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せん妄

執筆者:

Juebin Huang

, MD, PhD, Memory Impairment and Neurodegenerative Dementia (MIND) Center, University of Mississippi Medical Center

最終査読/改訂年月 2018年 3月
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せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。注意力および思考力の低下、見当識障害、覚醒(意識)レベルの変動を特徴とします。

  • 多くの病気、薬剤、毒物などが、せん妄の原因になりえます。

  • 診断は症状と身体診察の結果に基づいて下され、原因を特定するために血液検査、尿検査、画像検査を行います。

  • せん妄は通常、原因になっている異常を迅速に処置または治療することで治癒します。

せん妄と認知症の概要も参照のこと。)

せん妄という用語は、病名ではなく、異常な精神状態を指すものです。医学用語としての具体的な定義はあるものの、あらゆる種類の錯乱状態を総称する言葉として使用されることもしばしばあります。

せん妄と認知症は同時に発生することもありますが、この2つはまったく別のものです。

  • せん妄では主に注意力が障害され、認知症では主に記憶力が障害されます。

  • せん妄は突然発生し、たいていいつ始まったのかをはっきり特定できます。認知症は一般にゆっくり発生し、いつ始まったのかをはっきり特定できません。

せん妄は決して正常な状態ではなく、通常は新たに発生した重篤な異常の徴候であり、特に高齢者に多くみられます。せん妄を発症した患者には、迅速な医学的処置を行う必要があります。せん妄は通常、その原因を特定して迅速に是正できれば治癒に至ります。

せん妄は一時的に発生する状態であるため、患者数を特定するのは困難ですが、70歳以上の入院患者では15~50%の人に発生します。

せん妄はどの年齢層でも起こりえますが、高齢になるほど多くなります。介護施設の入居者にはせん妄が多くみられます。若い人のせん妄は、通常薬物使用または生命を脅かす病気が原因で起こります。

錯乱とは

錯乱の解釈は人によって様々ですが、医師の間では、情報を正常に処理できない状態を指す言葉として使われています。

錯乱した人は次のような状態に陥ります。

  • 会話についていけない

  • 質問に対して適切な返答ができない

  • 自分のいる場所が分からない

  • 安全に関わる重大な判断ができない

  • 重要な事実を思い出せない

錯乱は、特定の薬剤(処方薬、市販薬、違法薬物)の使用や、様々な病気など、多様な原因で生じます。せん妄と認知症はまったく異なる病態ですが、両方とも錯乱を引き起こします。

錯乱が起こった場合は、特にせん妄や認知症によるものではないかに注意して、原因の特定を試みます。

錯乱が急に発生または悪化した場合は、せん妄が原因である可能性が考えられます。このようなせん妄については、その基礎に重篤な病気が存在している可能性があるため、迅速な医学的処置が必要です。また、原因が特定されて治療されれば、せん妄の多くは回復します。

錯乱が徐々に現れた場合は、認知症が原因である可能性が考えられます。この場合、医学的処置が必要ですが、急を要するわけではありません。認知症では、治療によって精神機能の低下を遅らせることはできますが、低下を止めることは通常できません。

原因

多くの病気の発生時または悪化時に、せん妄が起こりえます。極めて病状が重い場合または脳の機能に影響を及ぼす薬(向精神薬)を使用した場合は、誰でもせん妄状態に陥る可能性があります。

全体として最も一般的な原因は以下のものです。

  • 薬剤(特に抗コリン作用のあるもの、向精神薬オピオイド

  • 脱水

  • 感染症(肺炎、血流感染症[敗血症]、全身に影響を及ぼし発熱をきたす感染症、尿路感染症など)

  • 腎不全肝不全、血液中の酸素レベルの低下(低酸素症と呼ばれ、肺炎などで起こることがある)(特にこれらの病気が突然発生したり、急速に進行した場合)

入院、手術、薬物からの離脱、その他の特定の病気、毒物なども原因になります。

高齢者、脳卒中を起こしたことのある人、認知症患者、パーキンソン病患者、または神経の変性を起こす病気のある患者では、比較的軽い病態でもせん妄をきたす可能性があります。比較的軽い病態とは、以下のようなものをいいます。

