最も多く報告されている睡眠関連症状は,不眠症と日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness:EDS)である。
EDSそのものは疾患ではなく,様々な睡眠関連疾患の1つの症状である。不眠症は,たとえ他の疾患とともに存在する場合でも,それ自体が疾患であることもあれば,他の疾患の一症状であることもある。睡眠時随伴症は,睡眠に関連する異常な事象である(例,夜驚症,睡眠時遊行症—{blank} 睡眠時随伴症)。
病態生理
睡眠には2つの段階があり,それぞれ特徴的な生理学的変化がみられる:
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ノンレム(非急速眼球運動)睡眠:ノンレム睡眠は成人の総睡眠時間の約75~80%を占める。ノンレム睡眠は3つのステージ(N1~N3)に分けられ,順に睡眠の程度が深くなる。安静覚醒時および睡眠ステージN1早期の特徴である眼球の緩徐な回転運動は,睡眠ステージが深くなると消失する。筋活動も減少する。ステージN3は覚醒閾値が高いため,深睡眠期と呼ばれ,この段階が質の高い眠りと感じられる場合が多い。
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レム(急速眼球運動)睡眠:レム睡眠はノンレム睡眠の各サイクルに続いてみられる。レム睡眠時の特徴は,脳波上の低振幅速波と姿勢筋の緊張低下である。呼吸の回数および深さが劇的に変動する。夢を見るのは,ほとんどがレム睡眠中である。
3つのステージを経て睡眠が進行し,その後は典型的には短い間隔のレム睡眠が続き,このサイクルが一晩に5~6回生じる({blank} 若年成人の典型的な睡眠パターン)。短時間の覚醒(ステージW)が周期的に起こる。
1日に必要な睡眠時間は6~10時間で,大きな個人差がある。乳児は一日の大半を寝て過ごすが,加齢とともに総睡眠時間と深い眠りは減少していく傾向があり,睡眠が頻繁に分断されるようになる。高齢者ではステージN3が消失することもある。加齢に伴うEDSおよび疲労の増加は,こうした変化が原因のこともあるが,その臨床的な意義は不明確である。
病因
不眠症とEDSのうち,両方を引き起こすことがある疾患もあれば,いずれか一方しか引き起こさない疾患もある({blank} 不眠症および日中の過度の眠気の原因)。
不眠症({blank} 不眠症および日中の過度の眠気 (excessive daytime sleepiness:EDS))の原因として最も頻度が高いのは,以下のものである:
EDS({blank} 不眠症および日中の過度の眠気 (excessive daytime sleepiness:EDS))の原因として最も頻度が高いのは,以下のものである:
不適切な睡眠衛生とは,入眠の促進につながらない行動のことである({blank} 睡眠衛生)。具体的には以下のものがある:
睡眠不足を補うために遅くまで寝ていたり,昼寝をすることで,夜間の睡眠がさらに分断化される。
適応障害性不眠症は,睡眠を妨害するような急性の精神的ストレス因子(例,失業,入院)によって生じる。
精神生理性不眠症は,原因にかかわらず誘発因子が消失した後も長く続く不眠症であり,通常は,また夜眠れないと次の日に疲労が残ってしまうのではないかという予期不安を感じることが原因である。典型的には,患者は不眠のことばかりを考え悩みながら何時間も寝床の中で過ごし,自宅以外の場所では眠くなるのに比べて自宅の寝室では入眠困難が強くなる。
疼痛または不快感を伴う身体疾患(例,関節炎,悪性腫瘍,椎間板ヘルニア),特に体動で増悪する疾患は中途覚醒を引き起こし,睡眠の質を悪化させる。夜間の痙攣発作も睡眠の妨げとなりうる。
主要な精神障害のほとんどはEDSおよび不眠症を伴う。うつ病患者の約80%はEDSと不眠症を訴え,反対に,慢性不眠症患者の40%は何らかの主要な精神障害を有しており,なかでも最も多いのが気分障害である。
睡眠不足症候群とは,環境が整っているにもかかわらず夜十分な睡眠がとれない状態であり,典型的には様々な社会的因子や雇用状況に起因する。
