Msd マニュアル

Please confirm that you are not located inside the Russian Federation

読み込んでいます

認知症

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2018年 3月
ここをクリックするとプロフェッショナル版へ移動します
ここをクリックするとプロフェッショナル版へ移動します
ここをクリックするとプロフェッショナル版へ移動します
本ページのリソース

認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。

  • 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。

  • 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。

  • 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。

  • 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。

  • 治療の焦点は、精神機能をできるだけ長く保つことと、衰えていく患者を支援することに当てられます。

せん妄と認知症の概要も参照のこと。)

認知症は主に65歳以上の高齢者に発生します。認知症、特にそれに伴う破壊的行動は、介護施設への入所理由の50%以上を占めています。認知症は病気であって、正常な老化現象ではありません。100歳以上の人の多くは認知症ではありません。

認知症とせん妄は異なる病態であり、せん妄は注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。

  • 認知症では主に記憶力が障害され、せん妄では主に注意力が障害されます。

  • 認知症は一般にゆっくり発生し、いつ始まったのかをはっきり特定できません。せん妄は突然発生し、たいていいつ始まったのかをはっきり特定できます。

加齢に伴う脳の変化(加齢に伴う記憶障害)では、短期的な記憶力が衰えたり、学習能力が遅くなったりします。このような変化は、認知症とは異なり、正常な老化現象であり、機能や日常生活に影響を及ぼしません。高齢者にみられるこのような記憶障害は、必ずしも認知症や早期のアルツハイマー病の徴候ではありません。しかし、認知症で最も早期に現れる症状は、これにとてもよく似ています。

軽度認知障害は、加齢に伴う記憶障害よりも重度の記憶障害をもたらします。言語を使う能力、思考力、正しい判断力が損なわれることもあります。しかし、加齢に伴う記憶障害と同様、機能や日常生活には影響を及ぼしません。軽度認知障害の人の最大で半数が3年以内に認知症を発症します。

認知症は、これよりはるかに深刻な精神機能の衰えで、時間の経過とともに悪化します。健康な人でも歳をとれば、物の置き場所を間違えたり細かい事実を思い出せなくなったりしますが、認知症の人は、起こった出来事をすべて忘れてしまいます。認知症の人は、車の運転や料理、金銭の管理など、日常生活の行為が正常にできなくなります。

うつ病が認知症のように見えることもあり、高齢者では特によく間違われますが、この2つの病気はしばしば見分けることができます。例えば、うつ病の人は食事や睡眠をあまりとらなくなりますが、認知症の人は、後期になるまで食事や睡眠の量は正常です。うつ病の人は記憶障害を強く訴えますが、最近の重要な出来事や個人的な事柄を忘れることはめったにありません。対照的に認知症の人は、自分の精神状態が損なわれているという認識がなく、記憶障害を否定することもよくあります。うつ病の人は、うつ病の治療を行うことで精神機能が回復します。うつ病と認知症の両方がある人も多く、そのような人では、うつ病の治療で精神機能が一部改善されますが、完全な回復には至りません。

一部の認知症(アルツハイマー病など)では、脳内のアセチルコリン濃度が低下します。アセチルコリンは、神経細胞間の情報伝達を可能にしている化学物質(神経伝達物質と呼ばれます)です。アセチルコリンは記憶、学習、集中などの機能に関わっているほか、多くの臓器の機能を制御する仕組みにも関与しています。患者の脳内にはこれ以外の変化も生じますが、それらが認知症の原因なのか、認知症の結果生じたものなのかは明らかにされていません。

知っていますか?

