成人で最も一般的な原因は、以前に受けた腹部の手術による瘢痕(はんこん)組織、ヘルニア、腫瘍です。
痛み、腹部膨満、食欲不振がよくみられます。
診断は、身体診察とX線検査の結果に基づいて下されます。
閉塞を取り除くための手術がしばしば必要になります。
(消化管救急疾患の概要 消化管救急疾患の概要 消化管の病気の中には生命を脅かすものがあり、緊急の治療を要することがあります。多くの場合、緊急治療では手術が行われます。 腹痛は通常は消化管の緊急事態に伴って発生し、しばしばひどい痛みがあります。腹痛がある場合、医師は原因を突き止めて治療を行うための手術が直ちに必要か、それとも診断のための検査結果が出るまで手術を待ってもよいかを判断する必... さらに読む も参照のこと。)
閉塞は、小腸と大腸のどこにでも起こる可能性があり、部分的な場合と完全に閉塞する場合があります。閉塞部よりも上流の腸は機能し続けています。腸のこの部分は、食べもの、水分、消化分泌液、ガスが詰まってしまうために膨張します。腸粘膜が腫れて炎症を起こします。この状態を治療しないと、腸が破裂し、腸の内容物が腹腔に漏れ出て、腹腔の炎症や感染症が生じることがあります(腹膜炎 腹膜炎 腹痛はよく起こりますが、多くの場合軽度です。しかし、強い腹痛が急に起きた場合は、ほとんどが重大な問題であることを示しています。このような腹痛は、手術が必要であることを示す唯一の徴候であるかもしれず、速やかに診察を受ける必要があります。高齢者やHIV感染者、免疫抑制薬(コルチコステロイドなど)を使用している人では、同じ病気の若い成人や健康な成人よりも腹痛が弱いことがあり、病状が重篤な場合でも腹痛がよりゆっくり発症することがあります。幼い子... さらに読む )。
腸閉塞の原因
腸閉塞の原因は、年齢や閉塞の場所によって異なります。
新生児や乳児では、先天異常や腸内容物の硬いかたまり(胎便栓症候群 胎便栓症候群 胎便栓症候群は、粘り気の強い腸の内容物(胎便)によって大腸が閉塞した状態です。 胎便栓症候群は、ヒルシュスプルング病または嚢胞性線維症が原因で生じる場合があります。 典型的には、新生児に哺乳困難や嘔吐がみられ、腹部が大きくなり、出生後1~2日以内に排便の排泄がみられません。 診断は症状とX線検査の結果に基づいて下されます。 閉塞は浣腸に加えて、ときに手術によって治療します。 さらに読む )、腸のねじれ(腸捻転 腸回転異常症 腸回転異常症は、胎児が発育していく過程で腸が腹腔内の正常な位置に移動しないことで起こる、生命を脅かすこともある 先天異常です。 この異常の原因は不明です。 典型的な症状としては、嘔吐、下痢、腹痛、腹部の膨満などがあります。 診断は様々なX線検査の結果に基づいて下されます。 腸のねじれ(腸捻転)を伴った腸回転異常症は、手術を必要とする緊急事態です。 さらに読む )、腸管の狭小化や一部欠損(腸閉鎖)、または腸の一部が別の部分へ入れ子状にはまりこむ異常(腸重積 腸重積 腸重積は、スライドさせて伸ばす望遠鏡のように、腸の一部が別の部分の中にすべり込む病気です。はまり込んだ腸の一部は腸を閉塞させ、血流を遮断します。 通常、腸重積の原因は不明です。 症状は突然発生する腹痛と嘔吐の発作などで、1時間に数回にわたり現れたり消えたりして、その後に血便がみられることもあります。 空気注腸を行うと診断を確定でき、治療にもなります。 手術が必要になることもあります。 さらに読む )が原因で腸閉塞が起こるのが一般的です。
成人で最も一般的な原因は、以前に受けた腹部の手術で生じた体内の瘢痕組織の結合(癒着[ゆちゃく])、異常な開口部からの腸の一部の突出(ヘルニア 腹壁ヘルニア 腹壁ヘルニアは、腹壁の開口部や弱くなった部分に、腹腔の内容物が突出することによって生じます。 腹壁ヘルニアによって顕著な膨らみが生じますが、不快感はほとんどありません。 診断は身体診察のほか、ときに超音波検査またはCT検査によって下されます。 治療としてはヘルニアを修復するための手術が行われます。 ( 消化管救急疾患の概要も参照のこと。) さらに読む )、腫瘍です。特定の状態が原因になっている可能性は、患部が腸のどこかによって異なります。
