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心血管系の診察

執筆者:

Michael J. Shea

, MD, Michigan Medicine at the University of Michigan

最終査読/改訂年月 2019年 6月
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心疾患が末梢および全身に及ぼす影響と心臓に影響を及ぼしうる心臓以外の疾患の所見を検出するため,全ての器官系をくまなく診察することが不可欠である。診察には以下を含める:

バイタルサイン

バイタルサインには以下が含まれる:

  • 血圧

  • 心拍数と心拍リズム

  • 呼吸数

  • 体温

血圧は両上肢で測定し,先天性心疾患や末梢血管疾患が疑われる場合には両下肢でも測定する。カフのサイズは,ゴム嚢の長さが測定肢の周囲長の80%に,ゴム嚢の幅が測定肢の周囲長の40%に相当するものが適切である。水銀柱の下降とともに音が聞こえ始めた時点が収縮期血圧を,音が聞こえなくなった時点(コロトコフ音の第5相)が拡張期血圧を示す。左右上肢間の血圧差は15mmHgまでが正常であり,これより大きい血圧差は血管の異常(例,胸部大動脈解離)または末梢血管疾患を示唆する。通常,下肢の血圧は上肢の血圧より20mmHg高い。血圧を正確に測定するため,患者は以下の通りにすべきである:

  • 床に足を付け,背中が支えられている状態で5分以上(診察台ではなく)椅子に座る

  • 腕を心臓の高さで支え,カフの位置を衣服で覆わない

  • 測定前少なくとも30分間は運動,カフェインの摂取,喫煙を控える

体温は,急性リウマチ熱 リウマチ熱 リウマチ熱は,A群レンサ球菌咽頭感染症の合併症として発生する急性の非化膿性炎症であり,関節炎,心炎,皮下結節,輪状紅斑,舞踏運動などを引き起こす。診断は,病歴,診察,および臨床検査から得た情報に対する,改変Jones診断基準の適用に基づく。治療には,アスピリンまたはその他のNSAIDの投与,重症心炎発生時のコルチコステロイド投与,残存するレンサ球菌の根絶と再感染防止のための抗菌薬投与が含まれる。... さらに読む リウマチ熱 や心臓感染症(例,心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 感染性心内膜炎 )で上昇することがある。心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む 急性心筋梗塞 後には,微熱が非常に多くみられる。発熱が72時間以上持続する場合に限り,他の原因を検索する。

足関節上腕血圧比(ABI)

足関節上腕血圧比(ABI)とは,上腕で測定した収縮期血圧に対する足関節で測定した収縮期血圧の比である。患者を仰臥位にした状態で,足首の血圧を足背動脈および後脛骨動脈の両方で測定し,腕の血圧を両腕の上腕動脈で測定する。各下肢につき,足背動脈圧または後脛骨動脈圧のうち高い方を左右の上腕動脈収縮期圧のうち高い方で割ることによってABIを計算する。正常であれば1より大きくなる。足部での脈拍の触知が困難な場合は,ドプラ超音波検査用のプローブを用いて足関節血圧を測定することができる。

