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乳癌

執筆者:

Mary Ann Kosir

, MD, Wayne State University School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 9月
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本ページのリソース

乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。

米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんによる死亡原因として2番目に多いが(肺/気管支癌に続く),ヒスパニック系の女性においてはがんによる死亡原因として最も多い(1 総論の参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 総論の参考文献 )。2020年には,米国では約276,480例が浸潤性乳癌と新たに診断され,約42,170例が乳癌により死亡すると予想されている。それに加え,2020年には約48,530例の非浸潤性乳癌の新規症例が予想されている(2 総論の参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 総論の参考文献 )。

総論の参考文献

危険因子

乳癌リスクに影響を及ぼしうる因子としては以下のものがある:

  • 年齢:乳癌の最も強い危険因子は年齢である。多くの乳癌が50歳以上の女性で発生する。

  • 家族歴:第1度近親者(母親,姉妹,娘)に乳癌罹患者がいる場合,乳癌の発生リスクが2倍~3倍上昇するが,より遠い近親者の乳癌によるリスクの上昇はわずかである。第1度近親者に2人以上の乳癌罹患者がいる場合は,リスクは5~6倍高くなる可能性がある。

  • 乳癌遺伝子の変異:乳癌女性の約5~10%で2つの既知の乳癌遺伝子,BRCA1およびBRCA2,の一方に変異がみられる。BRCA変異を有する場合に乳癌が発生する生涯リスクは約50~85%である。80歳までに乳癌が発生するリスクは,BRCA1変異で約72%,BRCA2変異で約69%である。BRCA1変異を有する女性では,卵巣がんのリスクも高く,その生涯発生リスクは20~40%であるが,BRCA2変異を有する女性のリスクはそれほど高くない。第1度近親者に2人以上の乳癌罹患者がいなければ,その女性はこの遺伝子変異を有する可能性が低い。BRCA2変異を有する男性でも,乳癌の発生リスクが上昇する。該当する変異はアシュケナージ系ユダヤ人で多くみられる。BRCA1またはBRCA2変異を有する女性では,より綿密なサーベイランスや予防策(タモキシフェンまたはラロキシフェンの服用や両側乳房切除術など)が必要になる場合がある。

  • 既往歴:非浸潤性または浸潤性乳癌の既往はリスクを上昇させる。乳房切除後に対側の乳房にがんが発生するリスクは,フォローアップ中に年間約0.5~1%である。

  • 婦人科歴:初経が早い,閉経が遅い,または最初の妊娠が遅い場合は,リスクが上昇する。最初の妊娠が30歳以後の女性は初産婦よりもリスクが高い。

  • 乳房の変化:生検を必要とした病変の既往がある場合はリスクがわずかに上昇する。乳房に多発性腫瘤がある女性でも高リスク型という組織学的確証がない場合は,リスクが高いと考えるべきでない。浸潤性乳癌の発生リスクをわずかに上昇させる可能性のある良性病変として,複雑性線維腺腫,中等度または病勢盛んな過形成(異型を伴わない),硬化性腺症,および乳頭腫がある。異型乳管または小葉の過形成を有する患者ではリスクは平均より4~5倍高く,さらに第1度近親者に浸潤性乳癌の家族歴をもつ場合は,リスクは約10倍高い。スクリーニングのマンモグラフィーでみられる乳腺密度の上昇は乳癌リスクの上昇と関連する。

  • 非浸潤性小葉癌(LCIS):LCISを認めるといずれかの乳房での浸潤性乳癌の発生リスクが約25倍上昇する;LCISを有する患者で毎年1~2%に浸潤性乳癌が発生する。

  • 経口避妊薬の使用:経口避妊薬の使用により,リスクは非常にわずかながら上昇する(女性100,000人当たり約5例増加)。リスクは,主に経口避妊薬を服用している間に上昇し,服用中止後10年の間に漸減する。

  • ホルモン療法 ホルモン療法 閉経は,卵巣機能の低下による生理的または医原性の月経停止(無月経)である。症状としては,ホットフラッシュ,盗汗,睡眠障害,閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause)(外陰・腟の萎縮などのエストロゲン欠乏による症状および徴候)などがある。診断は1年間の無月経を基準として臨床的に行う。症... さらに読む 閉経後ホルモン(エストロゲン + プロゲスチン)療法は,わずか3年の使用後にリスクを若干上昇させるようである(2 危険因子に関する参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 危険因子に関する参考文献 )。使用5年経過以降は,リスクの上昇は使用1年毎に女性10,000人当たり7~8症例の増加である(相対リスク24%上昇)。エストロゲン単独の使用は乳癌のリスクを上昇させないようである(Women's Health Initiativeで報告されている)。選択的エストロゲン受容体モジュレーター(例,ラロキシフェン)は,乳癌の発生リスクを低下させる。

  • 放射線療法:30歳前の放射線療法への曝露によりリスクは上昇する。ホジキンリンパ腫の治療におけるマントル照射により,以降20~30年にわたり乳癌のリスクは約4倍となる。

  • 食事:食事が乳癌の発生または成長に寄与する可能性はあるが,特定の食事(例,高脂肪食)の影響に関する決定的なエビデンスはない。閉経後の肥満女性でリスクが上昇するが,食習慣の改善がリスクを低下させるエビデンスはない。普通よりも長く月経のある肥満女性ではリスクが低い可能性がある。

  • 生活習慣上の因子:喫煙および飲酒は乳癌のリスクを高める一因となる可能性がある。女性には禁煙と飲酒量を減らすためのカウンセリングを行う。疫学研究では,飲酒と乳癌のリスク増加との関連が報告されている;しかしながら,因果関係の確立は困難である。American cancer Societyは女性に対し,アルコール飲料は1日に1単位以内とすることを推奨している。

Breast Cancer Risk Assessment Tool(BCRAT)または Gailモデル マンモグラフィー マンモグラフィー を用いれば,女性の5年間および生涯の乳癌発生リスクを計算することができる。

危険因子に関する参考文献

病理

大部分の乳癌は,乳管または小葉を覆う細胞から発生する上皮性腫瘍である;支持する間質の非上皮性悪性腫瘍(例,血管肉腫,原発性間質肉腫,葉状腫瘍)は比較的まれである。

