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慢性疼痛

執筆者:

John Markman

, MD, University of Rochester School of Medicine and Dentistry;


Sri Kamesh Narasimhan

, PhD, University of Rochester

最終査読/改訂年月 2018年 8月
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慢性疼痛とは,3カ月間を超えて持続もしくは再発する,または急性組織損傷の回復後1カ月を超えて持続する,または治癒に至らない病変に随伴する疼痛である。原因としては,慢性疾患(例,がん,関節炎,糖尿病),損傷(例,椎間板ヘルニア,靱帯断裂),多くの原発性疼痛疾患(例,神経障害性疼痛,線維筋痛症,慢性頭痛)などがある。様々な薬剤と心理学的治療が用いられる。

慢性疼痛は,長期間持続して侵害受容刺激をもたらし続ける疾患(例,がん,関節リウマチ,椎間板ヘルニア)の存在で完全に説明できる場合がある。あるいは,損傷(ときに軽度のこともある)によって神経系(末梢の受容器から大脳皮質までのどこか)に長期間持続する変化(感作)が引き起こされ,それにより侵害刺激がなくなっても持続する疼痛が発生する場合もある。感作が起きると,そうでなければ軽度ないし些細なものと感じられるであろう,ほぼ回復した疾患による不快感が,むしろ重大な痛みとして感じられるようになる。

さらに心理的因子によっても,持続性の疼痛が増幅されることがある。このように,慢性疼痛は一般的に,同定可能な身体的現象とは不釣り合いな程度で出現する。

ほとんどの患者では,慢性疼痛の持続に何らかの身体的現象が関与していることが明らかであり,ときに主要な因子となっている場合もある(例,がん性疼痛 疼痛 がん治療を受ける患者は,しばしば有害作用を経験する。このような有害作用を管理することで,生活の質が向上する(がん治療の概要も参照)。 悪心および嘔吐は,がん患者でよくみられ,がん自体(例,腫瘍随伴症候群)またはその治療(例,化学療法,脳または腹部への放射線療法)に起因することがある。しかしながら,悪心および嘔吐が難治性であれば,基本的な臨床検査(電解質,肝機能検査,リパーゼ)や腸閉塞または頭蓋内転移を調べるX線撮影などの追加検査を速やか... さらに読む )。しかしながら,そうした患者でも通常は心理的因子も関与している。医療サービスや保険金,失業補償などを受けるために疾患があることを絶えず証明せねばならない患者は,無意識に疼痛知覚を強化している可能性があり,特に訴訟が絡む状況ではそのような傾向が強くなる。この反応は,二次的疾病利得(例,休暇,障害者補償)のために意識的に症状を誇張する詐病とは異なる。

患者の環境(例,家族,友人)にある様々な因子が,慢性疼痛を永続化させる行動を強化している可能性がある。

慢性疼痛が心理的問題(例,抑うつ,不安)につながったり,増悪させたりすることもある。心理的な原因と結果の区別はしばしば困難である。

症状と徴候

慢性疼痛は自律神経徴候(例,倦怠感,睡眠障害,食欲減退,味覚消失,体重減少,性欲減退,便秘)をしばしば引き起こすが,これらは徐々に発生する。絶え間のない定常的な疼痛は,抑うつや不安を引き起こし,ほぼ全ての活動を妨げる可能性がある。患者は不活発になったり,引きこもりになったり,健康状態が気になって物事が手につかなくなったりすることがある。心理的および社会的障害が重度であるために,社会的な機能をほぼ失ってしまうこともある。

一部の患者,特に明らかな原因が認められない患者では,内科的および外科的治療の失敗,診断過程での多数の(かつ重複した)検査,多くの薬剤の使用(ときに乱用や嗜癖を含む),不十分な医療サービスの利用といった要因が認められる。

診断

  • 身体的原因に関する評価を最初に行い,症状に変化がみられた際にも行う。

慢性疼痛のある患者では,たとえ疼痛に顕著な心理的因子が関与している可能性が高いとしても,常に身体的な原因を検索すべきである。疼痛に関連する身体的現象について適切に評価し,その特徴を明らかにすべきである。ただし,十分な評価を終えてから,新たな所見がない状況で検査を繰り返すことは有用ではない。検査を一旦中止して,疼痛の緩和と機能の回復に重点を置くことが最良のアプローチとなる場合が多い。