  • 尿路感染症などの些細な病気

  • 重度の便秘

  • 痛み

  • 膀胱カテーテル(膀胱から尿を排出するための細いチューブ)の使用

  • 長期的な睡眠不足

  • 感覚遮断(社会的に隔離された状態、眼鏡または補聴器を使用できない状態など)

人によっては、原因を特定できない場合もあります。

入院

入院、特に集中治療室(ICU)への入室が、せん妄の原因やきっかけとなる場合があります。

ICUとは、隔離された部屋で、一般的に窓や時計がありません。すると、感覚からの刺激が少なくなり、見当識が失われる可能性があります。また、夜間に検査や治療のために起こされたり、大きな信号音を出すモニター、インターホン、廊下から聞こえてくる声、アラーム音などが邪魔になったりして睡眠が妨げられます。また、ICUに入っている人の多くは重篤な病気を抱えていて薬剤の投与を受けているため、せん妄がさらに起こりやすくなります。

ICUに入っている患者は、けいれんを伴わない発作(非けいれん性てんかん発作と呼ばれます)を起こすことがあります。このような発作がせん妄の原因になることがありますが、けいれんや、その他の典型的な発作の症状を伴わないため、誰も発作に気づかないことがあります。誰も発作に気づかなければ、迅速かつ適切な治療を行えません。

手術

せん妄は手術後にも非常に起こりやすくなります。原因としては手術によるストレス、手術中に使用される麻酔薬、術後に使用される鎮痛薬などが考えられます。

手術を受けようとしている患者が、普段使用する物質(レクリエーショナルドラッグ、アルコール、タバコなど)を摂取できない場合にせん妄が起こることもあります。このような物質をやめようとするときに、せん妄を伴う離脱症状が生じることがあります。

薬剤の使用

せん妄の原因で可逆的なもののうち、最も多くを占めるのは薬剤です。若い人では、違法薬物の使用と急性アルコール中毒が一般的な原因です。高齢者では通常、処方薬が原因です。

向精神薬は脳の神経細胞に直接作用し、ときにせん妄を引き起こします。具体的には以下のものがあります。

せん妄を引き起こす可能性のある薬剤はほかにも数多くあります。以下はその例です。

薬剤からの離脱

長期間使用していた薬剤を急にやめることでせん妄が発生する場合もあり、そのような薬剤の例として鎮静薬(ベンゾジアゼピン系薬剤やバルビツール酸系薬剤など)やオピオイド鎮痛薬が挙げられます。

せん妄は、アルコール依存症の人が飲酒を急にやめたとき(振戦せん妄と呼ばれます)、ヘロイン使用者がヘロインの使用を急にやめたときにもよく起こります。

病気

血液中の電解質(カルシウム、ナトリウム、マグネシウムなど)の濃度が異常になると、神経細胞による代謝活性が妨げられて、せん妄が起こることがあります。電解質濃度が異常になる原因には、利尿薬の使用、脱水、腎不全や広範囲に及ぶがんなどの病気があります。

血糖値が極めて高い(高血糖)または低い(低血糖)場合にもせん妄がよく起こります。

甲状腺機能低下症(甲状腺の活動が不十分になった状態)では、せん妄が起こり、かつ反応が鈍くなります(嗜眠[しみん])。逆に活動が異常に高まった状態(甲状腺機能亢進症)では過活動を伴うせん妄が起こります。

肝不全または腎不全を発症したにもかかわらず、診断されていない場合、長年使用し続けている薬剤で、以前は問題のなかったものがせん妄の原因になることがあります。肝不全または腎不全になると、薬物が肝臓または腎臓で処理されず、正常に除去されません。その結果、体内に蓄積した薬物が脳に達し、せん妄を引き起こすことがあります。

若い人のせん妄の原因は通常、(薬物とアルコールでなければ)以下のものです。

  • 脳に直接影響を及ぼす病態(例えば、髄膜炎脳炎などの脳感染症)

高齢者では、しばしば以下のものが原因になります。

このような感染症は、脳に間接的な影響を及ぼすことがあります。

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB群の1つであるチアミンの重度の欠乏によって発生し、錯乱やせん妄の原因になります。治療しないでいると、ウェルニッケ脳症から重度の脳損傷、昏睡、または死亡に至ることがあります。