乳癌は非浸潤がん(carcinoma in situ)と浸潤がんに分けられる。

非浸潤がんは乳管または小葉内のがん細胞の増殖であり,間質組織への浸潤を伴わない。これには2つの型がある:

  • 非浸潤性乳管癌(DCIS):非浸潤癌の約85%がこの組織型である。DCISは通常マンモグラフィーによってのみ検出される。乳房の狭いまたは広い範囲を侵すことがある;広い範囲が侵される場合,時間が経つにつれて顕微鏡的浸潤巣が発生することがある。

  • 非浸潤性小葉癌(LCIS):LCISはしばしば多病巣性かつ両側性である。古典型と多形型の2種類がある。古典型LCISは悪性ではないが,いずれかの乳房に浸潤癌が発生するリスクを高める。この病変は触知不能であり,通常は生検により発見され,マンモグラフィーで描出されることはまれである。多形型LCISはDCISに似た挙動を示し,断端陰性となるように切除すべきである。

浸潤癌は主に腺癌である。約80%は浸潤性乳管型であり,残りの症例の大半は浸潤性小葉癌である。まれな組織型として,髄様癌,粘液癌,化生癌,管状癌などがある。粘液癌は高齢女性に発生し,成長が緩徐である傾向がある。これらのまれな型の乳癌を有する女性では,他の型の浸潤性乳癌を有する女性よりもはるかに予後良好である。

炎症性乳癌は成長が早く,しばしば致死的ながんである。がん細胞が乳房の皮膚のリンパ管を閉塞させる結果,乳房が炎症を起こしているように見え,皮膚が厚いオレンジの皮のように見える(橙皮状皮膚)。通常,炎症性乳癌は腋窩リンパ節に転移する。リンパ節は硬いしこりのように触れる。しかしながら,がんが乳房全体に分布しているため,乳房に腫瘤を触れない場合が多い。

病態生理

乳癌は局所的に浸潤し,所属リンパ節,血流,またはこれらの両方を介して拡がる。転移性乳癌は,身体のほぼ全ての臓器を侵しうる;最も一般的には,肺,肝,骨,脳,皮膚である。皮膚転移の大半は乳房の手術領域近傍に生じる;頭皮への転移はまれである。

一部の乳癌は他の乳癌よりも早く再発することがあり,再発はしばしば腫瘍バイオマーカーに基づいて予測できる。例えば,転移性乳癌は,腫瘍バイオマーカーが陰性の患者で3年以内に発生することもあれば,エストロゲン受容体陽性腫瘍の患者で初期診断および治療から10年以上経過してから発生することがある。

ホルモン受容体

乳癌で発現がみられるエストロゲンおよびプロゲステロン受容体は,どちらも核内ホルモン受容体であり,対応するホルモンがこれらに結合すると,DNAの複製と細胞分裂が促進される。したがって,これらの受容体を阻害する薬物が受容体を発現する腫瘍の治療に有用となる可能性がある。閉経後の乳癌患者の約3分の2では,腫瘍がエストロゲン受容体陽性(ER陽性)である。ER陽性腫瘍の発生率は閉経前の患者の方が低い。

もう1つの細胞受容体はHER2(human epidermal growth factor receptor 2;HER2/neuまたはErbB2とも呼ばれる)であり,その存在は病期を問わず,予後不良と相関する。乳癌患者の約20%において,HER2受容体の過剰発現がみられる。このような患者においては,これらの受容体を阻害する薬物が標準治療の一環となっている。

症状と徴候

多くの乳癌は患者により腫瘤として発見されるか,ルーチンの身体診察時やマンモグラフィー時に発見される。比較的まれな症状として,乳房の痛みや腫大,特徴のない乳房の肥厚がある。

乳頭パジェット病は,紅斑,痂皮,鱗屑,分泌物などの皮膚変化として表れる;これらの変化は通常良性のように見えるため,患者はそれらを無視し,診断が1年以上遅れる。乳頭パジェット病患者の約50%に,来院時点で触知可能な腫瘤がある。

少数の乳癌患者に転移性疾患の徴候がみられる(例,病的骨折,肺機能不全)。

身体診察時に一般的にみられる所見は非対称性または著明な腫瘤(周囲の乳腺組織と明らかに異なる腫瘤)である。乳房の四分円(通常は上外側四分円)内におけるびまん性の線維性変化は,良性疾患により多くみられる特徴である;一方の乳房にあり,他方の乳房にはない,もう少し硬い肥厚はがんの徴候である可能性がある。

より進行した乳癌は以下の1つ以上を特徴とする:

  • 胸壁や腫瘤を覆っている皮膚への腫瘤の固着

  • 皮膚の衛星結節や潰瘍

  • 皮膚リンパ管侵襲による皮膚浮腫によって生じる通常の皮膚紋理の増強(いわゆる橙皮状皮膚)

癒合,または固定した腋窩リンパ節は,鎖骨上および鎖骨下リンパ節腫脹と同様,腫瘍の転移を示唆する。

炎症性乳癌は橙皮状皮膚,紅斑,および乳房の腫大を特徴とし,腫瘤がないことが多い。乳頭分泌物がよくみられる。炎症性乳癌は特に急速な進行がみられる。

スクリーニング

スクリーニングの方法としては以下のものがある:

  • マンモグラフィー(デジタルおよび3次元マンモグラフィーを含む)

  • 医療従事者による乳房視触診(clinical breast examination:CBE)

  • 高リスク患者に対してはMRI

  • 毎月の乳房自己検診(breast self-examination:BSE)

マンモグラフィー

マンモグラフィーでは,低線量のX線で両乳房を2方向(斜位と頭尾)から撮影する。

マンモグラフィーは高齢の女性ほど精度が高くなるが,これは一部には,乳房の線維腺組織は加齢とともに脂肪組織に置換される傾向にあり,脂肪組織は容易に異常組織と区別できるためである。マンモグラフィーは高濃度乳房の女性では感度が低くなり,一部の州では,スクリーニングのマンモグラフィーで高濃度乳房であることが判明した場合は,その事実を患者に知らせることが義務づけられている。高濃度乳房の女性では,追加の画像検査(例,乳房トモシンセシス[3次元マンモグラフィー])が必要である可能性がある。

