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感染性心内膜炎

執筆者:

Guy P. Armstrong

, MD, Waitemata District Health Board and Waitemata Cardiology, Auckland

レビュー/改訂 2020年 12月
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感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療は長期の抗菌薬療法と,ときに手術である。

心内膜炎という用語は通常,心内膜の感染症(すなわち,感染性心内膜炎)を指して用いられる。しかしながら,この用語には 非感染性心内膜炎 非感染性心内膜炎 非感染性心内膜炎とは,外傷,循環血液中の免疫複合体,血管炎,または凝固亢進状態に対する反応として,心臓弁とそれに隣接する心内膜に無菌の血小板およびフィブリン血栓が形成される病態を指す。症状は全身性の動脈塞栓症と同じである。診断は心エコー所見と血液培養陰性による。治療は抗凝固薬による。... さらに読む も含まれ,この病態では,心臓弁とそれに隣接する心内膜に無菌の血小板およびフィブリン血栓が形成される。非感染性心内膜炎は,ときに感染性心内膜炎の発生につながる。どちらの場合も塞栓症や心機能低下を来す可能性がある。

感染性心内膜炎の診断は通常,単一の決定的な検査結果ではなく,一連の臨床所見に基づいて下される。

感染性心内膜炎はあらゆる年齢で起こりうる。男性の方が女性の約2倍多く発症する。静注薬物乱用者,易感染性患者,および人工心臓弁やその他の心臓内デバイスを使用している患者は最もリスクが高い。

感染性心内膜炎および非感染性心内膜炎の概要
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感染性心内膜炎の病因

正常な心臓は感染に対して比較的高い抵抗力を有する。細菌や真菌は心内膜表面に容易に付着できず,また,絶えず続く血流が微生物の心内膜組織への定着を阻止する上で役立っている。このため,心内膜炎の発生には典型的に次の2つの因子が必要になる:

  • 素因となる心内膜の異常

  • 血流中への微生物の存在(菌血症)

まれに,重度の菌血症や特に病原性の高い微生物により,正常弁に心内膜炎が生じることもある。

心内膜側の因子

心内膜炎は通常,心臓弁に生じる。主な素因は, 先天性心疾患 心血管系の先天異常の概要 先天性心疾患は,最も頻度の高い先天奇形であり,出生児の1%近くに発生する( 1)。先天異常のうち,先天性心疾患は乳児期死亡の主要な原因である。 乳児期に診断される最も頻度の高い先天性心疾患は,筋性部および膜性部 心室中隔欠損症であり,それに二次孔型 心房中隔欠損症が続き,これらを合わせた有病率は出生10... さらに読む 心血管系の先天異常の概要 リウマチ性弁膜症 リウマチ熱 リウマチ熱は,A群レンサ球菌咽頭感染症の合併症として発生する急性の非化膿性炎症であり,関節炎,心炎,皮下結節,輪状紅斑,舞踏運動などを引き起こす。診断は,病歴,診察,および臨床検査から得た情報に対する,改変Jones診断基準の適用に基づく。治療には,アスピリンまたはその他の非ステロイド系抗炎症薬の投与,重症心炎発生時のコルチコステロイド投... さらに読む リウマチ熱 ,大動脈二尖弁,大動脈弁石灰化, 僧帽弁逸脱 僧帽弁逸脱症(MVP) 僧帽弁逸脱症(MVP)は,僧帽弁尖が収縮期に左房側へ落ち込むようになる状態である。最も一般的な原因は特発性の粘液腫様変性である。MVPは通常良性であるが,合併症として僧帽弁逆流症,心内膜炎,腱索断裂などがある。通常,MVPは有意な逆流がみられない場合は無症候性であるが,一部の患者では胸痛,呼吸困難,めまい,動悸の発生が報告されている。徴候... さらに読む 僧帽弁逸脱症(MVP) 肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心... さらに読む 肥大型心筋症 ,および心内膜炎の既往である。人工弁およびその他の心臓内デバイスは特にリスクが高い。ときに,壁在血栓, 心室中隔欠損 心室中隔欠損症(VSD) 心室中隔欠損症(VSD)は,心室中隔が開口している状態であり,両心室間の短絡を引き起こす。欠損孔が大きい場合,有意な左右短絡の発生につながり,乳児期に哺乳時の呼吸困難および発育不良を来す。胸骨左縁下部で粗大な全収縮期雑音が聴取されることが多い。繰り返す呼吸器感染症や心不全を来すことがある。診断は心エコー検査による。欠損孔は乳児期に自然閉鎖... さらに読む 心室中隔欠損症(VSD) ,または 動脈管開存 動脈管開存症(PDA) 動脈管開存症(PDA)とは,大動脈と肺動脈をつなぐ胎児期の交通路(動脈管)が出生後も開存している状態である。心臓に他の構造的異常がなく,肺血管抵抗の上昇もない場合,PDAにおける短絡は左右方向(大動脈から肺動脈)となる。症状としては,発育不良,哺乳不良,頻拍,頻呼吸などがある。胸骨左縁上部の連続性雑音と反跳脈がよく聴取される。診断は心エコ... さらに読む 動脈管開存症(PDA) がある部位に感染が生じることもある。通常,実際に感染巣となるのは,損傷した内皮細胞が組織因子を放出する際に形成されるフィブリンと血小板から成る無菌の疣贅である。