足関節上腕血圧比の低値(0.90以下)は末梢動脈疾患 末梢動脈疾患 末梢動脈疾患(PAD)とは,虚血を引き起こす四肢(ほぼ常に下肢)の動脈硬化症である。軽度のPADは無症状のこともあれば,間欠性跛行を引き起こすこともあり,重度のPADは安静時痛とそれに随伴する皮膚萎縮,脱毛,チアノーゼ,虚血性潰瘍,壊疽を引き起こすことがある。診断は病歴聴取,身体診察,および足関節上腕血圧比の測定による。軽度のPADに対する治療法としては,危険因子の是正,運動,抗血小板薬,症状に応じたシロスタゾールや,ときにペントキシフ... さらに読む 末梢動脈疾患 を示唆し,軽度(0.71~0.90),中等度(0.41~0.70),重度(0.40以下)に分類できる。ABIが高ければ(> 1.30),下肢血管の圧縮力低下(noncompressible leg vessel)を示す可能性があり,これは糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病(DM)はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリンお... さらに読む 末期腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 メンケベルグ型動脈硬化症 メンケベルグ型動脈硬化症 非アテローム性動脈硬化症(nonatheromatous arteriosclerosis)は,大動脈およびその主要分枝に加齢に伴い線維化が生じるものである。 (アテローム性動脈硬化も参照のこと。) 動脈硬化症(arteriosclerosis)とは,動脈壁の肥厚および弾性喪失を引き起こす複数の疾患の総称である。 そのうち最も頻度の高い形態であるアテローム性動脈硬化(atherosclerosis)は,冠動脈疾患や脳血管疾患を引き起こす... さらに読む メンケベルグ型動脈硬化症 など,血管の石灰化を伴う病態でみられる。高いABIは,血管のさらなる検査(足趾上腕血圧比またはduplex法による動脈の超音波検査)が必要であることを示唆する可能性がある。

体位変換に伴う変化

血圧および心拍数は仰臥位,座位,および立位で測定するが,体位を変えるごとに1分間の間隔を設ける必要がある。血圧の差が10mmHg以下かつ心拍数の変化が20拍/分以下は正常である;高齢者では血管弾性の低下により,血圧の差がやや大きくなる傾向がある。

奇脈

正常な状態での吸気時には,収縮期動脈圧が最大で10mmHg低下し,これを代償するべく脈拍数が増加する。吸気時の収縮期血圧の低下幅がこの正常な反応より大きくなるか,あるいは脈が弱まる場合,奇脈とみなされる。奇脈は次の病態でみられる:

吸気時に血圧が低下する機序は,胸腔内の陰圧により静脈還流量,ひいては右室充満量が増加し,その結果,心室中隔が左室流出路側にわずかに膨らむため,心拍出量が減少して血圧が低下するというものである。この機序(および収縮期血圧の低下)は,胸腔内の陰圧を高める疾患(例,喘息),右室充満を制限する疾患(例,心タンポナーデ,心筋症),右室流出を制限する疾患(例,肺塞栓症)において増強される。

奇脈は,血圧計のカフを,収縮期血圧をわずかに上回るまで膨らませた後,非常にゆっくりと(例,1心拍当たり2mmHg以下)空気を抜いていくことによって測定できる。コロトコフ音が聞こえ始めた時点(最初は呼気時のみ)とコロトコフ音が継続的に聴取される時点で血圧を記録する。それらの血圧値の差が奇脈の「量」である。

脈拍

末梢脈拍

上肢および下肢の主な末梢動脈の拍動を触診して,その対称性と量(強度)について評価する。動脈壁の弾性にも注目する。脈拍の消失は,動脈疾患(例,動脈硬化 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む アテローム性動脈硬化 )または全身性の塞栓症を示唆している可能性がある。しかしながら,末梢動脈の拍動は肥満または筋肉質の患者では触知困難となりやすい。動脈血の流出が急速になる疾患(例,動静脈吻合,大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症(AR)は,大動脈弁の閉鎖不全により,拡張期に大動脈から左室に向かって逆流が生じる病態である。原因としては,弁変性および大動脈基部拡張(二尖弁の合併を含む),リウマチ熱,心内膜炎,粘液腫様変性,大動脈基部解離,結合組織疾患(例,マルファン症候群),リウマチ性疾患などがある。症状としては,労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,動悸,胸痛などがある。徴候としては,脈圧増大や拡張早期雑音などがある。診断は身体診察および心... さらに読む 大動脈弁逆流症 )では,脈が急峻に立ち上がり,次いで虚脱する。脈拍は甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 (甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる(様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む 甲状腺機能亢進症 や代謝亢進状態では速く強くなり(反跳脈),甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの欠乏である。診断は典型的な顔貌,嗄声および言語緩徐,乾燥皮膚などの臨床的特徴,ならびに甲状腺ホルモン低値による。原因の治療およびサイロキシン投与などにより管理を行う。 (甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能低下症は年齢を問わず生じるが,特に高齢者でよくみられ,その場合症状が軽微で認識しにくい可能性がある。甲状腺機能低下症は以下に分類される:... さらに読む 甲状腺機能低下症 では遅く鈍くなる。脈拍に左右差がある場合には,末梢血管の聴診で狭窄による血管雑音が聴取されることがある。

