拘束型心筋症

執筆者:Tisha Suboc, MD, Rush University
レビュー/改訂 2021年 3月
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拘束型心筋症は,コンプライアンスが低下して拡張期充満に抵抗するようになった心室壁を特徴とし,片方の心室(大抵は左室)が侵される場合と両心室が侵される場合がある。症状としては,疲労や労作時呼吸困難などがある。診断は,心エコー検査および心臓カテーテル検査による。治療では満足のいく効果は得られない場合が多く,原因に向けた治療が最善である。手術がときに有用である。

心筋症は心筋の原発性疾患である(心筋症の概要も参照)。

拘束型心筋症は,最も有病率の低い病型の心筋症である。拘束型心筋症は以下のように分類される:

  • 非閉塞性(異常物質による心筋の浸潤)

  • 閉塞性(心内膜および心内膜下の線維化)

どちらも,びまん性の場合と非びまん性の場合(障害が片方の心室のみ,または片方の心室の一部を不均等に侵す場合)がある。

拘束型心筋症の病因

拘束型心筋症は常に原発性の心疾患であるとは限らない。原因は通常不明であるが,全身性または遺伝性疾患の結果として生じることがあり,これまでに同定された原因の一覧を拘束型心筋症の原因の表に示す。拘束型心筋症の原因となる疾患の一部では,他の組織も侵される(例,アミロイドーシスヘモクロマトーシス)。また心筋浸潤性疾患の一部では,他の心臓組織も侵される。まれに,アミロイドーシスによって冠動脈が侵されることがある。サルコイドーシスおよびファブリー病では,刺激伝導系組織が侵されることがある。レフレル症候群(一次的に心臓を侵す好酸球増多症候群の下位カテゴリーの1つ)は,熱帯地域でみられる病態で,好酸球増多を伴う急性動脈炎として始まった後,心内膜上,腱索上,および房室弁上の血栓形成から,さらに進行して線維化へと至る。心内膜線維弾性症(EFE)は,乳児および小児で発生する疾患であり,左室のみに影響を及ぼす。心内膜心筋線維症(EMF)は,熱帯地域でよくみられる疾患であり,左室と右室の両方に影響を及ぼす。

表&コラム

拘束型心筋症の病態生理

心内膜肥厚または心筋浸潤(ときに心筋細胞壊死,乳頭筋浸潤,代償性心筋肥大,および線維化を伴う)が片方(典型的には左室)または両方の心室に起こりうる。結果として,僧坊弁または三尖弁が機能不全を起こし,逆流を来すことがある。機能性の房室弁逆流は,心筋浸潤が原因の場合と心内膜肥厚が原因の場合がある。結節および刺激伝導系組織が侵された場合には,洞房結節と房室結節が機能不全に陥り,ときに様々な程度の洞房ブロック房室ブロックが生じる。

血行動態上の主な所見は,コンプライアンスの低下した硬い心室,拡張期充満障害,および充満圧上昇を伴う拡張機能障害であり,肺静脈性肺高血圧症につながる。浸潤や線維化が生じた心室で代償性肥大が不十分になると,収縮機能が悪化していく。壁在血栓が形成され,その結果,全身性塞栓症につながることもある。

拘束型心筋症の症状と徴候

拘束型心筋症の症状は労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,および末梢浮腫である。心室充満に対する抵抗により心拍出量が固定される結果,疲労がもたらされる。心房性および心室性不整脈ならびに房室ブロックがよくみられ,狭心症と失神はまれである。症状と徴候は収縮性心膜炎のそれと酷似する。

身体診察では,前胸部の心音減弱,低容量で速い頸動脈拍動,肺の断続性ラ音,および急峻なy谷を伴う著明な頸静脈怒張が検出される(正常な頸静脈波の図を参照)。III音および/またはIV音が聴取されることもあり,収縮性心膜炎で前胸部に聴取される心膜ノック音との鑑別が必要である。一部の症例では,心筋または心内膜の浸潤や線維化により腱索または心室の形態が変化するため,僧帽弁または三尖弁の機能性逆流の雑音が聴取される。奇脈は起こらない。

拘束型心筋症の診断

  • 心エコー検査

  • MRI

  • ときに左心および右心カテーテル検査(心筋生検を含む)

  • 臨床検査と必要に応じて他の器官系の生検

駆出率が保持された心不全の患者では,拘束型心筋症を考慮すべきであり,特に拘束型心筋症の発生につながる全身性疾患がすでに診断されている場合は,その可能性が高くなる。一方で,受診時には基礎疾患が明らかでない場合もある。

心電図,胸部X線,および心エコー検査が必要である。

心電図検査では通常,非特異的な異常がみられ,ST部およびT波の異常や,ときに低電位が認められる。異常Q波(陳旧性心筋梗塞によるものではない)がときに生じる。代償性心筋肥大による左室肥大や伝導系の異常(房室ブロックを含む)がときにみられる。