疼痛が患者の生活に及ぼしている影響を評価すべきであり,作業療法士による評価が必要になることもある。原因または結果として精神障害(例,うつ病 うつ病(単極性障害) 抑うつ障害群は,機能を妨げるほど重度または持続的な悲しみ,および興味または喜びが減退することにより特徴づけられる。正確な原因は不明であるが,おそらくは遺伝,神経伝達物質の変化,神経内分泌機能の変化,および心理社会的因子が関与する。診断は病歴に基づく。通常,治療は薬物療法,精神療法,またはその両方,および電気痙攣療法から成る。 うつ病という用語は,しばしばいくつかの抑うつ障害群のいずれかを指して用いられる。一部はDiagnostic... さらに読む 不安症 不安症の概要 恐怖や不安は誰もが日常的に経験するものである。恐怖とは,直ちに認識可能な外部からの脅威(例,侵入者,凍結した路面でスピンする車)に対する情動的,身体的,および行動的な反応である。不安とは,神経過敏や心配事による苦痛で不快な感情状態であり,その原因はあまり明確ではない。脅威が生じる厳密な時期と不安との間に強い結びつきはなく,不安は脅威の前に... さらに読む )の併存が疑われる場合は,正式な精神医学的評価を考慮すべきである。付随する精神障害が管理されなければ,疼痛緩和や機能改善が達成される可能性は低い。

治療

  • しばしば集学的治療(例,鎮痛薬,理学療法,心理学的治療)

慢性疼痛の特異的な原因を治療すべきである。急性疼痛には常に早期の積極的治療が望ましく,それにより感作とリモデリングを制限または予防して,慢性疼痛への進行を阻止できる可能性がある。

薬剤または理学療法が利用できる。精神療法と行動療法は通常役立つ。著明な機能障害がみられる患者や主治医が妥当な管理を試みても反応が得られない患者の多くには,ペインクリニックでの集学的アプローチが有益である。

多くの患者は自宅で疼痛治療を受けることを希望し,それは医療施設でより先進的な疼痛治療を受けられる場合でも同様である。また,施設における特定の診療習慣によって疼痛のコントロールが損なわれる場合もあり,例えば,施設側が面会時間,テレビやラジオの使用(気晴らしに有用である),加温パッドの使用(熱傷の恐れがあるため)を制限する場合などが,これに該当する。

薬剤

鎮痛薬としては以下のものがある:

慢性疼痛には多くの場合,作用機序の異なる複数の薬剤(合理的な多重投薬:polypharmacy)が必要になる。神経障害性疼痛には鎮痛補助薬が最も頻用される。

オピオイド鎮痛薬は,がんやその他の終末期疾患による慢性疼痛の管理に有用である。オピオイドは,ときにこのような患者に対して十分に使用されておらず,結果として患者に不必要な疼痛と苦痛を与える事態となっている。

過小治療の理由としては以下のものが挙げられる:

  • 有効用量が過小に推定される

  • 有害作用のリスクが過大に推定される

一般に,がん性疼痛やその他の終末期疾患の治療ではオピオイドの使用を控えるべきではなく,そのようなケースでは,有害作用は予防または管理可能であり,嗜癖の懸念は比較的少ない。

がんやその他の終末期疾患によらない慢性疼痛には,一般にオピオイド療法より非薬物療法およびオピオイド以外の薬物療法が望ましい。CDCが慢性疼痛に対するオピオイドの処方に関するガイドラインを公開している。しかしながら,長期間持続して患者の機能を障害している中等度から重度の疼痛には,オピオイドによるベネフィットがリスクを超えると予想される場合,通常は補助療法としてオピオイドを考慮してもよい。考慮すべき因子として以下のものがある:

