気分,思考,もしくは行動に重度の変化がみられる患者,または生命を脅かす可能性がある重度の薬物有害作用が生じている患者には,緊急の評価および治療が必要である。身体科の外来および入院患者では,精神科医以外の医師が最初に診療する場合が多いが,そのような症例も可能な限り精神科医が評価を行うべきである。
患者の気分,思考,または行動が非常に異常または支離滅裂な場合は,その評価では,まず患者について以下の点を判断する必要がある:
患者自身にとって脅威となっているか
他者にとって脅威となっているか
自身への脅威としては,自己管理能力の欠如(セルフネグレクトにつながる)または 自殺行動 自殺行動 自殺行動には自殺既遂と自殺企図が含まれる。自殺を想像する,自殺について真剣に考える,または自殺を計画することは,自殺念慮と呼ばれる。 (American Psychiatric Association’s Practice Guideline for the Assessment... さらに読む などが考えられる。精神病性障害,認知症,または物質使用障害の患者では,食物,衣服,および自然災害に対する適切な保護を得る能力が障害されることから,そのような患者ではセルフネグレクトが特に懸念される。
他者に脅威をもたらす患者としては,明らかな暴力性を示す患者(すなわち,スタッフへの暴行が顕著で,物を投げたり,壊したりする),好戦的かつ敵対的にみえる患者(すなわち,潜在的に暴力的である),ならびに診察する医師およびスタッフには脅威となるようにはみえないが,他者(例,配偶者,隣人,有名人)に危害を加える意図を表明する患者などが挙げられる。扶養家族を安全かつ十分に世話することができない介護者を同定することも重要である。
原因
攻撃的で暴力的な患者は精神病である場合が多く, 物質使用障害 物質使用障害 物質使用障害は 物質関連障害の一種であり,物質の使用に関連する重大な問題を体験しているにもかかわらず,患者がその物質を使用し続ける病的な行動パターンを伴う。脳内神経回路の変化などの生理学的臨床像が認められることもある。 関わる物質は多くの場合, 一般的に物質関連障害を引き起こす10の薬物クラスに含まれるものである。このような物質はいずれも脳内報酬系を直接活性化し,快感をもたらす。活性化が非常に強いために,患者はその物質を強く渇望し,その... さらに読む , 統合失調症 統合失調症 統合失調症は,精神病(現実との接触の喪失),幻覚(誤った知覚),妄想(誤った確信),まとまりのない発語および行動,感情の平板化(感情の範囲の狭まり),認知障害(推理および問題解決の障害),ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが,遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある。通常,症状は青年期または成人期早期に始まる。診断を下すには,6カ月以上持続する症状のエピソードが1回以上は認められなければならな... さらに読む , 短期精神病性障害 短期精神病性障害 短期精神病性障害は,持続期間が1日以上かつ1カ月未満の妄想,幻覚,または他の精神病症状から成り,最終的に病前の正常な機能状態に回復する。 短期精神病性障害はまれである。既存の パーソナリティ障害(例,妄想性,演技性,自己愛性,統合失調型,境界性)のほか,特定の医学的状況(例,全身性エリテマトーデス,ステロイドの摂取)が発症の素因となる。重大なストレス因(愛する人の喪失など)は本疾患の誘因となることがある。... さらに読む , 妄想性障害 妄想性障害 妄想性障害は,1カ月以上持続する誤った強い信念(妄想)の存在と,他の精神病症状を認めないことを特徴とする。 妄想は,それを反証する明確かつ合理的な証拠があるにもかかわらず妄想的な確信が変化しないという点で,誤った確信と区別されるが,その確信があり得る内容である場合(例,配偶者が不貞をしている)には,この区別がときに困難となる。 妄想性障害は,他のいかなる 精神病症状(例,幻覚,まとまりのない発語または行動,陰性症状)も伴うことなく,妄想... さらに読む ,急性 躁病 躁病 双極性障害は,躁病エピソードおよび 抑うつエピソードにより特徴づけられ,これらは交互に生じることもあるが,多くの患者はどちらか一方が優勢である。正確な原因は不明であるが,遺伝,脳内神経伝達物質の変化,および心理社会的因子が関与する可能性がある。診断は病歴に基づく。治療は気分安定薬の投与で構成され,ときに精神療法を併用する。 通常,双極性障害は10代,20代,または30代で発症する(... さらに読む などの診断を受けている。