心室細動を起こした人は、数秒のうちに意識を失い、迅速に治療しなければ死に至ります。
心停止の原因が心室細動であることを確認するには、心電図検査が参考になります。
数分以内に心肺蘇生を開始し、続いて正常な心拍リズムを回復させるために除細動(胸部に電気ショックを与える処置)を行う必要があります。
(不整脈の概要 不整脈の概要 不整脈とは、一連の心拍が不規則、速すぎる(頻脈)、遅すぎる(徐脈)、あるいは心臓内で電気刺激が異常な経路で伝わるなど、心拍リズムの異常のことをいいます。 不整脈の最も一般的な原因は心臓の病気(心疾患)です。 自分で心拍リズムの異常に気づくこともありますが、ほとんどの人は、脱力感や失神などの症状が起きるまで不整脈を自覚しません。... さらに読む も参照のこと。)
心室細動では、心室は細かくふるえるだけで、収縮がみられません。心臓から血液が送り出されなくなるため、心室細動は 心停止 心停止 心停止とは人が死ぬときに生じる状態です。心停止になると、心臓から、内臓、脳、組織に血液と酸素が送り出されなくなります。心停止が起こって数分以内であれば、ときに蘇生する可能性があります。しかし、時間が経過するほど蘇生する可能性は低くなり、助かったとしても脳に障害が残る可能性が高くなります。 心停止が5分を超えて続くと脳に障害が残る可能性が高くなり、8分を超えると死亡する可能性が高まります。そのため、心停止の場合、一刻も早く救命処置を始める... さらに読む の一種といえます。直ちに治療しなければ死に至ります。
心室細動の最も一般的な原因は心疾患であり、特に 冠動脈疾患 冠動脈疾患(CAD)の概要 冠動脈疾患とは、心臓の筋肉(心筋)への血液供給が部分的または完全に遮断されることで起きる病気です。 心筋は酸素を豊富に含んだ血液を絶えず必要とします。その血液を心臓に送る血管は、大動脈が心臓から出たところで枝分かれする 冠動脈です。この血管が狭くなる冠動脈疾患では、血流が遮断されて、... さらに読む による心筋への血流不足に起因する場合が多く、これは 心臓発作 急性冠症候群(心臓発作、心筋梗塞、不安定狭心症) 急性冠症候群は、冠動脈が突然ふさがる(閉塞)ことによって起こります。閉塞の位置と量に応じて、不安定狭心症か心臓発作(心筋梗塞)が起こります。心臓発作とは、血液供給がなくなることにより心臓の組織が壊死する病気です。 急性冠症候群を発症すると、通常は胸部の圧迫感や痛み、息切れ、疲労などが起こります。 急性冠症候群が起きたと思ったら、まず救急車を呼んでから、アスピリンの錠剤を噛み砕いて服用します。... さらに読む
が起きた際にみられます。その他の原因としては以下のものがあります。
QT延長症候群 QT延長症候群とトルサード・ド・ポアンツ心室頻拍 トルサード・ド・ポアンツ心室頻拍は特別なタイプの 心室頻拍で、QT延長症候群と呼ばれる心臓の電気的活動の病気がある人で起こります。 ( 不整脈の概要と 心室頻拍も参照のこと。) 一部の患者には生まれつきQT延長症候群があります。その他の患者では、この病気は血清中のカリウム濃度の低下、徐脈(心拍数の異常な低下)、薬剤の使用によって起こります。しばしば抗不整脈薬によってQT延長症候群が引き起こされますが、特定の抗うつ薬、抗ウイルス薬、抗真菌... さらに読む (トルサード・ド・ポアンツ心室頻拍を起こす可能性がある):血中カリウム濃度の極度の低下(低カリウム血症 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低いこと) 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カリウム濃度の低下には多くの原因がありますが、通常は嘔吐、下痢、副腎の病気、利尿薬の使用が原因で起こります。 カリウム濃度が低下すると、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつり、さらには麻痺が生じるほか、不整脈を起こすことがあります。 診断は、カリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 通常は、カリウムを豊富に含む食べものを食べるか、カリウムのサプリメントを飲むだ... さらに読む )に起因するものも含まれる
心臓内の電流に影響を及ぼす薬(ナトリウムチャネル遮断薬やカリウムチャネル遮断薬など—表「 不整脈の治療に用いられる主な薬剤 不整脈の治療に用いられる主な薬剤
」を参照)
症状
心室細動が起きると、数秒で意識がなくなります。治療しないでいると、通常は全身のけいれん発作が短時間起きた後、ぐったりとして反応しなくなります。酸素が脳に届かなくなるため、約5分後には不可逆的な脳障害が生じ、まもなく死亡します。
診断
心電図検査
