心不全や呼吸不全が起こると、肝臓への血流や酸素供給が減ることがあります。
患者は吐き気を覚えて嘔吐し、肝臓の圧痛と腫大がみられることがあります。
原因を探るため、画像検査を行うことがあります。
医師は、肝臓への血流を減らしている病態を治療します。
(肝臓の血管の病気の概要 肝臓の血管の病気の概要 肝臓は必要とする酸素と栄養素を次の2つの太い血管から得ています。 門脈 肝動脈 門脈は、肝臓への血液供給の3分の2を担っています。その血液には酸素のほか、肝臓で処理するために腸から運ばれる多くの栄養素が含まれています。肝動脈は、残る3分の1の血液供給を担っています。その血液は、心臓から流れてきた酸素を豊富に含む血液で、肝臓に供給される酸素... さらに読む も参照のこと。)
虚血性肝炎では、肝臓への血液または酸素の供給が不十分になり、肝臓の細胞に損傷や壊死が起こります。
虚血性肝炎は、他の種類の肝炎とは異なります。通常、「肝炎」とは肝臓の炎症を意味し、ウイルスをはじめとする多くの原因によって起こります(A型またはB型肝炎 肝炎の概要 肝炎は肝臓の炎症です。 ( 急性ウイルス性肝炎の概要と 慢性肝炎の概要も参照のこと。) 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む など)。しかし、虚血性肝炎では肝臓に炎症はみられず、むしろ肝臓の細胞が壊死してしまいます。それでもこの病気が肝炎と呼ばれているのは、この肝炎という用語が専門的な意味では、肝臓の損傷した細胞からアミノトランスフェラーゼという肝酵素が血液中に漏れ出るあらゆる病態を指して用いられるためです。
原因
虚血性肝炎は、肝臓の血液、酸素、またはその両方が不足することで発生します。
このように需要が追いつかなくなる最も一般的な原因は、体全体の血流の減少です。血流の減少は以下のような病態に起因します。
突然の大幅な血圧低下(大量出血、重度の脱水、全身の重症感染症などでみられます)
体内の酸素レベルの低下は、長期にわたる重度の呼吸器疾患などの結果として生じることがあり、虚血性肝炎の原因となります。
全身の重症感染症(敗血症 敗血症と敗血症性ショック 敗血症は、 菌血症やほかの感染症に対する重篤な全身性の反応に加え、体の重要な器官(臓器)の機能不全が起こる病態です。敗血症性ショックは、敗血症によって生命を脅かす低血圧( ショック)および臓器不全が引き起こされている病態です。 通常、敗血症は特定の細菌に感染することで起こり、病院内で感染する細菌で多くみられます。 免疫系の機能低下、特定の慢性疾患、人工関節や人工心臓弁の使用、特定の心臓弁の異常といった特定の条件下ではそのリスクが高くなり... さらに読む )などにおける酸素と血液の需要の増加も、虚血性肝炎の一因となります。
血管が閉塞すると肝臓の虚血が起こる可能性がありますが、これは肝動脈と門脈の両方が、狭窄または閉塞した場合にのみ起こります。肝臓は、肝動脈と門脈の両方から血液を受け取っているため、これらの血管のうちの1本だけが狭窄または閉塞しても、閉塞していない方の血管が肝臓に血液を供給し続けるため、虚血は起こりません。
血管の閉塞の最も一般的な原因は、血栓です。(血栓による閉塞を血栓症と呼びます。)肝動脈に血栓ができる理由としては、以下のように多くのものがあります。
肝動脈のこぶ(動脈瘤)
コカインの使用(動脈のけいれんを引き起こします)
腫瘍、特定の医療行為、または心臓の感染症(心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む
)によって生じた塞栓子(動脈壁にできる脂肪性物質や血栓など、何らかの物質のかたまり)が血流に乗って移動して血管を詰まらせる塞栓
血栓ができやすくなる病気 血液凝固障害の概要 血液凝固障害は、血栓の形成を制御する身体機能の障害です。これらの機能障害は、以下を引き起こす可能性があります。 血液の凝固が不十分な場合は、 異常出血(出血)が生じる 血液の凝固が過剰な場合は、血栓(血栓症)が発生する 異常な出血とは、あざや出血が起こりやすい状態を意味します(... さらに読む は、肝動脈または門脈の閉塞を引き起こす可能性があります。そのような病気には、遺伝性の病気と後天性の病気があります。