  • 認知症は病気であって、正常な老化現象ではありません。

  • 100歳以上の人の多くは認知症ではありません。

原因

認知症は、ほかに原因のない脳の病気(原発性の脳疾患)として起こるのが一般的ですが、他の様々な病気によって引き起こされる場合もあります。

認知症の一般的な原因

最も一般的な認知症は、次のものです。

認知症の高齢者の約60~80%がアルツハイマー病を有しています。

その他の一般的な認知症の種類には以下のものがあります。

複数の種類の認知症が併存する場合もあり、混合型認知症と呼ばれています。

認知症のその他の原因

認知症のその他の原因としては以下のものがあります。

可逆的な認知症

認知症を引き起こす原因は不可逆的なものがほとんどですが、なかには治療できる可逆的な認知症もあります。(もっとも、認知症という用語を進行性の不可逆的な病気にだけ用い、部分的に可逆的なものには脳症または認知機能障害などの用語を用いる医師もいます。)そのような認知症で脳の損傷がひどくない場合には、しばしば治療によって治癒に至ります。脳の損傷が大きい場合は、治療によって損傷が回復することは多くありませんが、新たな損傷を予防することはできます。

可逆的な認知症の原因としては以下のものがあります。

頭部の外傷などによって血管が傷つくと、硬膜下血腫(脳を覆う組織層のうち最外層と中間層との間に血液が貯まった状態)が生じることがあります。外傷自体は、ときとして気づかれないほど軽い場合もあります。硬膜下血腫があると、緩やかに精神機能が低下することがありますが、これは治療により回復する場合があります。

その他の病気

認知症の症状を悪化させる病気は、糖尿病慢性気管支炎、肺気腫、感染症、慢性腎臓病肝疾患心不全など、数多くあります。

薬剤

薬剤の中にも、認知症の症状を一時的に引き起こしたり悪化させたりするものが多くあります。そのような薬剤には処方せんなしで購入できる市販薬(一般用医薬品)も含まれ、睡眠補助薬(鎮静薬)、かぜ薬、抗不安薬、一部の抗うつ薬などが該当します。

は(たとえ少量であっても)認知症を悪化させる可能性があるため、認知症患者にはほとんどの専門家が禁酒を勧めています。

症状

認知症の症状の進行

認知症の人の精神機能は、典型的には2~10年間かけて徐々に悪化していきますが、進行の速さは原因によって異なります。

進行の速さには個人差もあります。前年の悪化の速さから翌年の悪化傾向を予測できることも少なくありません。認知症の人が介護施設などに入所すると症状が悪化することがあります。これは、新しい規則や日課を覚えることが認知症の人にとっては困難であるためです。

また認知症の人に痛み、息切れ、尿閉(膀胱に尿が貯まっても排尿できない状態)、便秘などの症状があると、それらが原因でせん妄が起こり、錯乱が急激に悪化することがあります。通常は、これらの症状を適切に治療することで、精神機能をせん妄発症以前の水準まで回復させることができます。

認知症の一般的な症状

認知症にはいくつかの種類がありますが、症状はおおむね似ています。一般に認知症では、以下のような症状がみられます。

  • 言語使用に関わる問題

  • 人格の変化

  • 見当識障害

  • 日常生活行為の問題

  • 破壊的または不適切な行動

各症状がどの時点で起こるかは様々ですが、症状を初期、中期、後期に分類すると、患者、家族、その他の介護者が経過のおおまかな見通しを得る上で役立ちます。

人格の変化と破壊的行動(行動障害)は初期にも後期にも出現することがあります。一部の認知症患者に起こるけいれん発作も、疾患の経過を通じていつでも起こりえます。

初期の認知症の症状

認知症は通常、徐々に始まり、時間をかけて悪化していくため、最初のうちは気づかれない場合もあります。

最初に著しく悪化する精神機能の1つに次のものがあります。

  • 記憶(特に最近の出来事に関するもの)

また、典型的には、次のような行為が次第に難しくなっていきます。

  • 適切な単語を見つけて、使う

  • 言語を理解する

  • 物事を抽象的に考える(数字を用いた仕事など)

  • 様々な日常生活行為を行う(どこかに行く、物の置き場所を覚えておくなど)

  • 適切な判断を行う

喜びから悲しみに唐突に切り替わるなど、感情が変化しやすくなる場合もあります。

人格の変化もよくみられます。家族が患者の異常な行動に気づくこともあります。

認知症患者の中には自分の異常をうまく隠す人もいて、自宅で日課にしている特定の作業だけを行い、家計簿の記帳、読書、仕事といった複雑な作業は避けようとします。精神機能が悪化しても生活習慣を変えようとしない人は、日常生活行為が以前のようにできなくなったことにいらだちを覚えることがあります。重要な用事を忘れたり、やり方を間違えたりすることもあります。例えば、請求書の支払いを忘れたり、照明や暖房器具を消し忘れたりします。

