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せん妄

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Department of Neurology, University of Mississippi Medical Center

医学的にレビューされた 2020年 4月
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せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。

  • 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。

  • 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。

  • せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。

せん妄という用語は、病名ではなく、異常な精神状態を指すものです。医学用語としての具体的な定義はあるものの、あらゆる種類の錯乱状態を総称する言葉として使用されることもしばしばあります。

  • せん妄では主に注意力が障害され、認知症では主に記憶力が障害されます。

  • せん妄は突然発生し、たいていいつ始まったのかをはっきり特定できます。認知症は一般にゆっくり発生し、いつ始まったのかをはっきり特定できません(表「 せん妄と認知症の比較 せん妄と認知症の比較 せん妄と認知症の比較 」を参照)。

せん妄は決して正常な状態ではなく、通常は新たに発生した重篤な異常の徴候であり、特に高齢者に多くみられます。せん妄を発症した患者には、迅速な医学的処置を行う必要があります。せん妄は通常、その原因を特定して迅速に是正できれば治癒に至ります。

せん妄は一時的に発生する状態であるため、患者数を特定するのは困難ですが、入院患者では15~50%の人に発生します。

せん妄はどの年齢層でも起こりえますが、高齢になるほど多くなります。介護施設の入居者にはせん妄が多くみられます。若い人のせん妄は、通常薬物使用または生命を脅かす病気が原因で起こります。

錯乱とは

錯乱の解釈は人によって様々ですが、医師の間では、情報を正常に処理できない状態を指す言葉として使われています。

錯乱した人は次のような状態に陥ります。

  • 会話についていけない

  • 質問に対して適切な返答ができない

  • 自分のいる場所が分からない

  • 安全に関わる重大な判断ができない

  • 重要な事実を思い出せない

錯乱は、特定の薬剤(処方薬、市販薬、違法薬物)の使用や、様々な病気など、多様な原因で生じます。せん妄と認知症はまったく異なる病態ですが、両方とも錯乱を引き起こします。

錯乱が起こった場合は、特にせん妄や認知症によるものではないかに注意して、原因の特定を試みます。

錯乱が急に発生または悪化した場合は、せん妄が原因である可能性が考えられます。このようなせん妄については、その基礎に重篤な病気が存在している可能性があるため、迅速な医学的処置が必要です。また、原因が特定されて治療されれば、せん妄の多くは回復します。

錯乱が徐々に現れた場合は、認知症が原因である可能性が考えられます。この場合、医学的処置が必要ですが、急を要するわけではありません。認知症では、治療によって精神機能の低下を遅らせることはできますが、低下を止めることは通常できません。

原因

多くの病気の発生時または悪化時に、せん妄が起こりえます。極めて病状が重い場合または脳の機能に影響を及ぼす薬(向精神薬)を使用した場合は、誰でもせん妄状態に陥る可能性があります。

全体として最も一般的な原因は以下のものです。

入院、手術、長期間使用していた薬物からの離脱、その他の特定の病気、毒物なども原因になります。

高齢者、脳卒中を起こしたことのある人、 認知症 認知症 認知症とは、記憶、思考、判断、学習能力などの精神機能が、ゆっくりと進行性に低下していく病気です。 典型的な症状は、記憶障害、言語や動作の障害、人格の変化、見当識障害、破壊的または不適切な行動などです。 症状が進行すると普段の生活が送れなくなり、他者に完全に依存するようになります。 診断は症状と身体診察および精神状態検査の結果に基づいて下されます。 原因を特定するために血液検査と画像検査が行われます。 さらに読む 患者、 パーキンソン病 パーキンソン病 脳は、何百万もの神経細胞を含む灰白質と白質から構成されています。これらの細胞(ニューロン)は、神経伝達物質という化学信号を放出することによって情報のやりとりをしています。ニューロンが刺激されると、ニューロンから神経伝達物質が放出され、それがシナプスと呼ばれる隙間を渡って、別のニューロン上の受容体に結合することで信号が送られます。 パーキンソン病では、筋肉の動きに関与する脳の領域、特に中脳の黒質にある色素性ニューロンが変性しています。この... さらに読む 患者、または別の病気に起因する脳損傷のある患者では、比較的軽い病態でもせん妄をきたす可能性があります。せん妄をもたらしうる重症度の低い病態には以下のものがあります。