胸部X線では,心臓の大きさはしばしば正常または小さいが,アミロイドーシスまたはヘモクロマトーシスの後期には拡大しうる。

心エコー検査では,正常な左室駆出率が示される。組織ドプラ法では,しばしば左室充満圧の亢進が示唆され,ストレイン法では,駆出率正常の状態での長軸方向の収縮障害を示すことができる。他の一般的な所見としては,心房拡大や心筋肥大などがある。アミロイドーシスでは,心筋に由来する高輝度エコーの異常パターンを認めることがある。テクネチウム99mピロリン酸による心筋シンチグラフィーも,免疫グロブリン軽鎖(AL)による心アミロイドーシスとトランスサイレチン(ATTR)による心アミロイドーシスとの鑑別に有用である。強陽性はATTRアミロイドに特異的である。弱陽性はALアミロイド,最近の心筋梗塞,または有意な慢性腎臓病でみられることがある。シンチグラフィーの結果は必ずしも特異的ではないため,血清軽鎖の値および尿/血清の免疫固定法を用いてALアミロイドを除外すべきである。アミロイドの種類の同定は,治療,遺伝カウンセリング,および全般的な予後に影響する(1)。

それでも診断が疑わしい場合は,心筋浸潤(例,アミロイドまたは鉄によるもの)を伴う疾患では,MRIにより心筋の形態異常を確認することが可能である。MRIと心臓CTでは心外膜肥厚を検出することができ,その情報は,臨床的に拘束型心筋症に酷似することのある心外膜収縮の診断に役立つ可能性がある。

心臓を侵すサルコイドーシスの患者では,心臓サルコイドーシスが拘束型心筋症の他の原因と同様の臨床像を示すことがあるため,PET-CTによる心臓の評価が有用となる場合がある。

非侵襲的検査で確定診断が得られない場合は,心臓カテーテル検査と心内膜心筋生検による侵襲的な精査を考慮すべきである。拘束型心筋症患者にカテーテル検査を施行すると,心房圧の上昇が検出され,さらに心室内圧曲線で著明なy谷と拡張早期dipに続く高い拡張期plateauを認める。拡張期血圧は通常,両心室の圧が等しくなる収縮性心膜炎とは対照的に,右室よりも左室が数mmHg高くなる。生検では,心内膜の線維化および肥厚,鉄またはアミロイドによる心筋浸潤,慢性の心筋線維化のほか,ファブリー病であれば血管内皮細胞内の封入体を検出することができる。冠動脈造影は,アミロイドーシスにより心外膜冠動脈が侵されている場合を除いて,正常である。

拘束型心筋症の原因として最も頻度の高い病態を踏まえた臨床検査と他の器官系の生検(例,アミロイドーシスに対する脂肪組織の生検,ヘモクロマトーシスに対する鉄検査または肝生検)を行うべきである。

診断に関する参考文献

  1. 1.Bokhari S, Castaño A, Pozniakoff T, et al: (99m)Tc-pyrophosphate scintigraphy for differentiating light-chain cardiac amyloidosis from the transthyretin-related familial and senile cardiac amyloidoses.Circ Cardiovasc Imaging 6:195–201, 2013.

拘束型心筋症の予後

進行してから診断される場合が多いため,予後は不良である(心筋症の診断と治療の表を参照)。選択可能な治療法がない患者が大半を占めるが,対症的に支持療法を行うことが可能である。拡張型心筋症に対する標準治療(例,アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬,ジゴキシン,β遮断薬)は,拘束型心筋症の患者には耐えられない場合が多い。この病態(特にアミロイド心筋症)の患者では,自律神経機能障害や全身血圧の低下もみられることがある。刺激伝導系の疾患,心ブロック,および突然死の頻度が高い。

拘束型心筋症の治療

  • 原因の治療

  • 利尿薬を考慮

利尿薬は浮腫または肺血管うっ血を呈する患者に使用できるが,前負荷を低下させる可能性があり,コンプライアンスが低下した心室では心拍出量の維持を前負荷に頼っているため,慎重に使用する必要がある。ジゴキシンは血行動態の異常をほとんど変化させず,アミロイドーシスに起因する心筋症(ジギタリス感受性が極めて高いことが多い)では,重篤な不整脈を惹起する可能性がある。心拍数が上昇している場合,β遮断薬または心拍数低下作用を有するカルシウム拮抗薬を低用量で慎重に使用することができる。後負荷軽減薬(例,硝酸薬)は,著しい低血圧を引き起こすことがあり,通常は有用でない。

早期に診断されれば,一部の病型のアミロイドーシスヘモクロマトーシスサルコイドーシス,およびレフレル症候群には特異的治療が助けとなる。

ときに左室補助人工心臓(LVAD)および移植が推奨される(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Muchtar E, Blauwet LA, Gertz MA: Restrictive cardiomyopathy: Genetics, pathogenesis, clinical manifestations, diagnosis, and therapy.Circ Res 121:819–837, 2017.doi: 10.1161/CIRCRESAHA.117.310982

拘束型心筋症の要点

  • 拘束型心筋症では,心内膜の肥厚または心筋浸潤により心室が硬化してコンプライアンスの低下を来し,その結果として拡張機能障害がもたらされる;収縮機能は後期まで正常で維持される。

  • ときに,弁組織または刺激伝導系が侵され,弁逆流や心ブロックおよび不整脈がもたらされる。

  • 病因は通常不明であるが,一部の症例はアミロイドーシス,ヘモクロマトーシス,またはサルコイドーシスに起因する。

  • 診断は心エコー検査と原因に対する検査による。

  • 治療では,原因の対処が可能でない限り,満足のいく効果は得られない場合が多い;利尿薬は浮腫または肺血管うっ血を呈している患者に有益となりうるが,前負荷の低下を避けるため,慎重に使用する必要がある。

  • 拡張型心筋症に対する標準治療(例,ACE阻害薬,ジゴキシン,β遮断薬)は,拘束型心筋症の患者には耐えられない場合が多い。

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