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鉄欠乏性貧血

(慢性失血による貧血;萎黄病)

執筆者:

Evan M. Braunstein

, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 7月
本ページのリソース

鉄欠乏症は貧血の最も一般的な原因であり,通常は失血の結果として起こり,吸収不良ははるかにまれな原因である。症状は通常非特異的である。赤血球は小球性および低色素性の傾向を示し,血清フェリチン低値,血清総鉄結合能高値,および血清鉄低値で示されるように,貯蔵鉄量は低値である。この診断を下した場合は,他の原因が証明されない限り潜在的な失血を疑うべきである。治療としては,鉄補充に加え,失血の原因に対する治療がある。

病態生理

鉄の分布は動的代謝プールと貯蔵プールに分けられる。全身の鉄の量は健康な男性で約3.5g,女性で約2.5gであるが,この差には,女性の方が体格が小さく,月経による鉄の喪失のために貯蔵鉄が不足することが関係している。平均的な体内の鉄分布は以下の通りである:

  • ヘモグロビン:2g(男性),1.5g(女性)

  • フェリチン:1g(男性),0.6g(女性)

  • ヘモジデリン:300mg

  • ミオグロビン:200mg

  • 組織酵素(ヘム鉄および非ヘム鉄):150mg

  • 輸送鉄:3mg

鉄吸収

鉄は十二指腸および空腸上部で吸収される。鉄の吸収は,鉄分子の種類および他にどのような物質が摂取されるかによって決定される。鉄吸収は食物にヘム鉄(肉)が含まれているときが最もよい。食物由来の非ヘム鉄は通常は第二鉄であり,胃分泌物により第一鉄に還元されて食物中の結合体から外れる必要がある。他の食品(例,野菜繊維のフィチン酸塩およびポリフェノール;リンタンパク質を含む茶のタンニン酸塩;ブラン[小麦の皮])および特定の抗菌薬(例,テトラサイクリン)により非ヘム鉄の吸収は減少する。アスコルビン酸は,非ヘム鉄の吸収を増加させることで知られる唯一の一般食品成分である。

米国の平均的な食事には,食物1000kcal当たり6mgの鉄元素が含まれており,鉄の恒常性を保つのに十分である。1日の食事に含まれる約15mgの鉄のうち,成人が吸収するのはわずか1mgであり,この量は皮膚および腸管から細胞剥離によって1日に失われる量にほぼ等しい。鉄が欠乏した場合,鉄代謝の重要な調節因子であるヘプシジンの発現抑制によって鉄の吸収が増加するが,さらに鉄補充を行わない限り,鉄吸収が6mg/日を超えて増加することはまれである(1 病態生理に関する参考文献 鉄欠乏症は貧血の最も一般的な原因であり,通常は失血の結果として起こり,吸収不良ははるかにまれな原因である。症状は通常非特異的である。赤血球は小球性および低色素性の傾向を示し,血清フェリチン低値,血清総鉄結合能高値,および血清鉄低値で示されるように,貯蔵鉄量は低値である。この診断を下した場合は,他の原因が証明されない限り潜在的な失血を疑うべきである。治療としては,鉄補充に加え,失血の原因に対する治療がある。... さらに読む 病態生理に関する参考文献 )。小児はより多量の鉄を必要とし,この需要を満たすためにより多くの鉄を吸収するようである。

鉄の輸送と利用

小腸粘膜細胞から吸収された鉄は,肝臓で合成される鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンに結合する;トランスフェリンは,鉄を細胞(小腸細胞,マクロファージ)から赤芽球,胎盤細胞,および肝細胞の表面にある特異的受容体まで輸送する。ヘム合成のため,鉄はトランスフェリンにより赤芽球のミトコンドリアまで輸送され,そこでプロトポルフィリンに挿入されてヘムになる。トランスフェリン(血漿中の半減期は8日間)は再利用のために細胞外へ排出される。トランスフェリンの合成は鉄欠乏症に伴い増加するが,ある種の慢性疾患があれば減少する。