人によっては、原因を特定できない場合もあります。

入院

ICUとは、隔離された部屋で、一般的に窓や時計がありません。すると、感覚からの刺激が少なくなり、見当識が失われる可能性があります。また、夜間に検査や治療のために起こされたり、大きな信号音を出すモニター、インターホン、廊下から聞こえてくる声、アラーム音などが邪魔になったりして睡眠が妨げられます。また、ICUに入っている人の多くは重篤な病気を抱えていて、せん妄を誘発しうる薬を投与されていることがあります。

ICUに入っている患者は、けいれんを伴わない 発作 けいれん性疾患 けいれん性疾患では、脳の電気的活動に周期的な異常が生じることで、一時的に脳の機能障害が引き起こされます。 多くの人では、けいれん発作が始まる直前に感覚の異常がみられます。 コントロールできないふるえや意識消失が起こる場合もありますが、単に動きが止まったり、何が起こっているか分からなくなったりするだけにとどまる場合もあります。... さらに読む (非けいれん性てんかん発作と呼ばれます)を起こすことがあります。このような発作がせん妄の原因になることがありますが、けいれんや、その他の典型的な発作の症状を伴わないため、誰も発作に気づかないことがあります。誰も発作に気づかなければ、迅速かつ適切な治療を行えません。

手術

せん妄は手術後にも非常に起こりやすくなります。原因としては手術によるストレス、手術中に使用される麻酔薬、術後に使用される鎮痛薬などが考えられます。

手術を受けようとしている患者が、普段使用する物質(レクリエーショナルドラッグ、アルコール、タバコなど)を摂取できない場合にせん妄が起こることもあります。このような物質をやめようとするときに、せん妄を伴う 離脱症状 離脱症状 物質誘発性障害は、物質の直接的な作用によって問題が引き起こされる 物質関連障害の一種です。 物質誘発性障害には以下のものがあります。 中毒 離脱症状 物質誘発性精神障害 さらに読む が生じることがあります。

薬剤の使用

向精神薬は脳の神経細胞に直接作用し、ときにせん妄を引き起こします。具体的には以下のものがあります。

せん妄を引き起こす可能性のある薬剤はほかにも数多くあります。以下はその例です。

薬剤からの離脱

長期間使用していた薬剤を急にやめることでせん妄が発生する場合もあり、そのような薬剤の例として鎮静薬(ベンゾジアゼピン系薬剤やバルビツール酸系薬剤など)やオピオイド鎮痛薬が挙げられます。

せん妄は、アルコール依存症の人が飲酒を急にやめたとき(振戦せん妄 離脱症状 と呼ばれます)、ヘロイン使用者がヘロインの使用を急にやめたときにもよく起こります。

病気

血液中の 電解質 電解質の概要 人の体内の水分量は体重の2分の1をはるかに上回ります。体内の水分は様々な空間(体液コンパートメントと呼ばれています)に制限されて存在していると考えられています。主に次の3つのコンパートメントがあります。 細胞内の体液 細胞の周囲の体液 血液 体が正常に機能するには、これらの各領域で体液量が偏らないようにする必要があります。 さらに読む (カルシウム、ナトリウム、マグネシウムなど)の濃度が異常になると、神経細胞による代謝活性が妨げられて、せん妄が起こることがあります。電解質濃度が異常になる原因には、利尿薬の使用、脱水、腎不全や広範囲に及ぶがんなどの病気があります。

甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの産生が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む 甲状腺機能低下症 (甲状腺の活動が不十分になった状態)では、せん妄が起こり、かつ反応が鈍くなります(嗜眠[しみん])。逆に活動が異常に高まった状態(甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む 甲状腺機能亢進症 )では過活動を伴うせん妄が起こります。

肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む または 腎不全 腎不全の概要 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合( 急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく場合( 慢性腎臓病、慢性腎不全とも呼ばれます)もあります。腎不全になると、腎臓は血液をろ過して老廃物... さらに読む を発症したにもかかわらず、診断されていない場合、長年使用し続けている薬剤で、以前は問題のなかったものがせん妄の原因になることがあります。肝不全または腎不全になると、薬物が肝臓または腎臓で処理されず、正常に除去されません。その結果、体内に蓄積した薬物が脳に達し、せん妄を引き起こすことがあります。

若い人のせん妄の原因は通常、(薬物とアルコールでなければ)以下のものです。

高齢者では、しばしば以下のものが原因になります。

このような感染症は、脳に間接的な影響を及ぼすことがあります。

一部の病気(脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む 脳腫瘍 脳腫瘍の概要 脳腫瘍は、脳内にできた良性または悪性の増殖組織です。脳内で発生するものと、体の別の部位から脳に転移してきたものとがあります。 症状としては、頭痛、人格の変化(突然の抑うつ、不安、自制がきかなくなるなど)、平衡感覚の消失、集中力の低下、けいれん発作、協調運動障害などがみられます。 脳腫瘍の多くは画像検査で発見できますが、ときに腫瘍の生検が必要になる場合もあります。 治療法は手術、放射線療法、化学療法などで、これらを組み合わせることもありま... さらに読む 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍とは、脳の中に膿がたまった状態のことです。 脳膿瘍は、脳以外の頭部もしくは血流に生じた感染から、または傷を介して、細菌が脳に侵入することで形成されます。 頭痛、眠気、吐き気、体の片側の筋力低下、けいれん発作が起こることがあります。 頭部の画像検査を行う必要があります。 抗菌薬を投与し、通常は針で膿瘍をドレナージするか、手術で切除します。 さらに読む など)は、脳に直接損傷を与えることでせん妄の症状を引き起こします。

毒物

若い人では、消毒用アルコールや不凍液などの毒物の摂取がせん妄の原因としてよくみられます。

加齢に関連する注意点:せん妄

せん妄は高齢者に多くみられ、高齢者の家族が医師や病院に助けを求める際によくある理由です。高齢者の約15~50%は、入院中にせん妄を経験します。

原因

若い人にせん妄を引き起こす病態が、高齢者のせん妄の原因になることもあります。しかし高齢者では、以下に挙げるようなより軽い病態からせん妄が発生することもあります。

加齢に伴う特定の変化により、高齢者はせん妄になりやすい傾向があります。具体的な変化としては以下のものがあります。

  • 薬に対する感受性の高まり

  • 脳の変化

  • せん妄のリスクを高める病気の発生

薬剤:高齢者では、多く薬剤に敏感になっています。高齢者におけるせん妄の最も一般的な原因は、鎮静薬など脳の機能に影響を及ぼす薬の使用です。しかし、多くの市販薬(特に抗ヒスタミン薬)を含め、脳の機能に影響を及ぼさない薬剤が、せん妄を引き起こすこともあります。こうした薬剤の多くには 抗コリン作用 処方薬の便益とリスク 処方薬の便益とリスク があり、高齢者はこの作用に対して敏感になっています。錯乱はこうした作用の1つです。

加齢に伴う脳の変化:せん妄が高齢者により多くみられる理由の1つに、一部の加齢に伴う脳の変化によってせん妄にかかりやすくなることが挙げられます。例えば、高齢者では、脳細胞の数が減少し、神経伝達物質(脳の神経細胞間の情報伝達を可能にする物質)であるアセチルコリンが減少しています。(薬剤、病気、状況などによって)ストレスが生じると、アセチルコリンの量がさらに減少して、脳の機能が阻害されます。そのため、高齢者では、このようなストレスによってせん妄が発生する可能性が特に高くなります。

その他の病態:せん妄が起こりやすくなる病態にはほかにも以下のようなものがあり、高齢者ではこれらの病態がよくみられます。

  • 脳卒中

  • 認知症

  • パーキンソン病

  • 神経の変性を引き起こすその他の病気

  • 3剤以上の薬剤の併用

  • 脱水

  • 低栄養

  • 体を動かせない状態

せん妄が別の(ときに重篤な)病気の最初の徴候であることもしばしばあります。

症状

高齢者では、せん妄の持続時間が長くなる傾向があります。

最も顕著な症状は錯乱ですが、高齢者の錯乱は気づかれにくい場合があります。せん妄が起こった場合、若い人は興奮状態となることが多いのですが、非常に高齢の人は物静かになって内向的になる傾向があります。このような場合は、せん妄を認識するのがさらに困難になります。