その他の原因としては,急性 せん妄 せん妄 せん妄は,注意,認知,および意識レベルが急性かつ一過性に障害される病態で,その程度には変動がみられ,通常は可逆的である。ほぼ全ての疾患および薬剤が原因となりうる。診断は臨床的に行い,原因同定のために臨床検査と通常は画像検査を施行する。治療は原因の是正と支持療法である。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。) せん妄はあらゆる年齢で起こりうるが,高齢者でより多くみられる。入院する高齢患者の10%以上にせん妄があり,15~50%は入院... さらに読む を引き起こす身体疾患(最初の精神医学的評価でカバーすべき領域 身体疾患による主な精神症状 を参照),慢性の器質的脳疾患(例, 認知症 認知症 認知症とは,慢性的かつ全般的で,通常は不可逆的な認知機能の低下である。診断は臨床的に行い,治療可能な原因の同定には通常,臨床検査および画像検査を利用する。治療は支持療法による。コリンエステラーゼ阻害薬はときに認知機能を一時的に改善する。 ( せん妄および認知症の概要も参照のこと。) 認知症はいかなる年齢にも起こりうるが,主として高齢者を侵す。介護施設入居者の半数以上にみられる。... さらに読む ), アルコール アルコール中毒および離脱 アルコール(エタノール)は中枢抑制薬である。短時間で大量に飲酒すると,呼吸抑制と昏睡を来たし,死に至ることがある。長期にわたる大量の飲酒は,肝臓や他の多くの臓器を損傷する。アルコール離脱症状は振戦から,重度の離脱(振戦せん妄)でみられる痙攣発作,幻覚,および生命を脅かす自律神経不安定状態に至るまで,連続的な病態として現れる。診断は臨床的に行う。 ( アルコール使用障害とリハビリテーションも参照のこと。)... さらに読む またはその他の物質による中毒,特にメタンフェタミン, コカイン コカイン コカインは,中枢刺激作用と多幸作用がある交感神経刺激薬である。高用量の使用は,パニック,統合失調症様症状,痙攣発作,高体温,高血圧,不整脈,脳卒中,大動脈解離,腸管虚血,および心筋梗塞を引き起こすことがある。中毒の管理は,(激越,高血圧,および痙攣発作に対する)静注ベンゾジアゼピン系薬剤や(高体温に対する)冷却法などの支持療法により行う。離脱症状は,主に抑うつ,集中困難,および傾眠(コカインウォッシュアウト症候群)として現れる。... さらに読む ,ときに フェンシクリジン ケタミンおよびフェンシクリジン(PCP) ケタミンとフェンシクリジンは解離性麻酔薬であり,中毒をもたらし,ときに錯乱または緊張病状態を伴う。過剰摂取は昏睡を引き起こし,まれに死亡することがある。 ケタミンとフェンシクリジン(PCP)は化学的に関連した麻酔薬である。これらの薬剤は,リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)などの他の 幻覚剤の混ぜ物または偽物として用いられることがしばしばある。 ケタミンは液体または粉末の剤形で入手可能である。違法使用される場合,粉末剤は一般に鼻から吸引さ... さらに読む (PCP),クラブドラッグ(例, MDMA メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA) MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は,刺激作用と幻覚誘発作用があるアンフェタミン類似化合物である。 主にセロトニンを産生および放出するニューロンに作用するが,ドパミン作動性ニューロンにも作用する。通常は錠剤として摂取され,摂取後30~60分で効果が現れ,一般に4~6時間持続する。MDMAはしばしばダンスクラブ,コンサート,およびレイブパーティ(rave party)で使用される。(... さらに読む [3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン])による中毒などがある。
暴力または攻撃性の前歴は,将来のエピソードに関する強力な予測因子である。
一般原則
