(性感染症の概要も参照のこと。)
米国では2000年に約6,000件の梅毒が報告されていました。これは、1941年に報告が開始されて以来、最低の数字でした。しかし、2016年までにその数は88,000件以上に増えました。
梅毒にかかった人の大半は男性で、その多くが男性と性行為を行う男性で、その中でも特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染している男性や都市に住む男性によくみられます。
特定の条件と活動(危険因子)は梅毒になるリスクを高めます。具体的には以下のものがあります。
梅毒にかかっている人は、多くの場合、他の性感染症も患っています。
梅毒は、症状のない時期(潜伏梅毒)をはさんで、3つの段階(第1期、第2期、第3期)で症状を引き起こします。
梅毒の感染経路
第1期と第2期では感染力が高くなります。潜伏期の初期にも他者に感染する可能性があります。
通常は性的接触により感染します。早期梅毒の相手と性交を1回行うことで感染する確率は約3分の1です。細菌は、腟、口などの粘膜や皮膚を通じて体内に侵入します。数時間のうちに付近のリンパ節に達し、その後、血流に乗って全身に広がります。
他の経路で感染することもあります。妊娠中に胎児に感染して({blank} 新生児の主な感染症 : 梅毒)、先天異常などの障害が生じることがあります。
梅毒は皮膚の接触でも伝染する可能性があります。ただし、細菌は体外では長く生き延びることはできません。
症状
症状の各段階(第1期、第2期、第3期)は進行性に悪化していきます。
治療しないと、症状もなく何年も長引くことがあり、大動脈(体内で最も太い動脈)や脳の障害を引き起こし、死に至る可能性もあります。神経梅毒(脳と脊髄を侵す梅毒)は梅毒のどの段階でも発症する可能性があります。
早期に発見して治療すれば、梅毒は治る病気であり、後に障害も残りません。
第1期
特に陰茎、外陰部、腟などの感染部位に、痛みのない下疳(げかん)と呼ばれる潰瘍ができます。下疳が肛門、直腸、唇、舌、のど、子宮頸部、指、その他の部位にできることもあります。通常は1カ所だけですが、ときに複数できることもあります。症状は感染後3~4週間で現れますが、早ければ1週間、遅ければ13週間後に生じることもあります。
下疳は小さな赤い隆起として始まり、すぐに比較的痛みの少ない、硬く隆起した潰瘍になります。出血はなく、触ると硬く感じられます。付近のリンパ節もよく腫れますが、これも痛みは伴いません。下疳には症状がほとんどないことから、女性の約半数、男性では3人に1人は気づきません。直腸や口の下疳は多くが男性に生じ、気づかれないこともよくあります。
下疳は通常3~12週間で治ります。その後、患者は完全に健康になったようにみえます。
第2期
菌が血流に乗って広がり、広い範囲で発疹、リンパ節の腫れが起こり、またあまり多くありませんが他の臓器にも症状を引き起こします。発疹は通常、感染後6~12週間で現れます。この時点でもまだ、感染者の約4分の1に下疳がみられます。一般的にこの発疹は痛くもかゆくもなく、外観は様々です。
他の大半の病気で生じる発疹とは異なり、この発疹はしばしば手のひらや足の裏にできます。発疹はすぐ消えることもあれば、何カ月も続くこともあります。治療をしなくても、発疹はやがて消えますが、数週間、または数カ月経ってから再発することがあります。頭皮に発疹ができると、髪の毛が斑状に抜け落ちて、虫食い状態になります。
口、わきの下、陰部、肛門など、皮膚の湿った部位に扁平コンジローマと呼ばれる上部が平らで滑らかな隆起ができることがあります。これらの痛みを伴わない増殖物は多くの細菌を含んでおり、非常に感染力の高い病変です。表面が破れて、体液がしみ出ることもあります。治るにつれて平たくなり、くすんだピンク色か灰色になります。口の潰瘍は20~30%以上の人にみられます。
第2期梅毒では、発熱、疲労感、食欲不振、体重減少がみられます。
第2期梅毒の約50%の人に全身のリンパ節の腫れが起こり、約10%の人では他の臓器が侵されます。眼に炎症が起きたり、骨や関節に痛みが生じたりすることもあります。また少数の人では、肝臓の感染症(肝炎)によって腹痛と黄疸(おうだん)という皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状が起こり、尿の色が濃くなります。脳、内耳、眼に感染したために、頭痛や聴覚、平衡感覚、視覚の障害が生じる人もいます。