感染性心内膜炎の大半は左心系(例,僧帽弁または大動脈弁)に生じる。右心系(三尖弁または肺動脈弁)での発生は全症例の約10~20%である。静注薬物乱用者では,右心系心内膜炎の発生率が非常に高い(約30~70%)。

微生物

心内膜に感染する微生物は,遠隔の感染部位(例,皮膚膿瘍,炎症または感染を起こした歯肉,尿路感染症)に由来する場合もあるが,中心静脈カテーテルや薬剤の注射部位など侵入門戸が明らかな場合もある。体内に留置される人工材料(例,脳室または腹腔シャント,人工器具)は,ほぼ全てが細菌定着のリスクを有するため,菌血症ひいては心内膜炎の感染源となる。心内膜炎は,典型的には歯科,内科,外科で施行される侵襲的な処置の際に発生する無症候性の菌血症によっても生じる可能性がある。また歯肉炎患者においては,歯磨きや咀嚼によって菌血症(通常は緑色レンサ球菌による)が生じることもある。

起因菌は感染部位,菌血症の感染源,および宿主の危険因子(例,静注薬物乱用)により異なるが,全体としては80~90%の症例がレンサ球菌または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によるものである。それ以外の起因菌は,腸球菌,グラム陰性桿菌, HACEK群 HACEK群による感染症 HACEK群には,主に心内膜炎を引き起こす弱毒性のグラム陰性菌が含まれる。治療は抗菌薬による。 非運動性のグラム陰性桿菌または球桿菌のHACEK群は,病原性が非常に低く,発育が緩徐で,栄養要求性が高いいくつかの属で構成される。その一次的な病態は感受性患者でみられる 心内膜炎であり,心内膜炎症例の約5%がこの菌群に起因するもので,グラム陰性... さらに読む Haemophilus属,Actinobacillus actinomycetemcomitansCardiobacterium hominisEikenella corrodensKingella kingae),および真菌が大半を占めている。

本疾患は以下の3段階で進行する:

  • 菌血症:微生物が血中に存在する

  • 付着:異常な内皮や損傷した内皮に表面付着を介して微生物が付着する

  • 定着:微生物が増殖して炎症を起こし,成熟した疣贅が形成される。

原因微生物の多くは,宿主の免疫防御から免れ,抗菌薬の浸透を防ぐ多糖体のバイオフィルムを産生する。

感染性心内膜炎の病態生理

心内膜炎による影響は局所と全身に生じる。

局所的な影響

感染性心内膜炎の局所的な影響には以下のものがある:

人工弁感染は,弁輪膿瘍,閉塞性疣贅,心筋膿瘍,感染性動脈瘤を引き起こす可能性が特に高く,これらは弁の閉塞,離開,および伝導障害により顕在化する。

全身的な影響

心内膜炎の全身的な影響は主に以下の機序による:

  • 心臓弁に由来する感染物質が塞栓となる

  • 免疫を介した現象(主に慢性感染症)