初期の認知症では、例えば車の運転ができても、渋滞に巻き込まれると混乱したり、簡単に道に迷ったりすることがあります。

中期の認知症の症状

認知症の悪化に伴って、すでに表面化していた問題が悪化および拡大し、次のようなことが困難あるいは不可能になっていきます。

  • 新しい情報を学んでそれを思い出す

  • 過去の出来事を思い出す

  • 日常生活において自分の身の回りのこと(入浴、食事、着替え、トイレなど)をこなす

  • 人物や物を認識する

  • 時間の経過を追い、自分がいる場所を把握する

  • 見たことや聞いたことを理解する(この能力の低下が錯乱につながる)

  • 自分の行動をコントロールする

道に迷うことが多く、寝室やトイレへの行き方が分からなくなる場合もあります。歩くことはできますが、転倒する可能性が高くなります。約10%の患者では、こうした錯乱から幻覚、妄想、パラノイアなどの精神病症状が生じます。

車の運転には迅速な判断と手足を協調させる様々な動作が必要なため、認知症が進行するにつれて、運転は困難になっていきます。自分がどこに向かっているのかを思い出せなくなることもあります。

もともとあった人格的な特徴がより極端になることもあります。例えば、いつもお金の心配をしていた人が金銭にますます執着するようになったり、心配性だった人が常に何かを心配するようになったりします。人によっては、いらだちやすい、不安になりやすい、自己中心的、融通が利かない、怒りっぽくなるなどの変化がみられます。逆に、受動的、表情が乏しい、抑うつ、優柔不断、内気になるなどの変化が生じる人もいます。人格や精神機能が変化したことを指摘されると、敵対的な態度をとったり、興奮したりすることがあります。

睡眠のパターンにもしばしば異常がみられます。ほとんどの認知症患者は適切な量の睡眠をとりますが、深い眠りについている時間は短くなります。その結果、夜間に落ち着かなくなることがあります。また、寝つきが悪くなったり、睡眠がとぎれやすくなったりします。運動不足の場合や従事する活動が少ない場合は、日中に寝すぎてしまうことがあり、夜間に十分な睡眠がとれなくなります。

認知症における行動障害

認知症の人は、自分の行動をうまくコントロールできないために、不適切または破壊的な行動(怒鳴る、物を投げる、人や物をたたく、徘徊するなど)をとることもあります。このような行動面の異常は行動障害と呼ばれます。

この行動障害には、以下に示すような認知症によるいくつかの影響が関与しています。

  • 適切な行動のルールを忘れてしまっているために、社会的に不適切な振る舞いをしてしまうことがあります。例えば、暑いときに人前で服を脱いでしまうことがあります。あるいは、性的な衝動を覚えたときに、人前でマスターベーションをしたり、わいせつな言葉を使ったり、他者に性的な要求をしたりすることもあります。

  • 認知症の人は見たことや聞いたことを理解するのが困難になるため、他者からの手助けの申し出を脅迫と勘違いして、その人に殴りかかったりすることがあります。例えば、服を脱いでいるのを手伝おうとすると、それを攻撃と解釈して自分の身を守ろうとし、ときには相手に殴りかかることもあります。

  • 短期記憶が障害されるため、他者から聞いたことや自分がとった行動を思い出すことができなくなります。同じ質問や会話を何度も繰り返したり、相手の注意を常に自分に向けさせようとしたり、すでに受け取ったもの(食事など)を再び要求したりします。要求したものが与えられないと、興奮して動揺することもあります。

  • 他者に自分の要求を明確に(あるいはまったく)伝えることができなくなるため、痛みのために大声で叫んだり、孤独感や恐怖感のために徘徊したりすることがあります。

何が破壊的行動とみなされるかは、介護者の忍耐、患者の生活環境など、多くの要因によって決まります。

よく眠れないと、周囲を徘徊したり、大声で叫んだり、誰かを呼んだりすることがあります。

後期の認知症の症状

最終的には、認知症患者は人との会話についていけなくなり、場合によってはまったく話ができなくなります。最近と過去の両方の出来事に関する記憶が完全に失われます。身近な家族や鏡に映った自分の顔も認識できなくなる場合があります。

