血小板疾患の概要

執筆者:David J. Kuter, MD, DPhil, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2020年 6月
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血小板は,凝固系で機能する細胞片である。トロンボポエチンは,その細胞質から血小板を産生・分離する巨核球を産生するよう骨髄を刺激することによって,循環血小板の数をコントロールすることに役立っている。トロンボポエチンは,肝臓において一定のペースで産生され,その循環血中濃度は,循環血小板が除去される程度のほか,おそらく骨髄の巨核球によって規定される。個々の血小板は7~10日間循環血中に存在する。常に,約3分の1が脾臓で一時的に捕捉されている。

血小板数の正常範囲は140,000~440,000/μLである。ただし,血小板数は月経周期に応じてわずかに変動したり,出産予定日間近に減少したり(妊娠性血小板減少症),また炎症性サイトカインに反応して増加したり(二次性または反応性血小板増多症)することがある。血小板は,脾臓とは独立したプロセスであるアポトーシスによって最終的に破壊される。

血小板疾患としては以下のものがある:

以上のいずれかの障害があれば,血小板が増加した状態でも,止血血栓の形成障害および出血を引き起こすことがある。

出血のリスクは,血小板数および血小板機能に反比例する(血小板数と出血リスクの表を参照)。血小板機能が低下すると(例,尿毒症,または非ステロイド系抗炎症薬[NSAID]もしくはアスピリンの使用の結果として),出血のリスクが増加する。

表&コラム

血小板疾患の病因

血小板血症および血小板増多症

本態性血小板血症は,骨髄増殖性腫瘍(かつての骨髄増殖性疾患)の一種であり,造血幹細胞のクローン性異常のために血小板の過剰産生が起きる。血小板数と血栓症リスクの間に相関は認められないが,極度の血小板増多症(すなわち1,000,000/μL超)を認める一部の患者では,高分子量のフォン・ヴィレブランド因子マルチマーが喪失することにより出血を起こす。

反応性血小板増加症は,他の疾患に反応した血小板の過剰産生である。原因は急性感染症,慢性炎症性疾患(例,関節リウマチ炎症性腸疾患結核サルコイドーシス),鉄欠乏症,特定の悪性腫瘍など数多くある。反応性血小板増加症は,典型的には血栓症および出血のリスク増加を伴わない。

血小板減少症

血小板減少症の原因は機序(血小板減少症の分類の表を参照)により以下のように分類できる:

  • 血小板産生の減少

  • 寿命が正常な血小板のsplenic sequestration(脾臓での捕捉)の増加

  • 血小板の破壊または消費の亢進(免疫学的な原因とそれ以外の原因の両方)

  • 血小板の希釈

表&コラム

多くの薬剤が血小板減少症を引き起こす可能性があるが,その典型的な機序は免疫反応による血小板破壊の誘発である。

総合すると,血小板減少症の最も一般的な特異的原因としては以下のものがある:

  • 妊娠(妊娠性血小板減少症HELLP症候群[溶血,肝酵素高値,血小板数低値])

  • 免疫学的機序による血小板破壊を引き起こす薬剤(一般的にはヘパリン,トリメトプリム/スルファメトキサゾール,まれにキニーネ[cocktail purpura]またはアブシキシマブ)

  • 用量依存的な骨髄抑制を引き起こす薬物(例,化学療法薬,エタノール)

  • 全身性感染症

  • 免疫疾患(例,免疫性血小板減少症[ITP])

血小板機能異常症

血小板機能異常症は,内因性の血小板異常から生じる場合と,正常な血小板の機能を変化させる外因子から生じる場合がある。機能異常は遺伝性も後天性もありうる。遺伝性血小板機能異常症には,最も一般的な遺伝性出血性疾患であるフォン・ヴィレブランド病のほか,はるかにまれな遺伝性内因性血小板疾患がある。後天性血小板機能異常症は,アスピリンおよびその他の薬剤によるものに加え,疾患(例,腎不全)によるものが一般的である。

血小板疾患の症状と徴候

血小板疾患では,以下の典型的な出血パターンを生じる:

  • 皮膚における多数の点状出血(典型的には下腿で最も著明となる)

  • 軽度の外傷部位または静脈穿刺部位における散在性の小さな斑状出血

  • 粘膜出血(中咽頭,鼻,消化管,泌尿生殖器)

  • 術後の過度の出血

血小板疾患の臨床像
免疫性血小板減少症(ITP)における点状出血
免疫性血小板減少症(ITP)における点状出血

By permission of the publisher. From Deitcher S.In Atlas of Clinical Hematology.Edited by JO Armitage. Philadelphia, Current Medicine, 2004.

免疫性血小板減少症における斑状出血
免疫性血小板減少症における斑状出血

By permission of the publisher. From Deitcher S.In Atlas of Clinical Hematology. Edited by JO Armitage. Philadelphia, Current Medicine, 2004.