高齢者に精神病症状がみられた場合、それはせん妄か認知症の徴候であるのが通常です。精神障害が原因の精神病症状が高齢になってから始まることはめったにありません。

高齢者には認知症が多いため、せん妄を発見するのがさらに困難になりますが、これはいずれの病態でも錯乱が起こるためです。医師は、錯乱が生じた速さと錯乱が起こる前の精神機能を検討することによって、せん妄と認知症を鑑別します。また、様々な思考力を検査するための一連の質問も行います(精神医学的診察 精神状態 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む )。精神機能の急激な低下がみられた患者には、たとえ認知症が判明している場合でも、せん妄でないことが確認されるまではせん妄があるものとして治療を進めるのが通常です。認知症になると、せん妄を発症するリスクが高まるため、認知症とせん妄の両方がある人もいます。

治療

せん妄は通常、入院を要しますが、そのために別の様々な問題(低栄養 低栄養 低栄養とは、カロリーまたは1つ以上の必須栄養素が不足している状態です。 低栄養は、食べものを手に入れたり調理したりできない、食べものを食べたり吸収したりしにくくなる病気がある、またはカロリーの必要量が大幅に増えているということが原因で発生することがあります。 低栄養は、多くの場合、見た目にも明らかです。低体重で、しばしば骨が突き出ており、... さらに読む 低栄養 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む 褥瘡 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫によって皮膚に十分な血液が流れなくなることで、その部分に損傷が生じた状態です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。... さらに読む 床ずれ [じょくそう]など)が起こる場合もあります。高齢者では、これらの問題が深刻な結果につながるおそれがあります。したがって高齢の患者には、医師、理学療法士、作業療法士、看護師、ソーシャルワーカーなど複数の分野の専門家から成る 集学的チーム 集学的ケア 高齢者のケアは複雑になりがちです。高齢者はしばしば異なる場所で複数の医療従事者にかかっています。年齢を重ねるにつれて移動や交通機関の利用が難題になります。また、メディケア(米国の高齢者医療保険制度)の処方薬プランでカバーされる薬が保険会社により異なり、頻繁に変更されます。このような複雑さに対応するには、かかりつけ医または高齢者のケアを専門... さらに読む が治療にあたることが有益です。

予防

入院中の高齢者のせん妄を予防するため、家族は以下のような対策をとるよう病院スタッフに協力を求めるとよいでしょう。

  • 定期的に動き回るように患者を促す

  • 部屋に時計とカレンダーを置く

  • 夜間の喧噪(けんそう)をできる限り少なくする

  • 患者が十分に飲食していることを確認する

家族が見舞いに行って患者と会話することは、患者の見当識を保つのに役立ちます。せん妄患者は恐怖心を抱いていることもあるため、聞きなれた家族の声を聞くと安心します。

症状

通常、せん妄は突然始まり、数時間から数日間かけて進行します。せん妄状態の人の行動は様々ですが、おおまかには、徐々に酩酊していく人に似た状態になります。

せん妄の目印は以下の症状です。

  • 注意を払えない

せん妄状態の人は何かに集中することができなくなるため、新しい情報を処理できず、最近の出来事を思い出せなくなります。そのため、自分の周りで何が起こっているのか理解できず、見当識障害と呼ばれる状態になります。現在の時刻や場所が突然分からなくなった場合は、せん妄の初期徴候である可能性があります。重度のせん妄では、自分や他の人が誰であるかも分からなくなることがあります。思考が乱れ、当てもなく歩き回ったり、ときに支離滅裂な行動をとったりします。

覚醒(意識)レベルの変動が大きく、異常なほど覚醒していても、次の瞬間には眠そうになり外部の刺激に鈍くなることもあります。その他の症状もしばしば分刻みで変化し、特に夕方に悪化する傾向があります(日没現象と呼ばれます)。