頸動脈拍動

両側の頸動脈拍動を視診,触診,聴診することにより,特定の疾患を示唆する所見が得られることがある(頸動脈拍動と関連疾患 頸動脈拍動と関連疾患 心疾患が末梢および全身に及ぼす影響と心臓に影響を及ぼしうる心臓以外の疾患の所見を検出するため,全ての器官系をくまなく診察することが不可欠である。診察には以下を含める: バイタルサインの測定 脈拍の触診および聴診 静脈の視診 胸部の視診および触診 さらに読む 頸動脈拍動と関連疾患 の表を参照)。加齢と動脈硬化により血管は硬化していくが,それに伴い特徴的所見が認められなくなる傾向がある。非常に年少の小児では,たとえ高度の大動脈弁狭窄がある場合でさえ,頸動脈拍動は正常となることがある。

頸動脈の聴診では,2種類の雑音(bruitとmurmur)を区別することが可能である。murmurは心臓または大血管で発生したもので,通常は上前胸部でより大きく聴取され,頸部に向かうほど減弱していく。bruitはより高調な雑音で,動脈上でのみ聴取され,より浅い位置に感じられる。動脈雑音(bruit)は静脈コマ音(hum)と区別する必要がある。動脈雑音とは異なり,静脈コマ音は通常は連続性で,座位または立位で最もよく聴取でき,同側の内頸静脈を圧迫することで消失する。

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静脈

末梢静脈

末梢静脈を視診して,静脈瘤,動静脈奇形(AVM),動静脈シャント,血栓性静脈炎による炎症や圧痛がないか確認する。動静脈奇形またはシャントがあると,連続性の雑音が(聴診で)聴取され,振戦が触知される(収縮期と拡張期を通じて静脈の血管抵抗が動脈のそれより低いため)。

