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記憶障害

執筆者:

Michael C. Levin

, MD, College of Medicine, University of Saskatchewan

最終査読/改訂年月 2016年 7月
本ページのリソース

記憶障害は,プライマリケアでよく遭遇する愁訴の1つである。特に高齢者に多いが,若年者が報告することもある。ときに患者ではなく患者の家族が記憶障害を報告する(典型的には認知症の高齢者)。

医師も患者も,記憶障害は発症しつつある認知症の徴候ではないかとしばしば懸念する。このような懸念は,認知症の典型的な初発徴候は記憶障害であるという一般的な知識に基づいている。しかしながら,ほとんどの記憶障害は認知症の発症を反映するものではない。

記憶障害の初期の訴えで最も頻度が高いのは以下のものである:

  • 人の名前や車の鍵など普段使用している物の置き場所をなかなか思い出せない

記憶障害がさらに重症化すれば,請求書の支払いを忘れる,約束を忘れるなどの症状が現れることがある。重度の記憶障害患者は,ストーブを消し忘れる,外出時に鍵をかけ忘れる,目を離してはならない乳児や小児を見失うなど,危険な過失を侵す可能性がある。記憶障害の原因に応じて他の症状(例,抑うつ,錯乱,人格変化,日常生活動作の困難)がみられることがある。

病因

記憶障害(記憶障害の一般的な原因の特徴)の最も一般的な原因は以下のものである:

  • 加齢に伴う記憶障害

  • 軽度認知障害

  • 認知症

  • うつ病

加齢に伴う記憶障害とは,加齢に伴って生じる記憶力の低下のことである。この状態にある人々は,新しい記憶(例,新しい隣人の名前,コンピュータの新しいパスワード)を形成したり,新しい複雑な情報や課題(例,仕事の手順,コンピュータプログラム)を学習したりするのに,より多くの時間を要する。加齢に伴う記憶障害により,ときにもの忘れをしやすくなったり(例,車の鍵の置き場所を間違える),恥をかいたりすることがある。それでも,認知機能が障害されているわけではない。このような患者は,よく考えて答える十分な時間を与えられれば,通常は質問に答えることができ,これは記憶および認知機能が障害されていないことを意味する。

軽度認知障害の患者は,実際に記憶障害を有しており,加齢に伴いものを思い出すのにときに時間を要するようになるといった程度ではない。軽度認知障害では,まず短期記憶(エピソード記憶とも呼ばれる)が侵される傾向がある。患者は最近の会話,普段使用する物の置き場所,人と会う約束をなかなか思い出せなくなる。しかしながら,典型的には昔の出来事の記憶と注意力は保たれている(作業記憶とも呼ばれ,患者は物の名前のリストを復唱でき,簡単な計算はできる)。軽度認知障害の定義は変化を続けており,現在ではときに,軽度認知障害は日常生活機能に影響しない程度の記憶および/またはその他の認知機能の障害と定義される。軽度認知障害のある患者の最大50%が3年以内に認知症を発症する。

認知症患者では,記憶障害に加えて認知機能障害および行動機能障害の所見がみられる。例えば,単語や物の名前を思い出せない(失語),過去に習得した動作を行えない(失行),日常生活の作業(例,食事,買い物,請求書の支払い)をうまく計画できない(遂行機能障害)などがある。パーソナリティ(人格)が変化することもあり,例えば,その人らしくない怒りやすさ,不安になりやすさ,興奮しやすさ,頑固さを示すことがある。

うつ病は認知症患者ではよくみられる。しかしながら,うつ病自体が認知症に類似する記憶障害の原因となることがある(仮性認知症)。そのような患者には通常,うつ病の他の特徴が認められる。

せん妄は,急性の錯乱状態であり,重症感染症,薬剤(有害作用),薬剤からの離脱などが原因となりうる。せん妄患者には記憶に異常がみられることがあるが,その主な原因は重度の全般的な精神状態変化と認知機能の障害であるのが通常であり,記憶障害が生じているわけではない。

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記憶障害の一般的な原因の特徴

原因

示唆する所見

診断アプローチ

加齢に伴う記憶障害

ときにもの忘れ(例,人の名前,車の鍵の置き場所)がみられるが,それ以外の記憶障害はない

正常な認知機能

臨床的評価

軽度認知障害

記憶障害

日常生活機能は障害されない

その他の認知機能は障害されない

臨床的評価

ときに精神神経医学的検査

認知症

記憶障害

日常生活機能が障害される(例,自宅の近所で道に迷う,普段行っている仕事ができない)