乳癌リスクが平均レベルの女性に対するスクリーニングマンモグラフィーのガイドラインは様々であるが,一般的には,スクリーニングを40歳,45歳,または50歳で開始し,75歳または期待余命が10年未満になるまで1~2年毎に繰り返す(平均的リスクの女性に対する乳癌スクリーニングにおけるマンモグラフィーに関する推奨 平均的リスクの女性に対する乳癌スクリーニングにおけるマンモグラフィーに関する推奨 平均的リスクの女性に対する乳癌スクリーニングにおけるマンモグラフィーに関する推奨 の表を参照)。医師は,患者が自身の乳癌リスクを理解していることを確認し,患者に検査に関する希望を尋ねるようにすべきである。

Breast Cancer Risk Assessment Tool(BCRAT)またはGailモデルを用いれば,女性の5年間および生涯の乳癌発生リスクを計算することができる。乳癌の生涯リスクが15%未満の女性は,平均的リスクとみなされる。

スクリーニングとしてのマンモグラフィーを施行する時期と頻度に関係する問題として,以下のものがある:

  • 精度

  • リスクおよび費用

スクリーニングのマンモグラフィーで検出される異常のうち,がんによるものは約10~15%のみであり,偽陽性率は85~90%である。偽陰性率が15%を超える場合もある。偽陽性の多くは良性病変(例,嚢胞,線維腺腫)によるものであるが,組織学的にがんの定義を満たしながら,患者の生涯を通じて浸潤がんに進行しない病変を検出してしまうことが新たな懸念となっている。

精度はある程度,撮影技師の技術や経験に依存する。デジタル化したマンモグラフィー画像のコンピュータ解析(フルフィールドデジタルマンモグラフィー)を用いて診断に役立てている医療機関もある。このようなシステムは,放射線科医が読影する場合,50歳未満女性の浸潤がんに対する精度が若干高い可能性があるが,コンピュータによる検出を読影の主軸する場合には,おそらくそのようなことはない。

デジタルマンモグラフィーによる乳房トモシンセシス(3次元マンモグラフィー)は,がんの検出率をやや改善し,画像検査の再検査率を低下させる(2);この検査は高濃度乳房の女性で役立つ。しかしながら,この検査は従来のマンモグラフィーと比べて被曝線量がほぼ2倍である。

費用の問題には,画像検査自体の費用だけでなく,画像検査での偽陽性判定の評価に必要となる診断検査の費用とリスクも含まれる。

乳房診察

ルーチンの乳房視触診または自己検診の価値については,依然として議論がある。American Cancer SocietyやUS Preventive Services Task Forceなど,平均的リスクの女性には,その方法を問わず,ルーチンのスクリーニングは実施しないよう推奨している団体もある。一方,American College of Obstetricians and Gynecologistなどの他の学会は,乳癌スクリーニングの重要な構成要素として乳房視触診と乳房自己検診を推奨している。

乳房視触診(clinical breast examination:CBE)は通常,40歳以上の女性を対象とする年1回の定期検診に組み込まれている(1 スクリーニングに関する参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む スクリーニングに関する参考文献 )。米国では,CBEはスクリーニングのマンモグラフィーの代替とされるよりも,むしろ併用されることが多い。しかしながら,マンモグラフィーが高価すぎると考えられている国もあり,その場合CBEが唯一のスクリーニングとなる;この役割に関する有効性についての報告は様々である。

乳房自己検診(breast self-examination:BSE)は,単独で死亡率を低下させる効果は示されていないが,その有用性についてのエビデンスは様々で,広く用いられている。一部の女性は,BSEで陰性と判断すると,マンモグラフィーやCBEを先送りしてしまうため,BSEを指導する際には,これらの手順の必要性を強調すべきである。患者には毎月同じ日にBSEを行うよう指導すべきである。月経のある女性では,乳房の圧痛や腫脹が少ない月経終了後2~3日目が推奨される。

MRI

MRIは,BRCA遺伝子変異を有するなど乳癌リスクの高い(例,20%超)女性のスクリーニングに関して,CBEやマンモグラフィーより優れていると考えられている。これらの女性ではスクリーニングにはマンモグラフィーとCBEに加えMRIも含めるべきである。MRIはより感度が高いが特異度が低いことがある。高濃度乳房の女性には,リスク評価を含む総合的な評価の一環としてMRIが推奨されることがある。

スクリーニングに関する参考文献

診断

  • マンモグラフィー,乳房診察,および画像検査(例,超音波検査)によるスクリーニング

  • エストロゲンおよびプロゲステロンの受容体とHER2タンパク質の分析を含む生検

身体診察で進行がんが疑われる場合は,まず生検を施行すべきである;それ以外の場合は,アプローチは 乳房腫瘤の評価 評価 乳房腫瘤は,あらゆる大きさの孤立した触知可能な部位を示す用語として,しこりよりも望ましい。乳房腫瘤は,患者によって偶発的または乳房自己検診中に見つかることや,ルーチンの身体診察中に医師により検出されることがある。 腫瘤は痛みを伴わないことも伴うこともあり,ときに 乳頭分泌物または皮膚変化を伴う。 原因としては 乳癌が最も恐れられているが,大半(約90%)の乳房腫瘤は良性である。最も頻度の高い原因としては以下のものがある:... さらに読む 評価 と同様であり,これには典型的に超音波検査を含む。がんの可能性がある全ての病変に対して生検を行うべきである。生検前の両側マンモグラフィーは,生検を行うべき他の部位を明確化するのに役立ち,将来参照する際のベースラインとなる。ただし,身体所見に基づき生検の施行を決定した場合は,マンモグラフィーの結果でその決定を変更するべきではない。

パール&ピットフォール

  • 身体所見に基づき生検の施行を決定した場合は,マンモグラフィーの結果でその決定を変更するべきではない。

生検

経皮的コア針生検が手術生検よりも望ましい。コア生検は画像ガイド下または触診をガイドにして(フリーハンドで)行うことができる。精度向上のために,定位生検(2平面撮影し3次元画像を作るためにコンピュータで分析されたマンモグラフィーをガイドに行う針生検)や超音波ガイド下生検がルーチンに用いられるようになっている。生検部位を同定するためにクリップを留置する。