突然失神し、顔が極端に青白くなり、呼吸が止まり、脈拍、心拍、血圧を測定できなくなると、心停止と診断されます。心停止の原因としての心室細動の診断は、 心電図検査 心電図検査 心電図検査は心臓の電気刺激を増幅して記録する検査法で、手早く簡単に行える痛みのない方法です。この記録は心電図と呼ばれ、以下に関する情報が得られます。 心臓の1回1回の拍動を引き起こしている、ペースメーカーとしての部分(洞房結節、洞結節) 心臓の神経伝導経路 心拍数や心拍リズム 心電図では、心臓が拡大していること(通常の原因は 高血圧)や、心臓に血液を供給する冠動脈の1つが閉塞しているために心臓に十分な酸素が行き届いていないことが示される... さらに読む によって下されます。
心電図:波形の読み方
![]() 心電図には、1回の拍動中に心臓内を伝わる電気刺激が波形として描き出されます。心電図上の電流波形はいくつかの部分に分けられ、それぞれの部分にはアルファベットの名前が付けられています。 1回の拍動は、心臓のペースメーカー部分(洞結節ないし洞房結節)から電気刺激が発生することで始まります。この電気刺激が心臓の上側にある2つの部屋(心房)を興奮させます。P波は、この心房の興奮を表した波形です。 次に、電気刺激は心臓の下側にある2つの部屋(心室)へと伝わります。QRS波は、この心室の興奮を表した波形です。 心室は、次の心拍に備えて電気的な変化を受ける必要があります。この電気的活動は再分極波と呼ばれ、心電図上ではT波で表されます。 心電図でよくみられる異常には多くの種類があります。例えば、過去の心臓発作(心筋梗塞)、心拍リズムの異常(不整脈)、心臓への血液と酸素の供給不足(虚血)、心筋の壁の肥厚(心肥大)などがあります。 心電図上で認められる特定の異常から、心臓の壁が弱くなった部分にこぶ状の突出(心房瘤または心室瘤)ができた可能性が疑われることもあります。心房瘤や心室瘤は、心臓発作が原因で発生する可能性があります。心拍リズムに異常(速すぎる、遅すぎる、不規則)がみられる場合には、その異常なリズムがどこから始まっているのかも心電図から判断できることがあります。そのような情報は、医師が原因を特定する手がかりになります。 |
治療
心肺蘇生
発作の予防
心室細動は、極めて重大な緊急事態として治療する必要があります。できる限り速やかに 心肺蘇生 救命・応急手当 心停止とは人が死ぬときに生じる状態です。心停止になると、心臓から、内臓、脳、組織に血液と酸素が送り出されなくなります。心停止が起こって数分以内であれば、ときに蘇生する可能性があります。しかし、時間が経過するほど蘇生する可能性は低くなり、助かったとしても脳に障害が残る可能性が高くなります。 心停止が5分を超えて続くと脳に障害が残る可能性が高くなり、8分を超えると死亡する可能性が高まります。そのため、心停止の場合、一刻も早く救命処置を始める... さらに読む を開始しなければなりません。続いて、除細動器が入手でき次第、除細動(胸部に電気ショックを与える処置)を行う必要があります。その後、正常な心拍リズムを維持するために抗不整脈薬(表「 不整脈の治療に用いられる主な薬剤 不整脈の治療に用いられる主な薬剤
」を参照)を投与することがあります。
心臓発作後の2~3時間以内にショックや心不全がみられない状態で心室細動が発生した場合には、直ちに 除細動 正常なリズムの回復 不整脈とは、一連の心拍が不規則、速すぎる(頻脈)、遅すぎる(徐脈)、あるいは心臓内で電気刺激が異常な経路で伝わるなど、心拍リズムの異常のことをいいます。 不整脈の最も一般的な原因は心臓の病気(心疾患)です。 自分で心拍リズムの異常に気づくこともありますが、ほとんどの人は、脱力感や失神などの症状が起きるまで不整脈を自覚しません。... さらに読む を行うことで、95%の確率で正常な心拍リズムが回復し、その後の見込み(予後)も良好です。 ショック ショック ショックとは、臓器への酸素の供給量が低下し、生命を脅かす状態で、臓器不全やときには死亡につながります。通常、血圧は低下しています。 ( 低血圧も参照のこと。) ショックの原因には血液量の減少、心臓のポンプ機能の障害、血管の過度の拡張などがあります。 血液量の減少または心臓のポンプ機能の障害によってショックが起きると、脱力感、眠気、錯乱が生じ、皮膚が冷たく湿っぽくなり、皮膚の色が青白くなります。... さらに読む や 心不全 心不全(HF) 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む
は、心室に重大な損傷があることを示唆します。心室に重大な損傷がある場合は、直ちに除細動を行っても正常な心拍リズムが回復する確率は30%しかなく、蘇生処置を受けた人の70%が正常な機能を回復することなく死亡します。