潜伏期
第3期(または晩期)
第3期梅毒は、初期感染から数年~数十年後に、治療を受けていない人の約3分の1に発生します。症状は軽いものから極めて重篤なものまで様々です。
第3期梅毒には主に次の3種類があります。
良性の第3期梅毒は通常、最初の感染から3~10年ほど後に起こります。今日ではまれです。ゴム腫と呼ばれる柔らかいゴムのような腫瘤が皮膚、特に頭皮、顔面、体幹の上部、脚にできます。肝臓と骨にもしばしば発生しますが、ほぼ全ての臓器に発生する可能性があります。表面が破れて、潰瘍になることがあります。治療しないでいると、ゴム腫が周囲の組織を破壊してしまいます。骨では通常、刺すような深い痛みが生じ、通常は夜間に悪化します。ゴム腫の増殖はゆっくりで、徐々に治り、後に瘢痕(はんこん)が残ります。
心血管梅毒は通常、最初の感染から10~25年ほど後に発症します。この細菌は大動脈など、心臓につながる血管に感染します。以下の症状が現れます。
このような問題により胸痛や心不全が生じ、死に至ることもあります。
神経梅毒(脳と脊髄を侵す梅毒)は治療を受けていない梅毒患者の約5%に起こります。次のようなタイプがあります。
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無症候型:この病型は、脳と脊髄を覆う組織(髄膜)の軽い感染症で、軽度の髄膜炎を引き起こすことがあります。治療しないでいると、感染した人の5%に頭痛、項部硬直、集中力低下などの症状が現れます。
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髄膜血管型:脳や脊髄の動脈に炎症が起き、慢性の髄膜炎が発生します。最初に頭痛と項部硬直が出る場合もあります。めまいを感じたり、集中力や記憶力が低下したり、不眠症になったりすることがあります。視野がかすむこともあります。腕、肩、やがては脚の筋肉が弱くなったり、麻痺したりすることさえあります。排尿や排便のコントロールが困難になることもあります(失禁)。この病型は脳卒中も引き起こします。
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進行麻痺型(実質型):このタイプは通常は40代または50代で始まります。まず行動が徐々に変化するという症状が現れます。精神障害または認知症に似た症状がみられることもあります。例えば、自分の衛生状態に無頓着になったり、頻繁に気分が変化したりします。イライラや錯乱が生じたり、集中力や記憶力が低下したりもします。自分を有名人や神、または神秘的な力をもつ存在と思い込む誇大妄想もみられます。口、舌、伸ばした両手や全身に振戦(ふるえ)が出ることがあります。
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脊髄ろう型:脊髄の病変が徐々に進行します。この型の梅毒は通常、最初の感染から20~30年後に起こります。症状は徐々に始まり、典型的には背中と脚に刺すような強い痛みが不規則に繰り返し起こります。また、胃や膀胱、直腸、のどに同様の痛みが生じることがあります。歩行が不安定になり、足の感覚が薄れたり異常を感じたりします。たいていの患者は体重が減少し、悲しそうに見えます。視力に問題が起きることもあります。勃起障害がよくみられます。最終的に排尿をコントロールすることが困難になり(失禁)、麻痺が生じることがあります。
その他の症状
診断
典型的な下疳がみられた場合、第1期梅毒が疑われます。手のひらや足の裏に特有の発疹があれば、第2期梅毒が疑われます。梅毒は様々な段階にわたり幅広い症状を引き起こしうるため、医師は、梅毒で起こりうる症状(視力の問題など)がある人を評価するときに梅毒の有無を確認をすることがあります。
診断の確定には臨床検査が必要です。2種類の血液検査を行います。
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通常はまず、VDRL(米国性病研究所)試験やRPR(迅速血漿レアギン)試験のようなスクリーニング検査が行われます。これらの検査は、梅毒(トレポネーマ)を引き起こす細菌またはその細菌に反応して作られる抗体を直接検出するものではないため、非トレポネーマ試験と呼ばれます。スクリーニング検査は安価で簡単に行えますが、最初の感染後3~6週間は、梅毒にかかっていても陰性の結果が出ることがあります。このような結果は偽陰性と呼ばれます。スクリーニング検査の結果が陰性であるものの、医師が第1期梅毒を疑っている場合は、6週間後に再検査を行うことがあります。別の病気のために、梅毒ではないのに検査の結果が陽性になる場合もあります(偽陽性)。