毒物

若い人では、消毒用アルコールや不凍液などの毒物の摂取がせん妄の原因としてよくみられます。

加齢に関連する注意点:せん妄

せん妄は高齢者に多くみられ、高齢者の家族が医師や病院に助けを求める際によくある理由です。高齢者の約15~50%は、入院中にせん妄を経験します。

原因

若い人にせん妄を引き起こす病態が、高齢者のせん妄の原因になることもあります。しかし高齢者では、以下に挙げるようなより軽い病態からせん妄が発生することもあります。

  • 脱水

  • 通常は思考力に影響しない病気(尿路感染症、インフルエンザ、チアミンまたはビタミンB12欠乏症など)

  • 痛み

  • 尿閉(膀胱に尿が貯まっても排尿できない状態)または重度の便秘

  • 感覚遮断(社会的に隔離された状態や、眼鏡または補聴器を使用できない状態など)

  • 睡眠不足

  • ストレス(種類は問わない)

  • 膀胱カテーテル(膀胱から尿を排出するための細いチューブ)の使用

加齢に伴う特定の変化により、高齢者はせん妄になりやすい傾向があります。具体的な変化としては以下のものがあります。

  • 薬に対する感受性の高まり

  • 脳の変化

  • せん妄のリスクを高める病気の発生

薬剤:高齢者では、多く薬剤に敏感になっています。高齢者におけるせん妄の最も一般的な原因は、鎮静薬など脳の機能に影響を及ぼす薬の使用です。しかし、多くの市販薬(特に抗ヒスタミン薬)を含め、脳の機能に影響を及ぼさない薬剤が、せん妄を引き起こすこともあります。こうした薬剤の多くには抗コリン作用があり、高齢者はこの作用に対して敏感になっています。錯乱はこうした作用の1つです。

加齢に伴う脳の変化:せん妄が高齢者により多くみられる理由の1つに、一部の加齢に伴う脳の変化によってせん妄にかかりやすくなることが挙げられます。例えば、高齢者では、脳細胞の数が減少し、神経伝達物質(脳の神経細胞間の情報伝達を可能にする物質)であるアセチルコリンが減少しています。(薬剤、病気、状況などによって)ストレスが生じると、アセチルコリンの量がさらに減少して、脳の機能が阻害されます。そのため、高齢者では、このようなストレスによってせん妄が発生する可能性が特に高くなります。

その他の病態:せん妄が起こりやすくなる病態にはほかにも以下のようなものがあり、高齢者ではこれらの病態がよくみられます。

  • 脳卒中

  • 認知症

  • パーキンソン病

  • 神経の変性を引き起こすその他の病気

  • 3剤以上の薬剤の併用

  • 脱水

  • 低栄養

  • 体を動かせない状態

せん妄が別の(ときに重篤な)病気の最初の徴候であることもしばしばあります。

症状

高齢者では、せん妄の持続時間が長くなる傾向があります。

最も顕著な症状は錯乱ですが、高齢者の錯乱は気づかれにくい場合があります。せん妄が起こった場合、若い人は興奮状態となることが多いのですが、非常に高齢の人は物静かになって内向的になる傾向があります。このような場合は、せん妄を認識するのがさらに困難になります。

高齢者に精神病症状がみられた場合、それはせん妄か認知症の徴候であるのが通常です。精神障害が原因の精神病症状が高齢になってから始まることはめったにありません。

高齢者には認知症が多いため、せん妄を発見するのがさらに困難になりますが、これはいずれの病態でも錯乱が起こるためです。医師は、錯乱が生じた速さと錯乱が起こる前の精神機能を検討することによって、せん妄と認知症を鑑別します。また、様々な思考力を検査するための一連の質問も行います(精神医学的診察)。精神機能の急激な低下がみられた患者には、たとえ認知症が判明している場合でも、せん妄でないことが確認されるまではせん妄があるものとして治療を進めるのが通常です。

治療

せん妄は通常、入院を要しますが、そのために別の様々な問題(低栄養脱水褥瘡[じょくそう]など)が起こる場合もあります。高齢者では、これらの問題が深刻な結果につながるおそれがあります。したがって高齢の患者には、医師、理学療法士、作業療法士、看護師、ソーシャルワーカーなど複数の分野の専門家から成る集学的チームが治療にあたることが有益です。