コア生検が不可能な場合(例,病変が後方すぎる)は,手術生検が行われることがあり,ガイドワイヤーを挿入し,画像ガイド下で生検部位を同定する。

皮膚リンパ管内のがん細胞が明らかになることがあるため,生検検体より得た皮膚は全て検査すべきである。

切除した検体をX線撮影し,そのX線像を生検前のマンモグラフィーと比較し,全ての病変を除去したか否か確認すべきである。元の病変が微小石灰化を伴っていた場合,乳房を触っても圧痛がなくなったら(通常は生検から6~12週間後)再度マンモグラフィーを行い,微小石灰化が残存していないか確認する。放射線療法が予定されている場合,マンモグラフィーは放射線療法の開始前に行うべきである。

がん診断後の評価

がんの診断後は,通常は集学的評価を行い,さらなる検査および治療を計画する。中心的な集学的チームは典型的に,乳腺腫瘍外科医,腫瘍内科医,および放射線腫瘍医に加え,がんにおけるその他の専門家を含む(腫瘍委員会)。

陽性生検検体の一部を,エストロゲンおよびプロゲステロン受容体およびHER2タンパク質について分析すべきである。

以下の場合,乳癌の素因となる遺伝子変異について血液または唾液から採取した細胞を検査する:

  • 家族歴に乳癌早期発症の症例が複数ある場合

  • 乳癌または卵巣がんの家族歴を有する患者に卵巣がんが発生した場合

  • 乳癌と卵巣がんが同一患者に発生した場合

  • 患者がアシュケナージ系ユダヤ人である場合

  • 家族歴に男性乳癌が1例でも含まれている場合

  • 45歳未満で乳癌を発症した場合

  • エストロゲンおよびプロゲステロン受容体,HER2タンパク質過剰発現のいずれも認めないがん(トリプルネガティブ乳癌)

これらの検査における最善のアプローチは患者を遺伝カウンセラーに紹介することであり,遺伝カウンセラーは詳細な家族歴を記録し,最も適切な検査を選択し,結果の解釈を助けることが可能である。

胸部X線,血算,肝機能検査,および血清カルシウム値の測定を行い,遠隔転移の有無を確認すべきである。

がん胎児性抗原(CEA),がん抗原(CA)15-3,またはCA 27-29の測定や骨シンチグラフィーを行うべきかどうか判断するために,腫瘍医へのコンサルテーションを行うべきである。

骨シンチグラフィーの一般的な適応としては,以下のものがある:

  • 骨痛

  • 血清アルカリホスファターゼ値の上昇

  • III期またはIV期

以下のいずれかを認める場合は,腹部CTを施行する:

  • 肝機能検査での異常

  • 腹部診察または内診での異常

  • III期またはIV期

以下のいずれかを認める場合は,胸部CTを施行する:

  • 息切れなどの肺症状

  • III期またはIV期

MRIは術前計画を立てるために外科医によってしばしば用いられる;腫瘍の大きさ,胸壁病変,および腫瘍の数を正確に同定できる。

悪性度分類および病期分類

悪性度分類は生検で得た組織の組織学的検査に基づく。腫瘍の悪性度は,顕微鏡下で観察される腫瘍の細胞および組織の異常の程度を示す。

病期分類はTNM(tumor, node, metastasis)分類に従う(乳癌の解剖学的病期分類 乳癌の解剖学的病期分類* 乳癌の解剖学的病期分類* の表を参照)。リンパ節転移に関して診察と画像検査の感度は低いため,手術時に所属リンパ節を評価できる場合には,病期診断をさらに正確に行う。しかしながら,触知可能で異常な腋窩リンパ節を認める場合は,術前に超音波ガイド下で穿刺吸引またはコア生検を行ってもよい:

  • 生検の結果が陽性であれば,典型的には根治的手術の際に腋窩リンパ節郭清が行われる。ただし,ネオアジュバント化学療法を用いることで,リンパ節の状態がN1からN0に変化すれば,センチネルリンパ節生検が可能になる。(術中の凍結切片分析の結果により,腋窩リンパ節郭清が必要かどうかを判断する。)

  • 結果が陰性であれば,より侵襲の少ない手技であるセンチネルリンパ節生検が代わりに行われることがある。

病期分類は以下に基づいて行われる:

  • 解剖学的病期分類モデル:腫瘍の解剖に基づいており,バイオマーカーがルーチンに得られない世界の地域で使用されている(乳癌の解剖学的病期分類 乳癌の解剖学的病期分類* 乳癌の解剖学的病期分類* の表を参照)

  • 予後に基づく病期分類モデル:腫瘍の解剖およびバイオマーカーの状態に基づいており,主に米国で使用されている

妊孕性の温存

乳癌患者は乳癌の治療中に妊娠すべきではない。しかしながら,妊孕性温存を希望する全ての患者について,全身療法が開始される前に妊孕性温存について話し合うために生殖内分泌医(reproductive endocrinologist)に紹介すべきである。

妊孕性温存の選択肢には以下のものがある:

  • 卵巣刺激および卵子と胚の凍結保存を用いた生殖補助医療(ART)

  • 化学療法による卵子の破壊を最小限に抑えるための卵巣機能抑制(例,リュープロレリンによる)

用いることが可能な妊孕性温存の方法は,乳癌の種類,予想される治療,および患者の希望に影響を受ける。ARTはエストロゲン受容体陽性腫瘍の患者に有害作用を及ぼす可能性がある。

診断に関する参考文献

予後

長期予後は病期によって異なる。リンパ節転移の状態(リンパ節の数および位置を含む)は,他の予後因子よりも無病生存および全生存と相関する。

5年生存率(National Cancer InstituteのSurveillance, Epidemiology, and End Results (SEER) Programから算出)は病期に依存する:

  • 限局性(原発部位にとどまっている場合):98.8%

  • 所属リンパ節陽性(所属リンパ節転移にとどまっている場合):85.5%

  • 遠隔転移陽性:27.4%

  • 不明:54.5%

以下に示す他の因子は予後不良と関連する:

  • 若年:20代および30代で乳癌と診断された患者は中年で診断された患者より予後が悪いようである。

  • 大きな原発腫瘍:腫瘍が大きいほどリンパ節転移が陽性となる可能性が高くなるが,リンパ節の状態に関係なく腫瘍が大きいほど予後不良となる。

  • 悪性度の高い腫瘍:低分化腫瘍の患者は予後不良である。

  • エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の欠如:ER陽性の患者はやや予後が良好で,ホルモン療法が有益となる可能性がより高い。腫瘍にプロゲステロン受容体の発現がみられる患者も予後が良好な場合がある。腫瘍にエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体の両方の発現がみられる患者は,どちらか一方のみが陽性の患者より予後良好である可能性があるが,その便益は明確でない。

