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α1-アンチトリプシン欠乏症

執筆者:

Robert A. Wise

, MD, Johns Hopkins University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 11月
本ページのリソース

α1-アンチトリプシン欠乏症は,肺の主要なアンチプロテアーゼであるα1-アンチトリプシンの先天的欠乏であり,成人においてプロテアーゼを介した組織破壊および気腫の増大を招く。異常なα1-アンチトリプシンの肝臓への蓄積は,小児でも成人でも肝疾患の原因となる。血清α1-アンチトリプシン値が < 11mmol/L(< 80mg/dL)であれば,診断が確定する。治療として,禁煙,気管支拡張薬,感染症の早期治療,および選択された症例ではα1-アンチトリプシン代替療法を行う。重度の肝疾患は,移植を必要とすることもある。予後は主に肺障害の程度に関連する。

病態生理

α1-アンチトリプシンは好中球エラスターゼ阻害物質(アンチプロテアーゼ)であり,その主な機能は,プロテアーゼを介した組織破壊から肺を守ることである。α1-アンチトリプシンの大部分は肝細胞および単球により合成され,血行を介して肺内へ受動拡散する;一部は肺胞マクロファージおよび上皮細胞により二次的に産生される。タンパク質の高次構造(およびそれに由来する機能性)および循環血中のα1-アンチトリプシンの量は,両親のアレルが共優性の形式で発現することで決定される;90以上のアレルが同定されており,プロテアーゼインヒビター(PI*)の表現型を用いて表す。

肝臓

一部の変異型アレルが遺伝することにより,α1-アンチトリプシン分子の高次構造に変化が生じて,重合が起きて肝細胞内にたまるようになる。異常なα1-アンチトリプシン分子が肝臓に蓄積すると,10~20%の患者では新生児胆汁うっ滞性黄疸が引き起こされる一方,残りの患者では,その正確な防御機構は不明であるが,異常タンパク質を分解することができる可能性がある。肝臓が侵された新生児の約20%で,小児期に肝硬変が発生する。小児期に肝疾患がみられない患者の約10%に,成人期に肝硬変が発生する。肝が侵されている場合は肝癌のリスクが増大する。

肺では,α1-アンチトリプシン欠乏症により好中球エラスターゼ活性が増大し,それが組織の破壊を促進し,肺気腫を引き起こす(タバコ煙もプロテアーゼ活性を高めるため,特に喫煙者でみられる)。α1-アンチトリプシン欠乏症は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の全症例の1~2%を占める。α1-アンチトリプシン欠乏症により引き起こされる疾患で最も多いものは早期発症の肺気腫である;肺疾患の症候は,非喫煙者より喫煙者で早くみられるが,いずれの場合も25歳より前ではまれである。気管支拡張症の一部の患者は,α1-アンチトリプシン欠乏症を有する。

その他の組織

α1-アンチトリプシンの変異型が関連している可能性があるその他の障害としては,脂肪織炎(皮下組織の炎症性疾患),生命を脅かす出血(α1-アンチトリプシンを好中球エラスターゼ阻害物質から凝固因子阻害物質に変換する変異による),動脈瘤,潰瘍性大腸炎,抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性血管炎,糸球体疾患などがある。

分類

正常なPIの表現型はPI*MMである。重症のα1-アンチトリプシン欠乏症および肺気腫のある患者の95%以上は,Zアレルのホモ接合体であり(PI*ZZ),α1-アンチトリプシン値は約30~40mg/dL(5~6μmol/L)である。一般集団における有病率は,1/1500~1/5000人である。ほとんどが北欧系の白人であり,Zアレルはアジア系や黒人ではまれである。肺気腫はPI*ZZの患者でよくみられるが,PI*ZZのホモ接合体である非喫煙者の多くは肺気腫を発症せず,発症する患者では一般的にCOPDの家族歴がみられる。PI*ZZの喫煙者の期待余命はPI*ZZの非喫煙者より短く,PI*ZZの非喫煙者はPI*MMの非喫煙者および喫煙者より期待余命が短い。PI*MZのヘテロ接合体である非喫煙者では,一般集団に比べて,経時的に1秒量(FEV1:1秒間の努力呼気量)の急速な低下を経験する可能性が高い。

その他のまれな表現型としては,PI*SZや無発現のアレルを含む2つの型(PI*Z-nullおよびPI*null-null)がある(α1-アンチトリプシン欠乏症における表現型の発現の表を参照)。アレルの発現がない表現型では,α1-アンチトリプシンの血清中濃度は検出できない。まれな突然変異では,機能異常があるもののα1-アンチトリプシンの血清中濃度が正常なこともある。

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α1-アンチトリプシン欠乏症における表現型の発現

表現型

α1-アンチトリプシンの血清中濃度

肺気腫のリスク

PI*ZZ

13.6~38mg/dL(2.5~7μmol/L)

PI*MZ

92~179mg/dL(17~33μmol/L)

ごくわずかに上昇

PI*SZ

43.5~87mg/dL(8~16μmol/L)

わずかに上昇

PI*SS

81.5~179mg/dL(15~33μmol/L)

ごくわずかに上昇

PI*null-null

0

PI*Z-null

0~27mg/dL(0~5μmol/L)