せん妄状態の人は、睡眠中も落ち着きがなかったり、睡眠と覚醒のサイクルが逆転して昼間に眠って夜間に起きていたりすることもよくあります。

奇妙で恐ろしい幻覚を見たり、実際にはいない人や存在しない物が見えたりすることもあります。なかにはパラノイア(迫害されているという根拠のない思い込み)や妄想(誤った強い思い込みで、通常は知覚や経験を誤って解釈してしまうことによって生じるもの)がみられる人もいます。

せん妄は人格や気分を変えてしまうこともあります。物静かで内向的になる結果、せん妄状態にあることを誰からも気づかれない人もいれば、イライラして、興奮状態で慌ただしく動き回る人もいます。鎮静薬の使用後にせん妄を起こした患者は、強い眠気を覚えて内向的になる可能性があります。アンフェタミンを使用した人や鎮静薬の使用を中止した人は、攻撃的で過活動になることがあります。これら2種類の行動が交互にみられる人もいます。

知っていますか?

  • 高齢になってから初めて現れる精神病症状は、多くの場合、せん妄または認知症を意味します。

診断

  • 医師による評価

  • 精神状態検査

  • 血液検査、尿検査、画像検査により、可能性のある原因を調べる

医師は症状に基づいてせん妄を疑い、特に患者が注意を払えない場合や、注意力がころころと変動する場合、せん妄の可能性が高まります。しかし、軽度のせん妄は発見が困難な場合があります。入院患者のせん妄には医師も気づかないことがあります。

せん妄と考えられる人のほとんどは、入院させて評価を行い、本人と周囲の人のけがを予防します。入院させれば、診断を迅速かつ安全に行うことができ、何らかの病気が見つかればすぐに治療することも可能です。

せん妄は急速に死に至る重篤な病気によって起こる場合もあるため、医師はできるだけ迅速に原因を究明するよう努めます。多くの場合、原因を特定して治療を行えば、せん妄は消失します。

診断ではまず、精神機能に影響を与えるその他の病気と鑑別するため、患者の病歴に関する情報をできるだけ収集するとともに、身体診察と各種の検査を行います。

病歴

通常、せん妄状態にある人は受け答えができないため、医師は友人や家族など付き添いの人に質問をします。医師は以下のようなことを尋ねます。

  • 錯乱がどのように始まったか(突然始まったか徐々に始まったか)

  • どのくらい速く進行したか

  • 身体的および精神的な健康状態はどうだったか

  • どのような薬物(アルコールや違法薬物も含む[特に若い人の場合])や栄養補助食品(薬用ハーブも含む)を使用しているか

  • 最近になって使用を開始または中止した薬剤はないか

このほかにも診療記録を調べたり、警察や救急隊から事情を聴いたり、薬剤のびんや特定の書類などの証拠を調べたりして、情報を収集します。家計簿、最近の手紙、未払いの請求書などの書類のほか、患者が約束を忘れた事実などがあれば、これらが精神機能の変化を発見する手がかりになることもあります。

せん妄に興奮、幻覚、妄想、またはパラノイアを伴う場合は、 躁うつ病 双極性障害 双極性障害(以前の躁うつ病)では、抑うつ状態と躁状態または軽躁状態(軽度の躁状態)が交互にみられます。躁状態は、過度の身体活動や、置かれた状況と著しく不釣り合いな高揚感を特徴とします。 双極性障害の発症には、おそらく遺伝も一部関与しています。 抑うつ状態と躁状態は、別々に生じることもあれば、同時に生じることもあります。 過度に気持ちがふさぎ込んで人生に興味がなくなる時期と、気分が高揚し、極端に活動的になって、しばしば易怒性を示す時期とが... さらに読む 統合失調症 統合失調症 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症は、遺伝的な要因と環境的な要因の双方によって起こると考えられています。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわた... さらに読む などの精神病との鑑別が必要になります。精神障害によって精神病症状が起きている人では、錯乱や記憶障害が起きることはなく、意識レベルも変化しません。高齢になってから初めて現れる精神病症状は、多くの場合、せん妄または認知症を意味します。