  • HER2タンパク質の存在:HER2遺伝子(HER2/neuerb-b2])が増幅されると,HER2タンパク質が過剰発現して,細胞の増殖と再生を亢進させ,しばしば進行の速い腫瘍細胞が生み出される。HER2の過剰発現は独立した予後不良因子であり,他の予後不良因子である高い組織学的悪性度,ER陰性の腫瘍,広範な増殖,および大きな腫瘍と関連している可能性がある。

  • BRCA遺伝子変異の存在:いずれの病期においても,BRCA1遺伝子変異をもつ患者は散発性腫瘍の患者よりも予後不良であり,これはおそらく,そうした患者のがんは高悪性度でホルモン受容体陰性のがんの比率が高いことによる。腫瘍が同様の特徴を呈する場合には,BRCA2遺伝子変異をもつ患者ともたない患者の予後はおそらく同等である。どちらかの遺伝子変異を有している場合は,残りの乳房組織に2つ目のがんが発生するリスクが高い(おそらく40%に上る)。

治療

  • 手術

  • 通常は放射線療法

  • 全身療法:ホルモン療法,化学療法,または両方

治療についてのより詳細な情報については,NCCN Clinical Practice Guideline: Breast Cancerを参照のこと。

大部分の種類の乳癌で治療は手術,放射線療法,および全身療法を含む。治療の選択は腫瘍と患者の特徴によって異なる(乳癌の種類に応じた治療 乳癌の種類に応じた治療 乳癌の種類に応じた治療 の表を参照)。手術の推奨は変化してきており,これにはオンコプラスティックサージャリー(がんの切除と乳房再建を組み合わせた手術)のために形成外科医や再建外科医に早期に紹介することも含まれる。

手術

手術では乳房切除術または乳房温存手術 + 放射線療法を行う。

乳房切除術では,乳房全体を切除するが,以下の種類がある:

  • 皮下乳腺全摘術:胸筋と手術創を覆うのに十分な皮膚を温存するため,乳房再建がはるかに容易になり,さらに腋窩リンパ節も温存する

  • 乳頭乳輪温存乳房切除術:皮下乳腺全摘術と同様であり,加えて乳頭と乳輪を温存する

  • 単純乳房切除術:胸筋と腋窩リンパ節を温存する

  • 非定型的乳房切除術:胸筋を温存し,一部の腋窩リンパ節を切除する

  • 定型的乳房切除術:腋窩リンパ節と胸筋を切除する

定型的乳房切除術は,がんが胸筋に浸潤していない限り,行われることはまれである。

乳房温存手術では,腫瘍の大きさおよび必要な断端(乳房の大きさに対する腫瘍の大きさに基づく)を特定した後,腫瘍を断端とともに外科的に切除する。切除する乳房組織の範囲を示すために,様々な表現(例,腫瘤摘出術,乳房円状部分切除術,乳房扇状部分切除術)が用いられる。

浸潤がんの患者では,乳房切除術を行った場合の生存率および再発率は,腫瘍全体の切除が可能である限り,乳房温存手術と放射線療法の併用の場合と有意に異なることはない。

したがって,患者の希望によりある程度は治療を選択できる。乳房温存手術と放射線療法併用の主な利点は,範囲の狭い手術であることと,乳房を維持できる可能性があることである。このように治療された患者の15%では,審美的結果が非常に良好である。しかしながら,腫瘍のない辺縁を含めた腫瘍の完全摘出の必要性を審美的配慮よりも優先すべきである。乳房が下垂した患者では,オンコプラスティックサージャリーについての形成外科医へのコンサルテーションが助けになる可能性があり,良好な切除縁を得ることもできる。

術前化学療法を行い,腫瘍切除と放射線療法に先行して摘出前に腫瘍を縮小せしめることがある;これにより,そうでなければ乳房切除を必要としていたかもしれない患者が,乳房温存手術を受けることができる。

リンパ節の評価

乳房切除術と乳房温存手術のいずれの手術の際にも,典型的に腋窩リンパ節の評価を行う。方法としては以下のものがある:

  • 腋窩リンパ節郭清術(ALND)

  • センチネルリンパ節生検(SLNB)

ALNDは,可能な限り多くの腋窩リンパ節を切除する,かなり広範囲にわたる手技であり,合併症(特にリンパ浮腫)がよくみられる。現在では,臨床的に転移が疑われるリンパ節の生検でがんが発見される場合を除き,大半の臨床医が最初にSLNBを行っている;リンパ浮腫のリスクはSLNBの方が低い。リンパ節郭清の主な有用性は治療ではなく診断にあり,腋窩リンパ節浸潤に対するSLNBの感度は95%以上であるため,ALNDをルーチンに行うことは妥当ではない。

SLNBでは,乳房周囲に青色色素や放射性コロイドを注入し,ガンマプローブを用いて(青色色素を用いる場合は直視下で),そのトレーサーが流入したリンパ節の位置を同定する。トレーサーが最初に流入するリンパ節は,転移過程のがん細胞が侵入している可能性が最も高いと考えられ,センチネルリンパ節と呼ばれる。

センチネルリンパ節のいずれかにがん細胞が含まれている場合には,以下のような多くの因子に応じて,ALNDが必要である可能性がある:

乳房切除術の際のSLNB中に凍結切片の分析を行い,リンパ節が陽性の時に備えてあらかじめALNDの同意を得る外科医もいる;他の場合は通常の病理結果を待ち,必要な場合2回目の処置としてALNDを行う。腫瘍摘出術では凍結切片の分析はルーチンに行われない。

同側腕のリンパ流出障害は腋窩リンパ節郭清(ALNDまたはSLNB)または放射線療法後にしばしば生じ,ときにリンパ浮腫による著明な腫脹が起こる。影響の程度は,切除されたリンパ節の数にほぼ比例する;したがってSLNBはALNDよりもリンパ浮腫を起こしにくい。ALND後のリンパ浮腫の生涯リスクは約25%である。しかしながら,SLNBであってもリンパ浮腫の生涯リスクを6%認める。リンパ浮腫のリスクを低減するため,通常は患側での点滴静注は回避する。圧迫帯を装着することと,患肢の感染を予防すること(例,庭仕事の際には手袋を着用する)が重要である。ときに同側腕での血圧測定や静脈穿刺を避けることも推奨されるが,それを支持するエビデンスはごくわずかである(2 治療に関する参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 治療に関する参考文献 )。