鉄の貯蔵と再利用

赤血球産生に使用されなかった鉄は,鉄輸送タンパク質であるトランスフェリンによって貯蔵プールへ輸送される;鉄はフェリチンおよびヘモジデリンの2つの形態で貯蔵される。最も重要なのがフェリチン(鉄の核を取り囲む不均一なタンパク質群)で,肝臓(肝細胞内),骨髄,脾臓(マクロファージ内),赤血球,および血清中に存在する可溶性で有効な貯蔵 コンパートメントである。フェリチンに貯蔵されている鉄は,身体の需要に応じて容易に利用可能である。循環(血清)フェリチン値は全身貯蔵量に比例する(1ng/mLは貯蔵プールの鉄8mgに相当する)。鉄の第二の貯蔵プールはヘモジデリンであり,比較的不溶性で,主に肝臓(クッパー細胞内)および骨髄(マクロファージ内)に貯蔵される。

鉄の吸収には限界があるため,身体は鉄を再利用し,節約して使用する。トランスフェリンは,単核食細胞により貪食された老化赤血球から利用可能な鉄を捕捉し,再利用する。この機序により,1日の鉄所要量(鉄約25mg)の約97%が得られる。加齢とともに鉄の排出が緩やかになるため,貯蔵鉄量は増加する傾向がある。

鉄欠乏症

長期にわたる重度の鉄欠乏症は,鉄を含んだ細胞内酵素の機能障害を引き起こすこともある。

病態生理に関する参考文献

病因

鉄はごくわずかしか吸収されないため,ほとんどの人が食事からの鉄により1日の所要量をかろうじて満たしている。それでも,典型的な欧米型の食事をしている人が単に食事からの摂取不足によって鉄欠乏症になる可能性は低い。しかし,たとえ少量の喪失,所要量の増加,または摂取量の減少でも容易に鉄欠乏症が引き起こされる。

鉄欠乏症の原因は,ほとんどの場合が失血である。男性および閉経後女性では,最も頻度の高い原因は慢性の不顕性出血であり,それらは通常,消化管からの出血(例,消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍がHelicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内視鏡検査とHelicobacter pylori検査による。治療は胃酸分泌の抑制,H... さらに読む 消化性潰瘍 ,悪性腫瘍,痔核からの出血)である。閉経前女性では,月経による累積失血(平均で鉄0.5mg/日)が一般的な原因である。発展途上国では鉤虫感染症 症状と徴候 鉤虫症は,ズビニ鉤虫(Ancylostoma duodenale)またはアメリカ鉤虫(Necator americanus)による感染症である。感染初期の症状としては,幼虫侵入部位の発疹のほか,ときに腹痛やその他の消化管症状などがある。その後,慢性失血により鉄欠乏症が発生することがある。鉤虫は流行地域における鉄欠乏性貧血の主要原因である。診断は便中の虫卵を検出することによる。治療はアルベンダゾールまたはメベンダゾールによる。... さらに読む 症状と徴候 による腸管の出血が一般的な原因である。比較的まれな原因としては,再発性の肺出血(びまん性肺胞出血 びまん性肺胞出血 びまん性肺胞出血は持続性または再発性の肺出血である。数多くの原因があるが,自己免疫疾患が最も一般的である。患者の多くは呼吸困難,咳嗽,喀血,および胸部画像検査において新しい肺胞浸潤影を呈する。疑いのある原因に対して診断検査を行う。治療は,自己免疫性の原因をもつ患者に対しては免疫抑制薬によって行い,また必要があれば呼吸補助を行う。... さらに読む びまん性肺胞出血 を参照)や,溶血によって放出された鉄の量がハプトグロビン結合能を上回った場合の慢性的な血管内溶血 骨髄異形成症候群(MDS) 骨髄異形成症候群(MDS)は,末梢の血球減少症,異形成の造血前駆細胞,過形成または低形成の骨髄,および急性骨髄性白血病への移行リスクが高いことを特徴とする疾患群である。症状は最も強く障害された特定の細胞系列に由来するものであり,具体的には易疲労感,筋力低下,蒼白(貧血に起因),感染および発熱の増加(好中球減少症に起因),出血および皮下出血の増加(血小板減少症に起因)などみられる。診断は血算,末梢血塗抹検査,骨髄穿刺および骨髄生検による。... さらに読む などがある。

鉄所要量の増加が鉄欠乏症の一因となる場合がある。急激な成長により多量の鉄摂取が必要な時期である出生から2歳まで,および青年期の間は,食事からの鉄ではしばしば不十分である。妊娠中は,月経がないにもかかわらず胎児の鉄需要によって母体の鉄所要量が増加する(平均0.5~0.8mg/日―妊娠中の貧血 妊娠中の貧血 正常では,妊娠中には骨髄の赤芽球過形成が起こり,赤血球量は増加する。しかしながら,血漿量の不均衡な増加により血液希釈(妊娠水血症)が生じる:ヘマトクリット(Hct)は妊娠していない健康な女性の場合38~45%であるが,単胎妊娠後期では約34%,多胎妊娠後期では30%に減少する。したがって,妊娠中の貧血はヘモグロビン(Hb)値が10g/dL... さらに読む を参照)。また,授乳も鉄所要量を増加させる(平均0.4mg/日)。