  • 従来からの治療法はどのようなものか

  • 他の治療法は妥当か

  • オピオイドによる有害作用について,その患者に特別なリスクはあるか

  • その患者に誤用,転用,または乱用(異常服薬行動)のリスクはあるか

慢性疼痛にオピオイドを処方する場合は,数段階の手順を踏む必要がある:

  • 誤用に関する教育およびカウンセリングを行う:そこでは,オピオイドをアルコールまたは抗不安薬と併用したときのリスク,用量を自己調節することのリスク,ならびに薬剤を安全な場所に保管することの必要性について言及すべきである。使用しなかった薬剤の正しい廃棄方法も指導すべきであり,オピオイドを他者に譲渡してはならないことと,鎮静を経験した場合は医師に連絡することを説明するべきである。

  • 誤用,転用,および乱用のリスクについて患者を評価する:危険因子としては,過去または現在のアルコールまたは薬物乱用,アルコールまたは薬物乱用の家族歴,過去または現在の主要な精神障害などがある。各州のPrescription Drug Monitoring Program(PDMP)の情報を活用して,患者の規制薬物の使用歴を確認すべきである。現在の推奨では,オピオイドの初回処方時および補充時に,または少なくとも3カ月毎にPDMPによるスクリーニングを行うべきとされている。危険因子が存在しても,必ずしもオピオイド使用の禁忌とはならない。ただし,危険因子がある場合は,疼痛管理の専門医に患者を紹介するか,誤用,転用,乱用を防止するための特別な予防措置を講じるべきであり,具体的な対策としては,少量のみの処方(補充のための頻繁な受診が必要となる),患者が紛失したと主張する処方分は補充しない,患者が薬剤を服用しており転用していないことを確認するための尿検体による薬物スクリーニング(オピオイドの初回処方の前とその後定期的に[例,年1回以上]行う)などがある。

  • ブプレノルフィンまたはメサドンは,これらの薬剤の特異な性質とリスクについて訓練を受けた医師のみが処方する。

  • 過量投与のリスクがある患者にオピオイド治療が必要な場合は,ナロキソンの処方を考慮する:医師は過量投与および呼吸抑制のリスクを患者および家族に説明すべきである。過量投与の危険因子としては,併存症,使用を避けられない併用薬(例,ベンゾジアゼピン系薬剤),過量投与または物質使用障害の既往,高用量のオピオイド使用(経口モルヒネ換算[OMME]で50mg以上)などがある。

  • 可能であればインフォームド・コンセントを取得して,治療の目標,期待,およびリスクや,オピオイド以外による治療選択肢の可能性を明確にする。

  • 疼痛緩和の程度,機能改善,および有害作用の再評価を定期的に行って,誤用,転用,または乱用を示唆する徴候がないか注意する:例えば,オピオイド使用開始から4週間以内,増量したとき,および少なくとも3カ月毎に患者の再評価を行う。

  • オピオイドの用量が50mg OME/日を超える場合は,ベネフィットとリスクを再評価し,可能であれば90mg OMEを超えないようにする。

かつて慢性疼痛の治療では長きにわたり,長時間作用型のオピオイドが即放性のオピオイドより好まれてきたが,長時間作用型オピオイドはより高用量で使用されることが多く,有害作用もより多い可能性がある。現在のガイドラインでは,慢性疼痛に対してオピオイドを開始する場合,医師は長時間作用型オピオイドではなく即放性のオピオイドを処方すべきであることが強調されている(1 治療に関する参考文献 慢性疼痛とは,3カ月間を超えて持続もしくは再発する,または急性組織損傷の回復後1カ月を超えて持続する,または治癒に至らない病変に随伴する疼痛である。原因としては,慢性疾患(例,がん,関節炎,糖尿病),損傷(例,椎間板ヘルニア,靱帯断裂),多くの原発性疼痛疾患(例,神経障害性疼痛,線維筋痛症,慢性頭痛)などがある。様々な薬剤と心理学的治療が用いられる。 (線維筋痛症も参照のこと。)... さらに読む )。また,長時間作用型オピオイドに移行するよりも,最小有効量を採用することが(たとえ即放性のオピオイドを使用する場合でも)望ましい(オピオイド鎮痛薬 オピオイド鎮痛薬 オピオイド鎮痛薬 およびオピオイド鎮痛薬の等鎮痛用量 オピオイド鎮痛薬の等鎮痛用量* オピオイド鎮痛薬の等鎮痛用量* の表を参照)。