リンパ浮腫が発生した場合は,特別な訓練を受けたリンパ浮腫療法士が治療を行わなければならない。1日1~2回行う特別なマッサージが,滞留している部位から機能しているリンパ域へ体液を排出するのに役立つ場合がある;用手的ドレナージを行ったら直ちに伸縮性の少ない包帯を巻き,患者には処方した通りに毎日運動させるべきである。リンパ浮腫が軽減(典型的には1~4週間)した後も,患者には毎日の運動と夜間の患肢への包帯を,期限を設けることなく続けさせる。

再建術

乳房再建の術式としては以下のものがある:

  • インプラントによる再建:ときにティッシュエキスパンダーの使用後に,シリコンまたは生理食塩水のインプラントを挿入する

  • 自家組織による再建:筋弁の移植(広背筋,大殿筋,または下部腹直筋を使用)または筋遊離皮弁の移植

乳房再建は,最初の乳房切除術中または乳房温存手術中に行うか,後に別の手術として行うことが可能である。手術の時期は,患者の希望と放射線療法などのアジュバント療法の必要性に依存する。しかし,放射線療法を最初に行うと施行できる再建手術の種類が限られる。そのため,治療計画中の早期に形成外科医へのコンサルテーションを行うことが推奨される。

乳房再建の利点としては,乳房切除術を受けた患者の精神衛生の改善などがある。欠点としては,手術合併症やインプラントの長期的な有害作用などがある。

腫瘤摘出術(特に下部乳房または上内側四分円の腫瘤摘出術)を行う場合にも,形成外科医への早期のコンサルテーションを考慮すべきである。オンコプラスティックサージャリー(がんの切除と乳房再建を組み合わせた手術)の最適な対象は,乳房が下垂した(垂れ下がった)患者である。対側乳房固定術により対称性が改善する可能性がある。

予防的対側乳房切除術

予防的対側乳房切除術は,乳癌の女性の一部(例,乳癌のリスクを増大させる遺伝子変異を有する女性)にとって選択肢の1つである。

片方の乳房に非浸潤性小葉癌がある場合,いずれかの乳房に浸潤がんが発生する可能性は同程度に高い。そのため,これらの女性において乳癌のリスクを排除する唯一の方法は両側乳房切除術である。一部の女性,特に浸潤性乳癌の発生リスクが高い女性では,この選択肢を選ぶ。

予防的対側乳房切除術の利点には以下のものがある:

  • 対側乳房のがんのリスク減少(特に乳癌または卵巣がんの家族歴を有する患者において)

  • 先天性の遺伝子変異(例,BRCA1またはBRCA2変異)を有する乳癌患者,および場合により50歳未満で診断された女性における生存率改善

  • 一部の患者において不安の減少

  • 煩雑なフォローアップの画像検査の必要性の減少

予防的対側乳房切除術の欠点には以下のものがある:

  • 手術合併症率がほぼ2倍に上昇

対側乳房の乳癌発生リスクが最も高い患者においてさえも,予防的対側乳房切除術は必須ではない。綿密なサーベイランスが合理的な代替手段である。

放射線療法

以下のいずれかが存在する場合,乳房切除術後の放射線療法が適応となる:

  • 原発腫瘍が5cm以上である。

  • 腋窩リンパ節に浸潤がみられる。

このような症例では,乳房切除術後の放射線療法により,胸壁や所属リンパ節における局所再発率が有意に低下し,全生存率が上昇する。

乳房温存術後の放射線療法により,乳房や所属リンパ節における局所再発率が有意に低下し,全生存率が上昇しうる。しかし,患者が70歳以上でER陽性の早期乳癌である場合,腫瘤摘出術 + タモキシフェンへの放射線療法の追加は必要でない可能性がある;放射線療法の追加により局所再発における乳房切除術の施行率や遠隔転移発生率は有意に低下せず,生存率も上昇しない(3 治療に関する参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 治療に関する参考文献 )。

放射線療法の有害作用(例,疲労,皮膚変化)は通常一過性で軽度である。晩期有害反応(例,リンパ浮腫,腕神経叢障害,放射線肺炎,肋骨障害,二次がん,心毒性)は比較的まれである。

放射線療法を改善するために,研究者らはいくつかの新しい方法を研究中である。これらの方法の多くは,より正確にがんに放射線を照射し,乳房の他の部分に放射線の影響を与えないことを目的としている。

アジュバント全身療法

LCISの患者には,しばしば経口タモキシフェンを連日投与する。閉経後女性には,ラロキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬が代替薬となる。

浸潤がんのある患者では,通常は化学療法を手術直後から開始する。全身化学療法が必要でない場合(以下参照),ホルモン療法を通常は手術 + 放射線療法の直後から開始し,数年継続する。これらの治療によりほぼ全ての患者で再発を遅延または予防でき,一部の患者では生存期間が延長する。ただし,リンパ節転移のない小さな(0.5~1cm未満)腫瘍の多く(特に閉経後患者)は,すでに非常に予後良好であるため,これらの治療は必要ないと考える専門家もいる。腫瘍が5cmを超える場合には,手術前からアジュバント全身療法を開始することもある。

化学療法またはホルモン療法による再発および死亡リスクの低下は,がんの臨床病期や病理学的病期に関係なく同等である。したがって,絶対的なベネフィットは,再発または死亡リスクが高い患者ほど大きくなる(すなわち,20%の相対リスク低下は,10%の再発率を8%に下げるが,50%の再発率は40%まで低下する)。閉経前患者では,アジュバント化学療法により年間死亡オッズ(相対リスク)が平均25~35%低下する;閉経後患者では,低下は閉経前患者の約半分で(9~19%),10年生存率における絶対的有益性はさらに少なくなる。