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スクリーニング検査で出た陽性結果を確定させるために、通常は確定検査を行う必要があります。この血液検査では、梅毒の原因菌に対する特有の反応として作られる抗体を測定します(ときに、トレポネーマ試験と呼ばれます)。確定検査の結果も、最初に感染してから数週間は偽陰性になることがあるため、検査を繰り返さなければならない場合があります。
まずスクリーニング検査を行い、もし陽性であれば、その結果を確定(トレポネーマ)検査によって確認するという方針が従来から採られてきました。しかし、ときにトレポネーマ試験を最初に行うこともあります。その場合、結果が陽性であれば、続いて迅速血漿レアギン試験(スクリーニング検査)を行います。
その検査でも陽性と反対された場合、医師は患者に過去のセックスパートナー、過去の検査結果、過去の治療経験について質問し、その情報をもとにその人が現在梅毒にかかっているのか、過去にかかっていたことがあるのかを判断する場合があります。
治療が成功すれば、スクリーニング検査の結果は徐々に(数カ月から数年かけて)陰性に変わっていく可能性がありますが、確定検査の結果は生涯陽性のままであるのが通常です。
第1期または第2期の梅毒では、暗視野顕微鏡検査によっても診断が可能です。皮膚の潰瘍またはリンパ節から採取した体液を、特殊な機能を備えた光学顕微鏡で調べます。細菌が暗い背景の中で明るく見えるため、特定しやすくなります。
潜伏期の梅毒の診断にも、同じ血液検査(トレポネーマ試験と非トレポネーマ試験)が用いられます。医師はまた、徹底的な身体診察と過去の検査結果の確認を含めた評価に基づいて、早期潜伏梅毒と晩期潜伏梅毒どちらであるのかの判断を試みます。
第3期では、診断は症状と抗体検査の結果に基づいて下されます。症状に応じて他の検査も行います。例えば、胸部X線検査や他の画像検査を行って、大動脈瘤がないか調べます。
神経梅毒が疑われる場合は、病期にかかわらず、腰椎穿刺を行って髄液を採取し、細菌に対する抗体の有無を調べる必要があります。
梅毒患者は、HIV感染症などの他の性感染症についても検査する必要があります。
予防
梅毒(やその他の性感染症)の予防には、次の一般的な対策が役立ちます。
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コンドームを常に正しく使用する({blank} コンドームの使用法)
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セックスパートナーを頻繁に変えたり、売春婦と性交したり、他のセックスパートナーがいる相手と性交したりするといった安全でない性行為を避ける
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感染症の迅速な診断と治療(感染の拡大を防ぐため)
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感染者の性的接触を把握し、それらの接触に対するカウンセリングや治療を行う
最も確実な性感染症の予防方法は、性行為(肛門性交、腟性交、オーラルセックス)を行わないことですが、これは往々にして非現実的です。
治療
ペニシリンは、第1期、第2期、前期潜伏期の梅毒に最もよく効く抗菌薬で、筋肉内に注射して投与します。
眼、内耳、脳が侵されている場合は、ペニシリンの静脈内投与を4時間毎に10~14日間行います。それから、別の剤形のペニシリンが、週に1回、最大3週間にわたり筋肉に注射されます。
ペニシリンアレルギーがある人には、ドキシサイクリン(経口で14日間投与か、ときに28日間)などの他の抗菌薬を投与できます。ドキシサイクリンを使用できない人には、アジスロマイシンを投与することがあります(経口で1回投与)。しかし世界のいくつかの地域では、梅毒の原因菌がアジスロマイシンに対する耐性を獲得しつつあります。ペニシリンに対するアレルギーがある妊婦は、ペニシリンを投与できるよう、入院してペニシリンに対する過敏性を低下させる療法({blank} アレルゲン免疫療法(脱感作))を受けます。