典型的には,評価(特に考えられる身体疾患に関する評価)と同時に行動面の緊急事態の管理を進める(精神症状がみられる患者の医学的評価 精神症状がみられる患者の医学的評価 精神面に関する愁訴もしくは懸念を有する患者または行動に異常のある患者には,プライマリケアおよび救急医療センターなどを含めて,様々な臨床現場で遭遇する。この愁訴または懸念は新たに生じたものもあれば,過去の精神的な問題と連続性を有する場合もある。愁訴は,身体疾患に対する患者の対処と関係している場合もあれば,身体疾患が脳に及ぼす直接的な影響による場合もある。評価の方法は,愁訴の表出が,救急来院でなされたものか,予定された来院でなされたものかに... さらに読む を参照);すでに精神障害の診断を受けている患者やアルコールの臭いがする患者であっても,異常行動の原因を精神障害や中毒と決めてかかるのは誤りである。患者が明確な病歴を伝えることができない,あるいは伝えたがらないことも多いため,関連のある他の情報源(例,家族,友人,ケースワーカー,医療記録)を直ちに特定して,情報を求める必要がある。
医師は患者の暴力が治療チームや他の患者に向けられる可能性を認識していなければならない。
明らかな暴力性を示す患者は,まず以下の手段によって拘束しなければならない:
物理的手段
薬剤(化学的拘束)
両方
そのような介入は,患者および他者に対する危害を防止し,問題行動の原因の評価(例,バイタルサインの測定や血液検査の実施)を可能にするために行う。患者を拘束した場合には,綿密なモニタリング(ときに訓練を受けた看護師による常時の観察を含む)が必要である。医学的に安定している患者は,安全な隔離室に移してもよい。臨床医は 非自発的治療に関する法的問題 法的な考慮事項 気分,思考,もしくは行動に重度の変化がみられる患者,または生命を脅かす可能性がある重度の薬物有害作用が生じている患者には,緊急の評価および治療が必要である。身体科の外来および入院患者では,精神科医以外の医師が最初に診療する場合が多いが,そのような症例も可能な限り精神科医が評価を行うべきである。 患者の気分,思考,または行動が非常に異常または支離滅裂な場合は,その評価では,まず患者について以下の点を判断する必要がある:... さらに読む (攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題 攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題 も参照)を認識しておく必要があるが,そのような問題のために救命の可能性がある介入を遅らせてはならない。
潜在的に暴力的な患者には,問題の状況を除去する対策が必要である。激越および攻撃性の緩和に役立つ可能性がある対策としては,以下のものがある:
患者を落ち着いた静かな環境(例,利用できる場合は隔離室)に移す
自身または他者に危害を加えるために使用される可能性がある物体を排除する
患者およびその訴えに対して共感的な配慮を示す
自信に満ちていながらも支持的な態度で対応する
激越または攻撃性の原因を解決するためにできることを尋ねる
直接話をする(怒ったり狼狽したりしているように見える患者を見守り,誰かを傷つけるつもりがあるかどうかを尋ねる)ことによって,患者の感情を認識でき,さらに情報を引き出せることもある;これにより患者が実際に行動に移す可能性が高まることはない。
逆効果となる対策としては以下のものがある:
患者の恐怖や訴えの妥当性に疑いをかける
脅迫する(例,警察を呼ぶ,収容する)
見下した態度で話す
患者を欺こうとする(例,食べ物の中に薬剤を隠す,拘束することはないと患者に約束する)
スタッフおよび公衆の安全
攻撃的で敵意をもった患者の面接を行う場合は,スタッフの安全を考慮しなければならない。大半の病院では,問題行動がみられる患者には所持品検査(手作業,金属探知機,またはその両方)を実施して武器を持っていないか確認する方針が採られている。可能であれば,患者の評価は監視カメラ,金属探知機,スタッフから見える面接室など,安全対策が講じられた場所で行うべきである。
敵意はあるがまだ暴力的ではない患者は,典型的には無差別にスタッフを攻撃することはなく,むしろ,怒っているスタッフまたは自身にとって脅威に思われるスタッフを攻撃する。部屋のドアは開けたままにしておくべきである。スタッフが患者と同じ高さに座ることで,患者に脅威にみられることを避けられる可能性がある。また,スタッフが患者の敵意に対し同じように大声で怒りに満ちた発言で反応しない,または論争しないことで,患者を怒らせることを避けられる可能性がある。それでも患者がますます興奮し,今にも暴力を振るいそうにみえる場合は,スタッフは迷わずにその部屋を退出して,抑止力となるのに十分な追加のスタッフを呼ぶべきであり,これによりときに患者の行動を阻止できる。典型的には,少なくとも4,5人が同席すべきである(数人は若年男性が望ましい)。しかしながら,確実に使用する場合を除いて,拘束具を部屋の中に持ち込むべきではなく,拘束具を見ることで患者がさらに興奮することがある。