認知症が進行すると、脳の機能がほぼ完全に損なわれます。筋肉のコントロールにも異常が生じるため、歩行や食事をはじめとする、あらゆる日常生活行為ができなくなります。他者に全面的に依存した生活となり、やがて寝たきりの状態になります。最終的には、まったく話さなくなる可能性があります。

最終的には、食べものをのどに詰まらせずに飲み込むことも困難になります。その結果、低栄養肺炎(分泌液や食べものを口から肺に吸い込んでしまうことが原因)、褥瘡(動けなくなるため)のリスクが高くなります。

肺炎などの感染症が原因で死に至ることもしばしばあります。

診断

  • 医師による評価

  • 精神状態検査

  • ときに神経心理学的検査

  • 他の原因を否定するため、血液検査と画像検査

通常はもの忘れが最初の徴候になり、家族や医師が気づきます。

病歴

通常、医師やその他の医療従事者は、本人や家族に以下のような一連の質問をすることで認知症を診断できます。

  • 患者の年齢

  • 家族内に認知症やその他の精神機能障害があった人はいるか(家族歴)

  • 症状はいつから始まったか

  • 症状はどのくらい速く悪化したか

  • 患者にどのような変化があったか(趣味や活動をやめてしまったなど)

  • ほかにどのような病気があるか

  • どのような薬剤を服用しているか(ある種の薬剤は認知症の症状を引き起こす可能性があるため)

  • 患者が抑うつ状態にあったり悲しんでいたりしたことがあったか(特に高齢者の場合)

精神機能の検査

精神状態を調べるため、物の名前を言う、短いリストを覚えて暗唱する、文章を書く、図形を描き写すなどの簡単な課題と作業で構成される精神状態検査も行われます。

障害の程度を判定するため、または精神機能が本当に低下しているかどうかを調べるため、より詳細な検査(神経心理学的検査と呼ばれます)が必要になることもあります。この検査は気分を含めた重要な精神機能をすべて網羅していて、通常は終了までに1~3時間かかります。この検査は、医師が加齢に伴う記憶障害、軽度認知障害、うつ病から認知症を鑑別する上での助けになります。

医師は通常、患者の症状、家族歴、精神状態検査の結果などから認知症を診断できます。

また通常は、これらの情報に基づき、症状の原因としてせん妄を除外することもできます( せん妄と認知症の比較)。認知症と異なり、せん妄は迅速な治療によって回復を望めるため、せん妄を除外することは極めて重要です。

認知症を示唆する徴候には以下のものがあります。

  • 思考や行動面で問題が生じ、日常生活に支障をきたす。

  • このような問題が進行性に悪化し、日常生活がますます困難になる。

  • せん妄や、このような問題の原因になりうる精神障害がない。

さらに、患者は以下のうち少なくとも2つに該当します。

  • 新しい情報を学んでそれを思い出すことが困難

  • 言語の使用が困難

  • 空間内の物の位置を理解すること、物や顔を認識すること、部分と全体の関係を理解することが困難

  • 計画を立てる、問題を解決する、複雑な課題を処理する、適切な判断をすること(遂行機能)が困難

  • 人格、行動、または振る舞いの変化

身体診察

通常は、神経学的診察を含めた身体診察によって、他の病気が存在していないかを確かめます。このとき医師は、認知症の原因または一因となりうる病気や認知症と誤認されうる病気で治療可能なものがないかを探します。

さらに、認知症とは関係がない身体的または精神的な病気(統合失調症など)についても検査を行います。これらの病気を治療することで、患者の全般的な状態が改善されることもあるからです。

その他の検査

また、血液検査も行います。典型的には、甲状腺ホルモンの血中濃度を測定して甲状腺の病気がないかを確認したり、ビタミンB12濃度を測定して、ビタミンB12欠乏症がないかを確認したりします。