薬剤に関連した睡眠障害は,様々な薬剤の慢性使用または離脱に起因する({blank} 睡眠を妨害する薬物の例)。
睡眠を妨害する薬物の例
概日リズム障害({blank} 概日リズム睡眠障害)では,生体内の睡眠-覚醒リズムと外部の明暗サイクルとの間にずれが生じる。原因は外因性(例,時差障害,交代勤務障害)のこともあれば,内因性(例,睡眠相後退障害または睡眠相前進障害)のこともある。
中枢性睡眠時無呼吸症候群({blank} 中枢性睡眠時無呼吸症候群)では,睡眠中に呼吸努力の低下により10秒以上の呼吸停止または浅呼吸のエピソードが繰り返しみられる。この障害の典型的な症候は,不眠症または休息感が得られない質の悪い睡眠である。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群({blank} 閉塞性睡眠時無呼吸症候群)は,10秒以上の呼吸停止につながる睡眠中の部分的または完全な上気道閉塞の反復によって構成される。ほとんどの患者はいびきをかき,ときに喘ぎながら覚醒することもある。これらのエピソードが睡眠を妨げ,その結果,休息感が得られない眠りおよびEDSを招く。
ナルコレプシー({blank} ナルコレプシー)の特徴は慢性のEDSであり,しばしば情動脱力発作,睡眠麻痺,および入眠時または出眠時幻覚を伴う:
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情動脱力発作(cataplexy)は,突然の感情反応(例,歓喜,怒り,恐怖,喜び,驚き)によって惹起される一時的な筋力低下または麻痺であり,意識消失を伴わない。筋力低下は四肢に限局することがある(例,釣り餌に魚が食いつき当たりがあったときに釣り竿を落とす)ほか,思い切り笑ったり(「笑いすぎて力が抜ける」ように)突然怒ったりしたときに,筋力低下が原因で崩れるように転倒することがある。
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睡眠麻痺は,寝入りばなまたは目覚めてすぐに現れる一時的な運動不能である。
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入眠時および出眠時幻覚は,寝入りばな(入眠時),またはより頻度は低いが目覚めた直後(覚醒時)に起きる,とりわけ鮮明な聴覚的または視覚的な錯覚または幻覚である。
周期性四肢運動障害({blank} 周期性四肢運動障害(PLMD)およびレストレスレッグス症候群(RLS))は,睡眠中,下肢に繰り返し(通常20~40秒毎に)みられる筋収縮および蹴るような運動を特徴とする。通常,患者は夜間の睡眠分断またはEDSを訴える。典型的には,異常運動とそれに続く短時間の微小覚醒は自覚しておらず,四肢の異常感覚はみられない。
レストレスレッグス症候群({blank} 周期性四肢運動障害(PLMD)およびレストレスレッグス症候群(RLS))は,横になると,下肢およびより頻度は低いが腕を動かしたくなる抗いがたい衝動を特徴とし,通常は四肢の錯感覚(例,皮膚の上を虫が這うまたは伝うような感覚)を伴う。患者は症状を緩和しようとして,患肢を伸ばす,蹴る,歩き回るなどして動かす。その結果,入眠困難,頻回の夜間覚醒,またはその両方を来す。
評価
病歴
現病歴には,症状の持続期間および発症年齢,ならびに発症と同時期に起こったあらゆる出来事(例,生活上または仕事上の変化,新しい薬剤,新しい疾患)を含めるべきである。睡眠時および覚醒時の症状に注意すべきである。
睡眠の質および量は以下の項目から同定される:
睡眠日誌を数週間患者本人につけてもらう方が問診よりも正確である。就寝時の出来事(例,食事または飲酒,身体的または精神的活動)を評価すべきである。薬物,アルコール,カフェイン,およびニコチンの摂取および離脱,ならびに身体活動の強度およびタイミングについても評価すべきである。
もしEDSが問題であるならば,様々な場面(例,快適な安静時vs運転時)での入眠傾向を基に重症度を定量化すべきである。エプワース眠気スケール(Epworth Sleepiness Scale―{blank} エプワース眠気スケール(Epworth Sleepiness Scale))が利用でき, 10点以上 の累積スコアは異常な日中の眠気を反映する。