言語的な脅しは真剣に受けとめる必要がある。大半の州では,患者が特定の人物に危害を加える意思を表明した場合,評価を行う医師は,危害を加えられる可能性がある相手に注意を促し,所定の法執行機関に通知する義務がある。具体的な要件は州によって異なる。典型的な例として,小児,高齢者,および配偶者への虐待が疑われる場合には,州の規制によって報告も義務づけられている。
身体的拘束
身体的拘束の適用については議論があり,他の方法が失敗して,かつ患者が自身または他者に対して危害を加える重大な危険を示し続ける場合にのみ,考慮すべきである。薬剤の投与,詳細な評価,またはその両方を行うだけの十分な時間患者を引き留めておくために,拘束が必要なことがある。拘束は患者の同意なく適用されるため,特定の法的および倫理的問題について考慮すべきである(攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題 攻撃的かつ暴力的な患者における身体的拘束の使用に関する規制上の問題 を参照)。
拘束は以下を目的として使用される:
患者または他者に対する明白かつ切迫した危害を防止する
治療に対する同意が得られている場合に,薬物治療の継続が著しく困難になること(例,チューブまたは静脈ラインの引き抜きによる)を防止する
周囲の物理的環境,スタッフ,または他の患者に対する危害を防止する
非自発的治療を必要とする患者がその場を離れることを防止する(鍵のかかる部屋が使用できない場合)
拘束は以下の目的で適用してはならない:
懲罰
スタッフの都合(例,徘徊を防止するため)
自殺の可能性が明らかにある患者では,拘束具を自殺の道具として使用する可能性があるため,注意が必要である。
手順
拘束は,十分な訓練を受けたスタッフのみが,正しい方法で,患者の権利と安全を守って適用すべきである。
まず,十分なスタッフを部屋に集めて,拘束を行わなければならないことを患者に伝える。格闘を避けるため,患者に協力するよう促す。しかしながら,拘束が必要であると医師が判断したのであれば,交渉の余地はなく,患者に対して本人の同意の有無にかかわらず拘束を適用するということを告げる。実際には,自らの行動に外的な制限がかけられることを理解して感謝する患者もいる。
拘束適用の準備にあたっては,患者の四肢の各々に1人ずつ,さらに患者の頭部にもう1人を割り当てる。次に,個々のスタッフが割り当てられた四肢を同時に把持し,患者をベッド上で仰臥位にする;大柄で暴力的な患者でも,身体的に健康なスタッフであれば一般的に1人で1つの四肢を抑え込むことができる(全肢を同時に把持した場合)。しかし,拘束を行うには,さらにスタッフが必要となる。まれに,極めて闘争的で立っている患者では,まず2枚のマットレスでサンドイッチ状に挟み込まなければならないことがある。
拘束具は革製のものが望ましい。それぞれの足関節および手関節に1つの拘束具を適用し,それらをベッドの横板ではなく,ベッドフレームに取り付ける。拘束具は胸部,頸部,頭部の周囲には装着しないようにし,さるぐつわの使用(例,唾吐きや罵倒を防ぐため)は禁じられている。拘束状態でもなお闘争的な患者(例,ストレッチャーを倒す,噛みつく,または唾を吐く)には,化学的拘束が必要になることもある。
合併症
警察により病院に連行されてくる激越した,または暴力的な患者は,ほぼ常に拘束されている(例,手錠)。ときに,若く身体的に健康な患者が,病院到着前または到着後間もなく,警察により拘束された状態で死亡したことがある。原因は不明のことが多いが,おそらくは過度の労作とその後の代謝障害および高体温,薬物使用,胃内容の呼吸器系への誤嚥,長時間拘束状態に置かれた患者における塞栓症,ならびにときに重篤な身体的基礎疾患などのいくつかの組合せが関与している。患者がhobble position(背中の後ろで手関節と足関節を一緒に縛る)で拘束された場合,死亡する可能性がより高くなる;この種の拘束は窒息を引き起こすことがあり,避けるべきである。このような合併症があるため,警察による拘留状態で受診した暴力的な患者は迅速かつ徹底的に評価すべきであり,単なる社会行動上の問題として片づけるべきではない。
化学的拘束
薬物療法を用いる場合は,具体的な症状のコントロールを目標にすべきである。
薬剤
通常,以下の薬剤を使用することで,患者を速やかに落ち着かせたり,不安を解除したりすることができる。
ベンゾジアゼピン系薬剤
抗精神病薬(典型的には従来型抗精神病薬であるが,第2世代抗精神病薬も使用される)