CTまたはMRI検査を行い、認知症の原因になりうる異常(脳腫瘍正常圧水頭症硬膜下血腫脳卒中など)を特定します。ときに、PET(陽電子放出断層撮影)検査またはSPECT(単一光子放出型CT)と呼ばれる特殊なCT検査を行い、認知症の種類(アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症など)の特定に役立てることもあります。

しかし、脳組織のサンプルを採取して顕微鏡で調べなければ、認知症の原因を確認することはできません。この処置は、死後解剖中に行われることがあります。

治療

  • 認知症を悪化させる病態の管理

  • 安全対策と患者の支援

  • 精神機能を改善しうる薬

  • 介護者へのケア

  • 終末期医療

ほとんどの認知症では、精神機能を回復できる治療法はありません。しかし、認知症を悪化させている病気を治療することで、ときに精神機能の低下を遅らせることができます。認知症とうつ病の両方がある場合は、セルトラリンやパロキセチンなどの抗うつ薬( うつ病の治療に用いられる薬剤)の投与とカウンセリングを行うことで、少なくとも一時的に効果が得られます。認知症のあるアルコール依存症患者では、禁酒により長期的な改善が得られる可能性があります。鎮静薬や脳の機能に影響を及ぼす薬など、認知症を悪化させる可能性のある薬剤は、可能であれば使用を中止します。

痛みや、その他の病気または健康上の問題(尿路感染症や便秘など)がある場合は、認知症との関連性があってもなくても、治療を行います。このような治療は、認知症患者が日常生活を維持する上で役立ちます。

患者を支える安全な環境を整えることは非常に役立ちます。また、特定の薬剤がしばらく助けになる場合があります。患者本人、家族、その他の介護者、医療従事者が話し合って、その人に合った最善の治療方針を決定すべきです。

安全対策

安全への配慮が必要です。訪問看護師、作業療法士または理学療法士に依頼して、自宅の安全性を評価して改善点を提案してもらうことができます。例えば、室内の照明が薄暗いと、物を見間違えやすくなるため、部屋の照明は比較的明るくしておくべきです。常夜灯や、動きを検出して点灯する照明を設置すると、役立つことがあります。このような改善策により、事故(特に転倒)を防止することができ、患者の自立度も高まります。

患者の支援

軽度から中等度の認知症患者は、通常は慣れた環境にいるときに最も良好に機能を維持できるため、自宅での生活が可能です。

一般に、明るく楽しげで、落ち着いた安全な環境を確保することが望ましく、ラジオやテレビなどの適度な刺激も必要です。見当識を保てるような配慮もすべきです。例えば、窓があればおよその時刻を把握しやすくなります。

物の配置や日課を定めることは、認知症患者が見当識を保つのに役立ち、安心感や安定感を与えます。周囲の環境や日課が変わる場合や、介護者が交代する場合は、明確かつ簡潔に説明します。また、何かを行うときや他者との接触が生じるときは(入浴や食事など)、何が起こるかをあらかじめ説明します。説明の時間をとることは、いさかいを避けるのに役立ちます。

入浴、食事、睡眠など日常生活のスケジュールを一定に保つことは、認知症患者の記憶の助けになります。就寝前の手順を一定に保つと、睡眠の質を改善できる可能性があります。

その他の活動を一定の間隔でスケジュールに組み込むと、楽しい活動や生産的な行為に注意が向き、自立して他者から必要とされているという感覚を得る上で役に立ちます。このような活動は、抑うつ感の軽減にも役立ちます。認知症になる前から関心のあった活動に従事させるのがよいでしょう。活動内容は、ある程度の刺激があって、かつ楽しめるものにすべきですが、選択肢が多すぎるものや難易度の高いものは避けます。身体的な活動は、ストレスと欲求不満を解消して、睡眠障害や破壊的行動(興奮や徘徊など)の予防に役立ちます。また、平衡感覚の改善(ひいては転倒の防止)や心肺機能の維持にも役立ちます。趣味や、最近の出来事への関心、読書など、精神的な活動を継続することは、注意力と人生への関心を維持するのに役立ちます。認知症が悪化してきた場合には、活動を細かく分けたり単純化したりする必要があります。