少なくとも1つのその他の認知機能障害:

  • 推論能力および複雑な作業を処理する能力(遂行機能)の障害ならびに判断力の低下(例,銀行口座を管理できない,金銭管理がずさんになる)

  • 失語(言語機能障害),単語や物の名前を思い出すのが困難である

  • 視空間認知障害(例,人の顔や一般的な物を認識できない)

  • パーソナリティおよび行動の変化(例,猜疑心,不安,興奮)

臨床的評価

ときに精神神経医学的検査

うつ病

しばしば気分の乱れの重症度と相関する記憶障害

ときに睡眠障害,食欲減退,精神運動抑制

認知症,軽度認知障害,または加齢に伴う記憶障害がある患者でしばしばみられる

臨床的評価

薬剤の使用(例,抗コリン薬,抗うつ薬,オピオイド,向精神薬,鎮静薬)

原因薬剤の使用

しばしば,最近の薬物療法の開始,薬剤の増量,または薬物クリアランスの低下(例,腎または肝機能低下によるもの)

典型的には,原因と疑われる薬剤の試験的な中止または変更

評価

次のことを最優先に対応する:

  • せん妄の同定(直ちに治療する必要がある)

次に,数の少ない軽度認知障害および認知症初期の症例を,より頻度の高い加齢に伴う記憶障害や正常なもの忘れの症例と鑑別することに焦点を移す。

外来では1人の患者に割り当てられる時間は一般に20~30分であるが,完全な認知症の評価には通常それ以上の時間を要する。

病歴

可能であれば,病歴は患者と家族から,それぞれ別個に聴取すべきである。認知機能に障害のある患者は,詳細かつ正確な病歴を提供できない可能性があり,また家族は患者が聞いている横で病歴を正直に話すことに躊躇する可能性がある。

現病歴には,記憶障害の種類(例,単語または人の名前を忘れる,道に迷う)とその発症,重症度,および進行の詳細を含めるべきである。症状によって患者の仕事および家庭における日常生活機能がどの程度障害されているかを判定すべきである。重要な関連所見には,話し方,食べ方,睡眠,および気分の変化がある。

系統的症状把握(review of systems)では,特定の認知症を示唆する以下のような神経症状を同定すべきである:

既往歴には,既知の疾患と処方薬およびOTC薬の完全な使用歴を含めるべきである。

家族歴および社会歴には,患者の基本的な知能,教育,職歴,および社会的機能の水準を含めるべきである。現在および過去の物質乱用歴がないか確認する。認知症または軽度認知障害の家族歴がないか尋ねる。

身体診察

一般診察に加えて,完全な神経学的診察を行い,さらに詳細な精神医学的診察を行う。

精神医学的診察では,患者に特定の課題を実行させることにより,以下の項目を評価する:

  • 見当識(患者の名前,当日の日付,および今いる場所を言う)

  • 注意および集中(例,単語のリストを繰り返して言う,簡単な計算を行う,「world」を逆から書く)

  • 短期記憶(例,3~4個の単語のリストを5分後,10分後,および30分後に繰り返して言う)

  • 言語(例,一般的な物の名前を言う)

  • 行為・遂行機能(例,複数段階の指示に従う)

  • 構成能力(例,絵を模写する,時計を描く)

これらの項目の検査には様々な尺度を使用することができる。これらの項目の検査法として最も一般的に用いられているものは,Mini-Mental Status Examinationであり,これは7分間で実施できる。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 日常生活機能の障害

  • 注意力低下または意識レベルの変容

  • うつ病の症状(例,食欲低下,精神運動抑制,希死念慮)

所見の解釈

現在の記憶障害,日常生活機能の障害,およびその他の認知機能障害があるかどうかが,加齢に伴う記憶力の変化,軽度認知障害,および認知症を鑑別するのに役立つ。

気分の乱れは,うつ病患者でもみられるが,認知症または軽度認知障害の患者でもよくみられる。そのため,記憶障害がより重症化するか,その他に明らかな神経脱落症状(例,失語,失認,失行)が認められない限り,うつ病を認知症と鑑別するのは困難である。