これらの薬剤は用量を調節しやすく,静脈内投与した場合,より迅速かつ確実に作用を示すが(激越した患者または暴力的な患者に対する薬物療法 激越した患者または暴力的な患者に対する薬物療法 の表を参照),暴れる患者で静脈ラインが確保できない場合には,筋肉内投与が必要になることがある。両クラスの薬剤とも,激越して暴力的な患者に効果的な鎮静薬である。ベンゾジアゼピン系薬剤は,おそらく中枢刺激薬の過剰摂取ならびにアルコールおよびベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症候群に対して適しており,抗精神病薬は既知の精神障害の明らかな増悪に対して適している。ときに両薬剤を併用することで,さらに効果的となる;1剤の高用量の使用で望む効果が十分に得られない場合は,最初の薬剤を増量するのではなく,別のクラスの薬剤を使用することで,有害作用を制限する場合がある。
ベンゾジアゼピン系薬剤の有害作用
ベンゾジアゼピン系薬剤の注射剤は,特に極度に暴力的な患者に必要となることのある高用量で投与された場合,呼吸抑制を引き起こすことがある。挿管による 気道管理 気道確保および管理 気道管理は以下から成る: 上気道からの異物の除去 専用器具による気道開通性の維持 ときに呼吸補助 ( 呼吸停止の概要も参照のこと。) さらに読む および補助換気が必要になることがある。ベンゾジアゼピン拮抗薬であるフルマゼニルを使用してもよいが,鎮静効果が全く消失すると,当初の行動症状が再び現れることがあるため,注意が必要である。
ときにベンゾジアゼピン系薬剤は,行動のさらなる脱抑制につながる。
抗精神病薬の有害作用
抗精神病薬,特にドパミン受容体拮抗薬は,中毒量のみならず治療量でも,急性ジストニアおよびアカシジア(運動性不穏の不快な感覚)を含む急性錐体外路系の有害作用(抗精神病薬の急性有害作用に対する治療 抗精神病薬の急性有害作用に対する治療 の表を参照)を示すことがある。これらの有害作用は用量依存性を示す場合があり,投薬を中止すると軽快する可能性がある。
いくつかの抗精神病薬(チオリダジン【訳注:本邦では製造中止】,ハロペリドール,オランザピン,リスペリドン,およびジプラシドンを含む)は,QT延長症候群を引き起こす可能性があり,究極的には致死的不整脈のリスクを増大させる。 神経遮断薬による悪性症候群 神経遮断薬による悪性症候群 神経遮断薬による悪性症候群は,特定の神経遮断薬を使用した際に起こる,精神状態の変化,筋硬直,高体温,および自律神経の活動亢進を特徴とする。臨床的には,神経遮断薬による悪性症候群は 悪性高熱症に類似する。診断は臨床的に行う。治療は積極的な支持療法による。 神経遮断薬の投与を受けている患者のうち,約0.02~3%が神経遮断薬による悪性症候群を発症する。全年齢層の患者が罹患する可能性がある。... さらに読む の可能性もある。
その他の有害作用については, 抗精神病薬の有害作用 抗精神病薬の有害作用 抗精神病薬は,神経伝達物質受容体に対する特異的な親和性と活性に基づいて,従来型抗精神病薬および第2世代抗精神病薬(SGA)に分類される。SGAは,効力の面で若干優れているという点(ただし,最近のエビデンスは薬物クラスとしてのSGA全体の利点には疑問を投げかけている)と,不随意運動や関連する 有害作用の可能性が低いという点で,ある程度優れている可能性がある。最近の研究結果からは,新規の作用をもつ新しい抗精神病薬,すなわち微量アミンおよびム... さらに読む を参照のこと。
法的な考慮事項
気分,思考,または行動に重度の変化がみられる患者で,精神医学的介入なしでは病状が悪化する可能性が高い場合や他に適切な選択肢がない場合には,入院させるのが通常である。
同意および非自発的治療
患者が入院を拒否した場合,医師は患者の意思に反して入院させるかどうかを決定しなければならない。患者もしくは他の人の当面の安全を確保するため,または評価を完了して治療を行うために,そうすることが必要になる場合がある。
非自発的入院の基準や手続きは行政管轄区によって異なる。通常,一時的な拘束には,医師または心理士1名およびもう1名の臨床医,家族,または密接な関係者が,患者に精神障害があること,自傷他害行為の恐れがあること,そして患者が任意の治療を拒否していることを認定する必要がある。未成年者に対して薬物治療を行う場合は,医師は親または保護者から同意を得るべきである。
自身に対する危険としては,例えば以下のものが挙げられる:
基本的なニーズ(栄養,保護,必要な薬剤など)に対処できない
大部分の行政管轄区では,医療従事者が自殺の意思を知った場合は,例えば警察または他の責任機関に通知するなどにより,自殺予防のために即座に行動することが要求されている。
他者に対する危険には,以下のものが挙げられる:
殺人の意思を表明する
他者を危険に曝す
精神障害のために扶養家族のニーズまたは安全を確保できない