重い病気は、一時的なものであっても、小児や家族に大きな不安を与えることがあります。慢性的な健康の問題とは、12カ月以上持続し、通常の活動に何らかの制限がもたらされるほど重度のものを指します。通常、慢性的な健康の問題は、一時的な問題と比較して、より大きな情緒的苦痛を引き起こします。
慢性的な健康の問題の例としては、以下のものがあります。
聴覚障害 小児の聴覚障害 新生児の難聴は、サイトメガロウイルス感染症または遺伝子異常に起因することが最も多く、年長児では耳の感染症や耳あかが原因となります。 小児が音に反応しなかったり、言葉をうまく話せなかったり、話し始めるのが遅かったりする場合は、聴覚に障害があることがあります。 新生児の聴覚の検査では音に対する脳の反応を計測する手持ち式の装置や検査が用いられ、年長児の検査では様々な技法が用いられます。... さらに読む
または 視覚障害 小児の屈折異常 屈折異常では、眼が網膜上に正しく像を結ぶことができず、かすみ目になります。 屈折異常の結果、物がかすんで見えます。 小児は、自分の視覚障害を他の人に伝えられない場合があります。 診断はスクリーニングおよび視力検査の結果に基づいて下されます。 屈折異常は眼鏡やコンタクトレンズで治療できます。 さらに読む
小児期の障害または特別な援助を必要とする状態(例えば、 脳性麻痺 脳性麻痺 脳性麻痺とは、運動困難と筋肉のこわばり(けい縮)を特徴とする症候群です。原因は、出生前の脳の発育過程で生じた脳の奇形か、出生前、分娩中、または出生直後に起きた脳損傷です。 脳性麻痺の原因としては、酸素欠乏や感染によって生じる脳の損傷や、脳の奇形などがあります。 症状の程度は様々で、ぎこちなさがかろうじて分かる程度のこともあれば、脚や腕の動... さらに読む 、外傷性脳損傷[ 頭部外傷の概要 頭部外傷の概要 頭部外傷の一般的な原因には、転倒や転落、自動車事故、暴行、スポーツやレクリエーション活動中の事故などがあります。 軽症の頭部外傷では頭痛やめまいが起こることがあります。 重症の頭部外傷では、意識を失ったり、脳機能障害の症状が現れたりすることがあります。 重症の頭部外傷かどうかを調べるには、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。... さらに読む を参照]、 ダウン症候群 ダウン症候群(21トリソミー) ダウン症候群は、余分な21番染色体によって引き起こされる染色体異常症の一種で、知的障害と様々な身体的異常がみられます。 ダウン症候群は、21番染色体が余分にあることで発生します。 ダウン症候群の小児では、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、しばしば低身長がみられます。 出生前の段階では、ダウン症候群は超音波検査や母親の血液検査の結果から疑われ、 絨毛採取や 羊水穿刺という検査で確定されます。... さらに読む
[21トリソミー]、 二分脊椎 神経管閉鎖不全と二分脊椎 神経管閉鎖不全は脳、脊椎、脊髄に生じる先天異常の一種です。 神経管閉鎖不全により、神経損傷、学習障害、麻痺、死亡が起こることがあります。 血液検査、羊水検査、または超音波検査の結果に基づいて出生前から診断できます。 出生後、医師は身体診察を行い、追加の画像検査を行う場合もあります。 母親が妊娠前と第1トリメスター(訳注:日本の妊娠初期にほぼ相当)に葉酸を摂取することが、これらの異常の予防に役立つ可能性があります。 さらに読む )
病気に対処するためには、痛みに対処すること、検査を受けること、薬を服用すること、食事や生活習慣を変えることが必要になる場合があります。慢性的な健康の問題があると、頻繁に学校を休むことになるため、小児の教育の妨げになることがよくあります。病気自体に加え、治療による副作用でも小児の学習能力が損なわれる場合があります。親も教師も病気の小児には成績面であまり期待しないとしても、小児が最善を尽くして頑張れるように目標を与え、励ましてやることが大切です。
小児に及ぼされる影響
病気と入院は、小児が他の小児と遊ぶ機会を奪います。身体的に違う点があるとか制限があるとかいう理由で、他の小児が病気の小児を拒絶したり、からかったりすることさえあります。病気によって体に変化が生じた場合、特に、それが生まれつきではなく小児期や青年期に生じた場合は、小児が人目を気にすることがあります。
学齢期の小児では、学校に行けないことと友達ができないことから最も大きな影響を受けます。
青年では、日常的に必要とされる多くの行為で親やその他の人の手助けが不可欠な場合、自立できないことで悩みます。また青年は、友達から異なっている者として見られることを、特に受け入れがたいと感じます。
親や家族が小児や青年を過保護にして、自立を妨げてしまうこともあります。