系統的症状把握(review of systems)では,以下のような特定の睡眠障害の症状を確認すべきである:
これらのうち一部の症状は,ベッドパートナーまたはその他の家族構成員が最もよく同定することができる。
既往歴の聴取では,睡眠の妨げとなりうる疾患の既往を確認すべきであり,例としてCOPD,喘息,心不全,甲状腺機能亢進症,胃食道逆流,神経疾患(特に運動疾患および変性疾患),疼痛を伴う疾患(例,RA)などがある。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の危険因子には,肥満,心疾患,高血圧,脳卒中,喫煙,いびき,鼻外傷などがある。薬歴の聴取には,睡眠障害と関連しうるあらゆる薬剤の使用に関する質問を含めるべきである({blank} 睡眠を妨害する薬物の例)。
身体診察
身体診察は主に,閉塞性睡眠時無呼吸症候群に伴う徴候を同定するのに有用である:
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頸部または上腹部周囲への脂肪の分布を伴う肥満
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頸部周囲径が大きい(男性で43.2cm以上,女性で40.6cm以上)
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下顎低形成および下顎後退症
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鼻閉
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扁桃,舌,口蓋垂,または軟口蓋の腫大(Mallampati分類3または4度—{blank} Mallampati分類)
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咽頭狭窄
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舌による口蓋垂および軟口蓋の閉塞
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過剰な咽頭粘膜
胸部を診察して呼気時の喘鳴および脊柱後側弯症がないか確認する。右室不全の徴候に注意すべきである。詳細な神経学的診察を行うべきである。
警戒すべき事項(Red Flag)
所見の解釈
不適切な睡眠衛生と状況ストレス因子は通常,病歴から明らかである。睡眠時間が増加すると(例,週末または休暇中)消失するEDSは,睡眠不足症候群を示唆する。情動脱力発作,入眠時/出眠時幻覚,または睡眠麻痺を伴うEDSは,ナルコレプシーを示唆する。
入眠困難(入眠障害)は,睡眠維持困難や早朝覚醒(睡眠維持障害)とは区別して考えるべきである。
入眠障害は,睡眠相後退症候群,慢性の精神生理性不眠症,レストレスレッグス症候群,または小児期の恐怖症を示唆する。
睡眠維持障害は,うつ病,中枢性もしくは閉塞性睡眠時無呼吸症候群,周期性四肢運動障害,または加齢を示唆する。
入眠時刻が早く,起床時刻も早い場合は,睡眠相前進症候群が示唆される。
著明ないびき,頻回の覚醒,およびその他の危険因子がある患者では,閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑うべきである。STOP-BANGスコアは,閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスク予測に役立つ可能性がある({blank} 閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関するSTOP-BANGリスクスコア)。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関するSTOP-BANGリスクスコア
検査