身体診察

精神状態検査

せん妄が疑われる場合は、 精神状態検査 精神状態 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む を行うこともあります。医師はまず、主な問題が注意力の低下であるかどうかを判断するための質問をします。例えば、短いリストを読み上げ、それを復唱するよう患者に指示します。そして、患者が読み上げられた内容を記憶に取り入れている(記銘している)かどうかを判断します。せん妄状態の人はこれができません。精神状態検査では、ほかに短期記憶と長期記憶を調べたり、物の名前を言う、文章を書く、図形を描き写すなどの指示が与えられたりします。せん妄のある人は、この検査に反応できないほど、錯乱または興奮していたり内向的になっていたりすることがあります。

検査

血液と尿のサンプルを採取して分析し、疑われるせん妄の原因を調べます。例えば、電解質や血糖値の異常、肝疾患や腎疾患は、せん妄の一般的な原因です。そのため、医師は通常血液検査を行い、電解質濃度と血糖値を測定したり、肝臓や腎臓がどの程度機能しているかを調べます。甲状腺疾患が疑われる場合、甲状腺がどの程度機能しているかを評価するための検査を行います。特定の薬剤が原因であることが疑われる場合、血液中の薬物濃度を測定する検査を行います。この検査は、血液中の薬物濃度が有害な影響を与えるレベルであるか、患者が過剰摂取をしたかどうかを判定する上で役立ちます。

通常、脳のCT検査または脳MRI検査が行われます。

心臓と肺の機能を評価するため、心電図検査、パルスオキシメーター(センサーを使用して血液中の酸素レベルを測定する検査法)、胸部X線検査が行われることもあります。

発熱や頭痛がみられる患者では、 腰椎穿刺 によって採取した脳脊髄液(髄液)を分析することもあります。髄液の検査は、脳や脊髄の周囲での感染症や出血が原因でないことを確認するのに役立ちます。

治療

  • 原因の治療

  • 一般的な対策

  • 興奮を管理する対策

せん妄がある人のほとんどは入院が必要です。ただし、せん妄の原因が容易に処置できるものであれば(例えば低血糖など)、救急外来で短時間の経過観察を行っただけで帰宅できることもあります。

原因の治療

原因が特定できたら、速やかに是正または治療します。例えば、感染症であれば抗菌薬による治療を行い、脱水であれば水分と電解質を静脈内投与します。アルコールの離脱症状によるせん妄にはベンゾジアゼピン系薬剤を投与します(同時に、患者が再び飲酒しないようにするための対策も講じます)。

通常は、せん妄の原因疾患を速やかに治療すれば、恒久的な脳損傷を防止でき、完全な回復が得られます。

せん妄を悪化させる可能性のある薬剤は、可能であれば使用を中止します。

一般的な対策

一般的な対策も重要です。

できるだけ静かで落ち着ける環境を確保します。部屋に何があり誰がいるのか、そして自分がどこにいるのかが分かるように、十分な明るさを維持します。時計、カレンダー、家族の写真などを部屋に置いておくと、見当識を保つのに役立ちます。病院のスタッフや家族は、頻繁に話しかけて患者を安心させ、今何時か、今どこにいるのかを教えます。治療や処置の開始前と実施中には内容を患者に説明します。眼鏡や補聴器が必要な患者では、すぐに手に取れるところに置いておきます。