頸静脈

頸静脈を診察して,静脈波の高さと波形を推測する。頸静脈波の高さは右房圧と比例し,波形は心周期のイベントを反映するが,どちらも内頸静脈で最も良好に観察できる。

頸静脈は通常,仰臥位から上体を45°起こした状態で観察する。頸静脈の拍動部位の上端は,正常時には鎖骨直上の位置にある(正常上限:鉛直面上では胸骨切痕の4cm上方)。頸静脈の怒張は心不全 心不全(HF) 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全(HF) 容量負荷 体液量過剰 体液量の過剰は通常,細胞外液の増加を指す。細胞外液の増加は,典型的には,心不全,腎不全,ネフローゼ症候群,肝硬変でみられる。腎臓でのナトリウム保持は,体内総ナトリウム量の増加につながる。この増加により,様々な程度の体液量過剰が生じる。体液量過剰の患者では(体内総ナトリウム量が増加しているにもかかわらず),血清中ナトリウム濃度は高値,低値,または正常範囲内になる。治療では,利尿薬により過剰な水分を排泄するか,または透析や穿刺などの機械的方... さらに読む 心タンポナーデ 心タンポナーデ 心タンポナーデは,心室充満を障害するほどの量および圧力の,心嚢における血液の貯留である。一般的には,低血圧,心音減弱,および頸静脈怒張がみられる。診断は臨床的に行い,しばしばベッドサイドの心エコー検査による。治療は,速やかな心嚢穿刺または心膜切開である。 (胸部外傷の概要も参照のこと。) 心嚢内の液体が心室充満を障害する可能性があり,心拍出量が減少して,ときにショックを起こし死に至る。液体が緩徐に貯留する場合(例,慢性炎症による場合),... さらに読む 収縮性心膜炎 心膜炎 心膜炎とは心膜の炎症であり,しばしば心嚢液貯留を伴う。心膜炎は,多くの疾患(例,感染症,心筋梗塞,外傷,腫瘍,代謝性疾患)によって引き起こされるが,特発性のことも多い。症状としては胸痛や胸部圧迫感などがあり,しばしば深呼吸により悪化する。心タンポナーデまたは収縮性心膜炎が発生した場合には,心拍出量が大きく低下することがある。診断は症状,心膜摩擦音,心電図変化,およびX線または心エコー検査での心嚢液貯留の所見に基づく。原因の特定には,さら... さらに読む 心膜炎 三尖弁狭窄 三尖弁狭窄症 三尖弁狭窄症(TS)は,三尖弁口が狭小化することによって,右房から右室への血流が妨げられる病態である。原因はほぼ全例でリウマチ熱である。症状としては,頸部のはためくような不快感,疲労,皮膚冷感,右上腹部不快感などがある。頸静脈拍動が著明となり,前収縮期雑音がしばしば第4肋間胸骨左縁で聴取され,吸気時に増強する。診断は心エコー検査による。TSは通常は良性であり,特異的な治療を必要としないが,症状のある患者では手術が有益となることがある。... さらに読む ,上大静脈閉塞,右室のコンプライアンス低下があるときにみられる。これらの状態が重度の場合には,頸静脈の拍動部位が下顎レベルに及ぶことがあり,その上端は起座位または立位でしか認められなくなる。循環血液量減少 体液量減少 体液量の減少(または細胞外液の減少)は,体内総ナトリウムの喪失の結果として生じる。原因には,嘔吐,大量発汗,下痢,熱傷,利尿薬の使用,腎不全がある。臨床的特徴は皮膚ツルゴールの低下,粘膜の乾燥,頻脈,起立性低血圧である。診断は臨床的に行う。治療はナトリウムおよび水分の投与である。 (水とナトリウムの平衡および体液量異常の概要も参照のこと。) 水は受動浸透(passive osmosis)によって体内の形質膜を通過するため,主要な細胞外陽... さらに読む 状態では,頸静脈の拍動部位は低くなる。

正常では,腹部を手で強く圧迫することにより頸静脈の拍動部位が短時間のうちに上昇するが(肝頸静脈逆流または腹部頸静脈逆流),腹部の圧迫を維持しても数秒(最長で呼吸3回または15秒)で元に戻る(Frank-Starling機序により,コンプライアンスの高い右室が一回拍出量を増大させるため)。しかしながら,右室の拡張とコンプライアンス低下を引き起こす疾患や,三尖弁狭窄または右房腫瘍により右室充満が障害された状態では,腹部への圧迫が持続されている間,頸静脈の拍動部位が高い位置(> 3cm)にとどまる。

正常な状態の吸気時には,胸腔内圧が低下することで末梢静脈の血液が大静脈に引き寄せられるため,頸静脈の拍動部位はわずかに下降する。吸気時の頸静脈怒張(クスマウル徴候)は,典型的には慢性収縮性心膜炎,右室梗塞,および慢性閉塞性肺疾患(COPD)でみられ,心不全および三尖弁狭窄症でも通常みられる。

正常な頸静脈波

a波は右房の収縮(収縮期)により発生し,その後には,心房の弛緩によって引き起こされたx谷が続く。c波はx谷を中断する波で,頸動脈の拍動の伝達と閉鎖時の三尖弁の右房内への隆起によって生じるが,臨床的に識別できることはめったにない。v波は,心室収縮期(三尖弁は閉鎖している)の右房充満によって生じる。y谷は,心房収縮前の心室拡張期に右室の急速な充満によって生じる。