斑状出血
斑状出血
この患者の下肢にみられる大きな紫斑は斑状出血である。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

点状出血(硬口蓋)
点状出血(硬口蓋)
点状出血は,この患者の口蓋にみられるような小さな赤い点状斑を特徴とする。

DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

重度の消化管出血や中枢神経系への出血から生命を脅かす事態に至ることがある。しかしながら,血小板減少症に組織内への出血(例,内臓深部の血腫や関節血腫)が合併することはまれであり,むしろ外傷の直後に表在性の出血がみられるのが通常である。組織内への出血(多くの場合,外傷後最大1日遅れる)からは,凝固障害(例,血友病)が示唆される。

血小板疾患の診断

  • 点状出血と粘膜出血から成る臨床像

  • 血小板数を含む血算,凝固検査,末梢血塗抹検査

  • ときに骨髄穿刺

  • ときにフォン・ヴィレブランド抗原および活性検査

点状出血および粘膜出血が認められる患者では,血小板疾患が疑われる。血小板数を含む血算,凝固検査,および末梢血塗抹検査を行う。血小板過剰と血小板減少症は血小板数に基づいて診断するものであり,凝固検査は凝固障害が併存しない限り正常となる。血算,血小板数,国際標準化比(INR),および部分トロンボプラスチン時間(PTT)が正常な患者では,血小板機能異常症または血管壁の機能障害が疑われる。

パール&ピットフォール

  • 点状出血および/または出血が認められるが,血小板数および凝固検査の結果が正常な患者では,血小板機能異常症または血管壁の機能障害が疑われる。

血小板減少症

自動血小板計数器では,一部の採血管で使用されるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)試薬と反応して血小板が凝集し,ときに偽性血小板減少症を示すことがあるため,血小板減少症がある患者では末梢血塗抹検査が重要である。また,破砕赤血球がみられる場合があり,この所見は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),溶血性尿毒症症候群(HUS),または播種性血管内凝固症候群(DIC―血小板減少性疾患の末梢血所見の表を参照)を示唆している可能性がある。

塗抹標本で有核赤血球,異常白血球,未熟白血球など血小板減少症以外の異常を認めた場合は,骨髄穿刺が適応となる。骨髄穿刺は,巨核球の数と形態を評価でき,骨髄不全を引き起こす多くの疾患を確定できる検査である。骨髄は正常であるが脾臓が腫大している場合は,splenic sequestrationの亢進が血小板減少症の原因である可能性が高い。骨髄が正常で脾臓が腫大していない場合は,過度の血小板破壊が原因である可能性が高い。

ただし,巨核球の数および形態が正常であっても,必ずしも血小板産生が正常であるとは限らない。例えば,免疫性血小板減少症(ITP)の多くの患者では,巨核球の形態が正常で数が増加しているにもかかわらず,血小板産生が低下することがある。実際,免疫性血小板減少症の典型的症状が認められる患者で骨髄検査が必要になることはまれである。

末梢血の未成熟血小板分画は,貧血における網状赤血球数と同様に,骨髄で血小板が産生されていれば増加し,骨髄での血小板産生が減少していれば増加しないため,血小板減少症の患者でときに有用な測定指標となる。

抗血小板抗体の測定は,一部の患者でITPを他の血小板減少症の原因と鑑別するために臨床的に有用となることがある(1)。HIV感染のリスクがある患者では,HIV検査を実施する。

表&コラム

血小板機能異常症が疑われる場合

血小板機能異常症の患者で,原因となりうる薬剤(例,チカルシリン,プラスグレル,クロピドグレル,チカグレロル,アブシキシマブ)の服用を開始して初めて症状が現れた場合は,薬剤性の原因が疑われる。薬剤に起因する血小板機能異常症は重度となる場合があるが,特異的な検査が必要になることはまれである。

長年にわたり紫斑ができやすい状態の既往;抜歯後,手術後,分娩後,もしくは割礼後の出血;または重度の月経が認められる場合は,遺伝的原因が疑われる。遺伝的原因が疑われる場合は,フォン・ヴィレブランド因子(VWF)抗原およびVWF活性検査がルーチンで行われる。

遺伝性の機能異常が疑われる患者では,血小板凝集能検査により,各種の血小板活性化物質(アデノシン二リン酸[ADP],コラーゲン,トロンビン)に対する血小板の反応様式の異常が同定され,それにより血小板異常の種類が明らかになる場合がある。

全身性疾患に起因する血小板機能異常症は,典型的に軽度であり,臨床的な重要性も低い。このような患者では,原因となっている全身性疾患が臨床的に重要視されるため,血液検査は必要ない。

診断に関する参考文献

  1. Al-Samkari H, Rosovsky RP, Karp Leaf RS: A modern reassessment of glycoprotein-specific direct platelet autoantibody testing in immune thrombocytopenia.Blood Adv 14;4(1):9–18, 2020. doi: 10.1182/bloodadvances.2019000868.

血小板疾患の治療

  • 血小板機能を低下させる薬剤の中止

  • まれに血小板輸血

  • まれに抗線溶薬

血小板減少症または血小板機能異常症の患者では,血小板機能をさらに低下させる薬剤,特にアスピリンおよびその他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を投与すべきではない。このような薬剤をすでに使用している患者では,アセトアミノフェンなどの代替薬を検討するか,単にその使用を中止すべきである。

血小板輸血が必要になる場合もあるが,輸血は限られた状況でのみ行う。血小板輸血を繰り返し行うと,血小板同種抗体が出現することにより有効性が失われる可能性があるため,予防を目的とする場合は慎重に使用する。

血小板機能異常症または産生低下による血小板減少症では,輸血,トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬(例,ロミプロスチム,エルトロンボパグ,アバトロンボパグ),または抗線溶薬(例,アミノカプロン酸,トラネキサム酸)は以下に該当する患者を対象に使用する:

  • 活動性の出血

  • 重度の血小板減少症(例,血小板数 < 10,000/μL)

  • 侵襲的手技が必要な状況

血小板破壊に起因する血小板減少症における血小板輸血は,生命を脅かす出血または中枢神経系への出血に限る。

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