注意力の低下の有無は,せん妄を初期の認知症と鑑別する上で役立つ。大半のせん妄患者において,記憶障害は主症状とならない。それでも,認知症の診断を下す前にせん妄は除外しなければならない。

特に有用な手がかりの1つに,患者が医療機関を受診した経緯がある。患者自身がもの忘れの悪化を心配して医学的評価を求めた場合は,加齢に伴う記憶障害である可能性が高い。患者が家族ほど記憶障害について心配せず,家族が率先して医学的評価を求めてきた場合は,患者自身が医学的評価を求めた場合と比較して,認知症である可能性が高い。

検査

診断は臨床的に行う。しかしながら,簡潔な精神医学的診察は患者の知能や教育水準に影響を受けるため,いずれも正確性に限界がある。例えば,教育水準の高い患者では検査の結果が実際より高く出たり,教育水準の低い患者では検査の結果が実際より低く出たりする。

診断が不明確な場合は,より精度の高い,正式な神経心理学的検査を行うことができ,その結果はより診断精度が高い。

薬剤が原因と考えられる場合は,診断的な試みとして被疑薬を中止するか他の薬剤に置き換える。

一見うつ病に見える患者の場合は,治療することで,うつ病を軽度認知障害と鑑別しやすくなることがある。

神経学的異常(例,筋力低下,歩行異常,不随意運動)がみられる場合は,MRIまたはCTが必要である。

大半の患者では,血清ビタミンB12値の測定と甲状腺機能検査を行い,記憶障害の可逆的な原因であるビタミンB12欠乏症および甲状腺疾患を除外する必要がある。

せん妄または認知症がある場合は,原因を特定するため,さらなる検査を行うべきである。

治療

加齢に伴う記憶障害の場合は,患者を安心させるべきである。多くの場合,一般的な健康対策が推奨され,機能の維持だけでなく,認知症のリスク低減にも役立つ可能性がある。

うつ病のある患者は,薬物療法,精神療法,またはその両方により治療する。

記憶障害に加えてうつ病の徴候を有する患者は,抗コリン作用のない抗うつ薬,可能であればSSRIで治療すべきである。うつ病が軽快するにつれて,記憶障害も軽快していく。

せん妄は基礎疾患を是正することにより治療する。

まれに,特異的な治療(例,ビタミンB12補充,甲状腺ホルモン補充,正常圧水頭症に対するシャント術)で認知症が消失する場合もある。

それ以外の記憶障害患者は支持療法により治療する。

一般的な処置

記憶障害を心配している患者には,以下の対策を推奨することができる:

  • 定期的な運動

  • 果物と野菜の多い健康的な食事の摂取

  • 十分な睡眠

  • 禁煙

  • 飲酒を適度に抑える

  • 知的興奮を刺激する社会活動への参加

  • 定期的な身体診察

  • ストレス管理

  • 頭部外傷の予防

これらの対策に加えて,血圧,コレステロール値,および血漿血糖値のコントロールを図ることで,心血管疾患のリスクも低減できる傾向がある。これらの対策により認知症のリスクが低減することを示唆するエビデンスもあるが,その効果は証明されていない。

新しいことの学習(例,新しい言語,新しい楽器),頭の体操(例,リストを覚える,ワードパズルをする,チェスやブリッジなど戦略を使うゲームをする),読書,コンピュータを使った仕事,工芸(例,編み物,キルトワーク)を勧める専門家もいる。これらの活動は認知機能の維持または改善に役立つ可能性があるが,これはニューロンの結合を強化し,新しい結合を促進する作用によるものである可能性がある。

患者の安全

作業療法士および理学療法士は,認知症患者が転倒および事故に遭わないよう安全を図る目的で,患者の自宅を評価することができる。防御策(例,ナイフを隠す,暖房器具のプラグを抜く,車を排除する,車の鍵を没収する)が必要になることがある。米国の一部の州では,医師に対してDepartment of Motor Vehicles(車両管理局)への認知症患者の報告が義務づけられている。患者が徘徊する場合は,信号でモニタリングするシステムを導入するか,患者をSafe Returnプログラムに登録することができる。Alzheimer's Associationから情報が提供されている(Safe Return program)。