正常な頸静脈波

a波は肺高血圧症および三尖弁狭窄症で増高する。巨大なa波(キャノン波)は,房室解離で三尖弁が閉鎖している間に心房が収縮するときに認められる。a波は心房細動では消失し,右室コンプライアンスが低下する状態(例,肺高血圧症または肺動脈弁狭窄症)では強くなる。v波は三尖弁逆流症で非常に著明となる。心タンポナーデではx谷が急峻となる。右室コンプライアンスが低下した状態では,y谷が極めて急峻となるが,これは,上昇した頸静脈拍動部位の血液が三尖弁開放時に急激に右室内に流入するが,硬直した右室壁(拘束型心筋症の場合)または心膜(収縮性心膜炎の場合)により,その血流が突然阻止されるためである。

胸部の視診および触診

視診では胸部の輪郭と視認可能な心拍動を観察する。前胸部を触診して,拍動を探し(心尖拍動ひいては心臓の位置を同定する),振戦がないか確認する。

視診

胸郭の変形はいくつかの疾患に伴い発生することがある。

楯状胸や鳩胸(胸骨が鳥のように突出)には,マルファン症候群 マルファン症候群 マルファン症候群は結合組織の異常から成り,結果として眼,骨格,および心血管系の異常を来す(例,大動脈解離につながる上行大動脈の拡張)。診断は臨床的に行う。治療には,上行大動脈の拡張を遅らせるための予防的β遮断薬投与,および予防的大動脈手術などがある。 マルファン症候群の遺伝形式は常染色体優性である。基礎的な分子生物学的異常は,ミクロフィブリルの主要成分であり細胞の細胞外基質への固定を助ける糖タンパク質フィブリリン-1(FBN1)をコード... さらに読む マルファン症候群 (大動脈基部または僧帽弁の疾患を合併することがある)またはヌーナン症候群(肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症(PS)は,肺動脈流出路が狭小化することによって,収縮期の右室から肺動脈への血流が妨げられる病態である。ほとんどの症例が先天性であり,多くは成人期まで無症状である。徴候としては漸増漸減性の駆出性雑音などがある。診断は心エコー検査による。症状がみられる患者と圧較差が大きい患者には,バルーン弁形成術が必要である。 (心臓弁膜症の概要も参照のこと。) 肺動脈弁狭窄症は先天性のことが最も多く,大半は小児に発生し,狭窄は弁に生じる場... さらに読む 心房中隔欠損症 心房中隔欠損症(ASD) 心房中隔欠損症(ASD)は,心房中隔が開口している状態であり,左右短絡と右房および右室の容量負荷を引き起こす。小児期に症状が出現することはまれであるが,20歳以降に生じる長期合併症として,肺高血圧,心不全,心房性不整脈などがある。成人期とまれに青年期には,運動耐容能低下,呼吸困難,疲労,心房性不整脈などを呈することがある。II音の大幅な固定性分裂を伴って,胸骨左縁上部で弱い収縮中期雑音がよく聴取される。診断は心エコー検査による。治療法は... さらに読む ,または肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心エコー検査または心臓MRIによる。治療は,β遮断薬,ベラパミル,ジソピラミドのほか,ときに流出路閉塞... さらに読む 肥大型心筋症 を合併することがある)が関連している可能性がある。まれに,上胸部に限局した膨隆から梅毒性大動脈瘤 大動脈瘤の概要 動脈瘤とは,動脈壁の脆弱化により動脈が異常に拡張した状態である。一般的な原因としては,高血圧,動脈硬化,感染,外傷,遺伝性または後天性の結合組織疾患(例,マルファン症候群,エーラス-ダンロス症候群)などがある。動脈瘤は通常無症状であるが,疼痛を引き起こしたり,虚血,血栓塞栓症,自然解離,破裂を来して致死的となることもある。診断は画像検査(... さらに読む 大動脈瘤の概要 が示唆されることがある。