PI*MM

109~261mg/dL(20~48μmol/L)

通常

症状と徴候

肝臓が侵された新生児は,生後1週間に胆汁うっ滞性黄疸および肝腫大を呈するが,黄疸は通常2~4カ月までに消失する。肝硬変が小児期または成人期に発生することもある(肝硬変および肝細胞癌の症状および徴候については,本マニュアルの別の箇所で考察されている)。肺気腫のある成人には,呼吸困難,咳嗽,喘鳴,および呼気の延長などのCOPDの症状および徴候がみられる。

肺疾患の重症度は,表現型,喫煙状況,およびその他の因子によって大きく異なる。PI*ZZの喫煙者で肺機能が良好に保持されている場合もあれば,PI*ZZの非喫煙者で重度に障害されている場合もある。一般集団における調査で同定されたPI*ZZで症状も肺疾患もない人は,喫煙の有無にかかわらず,肺疾患があるために同定されたPI*ZZの人より良好な肺機能を有する傾向がある。気流閉塞は,男性において,また喘息,繰り返す気道感染症,職業性塵埃曝露,および肺疾患の家族歴がみられる場合において,より高頻度で起こる。

脂肪織炎は,皮下軟部組織の炎症性疾患であり,硬結した,圧痛のある,変色した局面または結節が,典型的には下腹部,殿部,および大腿部に現れる。

診断

  • 血清α1-アンチトリプシン値

  • 遺伝子型

α1-アンチトリプシン欠乏症は以下の場合に疑われる:

  • 45歳以前に肺気腫を発症する喫煙者

  • 職業曝露がなく,肺気腫を発症する非喫煙者(発症年齢は問わない)

  • 胸部X線で主に下肺に肺気腫がみられる患者

  • 肺気腫または説明のつかない肝硬変の家族歴を有する患者

  • α1-アンチトリプシン欠乏症の家族歴を有する患者

  • 脂肪織炎のある患者

  • 黄疸または肝酵素上昇のある新生児

  • 説明のつかない気管支拡張症または肝疾患のある患者

放射免疫拡散法によって測定した血清α1アンチトリプシン値が < 80mg/dL(< 15μmol/L)または,ネフェロメトリーによる測定濃度が < 50mg/dL(< 9μmol/L)であれば,診断が確定される。アンチトリプシン濃度が低い患者は,遺伝子型解析により確定すべきである。

予後

集団としてみると,重症のα1-アンチトリプシン欠乏症があるものの喫煙歴がない場合,期待余命は平均的であり,中等度の肺機能障害を有するのみである。α1-アンチトリプシン欠乏症における最も一般的な死因は肺気腫であり,次に肝硬変(しばしば肝細胞癌を伴う)が続く。

治療

  • 支持療法

  • 肺疾患には,しばしばα1アンチトリプシン補充を行う

肺疾患の治療は,精製ヒトα1-アンチトリプシン(60mg/kgを45~60分かけて週1回静脈内投与,または250mg/kgを4~6時間かけて月1回投与[プール血漿から精製されたα1アンチトリプシンのみ])を用いて行い,それによりα1-アンチトリプシンの血清中濃度を,目標とする発症予防濃度である80mg/dL(正常値の35%)を上回る値に維持する。肺気腫は恒久的な構造変化をもたらすため,障害された肺構造を修復または肺機能を改善できるわけではないが,肺気腫の進行を止めるために治療が行われる。治療は高額となるため,2つの異常アレルを有する非喫煙患者において,軽度から中等度の肺機能障害があり,血清α1-アンチトリプシン濃度の低値により確定診断が得られた場合にのみ,治療を行う。治療は重症の患者,または1つもしくは両方のアレルが正常である患者には適応とならない。

禁煙,気管支拡張薬の使用,および呼吸器感染症の早期治療は,肺気腫およびα1-アンチトリプシン欠乏症のある患者では特に重要である。

障害が重症である60歳未満の患者には肺移植を考慮すべきである。α1-アンチトリプシン欠乏症の肺気腫の治療における肺容量減少手術の施行には議論がある。

遺伝子治療が研究段階にある。

肝疾患の治療は支持療法による。肝疾患は酵素の欠乏ではなく異常なプロセシングが原因であるため,酵素補充療法は有効ではない。肝不全のある患者には,肝移植が行われることもある。

脂肪織炎の治療は十分に定義されていない。コルチコステロイド,抗マラリア薬,およびテトラサイクリン系薬剤が用いられている。

要点

  • 説明のつかない肺気腫,肝疾患(特に新生児における),脂肪織炎,または気管支拡張症のある患者ではα1-アンチトリプシン欠乏症を疑う。

  • 診断には血清α1-アンチトリプシン濃度が < 80mg/dL(< 15μmol/L)であることを用い,遺伝子型解析により確定する。

  • 選択された患者(両方のアレルが異常である非喫煙者で,肺機能障害が軽度から中程度であり,血清α1-アンチトリプシン濃度が低い患者)に対し,精製ヒトα1-アンチトリプシンを用いて治療を行う。

  • 肝不全が発生すれば,肝移植を考慮する。

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