アジュバント化学療法の効果はER陰性腫瘍の閉経後患者で最も大きい(乳癌に対する望ましいアジュバント全身療法 乳癌に対する望ましいアジュバント全身療法* 乳癌に対する望ましいアジュバント全身療法* の表を参照)。ER陽性の乳癌では,患者のリスクを層別化することと,多剤併用化学療法とホルモン療法単独のどちらの適応があるかを判断することを目的として,原発性乳癌の治療効果を予測するゲノム検査が行われることが増えてきている。予後予測のための一般的な検査としては,以下のものがある:

  • 21遺伝子の再発スコアアッセイ(Oncotype Dx™に基づく)

  • 70遺伝子のアムステルダム遺伝子プロファイル(MammaPrint®)

  • 50遺伝子の再発リスクスコア(PAM50 assay)

米国では,乳癌女性のほとんどがER陽性/PR陽性/HER陰性で,腋窩リンパ節転移陰性である。このような女性では,21遺伝子再発スコアアッセイのスコアが低いか中間であれば,化学療法とホルモン療法の併用とホルモン療法単独で同程度の生存率が予測される。そのため,このサブセットの乳癌女性では,ネオアジュバント化学療法が必要でない可能性がある。

単剤よりも多剤併用化学療法レジメンの方が効果的である。dose-denseレジメンで4~6カ月投与する方法が望ましい;dose-denseレジメンでは標準的なレジメンよりも投与と投与の間の時間が短い。多くのレジメンがある;一般的に用いられているものはACT(ドキソルビシン + シクロホスファミド,その後パクリタキセル)である。急性の有害作用はレジメンによって異なるが,通常は悪心,嘔吐,粘膜炎,疲労,脱毛,骨髄抑制,心毒性,血小板減少症などが生じる。骨髄を刺激する成長因子(例,フィルグラスチム,ペグフィルグラスチム)が化学療法による発熱および感染のリスクを下げるために一般的に使用される。長期の有害作用は大部分のレジメンで起こることは少ない;感染や出血により死亡することはまれである(0.2%未満)。

骨髄移植や造血幹細胞移植を併用する大量化学療法は,標準治療に優るほどの治療上の利点はなく,使用すべきではない。

HER2の過剰発現がみられる腫瘍(HER2陽性)には,抗HER2薬(トラスツズマブ,ペルツズマブ)が使用されることがある。ヒトモノクローナル抗体であるトラスツズマブを化学療法に加えることでかなりの効果がある。トラスツズマブは通常1年間継続するが,至適な治療期間は不明である。リンパ節に浸潤している場合,トラスツズマブにペルツズマブを加えることで無病生存率が改善する。この2つの抗HER2薬における可能性のある重篤な有害作用は心駆出率の低下である。

ホルモン療法(例,タモキシフェン,ラロキシフェン,アロマターゼ阻害薬)では,その効果は以下のようにエストロゲンおよびプロゲステロン受容体の発現に依存する:

  • 腫瘍にエストロゲンおよびプロゲステロン受容体の発現がみられる場合に最も高い

  • エストロゲン受容体のみ発現がみられる場合はほぼ同等に高い

  • プロゲステロン受容体のみ発現がみられる場合は非常に低い

  • どちらの受容体も発現がみられない場合は無効

ER陽性の腫瘍(特に低リスクの腫瘍)がある患者では,化学療法の代わりにホルモン療法を用いることがある。

ラロキシフェンは予防のために適応となるが,治療では適応とはならない。

転移病変

転移を示唆する徴候があれば,直ちに評価を行うべきである。転移に対する治療により生存期間の中央値は6カ月またはそれ以上長くなる。これらの治療(例,化学療法)は,比較的毒性があるが,症状を緩和し生活の質を改善することがある。したがって,治療を受けるかどうかの決定は極めて個人的なものとなる。

治療の選択は以下によって異なる:

  • 腫瘍のホルモン受容体の状態

  • 無病期間の長さ(寛解から転移発生まで)

  • 転移病変および侵されている臓器の数

  • 患者が閉経しているかどうか

全身ホルモン療法または化学療法が,症状がある転移例で通常用いられる。中枢神経系外に複数の転移部位がある患者には,最初に全身療法を施行すべきである。転移が無症状である場合,治療が実質的に生存を延長させるという証拠はなく,生活の質を低下させることがある。

以下のいずれかに該当する患者には,化学療法よりもホルモン療法が望ましい:

  • ER陽性

  • 無病期間が2年以上

  • 直ちに生命が脅かされる病状ではない

閉経前女性では,しばしばタモキシフェンが最初に使用される。合理的な代替案として,手術,放射線療法,または黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト(例,ブセレリン,ゴセレリン,リュープロレリン)による卵巣機能抑制がある。一部の専門家は,卵巣機能抑制とタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬を併用している。閉経後女性では,アロマターゼ阻害薬が主なホルモン療法として使用されることが増えている。がんが初めはホルモン療法に反応するが,数カ月から数年後に進行する場合には,別の種類のホルモン療法(例,プロゲスチン,抗エストロゲン作用のあるフルベストラント)を追加で使用し,反応が起こらなくなるまで継続して使用してもよい。

最も効果的な化学療法薬は,カペシタビン,ドキソルビシン(リポソーム製剤を含む),ゲムシタビン,タキサン系のパクリタキセルとドセタキセル,およびビノレルビンである。薬剤の併用に対する奏効率は単剤の場合より高いが,生存率は改善されず毒性が高まる。このため,薬剤を単独で連続的に使用する場合もある。

HER2の過剰発現がみられる腫瘍の治療には,抗HER2薬(例,トラスツズマブ,ペルツズマブ)が使用される。これらの薬剤は,内臓の転移部位の治療およびコントロールに効果的である。トラスツズマブは単独,あるいはホルモン療法,化学療法,またはペルツズマブと併用して使用される。トラスツズマブ + 化学療法 + ペルツズマブの組合せでは,トラスツズマブ + 化学療法に比べHER2陽性の転移性乳癌の増殖が遅くなり,生存率が改善する(4 治療に関する参考文献 乳癌は乳管や小葉の腺性の乳腺細胞を侵す。大半の患者に無症状の腫瘤があり,それらは診察やスクリーニングのマンモグラフィーで発見される。診断は生検により確定される。治療としては通常,外科的切除と,しばしば放射線療法との併用,場合によりアジュバント化学療法,ホルモン療法,またはその両方を施行することなどが含まれる。 米国では,白人,黒人,アジア系/太平洋諸島系,アメリカンインディアン/アラスカ先住民,ヒスパニック系の女性において,乳癌はがんに... さらに読む 治療に関する参考文献 )。