過度の刺激は避けるべきですが、患者が社会的に孤立しないような配慮も必要です。

スタッフや親しい知人が患者を頻繁に訪問することは、患者が社会性を保つ上での助けになります。

以下の対策により、ある程度の改善がみられることがあります。

  • 日課を単純化する。

  • 認知症患者に過度の期待をしない。

  • 患者がある程度の威厳と自尊心を保てるように配慮する。

特別な支援が必要になることもあります。患者の家族は、医療従事者、社会福祉サービス(電話帳に連絡先が掲載されています)またはインターネット(米国であればエルダーケア・ロケーター[Eldercare Locator])から、利用可能なサービスの一覧を入手できます。具体的なサービス内容としては、家事、レスパイトケア、食事の宅配、デイケアプログラム、認知症患者のための活動などがあります。24時間介護のサービスもありますが、費用は高額です。アルツハイマー病協会(Alzheimer’s Association)という団体がセーフリターンプログラム(Safe Return program)を提供しています。このプログラムは、要介護者が介護者や家族のもとに戻る手助けをするように、地域支援ネットワークに注意喚起をするものです。

認知症は通常、進行性であるため、将来の計画が不可欠です。より体制の整った環境に移る必要が生じるかなり前から、家族内で移転の計画を立て、長期療養の選択肢も検討しておきます。通常、こうした計画には医師、ソーシャルワーカー、看護師、弁護士も関与しますが、責任の大半を負うのは家族です。より介護体制の整った環境への移転を決定する場合は、安全を確保したいという要望と患者の自立心をできるだけ保ちたいという要望との間でバランスをとる必要があります。このような決断には、以下のような多くの要因が関与します。

  • 認知症の重症度

  • 患者の行動はどの程度破壊的か

  • 自宅の環境

  • 家族や介護者が協力できるか

  • 資金

  • 認知症とは別の病気や身体的問題の有無

老人ホームや介護施設などの長期療養施設の中には、認知症患者のケアを専門としている施設もあります。そうした施設のスタッフは、認知症患者の思考や行動を理解する方法や認知症患者への接し方について特別な訓練を受けています。このような施設では、居住者が安心できるようなスケジュールが決められていて、生産的で有意義な人生を送っていると感じられる適切な活動が行われます。ほとんどの施設では、適切な安全策が講じられています。例えば、入居者が施設内で迷わないように標識が掲示されていたり、徘徊を防ぐため一部のドアに鍵や警報器が設置されていたりします。施設がこういった安全対策を講じていなければ、患者の問題行動を薬剤で抑えるよりは、こういった対策を講じている施設に転居させることの方が望ましいでしょう。

認知症患者に適した環境を作る

認知症患者には、以下のような環境を整えることが有益です。

  • 安全な環境:通常は特別な安全対策が必要です。例えば、「忘れずに暖房を消してください」などと書いた大きな張り紙を掲示したり、暖房器具や電化製品にタイマーを設定したりします。事故を防止するため車の鍵を隠すことや、徘徊を防止するためドアにセンサーを設置することも有用です。徘徊が問題となっている場合は、身元の分かるブレスレットやネックレスが役立ちます。

  • 慣れた環境:認知症患者は通常、よく馴染んだ環境にいるときに、最も能力を発揮できます。新しい家や町に引っ越したり、家具を移動させたり、ときには壁を塗り替えただけでも、症状が悪化することがあります。

  • 安定した環境:入浴、食事、睡眠など日常活動のスケジュールを一定にすることは、安心感をもたらします。同じ人と定期的に接することも役立ちます。

  • 見当識を保ちやすい環境:大きな日めくり、文字盤の大きな時計、ラジオ、明るい照明、常夜灯などは見当識を保つのに役立ちます。家族や介護者は、患者になるべく頻繁に声をかけて、今いる場所や何が起こっているかを説明するとよいでしょう。

自宅から長期療養施設に移された際に認知症が悪化することがあります。しかし、ほとんどの人は短期間で慣れ、介護体制の整った環境で活動状態が改善します。

精神機能を改善しうる薬

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンは、アルツハイマー病レビー小体型認知症の治療に使用されます。リバスチグミンはパーキンソン病に伴う認知症の治療にも使用できます。

ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは、コリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる薬剤で、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害します。そのためこれらの薬剤は、神経細胞間の情報伝達に関与しているアセチルコリンの濃度を上昇させます。これらの薬剤を使用すると、認知症患者の精神機能を一時的に改善できる場合もありますが、認知症の進行を遅らせる効果はありません。最も有用性が高いのは初期の認知症に使用した場合ですが、有効性には大きな個人差があります。約3分の1の人では効果がみられません。約3分の1の人では、2~3カ月ほど若干の改善がみられます。残りの人では長期にわたってかなりの改善が得られますが、最終的には認知症が進行します。

あるコリンエステラーゼ阻害薬で効果が得られないか副作用が生じた場合は、別のものを試してみるべきです。どの薬剤でも効果がないまたは副作用がみられた場合は、この種類の薬剤の使用をやめるべきです。主な副作用は、吐き気、嘔吐、体重減少、腹痛、腹部けいれんなどです。タクリンは認知症の治療薬として最初に開発されたコリンエステラーゼ阻害薬ですが、肝臓に損傷を与える可能性があるため、現在ではほとんど使用されていません。

メマンチンは、NMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)拮抗薬という種類の薬剤で、中等度から重度のアルツハイマー病患者の精神機能を改善する可能性があります。メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬とは異なる仕組みで作用するため、コリンエステラーゼ阻害薬と同時に使用されることもあります。これらを併用すると、コリンエステラーゼ阻害薬を単独で使用した場合より高い効果が得られる可能性があります。

異常な行動の抑制に役立つ薬

破壊的行動がみられる場合は、ときに薬剤が使用されます。しかし、破壊的行動を抑制するのに最も役立つのは、薬剤を使用せず、患者毎に対策を立てることです。環境を変えるなどの他の方法で効果がなく、患者本人や周囲の人の安全を確保するのに止むを得ない場合にのみ、薬剤が使用されます。

以下のような薬剤が使用されます。

  • 抗精神病薬進行した認知症に伴う興奮や感情の爆発を抑える目的でしばしば使用されます。しかし抗精神病薬は、認知症に加えて幻覚、妄想、パラノイアなどの症状がみられる人(すなわち精神症状がある人)にしか効果的でない傾向があります。眠気、ふるえ、錯乱の悪化などの重篤な副作用が起こることもあります。比較的新しい抗精神病薬(アリピプラゾール、オランザピン、リスペリドン、クエチアピンなど)は、副作用があまりありません。しかし、長期間使用すると、血糖値の上昇(高血糖と呼ばれる状態)を引き起こしたり、精神病症状や認知症のある高齢者において、脳卒中や死亡のリスクを高める可能性があります。抗精神病薬は、精神症状があるときに限定して使用するべきです。

  • 抗てんかん薬けいれん発作を抑えるために使用される薬剤ですが、激しい感情の爆発を抑えるために使用される場合もあります。カルバマゼピン、ガバペンチン、バルプロ酸などがあります。

その他の薬剤

鎮静薬(ロラゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤を含みます)は、特定の出来事に起因する不安を軽減するため、ときに短期間限定で使用されることがありますが、長期間の使用は勧められません。

抗うつ薬(通常は選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、認知症に加えてうつ病も併発している患者にのみ使用されます。

薬剤を使用する場合、家族は定期的に医師と話し合って、その薬剤が本当に有用なのかを検討する必要があります。

栄養補助食品

多くの栄養補助食品が試されていますが、いずれも、認知症の治療にはほとんど役立たないことが証明されています。今までに、レシチン、メシル酸エルゴロイド、シクランデレートなどが検討されてきました。記憶を増強する栄養補助食品としてイチョウ葉エキスが市販されています。しかし、イチョウ葉エキスの有益な効果を証明した研究はなく、高用量では副作用をもたらす可能性があります。

ビタミンB12のサプリメントはビタミンB欠乏症がある人だけに、甲状腺ホルモン補充療法は甲状腺機能低下症がある人だけに有効です。

どのようなサプリメントであれ、使用する際は事前に主治医に相談するべきです。

介護者に対するケア

認知症患者の介護は多くのストレスがかかる重労働であり、介護者は自分自身の精神的・肉体的健康に無頓着になりがちで、抑うつ状態になったり疲弊困憊したりすることがあります。