鉄吸収の減少は,胃切除または吸収不良症候群 吸収不良の概要 吸収不良とは,食物中の物質が十分に同化されない状態であり,消化,吸収,または輸送の障害に起因する。 吸収不良は,多量栄養素(例,タンパク質,炭水化物,脂肪),微量栄養素(例,ビタミン,ミネラル),またはその両方に影響を及ぼすことがあり,結果として便中への過剰排泄,栄養欠乏,および消化管症状が起こる。吸収不良は,ほぼ全ての栄養素の吸収障害を... さらに読む セリアック病 セリアック病 セリアック病は,遺伝的感受性を有する者に免疫を介して発生する疾患で,グルテン不耐症によって引き起こされ,粘膜炎症および絨毛萎縮が生じ,その結果,吸収不良を来す。症状としては通常,下痢や腹部不快感などがみられる。診断は小腸生検により行い,生検では特徴的であるが非特異的な病理的変化である絨毛萎縮が示され,この変化は厳格なグルテン除去食で消失する。 セリアック病は吸収不良を引き起こす疾患である。... さらに読む セリアック病 萎縮性胃炎 自己免疫性萎縮性胃炎 自己免疫性萎縮性胃炎(autoimmune metaplastic atrophic gastritis)は,壁細胞が障害される遺伝性の自己免疫疾患であり,低酸症と内因子の産生低下が生じる。その結果,萎縮性胃炎,ビタミンB12吸収不良,しばしば悪性貧血などが発生する。胃腺癌のリスクが3倍増加する。診断は内視鏡検査による。治療はビタミンB12の注射による。 (胃酸分泌の概要および胃炎の概要も参照のこと。)... さらに読む 自己免疫性萎縮性胃炎 ,無酸症など)の結果として生じることがある。まれに,低栄養に起因する摂食不足によって鉄吸収が減少する。

症状と徴候

重度の鉄欠乏症では,通常の貧血の症状に加え,特異的な症状がいくつか現れる。異食症,すなわち物(例,氷,土,絵の具)を食べたいという異常な欲求を示すことがある。重度の欠乏症のその他の症状としては,舌炎,口角炎,爪甲の陥凹(匙状爪)などがある。

診断

  • 血算,血清鉄,鉄結合能,血清フェリチン,トランスフェリン飽和度,網状赤血球数,赤血球分布幅(RDW),および末梢血塗抹検査

  • まれに骨髄検査

鉄量と鉄結合能(およびトランスフェリン飽和度)の関係が重要であるため,これらを測定する。様々な検査法があり,正常値の範囲は採用する検査法に関係し,検査室よって異なる。一般的に,血清鉄の正常値は,男性で75~150μg/dL(13~27μmol/L),女性で60~140μg/dL(11~25μmol/L)である;総鉄結合能は,250~450μg/dL(45~81μmol/L)で,トランスフェリン飽和度は20~50%である。血清鉄の測定値は,鉄欠乏症と多くの慢性疾患で低下し,溶血性疾患 溶血性貧血の概要 赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血が起きると赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼ぶ。... さらに読む 溶血性貧血の概要 鉄過剰症候群 鉄過剰症の概要 一般成人では,1日当たり約1mgの鉄(Fe)が表皮細胞および消化管細胞の剥離により喪失している;閉経前の女性では,さらに平均0.5~1mg/日の鉄が月経により失われる。この鉄の喪失は,米国の一般的食事に含まれる10~20mgの鉄の一部を吸収することによって均衡が保たれている。鉄の吸収は,体内の貯蔵鉄量により調節されており,通常は身体の必要... さらに読む で上昇する。鉄欠乏症では鉄結合能が上昇するが,トランスフェリン飽和度は低下する。

