腸閉塞

執筆者:Parswa Ansari, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York
レビュー/改訂 2021年 9月
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やさしくわかる病気事典

腸閉塞とは、腸管内で食べもの、水分、消化分泌液、ガスの通過が完全に止められているか、深刻な通過障害が起きている状態のことです。

  • 成人で最も一般的な原因は、以前に受けた腹部の手術による瘢痕(はんこん)組織、ヘルニア、腫瘍です。

  • 痛み、腹部膨満、食欲不振がよくみられます。

  • 診断は、身体診察とX線検査の結果に基づいて下されます。

  • 閉塞を取り除くための手術がしばしば必要になります。

消化管救急疾患の概要も参照のこと。)

閉塞は、小腸と大腸のどこにでも起こる可能性があり、部分的な場合と完全に閉塞する場合があります。閉塞部よりも上流の腸は機能し続けています。腸のこの部分は、食べもの、水分、消化分泌液、ガスが詰まってしまうために膨張します。腸粘膜が腫れて炎症を起こします。この状態を治療しないと、腸が破裂し、腸の内容物が腹腔に漏れ出て、腹腔の炎症や感染症が生じることがあります(腹膜炎)。

腸閉塞の原因

腸閉塞の原因は、年齢や閉塞の場所によって異なります。

新生児や乳児では、先天異常や腸内容物の硬いかたまり(胎便栓症候群)、腸のねじれ(腸捻転)、腸管の狭小化や一部欠損(腸閉鎖)、または腸の一部が別の部分へ入れ子状にはまりこむ異常(腸重積)が原因で腸閉塞が起こるのが一般的です。

成人で最も一般的な原因は、以前に受けた腹部の手術で生じた体内の瘢痕組織の結合(癒着[ゆちゃく])、異常な開口部からの腸の一部の突出(ヘルニア)、腫瘍です。特定の状態が原因になっている可能性は、患部が腸のどこかによって異なります。

小腸の最初の部分(十二指腸)の閉塞は、膵臓がん潰瘍(かいよう)による瘢痕クローン病が原因で起こることがあります。まれですが、小腸の他の部分が胆石、未消化の食べもののかたまり、または寄生虫の集まりによってふさがれることもあります。

大腸の閉塞の原因としては、がん、憩室炎(けいしつえん)、硬いかたまり状の便(宿便)がよくみられます。大腸の閉塞で、癒着と腸捻転が原因となることはあまり一般的ではありません。

絞扼(こうやく)

腸の閉塞によって腸への血流が絶たれれば、絞扼と呼ばれる状態になります。絞扼は小腸閉塞患者の25%近くに発生します。絞扼は通常、腸の一部が異常な開口部に挟まった状態(絞扼性ヘルニア)、腸捻転、または腸重積が原因で起こります。わずか6時間で腸に壊疽(えそ)が生じます。壊疽が生じると腸壁が壊死し、それによって通常は腸が破裂し、腹膜炎やショックに、さらに治療しなければ死に至ります。

腸の絞扼の原因

腸の絞扼(腸への血流が絶たれた状態)は、通常は3つの原因(絞扼性ヘルニア、腸捻転、腸重積)のいずれかにより起こります。

腸閉塞の症状

腸閉塞の症状として通常はけいれん性の腹痛がみられ、腹部膨満と食欲不振を伴います。痛みは波のように強弱を繰り返すような傾向があり、やがて持続した痛みとなります。嘔吐は小腸閉塞でよくみられますが、大腸閉塞ではあまり多くなく、すぐには起きません。

腸が完全に閉塞すると重度の便秘が起こりますが、部分的な閉塞であれば下痢が起こります。

絞扼が生じると、痛みがひどくなり絶え間なく生じることがあります。発熱がよくみられ、特に腸壁が破れると熱が出る可能性が高くなります。

腸捻転では、痛みは多くの場合、突然始まります。痛みは持続性で、波のように強弱を繰り返すこともあります。

腸閉塞の診断

  • 医師による腹部の診察

  • X線検査

  • CT検査

診察では、腹部の圧痛や腫れ、腫瘤がないかが調べられます。閉塞が起こると、腹部はほぼ必ず腫れます。正常に機能している腸の音(腸音)は聴診器で聞こえますが、正常時よりも大きく高い音が聞こえたり、まったく聞こえなかったりすることがあります。破裂が生じて腹膜炎が起こっていないかぎり、腹部を押しても通常はあまり圧痛はみられません。

医師は通常、腹部のX線検査やCT検査などの画像検査も行います。

X線検査では、拡張した腸が認められ閉塞部位が分かることがあります。また、腸の周囲や横隔膜(腹部と胸部を隔てる筋肉層)の下に空気が写ることもあります。正常であれば、この部分に空気が存在することはないため、これは腸の破裂や壊死を示す徴候です。

腹部のCT検査がしばしば行われ、腸の良好な画像を得るとともに、腸閉塞の正確な位置と原因が特定されます。

腸閉塞の治療

  • 経鼻胃管による吸引

  • 輸液

  • 絞扼に対する手術

  • ときに人工肛門造設術

腸閉塞が疑われれば入院します。通常は鼻から胃や腸に細長いチューブ(経鼻胃管と呼ばれます)が挿入されます。閉塞部分より上にたまった物質がチューブから吸引して取り除かれます。水分と電解質(ナトリウム、塩化物、カリウム)が静脈内投与され、嘔吐や下痢で失われた水分と塩分が補充されます。

それ以上治療しなくても閉塞が解消することがあり、特に瘢痕や癒着が原因で腸が閉塞した場合によくあります。下部大腸がねじれた場合など、病気の種類によっては、肛門から挿入する内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)や大腸を膨らませるバリウム注腸を使用して治療が行われることもときにあります。しかし、ほとんどの場合、絞扼の懸念があれば、医師は可能なかぎり早く手術を行います。

腸の一部を切除することなく閉塞を緩和できるかどうかは、閉塞の原因と腸の観察結果によって決まります。ときに癒着部分を切って動けなくなった腸の部分を離せることもありますが、再び癒着して、閉塞が再発することがあります。場合によっては、閉塞を治すために、回腸瘻(ろう)造設術(小腸を切断した端と腹壁に手術であけた開口部を永久的に接続する手術)や人工肛門造設術(大腸と腹壁の間に開口部をつくる手術、 see figure 人工肛門造設術じんこうこうもんぞうせつじゅつについて理解りかいする)が必要になります。

人工肛門造設術じんこうこうもんぞうせつじゅつについて理解りかいする

人工肛門造設術じんこうこうもんぞうせつじゅつでは、大腸だいちょう結腸けっちょう)をります。結腸けっちょうのこった部分ぶぶんうごかして、それを皮膚ひふにあけたあなから皮膚ひふ表面ひょうめんにつなぎます。その部分ぶぶんいとでぬって、皮膚ひふからはなれないようにします。便べんはこのあなとおって、使つかてのふくろなかはいります。

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