検査が行われるのは通常,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,夜間痙攣発作,ナルコレプシー,周期性四肢運動障害,または睡眠ポリグラフ検査の特徴的な所見の同定によって診断されるその他の疾患を示唆する特定の症状または徴候がある場合である。また,臨床診断に疑いがある場合,または初期の推定治療に対する反応が不十分な場合にも検査が行われる。症状または徴候から特定の原因(例,レストレスレッグス症候群,よくない睡眠習慣,一過性のストレス,交代勤務障害)が強く示唆されれば,検査は必要ない。
睡眠ポリグラフ検査は,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,ナルコレプシー,夜間痙攣発作,周期性四肢運動障害,または睡眠時随伴症が疑われる場合に特に有用である。睡眠ポリグラフ検査は,暴力的なまたは傷害を招く可能性のある睡眠関連行動の評価にも役立つ。睡眠ポリグラフ検査では,睡眠中の(脳波を介した)脳活動,眼球運動,心拍数,呼吸,酸素飽和度,ならびに筋緊張および筋活動をモニタリングする。動画撮影により睡眠時の異常運動を確認することもある。睡眠ポリグラフ検査は典型的には睡眠検査室内で施行される;家庭用装置が考案されているものの,閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断補助目的で使用するものであり,その他の睡眠障害の診断目的では用いられない。
睡眠潜時反復検査では,患者の典型的な覚醒時間中に2時間毎に昼寝を5回行わせ,入眠の速さを評価する。患者は暗い部屋で横になり,眠るよう指示される。入眠および睡眠の各ステージ(レム睡眠を含む)が睡眠ポリグラフでモニタリングされ,眠気の程度が決定される。この検査の主要な使用目的はナルコレプシーの診断である。
覚醒維持検査では,静かな部屋でベッドまたはリクライニングチェアに座り,2時間毎に4回起きたままでいるよう指示される。この検査はおそらく,日常生活の中で覚醒を維持する能力をより正確に測定できる方法である。
EDSを有する患者では,腎,肝,および甲状腺機能の臨床検査が必要になることがある。
治療
それぞれの病態を治療する。病因にかかわらず,良好な睡眠衛生({blank} 睡眠衛生)が重要であり,軽症の患者では必要な唯一の治療法であることが多い。
睡眠衛生
睡眠薬
睡眠薬使用に関する一般的なガイドライン({blank} 睡眠薬使用ガイドライン)の目的は,乱用,誤用,および依存を最小限にすることにある。
睡眠薬使用ガイドライン
一般的に用いられる睡眠薬については,{blank} 一般的に使用される経口睡眠薬を参照のこと。睡眠薬はほぼ全て(ラメルテオン,低用量ドキセピン,およびスボレキサントを除き),γ-アミノ酪酸(GABA)受容体のベンゾジアゼピン認識部位に作用し,GABAの抑制効果を増強する。
個々の睡眠薬の違いは,主に消失半減期と作用発現時間にある。半減期が短い睡眠薬は入眠障害に用いられる。半減期が長い睡眠薬は入眠障害および睡眠維持障害の両方に有用であるが,低用量ドキセピンの場合は,睡眠維持障害にのみ有用である。一部の睡眠薬(例,古いベンゾジアゼピン系薬剤)は日中にもち越し効果が生じる可能性が高く,特に長期使用時と高齢者への投与時は注意が必要である。新しい薬剤で作用持続時間が非常に短いもの(ゾルピデムの低用量舌下錠)は,服用後の床上時間が4時間以上あるのであれば,深夜の夜間覚醒時に服用させてもよい。
日中の鎮静,協調運動障害,またはその他日中に薬物の影響を受ける患者は,注意を必要とする活動(例,運転)は控え,使用中の薬剤の用量を減らすか,使用を中止し,また必要であれば別の薬剤を使用すべきである。その他の有害作用には,健忘,幻覚,協調運動障害,転倒などがある。
一般的に使用される経口睡眠薬
最近承認された睡眠薬として,スボレキサントとtasimelteonなどがある。
スボレキサントは,脳のオレキシン受容体を遮断することによって作用する不眠症の新しい治療薬であり,オレキシンにより誘発される覚醒シグナルを遮断して,入眠を可能にする。推奨用量は10mgであり,服用は一晩に1回までで,就寝前30分以内,かつ予定起床時刻の少なくとも7時間前に服用する。増量が可能であるが,1日1回,20mgを超えてはならない。最も頻度の高い有害作用は傾眠である。