症状
吐き気と嘔吐がみられます。肝臓に圧痛が生じたり腫大したりすることもあります。すでに肝臓に重度の瘢痕化(肝硬変 肝硬変 肝硬変は、機能を果たさない瘢痕組織が大量の正常な肝組織と永久に置き換わり、肝臓の内部構造に広範な歪みが生じることです。肝臓が繰り返しまたは継続的に損傷を受けると、瘢痕組織が生じます。 肝硬変の最も一般的な原因は、慢性的な アルコール乱用、 慢性ウイルス性肝炎、 飲酒によらない脂肪肝です。 食欲不振、体重減少、疲労、全身のけん怠感などの症状が現れます。 腹部への体液の貯留( 腹水)、... さらに読む )が起こっている場合、虚血性肝炎が 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む を引き起こす可能性があります。
診断
肝臓の血液検査と血液凝固検査
ときに画像検査
虚血性肝炎の原因となりうる病気にかかっている患者で、肝臓の血液検査(肝臓がどの程度機能しているか、肝臓に損傷があるかを判定するために行う検査)や血液凝固検査の結果が異常であった場合、この病気が疑われます。
虚血性肝炎を疑ったら、医師は原因を探ります。例えば、心機能を確認したり肝動脈の閉塞がないか確認したりするために、画像検査を行うことがあります。具体的な 画像検査 肝臓と胆嚢の画像検査 肝臓、胆嚢、胆管の画像検査には、超音波検査、核医学検査、CT検査、MRI検査、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)検査、経皮経肝胆道造影検査、術中胆道造影検査、単純X線検査などがあります。 ( 肝臓と胆嚢の概要も参照のこと。) 超音波検査では、音波を利用して肝臓や胆嚢、胆管を画像化します。経腹超音波検査は、 肝硬変(肝臓の重度の瘢痕化)や 脂肪肝(肝臓に過剰な脂肪が蓄積している状態)など肝臓全体を一様に侵す異常よりも、腫瘍など肝臓の特... さらに読む としては、心エコー検査、超音波検査、血管のMRI検査(MRアンギオグラフィー検査 MRアンギオグラフィー検査(MRA) MRI(磁気共鳴画像)検査は、強力な磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強力な磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一部で正の電荷をもちます)は特定の配列をとっていませんが、MRI装置内で生じるよう... さらに読む )、 動脈造影検査 動脈造影 血管造影検査は、X線を用いて血管の詳細な画像を描出する検査で、 CT血管造影検査や MRアンギオグラフィー検査と区別するために「従来の血管造影」と呼ばれることもあります。血管造影の撮影を行いながら、医師が血管の異常を治療することも可能です。血管造影は体に負担をかける検査法ですが、それでも比較的安全です。 血管造影では静止画像だけでなく動画(シネアンギオグラフィーといいます)も撮影でき、血液が血管内を流れる速さを測ることも可能です。(... さらに読む などがありますが、動脈造影検査では、 造影剤 放射線不透過性造影剤 画像検査では、特定の組織または構造を周辺領域から区別したり、詳細な画像を撮影したりするために造影剤を使用することがあります。 造影剤には以下のものがあります。 放射線不透過性造影剤:X線画像に写る物質 常磁性造影剤: 磁気共鳴画像(MRI)で用いられる物質 放射線不透過性造影剤はX線を吸収するため、X線画像上で白く見えます。典型的には以下のものを見るために用いられます。 さらに読む (X線画像に写る物質)を動脈に注入してからX線撮影を行います。
治療
基礎にある異常に応じた治療
肝臓への血流を阻害している原因を重点的に治療します。血流が回復すれば、多くの場合、虚血性肝炎は解消されます。