以下のような対策が介護者の助けになります。

  • アルツハイマー病患者のニーズを効果的に満たす方法を学び、認知症患者に何が期待できるかを知る:介護者は、このような情報を、看護師、ソーシャルワーカー、関係団体、雑誌やインターネットから得ることができます。

  • 必要な場合は支援を求める:介護者は、ソーシャルワーカー(地域病院にいる人を含みます)に相談し、デイケアプログラム、訪問看護、パートまたはフルタイムのホームヘルパー、住み込みでの介護サービスなどの適切な支援について検討することもできます。また、家族支援団体に相談することも有用です。

  • 介護者自身に対するケア:介護者は自分自身にも気を配る必要があります。友人との交流、趣味、種々の活動を諦めてはいけません。

介護者へのケア

認知症患者の介護は多くのストレスがかかる重労働であり、介護者は自分自身の精神的・肉体的健康に無頓着になりがちで、抑うつ状態になったり疲弊困憊したりすることがあります。

以下のような対策が介護者の助けになります。

  • 認知症患者のニーズを効果的に満たす方法を学び、認知症患者に何が期待できるかを知る:例えば、認知症患者の間違いやもの忘れを叱っても、患者の行動がますます悪化するだけであることを介護者は知っておく必要があります。このような知識があれば、余計なストレスを防ぐことができます。介護者はまた、破壊的行動への対処も学ぶことができます。そうすれば、患者を速やかに落ち着かせることができ、場合によっては破壊的行動を予防できます。

    日常的な介護の内容については、看護師、ソーシャルワーカー、関係団体や、各種出版物、インターネットなどから情報を得ることができます。

  • 必要な場合は支援を求める:患者の行動や能力、家庭内の状況、地域社会の制度などにもよりますが、認知症患者を24時間体制で介護する負担を軽減する方法もあります。地域病院の社会福祉部門などの社会福祉機関に、適切な介護支援団体を紹介してもらうことができます。

    具体的な選択肢としては、デイケアプログラム、訪問看護、パートまたはフルタイムのホームヘルパー、住み込みでの介護サービスなどがあります。送り迎えや食事の宅配サービスなどもあります。フルタイムの介護を頼むと非常に高い費用がかかりますが、こうした費用の一部を補填する保険も数多くあります。

    カウンセリングや支援団体のサポートが介護者に有益となる場合もあります。

  • 介護者自身に対するケア:介護者は自分自身にも気を配る必要があります。例えば、運動は気分や体の健康維持に役立ちます。友人との交流、趣味、種々の活動を諦めてはいけません。

終末期の問題

認知症の人は、意思決定能力が大きく損なわれる前に、医療方針についての様々な決定を行っておくとともに、金銭上および法律上の手続きも済ませておくべきです。こうした取り決めを記載した書類は事前指示書と呼ばれます。患者は自分の代わりに治療に関する決定を行う人(医療代理人)を法律に基づいて指名し、治療に関する希望について、その代理人や医師と話し合っておくべきです( 終末期の法的または倫理的な課題)。認知症がある人は、例えば、病状が進行した場合に抗菌薬投与による感染症(肺炎など)治療や人工栄養を希望するかどうかをあらかじめ決めておくべきです。こうした問題は、実際に意思決定が必要になる前に、できるだけ早く関係者全員で話し合っておく必要があります。

認知症が悪化するに従って、治療の重点は、余命を延ばすことから快適さを保つことに移されていきます。人工栄養などの積極的な治療は、しばしば不快感を増強させます。

一方、それほど積極的でない治療で不快感を軽減することができます。例えば、以下のような治療があります。

良好な介護を行うには、1人(または2~3人)が介護を担い、患者との間に安定的な関係を築くのが最適です。安心感のある声で話しかけたり、落ち着くような音楽をかけたりすることも有用です。

さらなる情報

ここをクリックするとプロフェッショナル版へ移動します
ここをクリックするとプロフェッショナル版へ移動します
よく一緒に読まれているトピック

おすすめコンテンツ

ソーシャルメディア

TOP