がみられないか、症状が再発する場合は、バセドウ病を根本的に治療するため、追加の治療が必要とされることもあります。
治療
小児には、甲状腺が分泌する甲状腺ホルモンの量を減少させる抗甲状腺薬(チアマゾールなど)が投与されます。ベータ遮断薬は心拍数を下げる薬で、心拍数が速すぎるか、血圧が高すぎる場合にのみ使用されます。ベータ遮断薬による治療は、抗甲状腺薬の効果が現れたら、中止します。新生児甲状腺機能亢進症を起こしている乳児は、ほぼ常に6カ月後までに回復し、その後は抗甲状腺薬は必要ありません。抗甲状腺薬による治療を受けている年長の小児では、症状は最終的に消失しますが(寛解)、一部の小児では症状が再び現れ(再発)、さらに治療が必要とされることがあります。
バセドウ病の小児は、ときにバセドウ病を根本的に治療するため治療を追加する必要があります。根本的な治療(根治療法)は、抗甲状腺薬の効果がみられないか(あるいは小児が抗甲状腺薬を服用しないか)、抗甲状腺薬により重篤な副作用が起こる場合に必要とされます。根治療法では、甲状腺を放射性ヨードまたは手術で破壊します。ただし、放射性ヨードは10歳以下の小児には通常投与しません。また甲状腺が大きな人ではしばしば効果がありません。このため、これらの要因をもっている小児や青年では、代わりに手術が行われることがあります。
結節は手術で取り除きます。
急性甲状腺炎は抗菌薬で治療します。亜急性甲状腺炎では抗菌薬による治療は行いませんが、痛みに対して非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を投与します。抗甲状腺薬は投与しませんが、ベータ遮断薬を投与することがあります。