小腸の最初の部分(十二指腸)の閉塞は、 膵臓がん 膵臓がん 膵臓がんの危険因子としては、喫煙、慢性膵炎、男性であること、黒人であることがあるほか、長期の糖尿病も危険因子である可能性があります。 典型的な症状は、腹痛、体重減少、黄疸、嘔吐などです。 診断では、CT検査またはMRI検査に続いて超音波内視鏡検査を行います。 膵臓がんは通常、死に至ります。 がんが転移していなければ、手術で根治できる可能性があります。 さらに読む 、 潰瘍(かいよう)による瘢痕 閉塞 消化性潰瘍(かいよう)とは、胃や十二指腸の内面が胃酸や消化液で侵食されて、円形やだ円形の傷ができた状態をいいます。 消化性潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染や、胃や十二指腸の粘膜を衰弱させる薬によって生じることがあります。 潰瘍による不快感が生じたり消えたりしますが、この不快感は食べることで胃酸が分泌されるために食後に起こる傾向があります。... さらに読む 、 クローン病 クローン病 クローン病は、炎症性腸疾患の一種で、一般的には小腸の下部、大腸、またはその両方に慢性炎症が生じますが、炎症は消化管のどの部分にも現れる可能性があります。 正確な原因は分かっていませんが、免疫系の不適切な活性化がクローン病の発生につながっている可能性があります。 典型的な症状としては、慢性の下痢(血性となることもある)、けいれん性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少などがあります。... さらに読む が原因で起こることがあります。まれですが、小腸の他の部分が 胆石 胆石 胆石は胆嚢内で固形物(主にコレステロールの結晶)が集積したものです。 肝臓はコレステロールを過剰に分泌することがあり、このコレステロールは胆汁とともに胆嚢に運ばれ、そこで過剰なコレステロールが固体粒子を形成して蓄積します。 胆石は、ときに数時間続く上腹部痛を起こすことがあります。 超音波検査では極めて正確に胆石を検出できます。 胆石によって痛みなどの問題が繰り返し起こる場合は、胆嚢を摘出します。 さらに読む 、未消化の食べもののかたまり、または寄生虫の集まりによってふさがれることもあります。
大腸の閉塞の原因としては、がん、 憩室炎 憩室炎 憩室炎(けいしつえん)は、1つ以上の風船状の袋(憩室)に炎症が起きた状態です。感染することもあれば、感染しないこともあります。 通常、憩室炎は大腸(結腸)に起こります。 左下腹部の痛み、圧痛、発熱が、典型的な症状です。 診断は、CT検査の結果に基づいて下され、憩室炎が治まった後に、大腸内視鏡検査を行います。 憩室炎の症状が軽度の場合は、安静だけで治療できることがありますが、重度の場合は入院してもらった上で、抗菌薬を静脈から投与するほか、... さらに読む (けいしつえん)、硬いかたまり状の便(宿便)がよくみられます。大腸の閉塞で、癒着と腸捻転が原因となることはあまり一般的ではありません。
絞扼(こうやく)
腸の閉塞によって腸への血流が絶たれれば、絞扼と呼ばれる状態になります。絞扼は小腸閉塞患者の25%近くに発生します。絞扼は通常、腸の一部が異常な開口部に挟まった状態(絞扼性ヘルニア 嵌頓(かんとん)と絞扼(こうやく) 腹壁ヘルニアは、腹壁の開口部や弱くなった部分に、腹腔の内容物が突出することによって生じます。 腹壁ヘルニアによって顕著な膨らみが生じますが、不快感はほとんどありません。 診断は身体診察のほか、ときに超音波検査またはCT検査によって下されます。 治療としてはヘルニアを修復するための手術が行われます。 ( 消化管救急疾患の概要も参照のこと。) さらに読む )、腸捻転、または腸重積が原因で起こります。わずか6時間で腸に壊疽(えそ)が生じます。壊疽が生じると腸壁が壊死し、それによって通常は腸が破裂し、腹膜炎やショックに、さらに治療しなければ死に至ります。
腸の絞扼の原因
腸の絞扼(腸への血流が絶たれた状態)は、通常は3つの原因(絞扼性ヘルニア、腸捻転、腸重積)のいずれかにより起こります。 |
腸閉塞の症状
腸閉塞の症状として通常はけいれん性の腹痛がみられ、腹部膨満と食欲不振を伴います。痛みは波のように強弱を繰り返すような傾向があり、やがて持続した痛みとなります。嘔吐は小腸閉塞でよくみられますが、大腸閉塞ではあまり多くなく、すぐには起きません。
腸が完全に閉塞すると重度の便秘が起こりますが、部分的な閉塞であれば下痢が起こります。