tasimelteonはメラトニン受容体作動薬であり,全盲の非24時間睡眠覚醒症候群患者において,夜間の睡眠時間を増やし,日中の睡眠時間を減らすことができる。用量は20mg,1日1回,就寝時であり,毎晩同じ時刻に服用させる。最も頻度の高い有害作用は,頭痛と異常な夢または悪夢である。tasimelteonは乱用の可能性が低いようである。
肺動脈弁閉鎖不全がある患者では,睡眠薬は慎重に使用すべきである。高齢者の場合,睡眠薬はいかなるものでも,また低用量でも,不穏または興奮の発生やせん妄および認知症の増悪につながりうる。まれに,睡眠薬により,睡眠時遊行症やさらには夢遊運転(sleep driving)など,複雑な睡眠関連行動が生じることがあり,推奨量より高用量での服用やアルコール飲料との同時摂取は,このような行動のリスクを高める可能性がある。まれに,重度のアレルギー反応が発生する。
長期使用は,耐性の発現を招くため({blank} 抗不安薬と鎮静薬),また突然服用を中断すると反跳性不眠,さらには不安,振戦,痙攣発作が生じる可能性があるため,一般的には控えさせる。こうした有害作用は,ベンゾジアゼピン系(特にトリアゾラム)で比較的多く,非ベンゾジアゼピン系では比較的少ない。最小有効量を短期間使用し,中止するまで用量を漸減することで,問題を最小限に抑えることができる({blank} 抗不安薬と鎮静薬 : 離脱と解毒)。それでも,慢性不眠症の患者の多くが睡眠薬による長期治療を必要とし,慢性の睡眠不足自体が精神的および身体的健康に悪影響を与えうることから,そのような治療は控えるべきではない。
その他の鎮静薬
不眠症に特異的適応がある薬物以外にも,多くの薬物が睡眠の導入および維持に用いられている。
飲酒は睡眠を促す方法として多くの患者に用いられているが,長期間の飲酒や大量の飲酒は頻回の夜間覚醒により休息感が得られない質の悪い睡眠につながり,しばしば日中の眠気を増大させるため,飲酒はよい選択肢ではない。アルコールはまた,閉塞性睡眠時無呼吸症候群およびその他の肺疾患(COPDなど)患者の睡眠中の呼吸をさらに障害しうる。
一般用医薬品の抗ヒスタミン薬(例,doxylamine,ジフェンヒドラミン)は睡眠導入を促進する。しかしながら,こうした薬物は効力が予測できない上,日中の鎮静,錯乱,尿閉,その他の全身性抗コリン作用などの有害作用がみられ,これらの作用は高齢者で特に注意が必要である。
抗うつ薬を就寝時に低用量(例,ドキセピン25~50mg,パロキセチン5~20mg,トラゾドン50mg,トリミプラミン75~200mg)服用することで睡眠を改善しうる。しかしながら,抗うつ薬を使用する際は,主に標準的な睡眠薬に耐えられない場合(まれ)は上述の低用量で,抑うつが認められる場合にはより高用量(抗うつ薬としての用量)で用いるべきである。睡眠維持障害には超低用量ドキセピン(3mgまたは6mg)が適応となる。
メラトニンは,松果体より分泌されるホルモンである(また,一部の食品に元来含まれている)。暗闇により分泌が促進され,光によって阻害される。メラトニンは視交叉上核のメラトニン受容体と結合することで概日リズムを調節し,特に生理的な睡眠開始時に作用が増大する。経口メラトニン(典型的には0.5~5mg,就寝時)は,睡眠相後退症候群による睡眠障害に効果的である可能性がある。この疾患の治療に用いる場合は,適切なタイミングで(夜になって内因性メラトニン分泌が増大し始める数時間前—大抵の人では夕暮れ頃,典型的には就寝予定時刻の3~5時間前),0.5~1mgの低用量を投与すべきである;投与のタイミングを誤ると睡眠障害を悪化させうる。その他の型の不眠症に対しては,メラトニンの効力は一般に証明されておらず,また動物において冠動脈変化を促すとされているため安全性に疑問がある。それでも,広く使用されているが懸念すべき有害作用は報告されていない。入手可能なメラトニン製剤には規制がないため,含有物および純度は保証されておらず,長期使用の影響は不明である。使用にあたっては医師の指導が必要である。