小児にとって、入院はたとえ最善の環境であっても怖い体験です。通常の入院手続きを含め、入院に関するすべてのことを親と小児に説明する必要があり、そうすれば親も小児も入院中の出来事について心の準備ができます。理想的には、小児は小児専門病院か小児科に力を入れている病院に入院させます。多くの病院では、親が小児に付き添うことを勧めており、痛みを伴う処置や小児を怖がらせるような処置を行う間であっても付き添いを奨励しています。入院中の小児は、親がそばについているにもかかわらず、親にくっついて離れなかったり、甘えたりするようになること(退行)があります。
親および他の家族への影響
小児の慢性疾患は、親に対して精神的にも、経済的にも、感情的にも、物理的にも計り知れない負担を課します。このような重荷を乗り越えるために協力し合うことで、夫婦間のきずなが強くなることもあります。しかし、反対に夫婦の関係を損ねることもよくあります。親が子どもの病気に対して罪悪感を抱くこともあり、特に小児の病気が遺伝によるものや、妊娠中の合併症によるものである場合や、事故(交通事故など)や親の行動(喫煙など)が原因で発生した場合などには、その傾向があります。それ以外にも、高額な治療費が負担になったり、親が看病のために仕事を休んだりすることもあります。親のどちらかが看病を一手に引き受ける場合、看病をしている側が後に腹立たしく感じることがある一方で、看病していない側はのけ者にされたような疎外感を覚えることがあります。親が、医療提供者、自分自身、親同士、子どもに対して怒りを覚えることもあります。また、子どもの病状が重いという現実に、親が目を背けることもあります。子どもの介護に伴う精神的苦痛から、身体障害や重篤な病気のある小児に対して深い愛着を抱きにくくなる可能性もあります。
病気の小児と長時間一緒に過ごす親は、その子の兄弟姉妹のために割く時間が少なくなりがちです。兄弟姉妹は、病気の小児が親の注意を引きつけていることに憤慨することがあります。しかし、そのように思ってしまったことで後ろめたさも感じます。また、病気の小児は、自分が家族を傷つけたり、負担を与えたりしていると思って罪悪感を抱くこともあります。親は病気の小児に対して甘くなりすぎたり、一貫性のないしつけをしたりする場合があり、特に小児の症状が現れたり消えたりしていると、そうなりがちです。
小児の病気はどんな場合も家族全員にとってストレスになるものですが、その影響を少なくするために親がとることができる行動がいくつかあります。小児の病気について主治医から聞いたり、信頼できる情報源を利用して調べたりして、できるだけ多くのことを学ぶ必要があります。インターネットから得られる情報は常に正確とは限らないため、そのような情報源で得た知識は主治医に尋ねて確認する必要があります。医師が親を支援グループや同じような経験をした家族に紹介することもよくあり、そこから様々な情報や精神的な支援を得ることができます。
ケアチーム
小児が必要とするサービスには、専門医や看護師、在宅医療の専門家、精神衛生士、その他の様々な専門性をもつ人によるケアがあります。チャイルド・ライフ・スペシャリストは、小児と家族が病気と入院の問題に対処する際に手助けができるよう訓練を受けており、小児と親にとって素晴らしい拠り所となります。複数の慢性疾患を抱えた小児では、医療を調整するためにケースマネジャーの協力が必要になる場合もあります。担当医、看護師、ソーシャルワーカー、その他の専門家などがケースマネジャーとしての役割を果たすこともできます。ケースマネジャーは、小児が社会的技能を身につける訓練を受けられるように手配したり、家族と小児が適切なカウンセリングや教育、またレスパイトケアなどの精神的および社会的支援を受けられるように手配したりすることもできます。
サービスを調整している人が誰であろうと、このケアと意思決定の過程では、家族こそが小児に強さとサポートを与える主要な源であるため、家族と小児がパートナーとしての役割を果たす必要があります。この家族を中心に据えたアプローチにより、情報の共有と家族への権限の付与が確保され、小児のケアでは欠かせない部分となっています。小児や家族を中心に据えたアプローチをとっていくなかで、いわゆる患者中心のメディカルホーム(patient-centered medical home:PCMH)に移行する診療所がますます増えつつあります。PCMHとは、米国 National Center for Quality Assuranceによる追加の品質ガイドラインに準拠している診療所を指します。PCMHのケアチームは患者のケアを患者が自ら計画し実行するよう全面的に働きかけます。ケアマネージャーは患者個人に合わせて作成されたケア計画や他の手順に則り、すべての患者、特に複雑な医療上の問題を抱える患者が、自らの医療問題やケアを自分で管理できる度合いを増やせるようにします。