予防

入院中の高齢者のせん妄を予防するため、家族は以下のような対策をとるよう病院スタッフに協力を求めるとよいでしょう。

  • 定期的に動き回るように患者を促す

  • 部屋に時計とカレンダーを置く

  • 夜間の喧噪(けんそう)をできる限り少なくする

  • 患者が十分に飲食していることを確認する

家族が見舞いに行って患者と会話することは、患者の見当識を保つのに役立ちます。せん妄患者は恐怖心を抱いていることもあるため、聞きなれた家族の声を聞くと安心します。

症状

通常、せん妄は突然始まり、数時間から数日間かけて進行します。せん妄状態の人の行動は様々ですが、おおまかには、徐々に酩酊していく人に似た状態になります。

せん妄の目印は以下の症状です。

  • 注意を払えない

せん妄状態の人は何かに集中することができなくなるため、新しい情報を処理できず、最近の出来事を思い出せなくなります。そのため、自分の周りで何が起こっているのか理解できず、見当識障害と呼ばれる状態になります。現在の時刻や場所が突然分からなくなった場合は、せん妄の初期徴候である可能性があります。重度のせん妄では、自分や他の人が誰であるかも分からなくなることがあります。思考が乱れ、当てもなく歩き回ったり、ときに支離滅裂な行動をとったりします。

覚醒(意識)レベルの変動が大きく、異常なほど覚醒していても、次の瞬間には眠そうになり外部の刺激に鈍くなることもあります。その他の症状もしばしば分刻みで変化し、特に夕方に悪化する傾向があります(日没現象と呼ばれます)。

せん妄状態の人は、睡眠中も落ち着きがなかったり、睡眠と覚醒のサイクルが逆転して昼間に眠って夜間に起きていたりすることもよくあります。

奇妙で恐ろしい幻覚を見たり、実際にはいない人や存在しない物が見えたりすることもあります。なかにはパラノイアや妄想(誤った強い思い込みで、通常は知覚や経験を誤って解釈してしまうことによって生じます)がみられる人もいます。

せん妄は人格や気分を変えてしまうこともあります。物静かで内向的になる結果、せん妄状態にあることを誰からも気づかれない人もいれば、イライラして、興奮状態で慌ただしく動き回る人もいます。鎮静薬の使用後にせん妄を起こした患者は、強い眠気を覚えて内向的になる可能性があります。アンフェタミンを使用した人や鎮静薬の使用を中止した人は、攻撃的で過活動になることがあります。これら2種類の行動が交互にみられる人もいます。

せん妄は、重症度と原因に応じて数時間、数日間あるいはそれ以上続きます。せん妄の原因を速やかに特定して治療しないと、眠気と反応の鈍化が進行し、昏迷(非常に強い刺激を与えなければ覚醒しない状態)に陥ることがあります。昏迷は昏睡や死につながる危険性があります。

知っていますか?

  • 高齢になってから初めて現れる精神病症状は、多くの場合、せん妄または認知症を意味します。

診断

  • 医師による評価

  • 精神状態検査

  • 血液検査、尿検査、画像検査により、可能性のある原因を調べる

医師は症状に基づいてせん妄を疑い、特に患者が注意を払えない場合や、注意力がころころと変動する場合、せん妄の可能性が高まります。しかし、軽度のせん妄は発見が困難な場合があります。入院患者のせん妄には医師も気づかないことがあります。

せん妄と考えられる人のほとんどは、入院させて評価を行い、本人と周囲の人のけがを予防します。入院させれば、診断を迅速かつ安全に行うことができ、何らかの病気が見つかればすぐに治療することも可能です。

せん妄は急速に死に至る重篤な病気によって起こる場合もあるため、医師はできるだけ迅速に原因を究明するよう努めます。多くの場合、原因を特定して治療を行えば、せん妄は消失します。

診断ではまず、精神機能に影響を与えるその他の病気と鑑別するため、患者の病歴に関する情報をできるだけ収集するとともに、身体診察と各種の検査を行います。

病歴

通常、せん妄状態にある人は受け答えができないため、医師は友人や家族など付き添いの人に質問をします。医師は以下のようなことを尋ねます。

  • 錯乱がどのように始まったか(突然始まったか徐々に始まったか)