血清フェリチン値は全身の総貯蔵鉄量と密接に相関する。ほとんどの検査室において正常範囲は30~300ng/mLで,平均値は男性で88ng/mL,女性で49ng/mLである。低値(12ng/mL未満)は鉄欠乏症に特異的な所見である。ただし,フェリチンは急性期反応物質であり,炎症性疾患,感染症(例,肝炎),および腫瘍性疾患(特に急性白血病,ホジキンリンパ腫,消化管腫瘍)で高値となる。そのような状況での血清フェリチン値は,最高100ng/mLまで鉄欠乏症と矛盾しない。

網状赤血球数は,鉄欠乏症では低値となる。末梢血塗抹標本では,一般に低色素性赤血球とともに顕著な大小不同変形赤血球症(anisopoikilocytosis)がみられ,これは赤血球分布幅(RDW)の高値に反映される。

鉄欠乏性赤血球産生に対して最も感度および特異度が高い判定基準は,骨髄貯蔵鉄の枯渇であるが,骨髄検査が必要になることはまれである。

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鉄欠乏症の病期

臨床検査の結果は,鉄欠乏性貧血の病期診断に役立つ。

1期では,骨髄貯蔵鉄の減少が特徴であり,ヘモグロビンと血清鉄は正常のままであるが,血清フェリチン値は20ng/mL未満に低下する。鉄吸収の代償性増加により鉄結合能(トランスフェリン値)の増加がもたらされる。

2期では,赤血球産生が障害される。トランスフェリン値は上昇するが,血清鉄濃度は低下し,トランスフェリン飽和度が低下する。血清鉄が50μg/dL(9μmol/L)未満に低下し,トランスフェリン飽和度が16%未満になると,赤血球産生が障害される。血清トランスフェリン受容体値は上昇する(8.5mg/Lを超える)。

3期では,赤血球形態と赤血球指数がともに正常な貧血が生じる。

4期では,小球性から,続いて低色素性となる。

5期では,鉄欠乏症により組織が影響を受けるため,症状および徴候が出現する。

鉄欠乏性貧血と診断されると,その原因の検討が急がれるが,通常は出血である。失血が明白な患者(例,過多月経の女性)では,追加の検査を必要としない場合がある。失血が明白でない男性および閉経後女性では,不顕性の消化器癌を示す唯一の徴候が貧血である可能性があるため,消化管の評価を実施すべきである。まれであるが,慢性の鼻出血または泌尿生殖器の出血は患者が過小評価するため,消化管検査の結果が正常な患者でも評価が必要となる。

その他の小球性貧血との鑑別

鉄欠乏性貧血は,他の小球性貧血と鑑別しなければならない(赤血球産生低下による小球性貧血の鑑別診断 赤血球産生低下による小球性貧血の鑑別診断 鉄欠乏症は貧血の最も一般的な原因であり,通常は失血の結果として起こり,吸収不良ははるかにまれな原因である。症状は通常非特異的である。赤血球は小球性および低色素性の傾向を示し,血清フェリチン低値,血清総鉄結合能高値,および血清鉄低値で示されるように,貯蔵鉄量は低値である。この診断を下した場合は,他の原因が証明されない限り潜在的な失血を疑うべきである。治療としては,鉄補充に加え,失血の原因に対する治療がある。... さらに読む 赤血球産生低下による小球性貧血の鑑別診断 の表を参照)。小球性貧血患者において検査により鉄欠乏症が除外された場合は,次に慢性疾患に伴う貧血 慢性疾患に伴う貧血 慢性疾患に伴う貧血は,複数の因子が関与する貧血である。診断のためには一般的に,感染症,自己免疫疾患,腎疾患,悪性腫瘍などの,慢性炎症性疾患が存在する必要がある。小球性または正球性貧血,および網状赤血球数低値を特徴とする。血清鉄とトランスフェリンの測定値は典型的には低値から正常値となるが,フェリチンは正常または高値となる場合がある。治療は基礎疾患を回復させることであり,一部の症例ではエリスロポエチンを投与する。... さらに読む およびヘモグロビンの構造異常(例,異常ヘモグロビン症 鎌状赤血球症 鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状赤... さらに読む 鎌状赤血球症 )を考慮する。これらの疾患の鑑別には,臨床的特徴,ヘモグロビンの検査(例,ヘモグロビン電気泳動,ヘモグロビンA2),および遺伝子検査(例,αサラセミア)が役立つことがある。