せん妄を起こしている人は 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリウムやカリウムなどの無機塩(電解質)を補給する治療が行われます。 さらに読む 低栄養 低栄養 低栄養とは、カロリーまたは1つ以上の必須栄養素が不足している状態です。 低栄養は、食べものを手に入れたり調理したりできない、食べものを食べたり吸収したりしにくくなる病気がある、またはカロリーの必要量が大幅に増えているということが原因で発生することがあります。 低栄養は、多くの場合、見た目にも明らかです。低体重で、しばしば骨が突き出ており、... さらに読む 低栄養 失禁 成人の尿失禁 尿失禁とは、自分では意図せずに尿が漏れることです。 尿失禁は、男女とも年齢を問わず起きる可能性がありますが、女性と高齢者でより多くみられ、高齢女性の約30%、高齢男性の約15%が尿失禁を起こしています。尿失禁は高齢者でより多くみられるものの、加齢に伴う正常な変化の一部ではありません。尿失禁は、利尿効果のある薬を服用した場合のように突然で一時的なこともあれば、長期にわたって持続すること(慢性)もあります。慢性の尿失禁であっても、ときに軽減... さらに読む 成人の尿失禁 転倒 高齢者の転倒 転倒のほとんどは、身体的に動作またはバランス能力に支障をきたす状態の人が、環境内の障害物に遭遇したときに起きます。 多くの場合は転倒前に症状はないものの、めまいまたはその他の症状が現れている場合もあります。 転倒後、骨折または皮下出血がみられることがあります。 転倒の原因が病気か否かを判断するために、医師はしばしば検査を行います。... さらに読む 褥瘡 床ずれ 床ずれ(褥瘡[じょくそう]とも呼ばれます)とは、長時間の圧迫によって皮膚に十分な血液が流れなくなることで、その部分に損傷が生じた状態です。 床ずれは、圧迫に加えて、皮膚を引っ張る力、摩擦、湿気などの要因が組み合わさって発生する場合が多く、特に骨のある部分の皮膚でその傾向が強くみられます。... さらに読む 床ずれ など多くの問題を起こしやすく、これらを予防するためのきめ細かいケアが必要です。したがってせん妄の患者、特に高齢の患者には、医師、理学療法士、作業療法士、看護師、ソーシャルワーカーなど 複数の分野の専門家から成る集学的チーム 集学的ケア 高齢者のケアは複雑になりがちです。高齢者はしばしば異なる場所で複数の医療従事者にかかっています。年齢を重ねるにつれて移動や交通機関の利用が難題になります。また、メディケア(米国の高齢者医療保険制度)の処方薬プランでカバーされる薬が保険会社により異なり、頻繁に変更されます。このような複雑さに対応するには、かかりつけ医または高齢者のケアを専門... さらに読む が治療にあたることが有益です。

興奮の管理

患者が極度に興奮している場合や幻覚が起こっている場合は、自分自身や介護者にけがをさせる可能性があります。このようなけがを予防するためには、以下のような対策が有用です。

  • 家族が患者に付き添う。

  • 病室はナースステーションの近くにする。

  • 必要に応じて付添人を手配する。

  • 点滴チューブ、膀胱カテーテル、抑制帯などの器具は、患者をさらに混乱または動揺させて受傷のリスクを高める可能性があるため、できるだけ使用しない。

しかし、入院中には、患者が点滴チューブを勝手に抜いたり転倒したりしないように、ときに抑制帯が必要になる場合もあります。拘束は患者を動揺させて興奮を悪化させるおそれがあるため、訓練を受けたスタッフが慎重に使用し、頻繁に外すようにするとともに、できるだけ早く使用を中止します。

薬剤は、他のどの方法でも効果が得られなかった場合にのみ使用します。興奮を抑える薬剤としては通常、次の2種類が使用されますが、どちらも理想的な薬剤ではありません。

これらの薬剤が必要な場合、医師は慎重に処方し、患者が高齢の場合は特に注意を払います。用量もできるだけ少なくし、できるだけ早く使用を終わらせます。

予後(経過の見通し)

原因を速やかに特定して治療すれば、せん妄を起こした人のほとんどが完全に回復します。治療が少しでも遅れると完全に回復する可能性は減少します。せん妄に対する治療を行っても、一部の症状は数週間から数カ月間続き、改善に時間がかかることもあります。場合によっては、せん妄から認知症に似た慢性の脳機能障害に発展することがあります。

入院患者でせん妄を起こした人は、入院中に合併症(死亡も含まれます)が起こる割合が、せん妄のない人と比べて最大で10倍高くなります。入院中にせん妄になった患者の35~40%が、1年以内に死亡しますが、死因はしばしば他の重篤な病気によるもので、せん妄そのものによって死亡するわけではありません。

入院患者でせん妄を起こした人(特に高齢者)は、入院期間が長くなり、治療費も高くなります。退院後の回復にも時間がかかります。

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