  • どのくらい速く進行したか

  • 身体的および精神的な健康状態はどうだったか

  • どのような薬物(アルコールや違法薬物も含む[特に若い人の場合])や栄養補助食品(薬用ハーブも含む)を使用していたか

  • 最近になって使用を開始または中止した薬剤はないか

このほかにも診療記録を調べたり、警察や救急隊から事情を聴いたり、薬剤のびんや特定の書類などの証拠を調べたりして、情報を収集します。家計簿、最近の手紙、未払いの請求書などの書類のほか、患者が約束を忘れた事実などがあれば、これらが精神機能の変化を発見する手がかりになることもあります。

せん妄に興奮、幻覚、妄想、またはパラノイアを伴う場合は、躁うつ病統合失調症などの精神病との鑑別が必要になります。精神障害によって精神病症状が起きている人では、錯乱や記憶障害が起きることはなく、意識レベルも変化しません。高齢になってから初めて現れる精神病症状は、多くの場合、せん妄または認知症を意味します。

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せん妄と精神病の違い

特徴

せん妄

精神障害による精神病症状

見当識

現在の時刻、日付、場所や、自分が誰かについて混乱している

通常は時間、日付、場所、自分が誰かが分かっている

注意力

大きく低下

影響なし

最近の出来事に関する記憶

失われる

保たれている

計算能力

簡単な計算ができない

保たれている

幻覚

幻覚がある場合は、ほとんどが幻視(視覚的な幻覚)で、ときに触覚にも異常が生じる

幻覚がある場合は、ほとんどが幻聴

その他の病気

あることが多く、重篤な場合もある

精神障害の病歴がある

薬剤の使用

しばしば、最近薬剤を使用した証拠がある

薬剤の使用は必ずしもみられない

身体診察

身体診察では、感染症や脱水など、せん妄の原因になる病態の徴候がないかを調べます。神経学的診察も行います。

せん妄が疑われる場合は、精神状態検査を行うこともあります。医師はまず、主な問題が注意力の低下であるかどうかを判断するための質問をします。例えば、短いリストを読み上げ、それを復唱するよう患者に指示します。そして、患者が読み上げられた内容を記憶に取り入れている(記銘している)かどうかを判断します。せん妄状態の人はこれができません。精神状態検査では、ほかに短期記憶と長期記憶を調べたり、物の名前を言う、文章を書く、図形を描き写すなどの指示が与えられたりします。

検査

血液と尿のサンプルを採取して分析し、疑われるせん妄の原因を調べます。例えば、電解質や血糖値の異常、肝疾患や腎疾患は、せん妄の一般的な原因です。そのため、医師は通常血液検査を行い、電解質濃度と血糖値を測定したり、肝臓や腎臓がどの程度機能しているかを調べます。甲状腺疾患が疑われる場合、甲状腺がどの程度機能しているかを評価するための検査を行います。特定の薬剤が原因であることが疑われる場合、血液中の薬物濃度を測定する検査を行います。この検査は、血液中の薬物濃度が有害な影響を与えるレベルであるか、患者が過剰摂取をしたかどうかを判定する上で役立ちます。

感染症の徴候がないかを調べるために培養検査が行われることもあります。

通常、脳のCT検査または脳MRI検査が行われます。

せん妄が、けいれん性疾患に起因するものでないかを調べるため、ときに脳の電気的活動を記録する検査(脳波検査)が行われます。

心臓と肺の機能を評価するため、心電図検査、パルスオキシメーター(センサーを使用して血液中の酸素レベルを測定する検査法)、胸部X線検査が行われることもあります。

発熱や頭痛がみられる患者では、腰椎穿刺によって採取した脳脊髄液(髄液)を分析することもあります。髄液の検査は、脳や脊髄の周囲で感染症や出血が起こっていないことを確認するのに役立ちます。

治療

  • 原因の治療

  • 一般的な対策

  • 興奮を管理する対策

せん妄がある人のほとんどは入院が必要です。ただし、せん妄の原因が容易に処置できるものであれば(例えば低血糖など)、救急外来で短時間の経過観察を行っただけで帰宅できることもあります。

原因の治療

原因が特定できたら、速やかに是正または治療します。例えば、感染症であれば抗菌薬による治療を行い、脱水であれば水分と電解質を静脈内投与します。アルコールの離脱症状によるせん妄にはベンゾジアゼピン系薬剤を投与します(同時に、患者が再び飲酒しないようにするための対策も講じます)。