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治療

  • 経口鉄補充剤

  • まれに非経口鉄剤

原因追求をせずに鉄剤を投与することは不適切な治療である;軽度の貧血の場合でも,出血部位を同定すべきである。

各種鉄塩(例,硫酸第一鉄,グルコン酸鉄,フマル酸第一鉄),または含糖鉄を食前30分に経口投与することで鉄を供給できる(食物または制酸薬が吸収を低下させることがある)。典型的な初回量は,鉄元素60mg(例,硫酸第一鉄325mg)の1日1回または隔日投与である(1 治療に関する参考文献 鉄欠乏症は貧血の最も一般的な原因であり,通常は失血の結果として起こり,吸収不良ははるかにまれな原因である。症状は通常非特異的である。赤血球は小球性および低色素性の傾向を示し,血清フェリチン低値,血清総鉄結合能高値,および血清鉄低値で示されるように,貯蔵鉄量は低値である。この診断を下した場合は,他の原因が証明されない限り潜在的な失血を疑うべきである。治療としては,鉄補充に加え,失血の原因に対する治療がある。... さらに読む 治療に関する参考文献 )。これを超える用量で投与すると,ほとんどが吸収されず,有害作用(特に便秘または他の消化管障害)が増加する。鉄剤を服用する際にアスコルビン酸を錠剤(500mg)として,またはオレンジジュースとして摂取すると,胃の負担を増すことなく鉄吸収が高まる。

非経口鉄剤では,経口鉄剤より急速な治療効果が得られるが,有害作用を引き起こすことがあり,最も一般的なものはアレルギー反応または輸注反応(infusion reaction)(例,発熱,関節痛,筋肉痛)である。重度のアナフィラキシー様反応 アナフィラキシー様反応 アナフィラキシーは,急性で生命を脅かす可能性のあるIgE介在性のアレルギー反応で,すでに感作されている人が感作抗原に再び曝露した場合に発生する。症状としては,吸気性喘鳴,呼吸困難,呼気性喘鳴,低血圧などがある。診断は臨床的に行う。治療はアドレナリンによる。気管支攣縮および上気道浮腫では,β作動薬の吸入または注射,ときに気管挿管が必要になることがある。低血圧が持続する場合は,輸液およびときに昇圧薬が必要となる。... さらに読む が過去に比較的多くみられたが,すでに利用できない高分子量の鉄デキストランによりほとんどが引き起こされていた。非経口鉄剤は,経口鉄剤に不耐容の患者,経口鉄剤を服用しようとしない患者,または毛細血管もしくは血管の障害(例,遺伝性出血性毛細血管拡張症)により絶えず大量の血液を喪失している患者に対してのみ用いる。非経口鉄剤の用量は血液専門医が判断する。経口または非経口鉄剤の投与は,組織貯蔵鉄を補充するために,ヘモグロビン値が正常化した後も6カ月以上継続すべきである。

治療への反応は,赤血球値が正常化するまで経時的にヘモグロビンを測定して評価する。ヘモグロビンは2週間までほとんど上昇しないが,その後は週に0.7~1gの割合で上昇し,正常値付近に達した時点で増加の割合が緩徐になる。貧血は2カ月以内に是正すべきである。正常な反応を下回る場合は,出血の持続,基礎疾患としての感染または悪性腫瘍,鉄摂取量の不足,または経口鉄剤の吸収不良が示唆される。貧血の回復後も疲労,脱力,息切れなどの貧血症状が改善しない場合は,貧血以外の原因を疑うべきである。

治療に関する参考文献

  • 1. Moretti D, Goede JS, Zeder C, et al: Oral iron supplements increase hepcidin and decrease iron absorption from daily or twice-daily doses in iron-depleted young women.Blood 126(17):1981-1989, 2015. doi: 10.1182/blood-2015-05-642223.

要点

  • 鉄欠乏性貧血は通常,失血(例,消化管出血,月経)により引き起こされるが,溶血,吸収不良,または鉄需要の増加(例,妊娠,授乳,小児の急速な成長期)が原因となることもある。

  • 鉄欠乏性貧血を他の小球性貧血(例,慢性疾患,異常ヘモグロビン症)と鑑別する。

  • 血清鉄,鉄結合能,および血清フェリチン濃度を測定する。

  • 鉄欠乏症では,典型的に血清鉄低値,鉄結合能高値,および血清フェリチン低値となる。

  • 貧血が軽度であっても,必ず鉄欠乏症の原因を検索する。

  • 通常は経口鉄剤で十分であり,非経口鉄剤の投与は,有害作用(例,輸注反応,まれにアナフィラキシー様反応)のリスクがあるため,血液専門医に委ねる。

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