胸郭の前後径が短く,胸椎が異常に直線化する漏斗胸(胸骨の陥没)には,先天性心疾患を合併する遺伝性疾患(例,ターナー症候群 ターナー症候群 ターナー症候群の女児は,2つのX染色体のうち1つが部分的または完全に欠失した状態で出生する。診断は臨床所見に基づき,核型分析で確定する。治療法は臨床像に応じて異なり,心奇形に対して手術を行うこともあれば,しばしば低身長に対する成長ホルモン療法と思春期発来異常に対するエストロゲン補充を行うこともある。 (染色体異常症の概要および性染色体異常の概要も参照のこと。) ターナー症候群は世界中で出生女児の約1/2500に発生する。しかしながら,4... さらに読む ターナー症候群 ヌーナン症候群 男性性腺機能低下症は,テストステロン,精子,またはその両方の産生の減少,またはまれにテストステロンに対する反応の低下であり,結果として思春期遅発,生殖不全またはその両方が生じる。診断は,テストステロン,黄体形成ホルモン,卵胞刺激ホルモンの血清中濃度の測定およびヒト絨毛性ゴナドトロピンまたはゴナドトロピン放出ホルモンによる刺激試験により行われる。治療は原因に応じて異なる。 (成人における男性性腺機能低下症も参照のこと。)... さらに読む )やときにマルファン症候群が関連していることがある。

触診

患者を約30~45度の角度で寝かせた状態で,患者の右側に立ち前胸部を全体的に触診する。

健常者の心尖拍動は,第4肋間と第5肋間の間,鎖骨中線のすぐ内側の直径2~3cm未満の領域で触知できるはずである。

前胸部中央の隆起は胸骨下および前胸壁胸骨左縁の挙上感として触知され,重度の右室肥大を示唆する。重度の右室肥大を引き起こす先天性疾患の患者では,前胸部が非対称に胸骨左方に膨隆しているのがときに視認できる。

心尖部の持続的な突出(右室肥大の前胸部隆起はあまり限局性でなく,ややびまん性であるため,容易に鑑別できる)は,左室肥大を示唆する。

壁運動障害を伴う心室瘤の患者では,ときに前胸部に限局性の異常な収縮期拍動が触知される。重度の僧帽弁逆流症患者では,びまん性の異常な収縮期拍動により前胸部が挙上する。これは,左房が拡大することで,心臓が前方に偏位するためである。左室が拡大および肥大している場合(例,僧帽弁逆流 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(MR)は,僧帽弁の閉鎖不全により,心室収縮期に左室から左房に向かって逆流が生じる病態である。MRは一次性(一般的な原因は僧帽弁逸脱およびリウマチ熱)または左室拡大もしくは心筋梗塞による二次性の可能性がある。合併症としては進行性心不全,不整脈,心内膜炎がある。症状と徴候には動悸,呼吸困難,全収縮期の心尖部雑音がある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は左室機能およびMRの病因,重症度,期間によって異なる。軽度で症状... さらに読む ),外側下方に偏位したびまん性の心尖拍動が認められる。

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第2肋間胸骨左縁の鋭い拍動は,肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつ... さらに読む で増強された肺動脈弁閉鎖により生じることがある。収縮早期に心尖部で生じる同様の拍動は,狭窄した僧帽弁 僧帽弁狭窄症 僧帽弁狭窄症(MS)は,僧帽弁口が狭小化することによって,左房から左室への血流が妨げられる病態である。原因は(ほぼ)常にリウマチ熱である。一般的な合併症は,肺高血圧症,心房細動,および血栓塞栓症である。症状は心不全と同じであり,徴候としては開放音や拡張期雑音などがある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は良好である。内科的治療としては,利尿薬,β遮断薬,心拍数低下作用のあるカルシウム拮抗薬,抗凝固薬などがある。より重症例に効果... さらに読む の閉鎖を反映していることがあり,ときに狭窄した弁の開放を拡張期開始時に触知できる。これらの所見は,聴診におけるI音の亢進と僧帽弁狭窄の開放音と一致する。