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疼痛が軽減するにつれて,通常はオピオイドの使用量を減らしていくための支援が必要になる。疼痛とともに抑うつがみられる場合は,抗うつ薬を使用すべきである。

病態によっては,関節内もしくは髄腔内注射,神経ブロック,ニューロモジュレーション(脊髄刺激),または脊髄幹輸注(neuraxial infusion)が適切となる場合がある。

理学療法

理学療法 理学療法 理学療法の目的は関節および筋肉の機能(例,可動域,筋力)を向上させることであり,そのため理学療法により起立,平衡,歩行,階段昇降の能力が改善される。例えば,理学療法は通常,下肢切断患者の訓練に用いられる。一方,作業療法はセルフケア活動,および筋肉や関節の微細な協調運動(特に上肢)の回復に主眼をおいている。 (リハビリテーションの概要も参照のこと。) 可動域に制限があると,機能が損なわれ,疼痛を来たしたり,褥瘡が生じやすくなる傾向がある。... さらに読む 作業療法 作業療法 (OT) 作業療法(OT)はセルフケア活動,および筋肉や関節の微細な協調運動(特に上肢)の回復に主眼をおいている。筋力および関節可動域に焦点を当てる理学療法とは異なり,作業療法では,自立した生活を送るための基礎となる日常生活動作(ADL)に焦点を当てる。 基礎的ADL(BADL)には,食事,更衣,入浴,身繕い,トイレ,および移動(すなわち,ベッド,椅子,浴槽やシャワーなどの間を移動すること)などがある。... さらに読む は多くの患者に効果がある。Spray-and-stretch techniqueは,筋膜のトリガーポイントを緩和する可能性がある。患者によっては装具が必要になる。

脊髄刺激療法が適切となる場合もある。

心理学的治療

行動療法は,たとえ疼痛が軽減されなくとも,患者の機能を改善する可能性がある。変化を受け入れ易い部分を患者に特定させるため,毎日の活動を日記に記録させるべきである。医師は,患者が身体活動や社会への関わりを徐々に増やすように,具体的な提言を行うべきである。活動時間の単位を徐々に長くするように指示すべきであり,可能な限り,疼痛によって機能改善の努力が中断されないようにする。このような方法で活動が増加すると,しばしば疼痛の訴えが減少する。

様々な認知行動療法による疼痛コントロール(例,リラクゼーション訓練,気分転換法,催眠法,バイオフィードバック)が有用となることもある。誘導イメージ療法(落ち着きと心地よさを喚起する整然とした空想―例えば,海辺での休憩やハンモックに横たわることを想像する)で気を紛らわせるように,患者を指導してもよい。その他の認知行動療法(例,自己催眠)には,専門家による訓練が必要になる場合がある。

疼痛行動を強化する家族または周囲の行動(例,患者の健康状態を常に尋ねる,患者に雑用をさせない)は,やめさせるべきである。医師は,疼痛行動の強化を避け,不適応行動を思いとどまらせ,進歩をたたえ,機能の回復を強調しながら疼痛治療を提供していくべきである。

治療に関する参考文献

  • 1.Dowell D, Haegerich TM, Chou R: CDC guideline for prescribing opioids for chronic pain―United States, 2016.JAMA 315 (15):1624–1645, 2016.doi: 10.1001/jama.2016.1464.

要点

  • 慢性疼痛には侵害受容刺激,神経系の感作,および心理的因子が寄与している可能性がある。

  • 慢性疼痛において心理的な原因と結果を区別することは難しい場合がある。

  • たとえ心理的因子が顕著であっても,身体的な原因を検索するとともに,疼痛が患者の生活に及ぼしている影響を常に評価する。

  • コントロール不良の疼痛には,複数の方法(例,適切な理学療法,心理学的治療,行動療法,および介入的治療;薬剤)を用いて治療する。

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