絞扼が生じると、痛みがひどくなり絶え間なく生じることがあります。発熱がよくみられ、特に腸壁が破れると熱が出る可能性が高くなります。
腸捻転では、痛みは多くの場合、突然始まります。痛みは持続性で、波のように強弱を繰り返すこともあります。
腸閉塞の診断
医師による腹部の診察
X線検査
CT検査
診察では、腹部の圧痛や腫れ、腫瘤がないかが調べられます。閉塞が起こると、腹部はほぼ必ず腫れます。正常に機能している腸の音(腸音)は聴診器で聞こえますが、正常時よりも大きく高い音が聞こえたり、まったく聞こえなかったりすることがあります。破裂が生じて腹膜炎が起こっていないかぎり、腹部を押しても通常はあまり圧痛はみられません。
医師は通常、腹部のX線検査やCT検査などの画像検査も行います。
X線検査 消化管のX線検査 消化器系の問題の評価にはX線検査がよく使われます。標準的なX線検査(単純X線検査)では、特別な準備は何も必要ありません( 単純X線検査)。消化管に閉塞や麻痺がある場合や、腹腔内のガスの分布が異常な場合は、通常は標準的なX線検査で明らかになります。また、肝臓、腎臓、脾臓の腫大も標準的なX線検査で明らかになります。 バリウムを用いたX線検査では、多くの場合、標準のX線検査より多くの情報が得られます。味つけした液体バリウムまたはバリウムでコー... さらに読む では、拡張した腸が認められ閉塞部位が分かることがあります。また、腸の周囲や横隔膜(腹部と胸部を隔てる筋肉層)の下に空気が写ることもあります。正常であれば、この部分に空気が存在することはないため、これは腸の破裂や壊死を示す徴候です。
腸閉塞の治療
経鼻胃管による吸引
輸液
絞扼に対する手術
ときに人工肛門造設術
腸閉塞が疑われれば入院します。通常は鼻から胃や腸に細長いチューブ(経鼻胃管と呼ばれます)が挿入されます。閉塞部分より上にたまった物質がチューブから吸引して取り除かれます。水分と 電解質 電解質の概要 人の体内の水分量は体重の2分の1をはるかに上回ります。体内の水分は様々な空間(体液コンパートメントと呼ばれています)に制限されて存在していると考えられています。主に次の3つのコンパートメントがあります。 細胞内の体液 細胞の周囲の体液 血液 体が正常に機能するには、これらの各領域で体液量が偏らないようにする必要があります。 さらに読む (ナトリウム、塩化物、カリウム)が静脈内投与され、嘔吐や下痢で失われた水分と塩分が補充されます。
それ以上治療しなくても閉塞が解消することがあり、特に瘢痕や癒着が原因で腸が閉塞した場合によくあります。下部大腸がねじれた場合など、病気の種類によっては、肛門から挿入する 内視鏡 内視鏡検査 内視鏡検査とは、柔軟な管状の機器(内視鏡)を用いて体内の構造物を観察する検査です。チューブを介して器具を通すことができるため、内視鏡は多くの病気の治療にも使うことができます。 口から挿入する内視鏡検査では、食道(食道鏡検査)、胃(胃鏡検査)、小腸の一部(上部消化管内視鏡検査)が観察できます。 肛門から挿入する内視鏡検査では、直腸(肛門鏡検査)、大腸下部と直腸と肛門(S状結腸内視鏡検査)、大腸全体と直腸と肛門(大腸内視鏡検査)が観察できま... さらに読む (観察用の柔軟な管状の機器)や大腸を膨らませるバリウム注腸を使用して治療が行われることもときにあります。しかし、ほとんどの場合、絞扼の懸念があれば、医師は可能なかぎり早く手術を行います。
腸の一部を切除することなく閉塞を緩和できるかどうかは、閉塞の原因と腸の観察結果によって決まります。ときに癒着部分を切って動けなくなった腸の部分を離せることもありますが、再び癒着して、閉塞が再発することがあります。場合によっては、閉塞を治すために、回腸瘻(ろう)造設術(小腸を切断した端と腹壁に手術であけた開口部を永久的に接続する手術)や人工肛門造設術(大腸と腹壁の間に開口部をつくる手術、 人工肛門造設術について理解する 人工肛門造設術について理解する )が必要になります。
人工肛門造設術について理解する
人工肛門造設術では、大腸(結腸)を切ります。結腸の残った部分を動かして、それを皮膚にあけた穴から皮膚の表面につなぎます。その部分を糸でぬって、皮膚からはなれないようにします。便はこの穴を通って、使い捨ての袋の中に入ります。 |