肺の診察

心不全 心不全(HF) 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全(HF) などの心疾患で生じる胸水 胸水 胸水は胸膜腔(pleural space)内における体液の貯留である。胸水には複数の原因があり,通常,漏出液または滲出液に分類される。検出は身体診察および胸部X線による;原因を同定するために胸腔穿刺および胸水分析がしばしば必要とされる。無症状の漏出液は治療の必要はない。症状のある漏出液およびほぼ全ての滲出液には,胸腔穿刺,胸腔ドレナージ,胸膜切除術,またはこれらの組合せが必要となる。... さらに読む 胸水 肺水腫 肺水腫 肺水腫は,肺静脈性肺高血圧と肺胞内の液貯留(alveolar flooding)を伴った重度の急性左室不全である。所見は,重度の呼吸困難,発汗,喘鳴,ときに泡沫状の血痰である。診断は臨床的に行われ,胸部X線による。治療には酸素,硝酸薬静注,利尿薬のほか,ときにモルヒネを使用するとともに,駆出率が低下した心不全患者には,短期間の陽性変力薬の静注と補助換気(気管挿管と機械的人工換気または二相性陽圧換気)を行う。... さらに読む の徴候について肺を診察する。肺の診察 身体診察 肺の症状を呈する患者の評価では,病歴,身体診察,および,ほとんどの症例において胸部X線が重要な判断材料となる。これらを行うことにより,肺機能検査および動脈血ガス(ABG)分析,コンピュータ断層撮影(CT)をはじめとする胸部の画像検査,ならびに気管支鏡検査など,さらなる検査の必要性が確定する。... さらに読む 身体診察 には,打診,触診,聴診が含まれる。

打診は,身体診察において胸水の有無および程度を調べる上で最も重要な手技である。打診での濁音界は,その下に液体または(より頻度は低くなるが)硬化があることを意味する。

触診所見としては触覚振盪音(患者が話しているときに胸壁で触知される振動)などがある;振盪音は胸水や気胸があると減弱し,肺の硬化(例,大葉性肺炎)があると増強する。

呼吸音の特徴と音量の確認は,心疾患を肺疾患と鑑別するのに有用である。副雑音とは,断続性ラ音,類鼾音,笛音,吸気性喘鳴などの異常音である。断続性ラ音(crackleー以前はraleと呼ばれていた)と笛音は,心不全においても心疾患以外でも生じる肺の異常音である。

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腹部および四肢の診察

腹部および四肢を診察して,心不全や心臓以外の疾患(例,腎疾患,肝疾患,リンパ系疾患)で発生する体液過剰の徴候がないか確認する。

腹部

四肢

四肢(主に下肢)においては,体液過剰は浮腫 浮腫 浮腫とは,間質液の増加により軟部組織の腫脹が生じた状態である。液体の主成分は水であるが,感染やリンパ管閉塞がある場合には,タンパク質および細胞を多く含む液体が蓄積する可能性がある。 浮腫は全身性の場合と局所性の場合(例,四肢のいずれかまたはその一部に限局する)がある。ときに浮腫は突然発症し,患者は四肢が極めて突然に腫れたと訴える。一方,浮腫は潜行性に発生することの方が多く,体重増加,朝の起床時に眼が腫れる,夜になると靴がきつくなるなどの... さらに読む 浮腫 として現れるが,これは間質液の増加に起因した軟部組織の腫脹である。浮腫は視診時から視認できる場合もあるが,重度の肥満または筋肉質の患者では軽度の浮腫は視認困難となりやすい。そのため,四肢を触診して,圧痕(指で押すと間質液が移動することで視認および触知可能な陥凹が生じる)の有無とその程度を確認する。浮腫の領域を診察して,その程度,対称性(すなわち,左右での比較),熱感,紅斑,圧痛について確認する。顕著な体液過剰がある場合には,仙骨部,性器,またはその両方で浮腫を認めることもある。

圧痛,紅斑,またはその両方が(特に片側性に)みられる場合は,原因として炎症が示唆される(例,蜂窩織炎,血栓性静脈炎)。非圧痕性浮腫は,体液過剰よりリンパ管または血管閉塞を示唆する。

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