チロシンキナーゼ阻害薬(例,ラパチニブ,ネラチニブ)はHER2陽性腫瘍の女性に使用されることが増えてきている。

外科的切除が有効ではない症状のある弧立性骨病変や皮膚の局所再発の治療のため,放射線療法を単独で行うことがある。放射線療法は脳転移に対して最も効果的な治療であり,ときに長期コントロールをもたらす。

安定した転移性乳癌患者では,ときに緩和的な乳房切除術(Palliative mastectomy)が選択肢となる。

ビスホスホネートの静注(例,パミドロン酸,ゾレドロン酸)は骨痛および骨量減少を緩和し,骨転移による骨合併症を予防ないし遅延させる。骨転移のある患者の約10%が最終的に高カルシウム血症を発症し,これもビスホスホネートの静注製剤で治療可能である。

終末期の問題

転移性乳癌の患者では,生活の質が低下する可能性があり,さらなる治療を行っても生存期間が延長する可能性が低い場合がある。延命よりも緩和療法の方が最終的に重要になる場合もある。

がん性 疼痛 疼痛 身体的,心理的,感情的,および精神的な苦痛は,致死的疾患を抱えて生きる患者によくみられ,一般的に患者は長引いて解消されない苦しみを恐れる。医療提供者は患者に対し,苦痛を伴う症状はしばしば予測および予防が可能であり,それらの症状が出現したときは治療が可能であることを伝えて安心させることができる。 症状の治療は可能な場合,病因に基づいて行われるべきである。例えば,高カルシウム血症による嘔吐に対しては,頭蓋内圧の上昇によるものとは異なる治療が... さらに読む は, オピオイド鎮痛薬 オピオイド鎮痛薬 非オピオイドおよびオピオイド鎮痛薬が疼痛治療に主に用いられる薬剤である。抗うつ薬,抗てんかん薬,その他の中枢神経系作用薬も慢性疼痛や神経障害性疼痛に使用されており,一部の病態に対しては第1選択の治療となっている。脊髄幹輸注(neuraxial infusion),神経刺激,注射療法,および神経ブロックは特定の患者に役立つ可能性がある。認知行動療法(例,家庭内の対人関係の変化,リラクゼーション法の系統的な利用,催眠術,バイオフィードバック... さらに読む などの適切な薬剤の使用により十分にコントロールできる。その他の症状(例,便秘,呼吸困難,悪心)も治療すべきである。

心理カウンセリングやスピリチュアルカウンセリングを勧めるべきである。

治療に関する参考文献

  • 1.Giuliano AE, Hunt KK, Ballman KV, et al: Axillary dissection vs no axillary dissection in women with invasive breast cancer and sentinel node metastasis: A randomized clinical trial.JAMA 305 (6):569-575, 2011.doi: 10.1001/jama.2011.90

  • 2.NLN: Position Statement Paper by the National Lymphedema Network: Lymphedema Risk Reduction Practices.May 2010.Accessed 8/31/20.

  • 3.Hughes KS, Schnaper LA, Berry D, et al: Lumpectomy plus tamoxifen with or without irradiation in women 70 years of age or older with early breast cancer.N Engl J Med 351 (10):971-977, 2004.

  • 4.Swain SM, Baselga J, Kim SB, et al: Pertuzumab, trastuzumab, and docetaxel in HER2-positive metastatic breast cancer.N Engl J Med 372 (8):724-734, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1413513

予防

タモキシフェンやラロキシフェンによる化学予防は,以下の女性で適応となる場合がある:

  • 年齢35歳以上でLCISの既往または異型乳管もしくは小葉の過形成

  • 高リスク変異を有する(例,BRCA1またはBRCA2変異,リ-フラウメニ症候群)

  • 年齢35~59歳で,多変数のGailモデル(現在の年齢,初経年齢,初産年齢,第1度近親者の乳癌罹患者数,過去の乳房生検の結果を含む)に基づいた5年以内の乳癌発生リスクが1.66%を超える

Gailモデルにより乳癌リスクを計算するコンピュータプログラムは米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)(1-800-4CANCER)およびNCIのウェブサイトで入手可能である。 U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)による乳癌の化学予防に関する情報がUSPSTFのウェブサイトで公開されている。

化学予防を受ける患者は,開始前にリスクに関する説明を受けるべきである。

タモキシフェンのリスクとしては以下のものがある:

高齢女性でリスクはより高い。

閉経後女性においてラロキシフェンはタモキシフェンとほぼ同様の効果をもち,子宮内膜癌,血栓塞栓性の合併症と白内障のリスクはより低いようである。ラロキシフェンは,タモキシフェン同様,骨密度を増加させることがある。ラロキシフェンは閉経後女性の化学予防において,タモキシフェンの代替として考慮すべきである。

要点

  • 乳癌は女性のがん死亡原因の第2位であり,95歳までの乳癌発生の累積リスクは12%である。

  • リスクを大きく上昇させる因子には,近親者の乳癌(特にBRCA遺伝子変異が存在する場合),異型乳管または小葉過形成,非浸潤性小葉癌,30歳以前の胸部放射線療法による相当量の被曝が含まれる。

  • 乳房視触診,マンモグラフィー(50歳,しばしば40歳から開始),および高リスクの女性ではMRIによりスクリーニングを行う。

  • 予後がより不良であることを示唆する因子には若年,エストロゲンおよびプロゲステロン受容体陰性,HER2タンパク質またはBRCA遺伝子変異の存在がある。

  • 大部分の女性では,治療として外科的切除,リンパ節検体採取,全身療法(ホルモン療法または化学療法),および放射線療法が必要となる。

  • 腫瘍がホルモン受容体を有する場合はホルモン療法(例,タモキシフェン,アロマターゼ阻害薬)で治療する。

  • 生存期間延長の可能性が低い場合でも,症状を緩和するために転移病変の治療(例,化学療法,ホルモン療法,または骨転移に対しては放射線療法またはビスホスホネート)を考慮する。

  • 高リスクの女性ではタモキシフェンまたはラロキシフェンを用いた化学予防を考慮する。

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