最終的には,介護(例,ハウスキーパー,訪問介護)または環境調整(例,階段のない住居,介護施設,高度看護施設)が必要になる場合がある。

環境調整

認知症患者には環境調整が役立つ可能性がある。

認知症患者は,見慣れたものに囲まれ,頻回に見当識を強化し(大きなカレンダーと時計を置くなど),明るくにぎやかな環境で日常のルーチン作業を行う場合に,最も調子が良くなる。部屋には感覚を刺激するもの(例,ラジオ,テレビ,常夜灯)を設置すべきである。

施設では,スタッフが大きな名札を付け,繰り返し自己紹介することもある。周囲の状況,日課,または担当者に変更がある場合は,患者に正確かつ簡潔に説明し,重要ではない手順は省略する。

スタッフや親しい人々が頻繁に訪問することは,患者が社会性を保つための励みとなる。活動を課すことが有用となりうる;活動内容は楽しく,何らかの刺激を与えるものとするべきであるが,あまり多くの選択肢や困難を伴うものとしてはならない。平衡感覚を改善し,心血管系機能を維持するための運動は,不穏を軽減し,睡眠を改善し,行動を制御する一助となりうる。作業療法と音楽療法は,巧緻運動の制御を維持させ,非言語的な刺激を与えるのに役立つ。集団療法(例,回想療法,社会療法)は会話および対人技能の維持に役立つことがある。

薬物

中枢神経系作用を有する薬剤を中止または制限することによって,しばしば機能が改善する。鎮静薬および抗コリン薬は認知症を悪化させる傾向があるため,避けるべきである。

コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル,リバスチグミン,およびガランタミンは,アルツハイマー病またはレビー小体型認知症患者の認知機能改善にいくらか効果的であり,その他の病型の認知症にも有用となりうる。NMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)拮抗薬であるメマンチンは,中等症から重症の認知症に使用される。

軽度認知障害の患者では,ドネペジルにより記憶力の一時的改善がみられることがあるが,その有益性は大きくないようである。軽度認知障害患者の認知機能または記憶力を高める目的で推奨される薬剤は他にはない。

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アルツハイマー病およびときに他の病型の認知症の治療に使用される薬剤

薬剤名

開始量

最大量

備考

ドネペジル

5mg,1日1回(訳注:本邦では3mg)

23mg,1日1回(訳注:本邦では10mg)

一般に忍容性は良好であるが,悪心や下痢を引き起こすことがある

ガランタミン

4mg,1日2回

徐放性:8mg,1日1回,午前(訳注:徐放性につき本邦では適応なし)

12mg,1日2回

徐放性:24mg,1日1回,午前(訳注:徐放性につき本邦では適応なし)

行動症状に対して他の薬剤より有益である可能性がある

ニコチン受容体を調節するほか,アセチルコリンの放出を刺激して,その作用を促進するとみられる

メマンチン

5mg,1日2回(訳注:本邦では1日1回)

10mg,1日2回(訳注:本邦では20mg,1日1回)

疾患の進行を遅らせるとみられる

リバスチグミン

溶液またはカプセル:1.5mg,1日2回(訳注:本邦では適応なし)

貼付薬:4.6mg/24時間

溶液またはカプセル:6mg,1日2回(訳注:本邦では適応なし)

貼付薬:13.3mg/24時間

液剤として使用可能

老年医学的重要事項

軽度認知障害は加齢に伴ってよくみられるようになる。70歳以降の有病率は14~18%である。

認知症は,高齢者における施設入居,病的状態,および死亡の原因で最も頻度の高いものの1つである。加齢そのものが認知症リスクの大半を占める。認知症の有病率は以下の通りである:

  • 60~64歳で1%

  • 85歳以上で30~50%

  • 介護施設に入居している高齢者で60~80%

要点

  • 記憶障害と認知症は頻度が高く,高齢者ではよく心配の種となっている。

  • 加齢に伴う記憶障害はよくみられ,記憶および認知機能の鈍化につながるが,これらの機能が劣化するわけではない。

  • 診断は主に臨床基準により行い,特に気分,注意,真の記憶障害の有無,および日常生活機能への影響に注目する。

  • 鎮静薬や抗コリン薬は,記憶障害を引き起こすことがあるが,使用を中止することで記憶障害が回復することがあるため,完全な薬歴の聴取が極めて重要である。

  • 患者が自ら報告する記憶障害は通常,認知症によるものではない。

  • 認知症の診断を下すには,せん妄を除外しなければならない。

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