通常は、せん妄の原因疾患を速やかに治療すれば、恒久的な脳損傷を防止でき、完全な回復が得られます。

せん妄を悪化させる可能性のある薬剤は、可能であれば使用を中止します。

一般的な対策

一般的な対策も重要です。

できるだけ静かで落ち着ける環境を確保します。部屋に何があり誰がいるのか、そして自分がどこにいるのかが分かるように、十分な明るさを維持します。時計、カレンダー、家族の写真などを部屋に置いておくと、見当識を保つのに役立ちます。病院のスタッフや家族は、頻繁に話しかけて患者を安心させ、今何時か、今どこにいるのかを教えます。治療や処置の開始前と実施中には内容を患者に説明します。眼鏡や補聴器が必要な患者では、すぐに手に取れるところに置いておきます。

せん妄を起こしている人は脱水低栄養失禁転倒褥瘡など多くの問題を起こしやすく、これらを予防するためのきめ細かいケアが必要です。したがってせん妄の患者、特に高齢の患者には、医師、理学療法士、作業療法士、看護師、ソーシャルワーカーなど複数の分野の専門家から成る集学的チームが治療にあたることが有益です。

興奮の管理

患者が極度に興奮している場合や幻覚が起こっている場合は、自分自身や介護者にけがをさせる可能性があります。このようなけがを予防するためには、以下のような対策が有用です。

  • 家族が患者に付き添う。

  • 病室はナースステーションの近くにする。

  • 必要に応じて付添人を手配する。

  • 点滴チューブ、膀胱カテーテル、抑制帯などの器具は、患者をさらに混乱または動揺させて受傷のリスクを高める可能性があるため、できるだけ使用しない。

しかし、入院中には、患者が点滴チューブを勝手に抜いたり転倒したりしないように、ときに抑制帯が必要になる場合もあります。拘束は患者を動揺させて興奮を悪化させるおそれがあるため、訓練を受けたスタッフが慎重に使用し、頻繁に外すようにするとともに、できるだけ早く使用を中止します。

薬剤は、他のどの方法でも効果が得られなかった場合にのみ使用します。興奮を抑える薬剤としては通常、次の2種類が使用されますが、どちらも理想的な薬剤ではありません。

  • 抗精神病薬が最もよく使用されますが、興奮を長期化または悪化させるものもあり、なかには抗コリン作用といって、錯乱、かすみ目、便秘、口腔乾燥、ふらつき、排尿の開始と持続困難、尿失禁などの副作用をもつものもあります。リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどの比較的新しい抗精神病薬は、ハロペリドールなどの比較的古い抗精神病薬に比べると副作用は少ないです。しかし、新しい抗精神病薬を、認知症の患者に長期間使用すると、脳卒中や死亡のリスクが高まるおそれがあります。

  • ロラゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤(鎮静薬の一種— 不安症の治療に用いられる薬剤)は、鎮静薬またはアルコールからの離脱が原因でせん妄になっている人に使用されます。錯乱や眠気が強くなることがあるため(特に高齢者の場合)、その他の原因によるせん妄患者の治療にベンゾジアゼピン系薬剤は使用されません。

これらの薬剤が必要な場合、医師は慎重に処方し、患者が高齢の場合は特に注意を払います。用量もできるだけ少なくし、できるだけ早く使用を終わらせます。

予後(経過の見通し)

原因を速やかに特定して治療すれば、せん妄を起こした人のほとんどが完全に回復します。治療が少しでも遅れると完全に回復する可能性は減少します。せん妄に対する治療を行っても、一部の症状は数週間から数カ月間続き、改善に時間がかかることもあります。場合によっては、せん妄から認知症に似た慢性の脳機能障害に発展することがあります。

入院患者でせん妄を起こした人は、入院中に合併症(死亡も含まれます)が起こる割合が、せん妄のない人と比べて最大で10倍高くなります。入院中にせん妄になった患者の35~40%が、1年以内に死亡しますが、死因はしばしば他の重篤な病気によるもので、せん妄そのものによって死亡するわけではありません。

入院患者でせん妄を起こした人(特に高齢者)は、入院期間が長くなり、治療費も高くなります。退院後の回復にも時間がかかります。

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