右心系の病変は,典型的には敗血症性肺塞栓を引き起こし,それにより肺梗塞,肺炎,または膿胸を来すことがある。左心系の病変は,あらゆる組織で塞栓を引き起こすが,特に腎臓,脾臓,中枢神経系が多い。感染性動脈瘤はいずれの主要動脈にも形成されうる。皮膚および網膜の塞栓がよくみられる。免疫複合体の沈着によって,びまん性糸球体腎炎が発生することもある。

感染性心内膜炎の分類

感染性心内膜炎は,緩徐進行性かつ亜急性の経過をたどることもあれば,より急性に劇症の経過をたどることもあり,その場合は急速に代償不全を来す可能性が高い。

亜急性細菌性心内膜炎(SBE)は,侵襲性であるが,通常は潜行性に発生し,緩徐に(数週間から数カ月かけて)進行する。しばしば,感染源や侵入門戸が明らかでない。SBEは,最も一般的にはレンサ球菌(特に緑色レンサ球菌,微好気性レンサ球菌,嫌気性レンサ球菌,非腸球菌D群レンサ球菌,および腸球菌)によって引き起こされる一方,やや頻度は低くなるが,黄色ブドウ球菌(S. aureus),表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis),Gemella morbillorumAbiotrophia defectiva(かつてのStreptococcus defectivus),Granulicatella属細菌,偏好性Haemophilus属細菌が起因菌となる場合もある。SBEは,歯周,消化管,または泌尿生殖器感染により無症候性の菌血症が生じた際に,当初から異常のあった弁でしばしば発生する。

急性細菌性心内膜炎(ABE)は通常,突然発生して急速に(数日間で)進行する。感染源や侵入門戸は明らかであることが多い。細菌の病原性が高い場合または細菌への曝露が多い場合には,正常弁にABEが生じることがある。ABEは通常,黄色ブドウ球菌(S. aureus),A群溶血性レンサ球菌,肺炎球菌,または淋菌によって引き起こされる。

人工弁心内膜炎(PVE)は,弁置換術の施行後1年以内に2~3%の患者で発生し,その後は年0.5%の率で生じる。僧帽弁置換術後よりも大動脈弁置換術後で頻度が高く,機械弁と生体弁では発生率は同等である。早期に発症する感染症(術後2カ月未満)は主に,抗菌薬耐性の微生物(例,表皮ブドウ球菌[S. epidermidis],類ジフテリア菌,大腸菌群,Candida属,Aspergillus属)による術中汚染によって引き起こされる。遅れて発症する感染症は主に,病原性の低い微生物による術中汚染か,一過性かつ無症候性の菌血症によって引き起こされ,よくみられる起因菌はレンサ球菌,表皮ブドウ球菌(S. epidermidis),類ジフテリア菌,偏好性グラム陰性桿菌,Haemophilus属,Actinobacillus actinomycetemcomitans,およびCardiobacterium hominisである。

感染性心内膜炎の症状と徴候

症状および徴候は分類によって異なるが,非特異的である。

亜急性細菌性心内膜炎

亜急性細菌性心内膜炎の初期症状は漠然としており,微熱(39℃未満),盗汗,易疲労性,倦怠感,および体重減少がみられる。悪寒および関節痛がみられることもある。弁閉鎖不全の症状および徴候が最初の手がかりとなることもある。当初から発熱または心雑音を呈する患者は15%以下であるが,どちらも最終的にはほぼ全例でみられるようになる。身体診察では正常となるか,蒼白,発熱,既存の心雑音の変化または新たな逆流性雑音の出現,および頻脈を認めることがある。

網膜動脈の塞栓により,中心に小さな白い領域のある円形または卵円形の出血病変(Roth斑)が網膜に生じることがある。皮膚の症候としては,点状出血(体幹上部,結膜,粘膜,および四肢末端),指尖部にみられる疼痛と紅斑を伴う皮下結節(オスラー結節),手掌または足底の圧痛を伴わない出血斑(Janeway病変),爪下線状出血などがある。約35%の患者では中枢神経系への影響がみられ,具体的には, 一過性脳虚血発作 一過性脳虚血発作 (TIA) 一過性脳虚血発作(TIA)は,一過性の神経脱落症状を突然引き起こす局所的な脳虚血で,永続的な脳梗塞を伴わない(例,MRIの拡散強調画像で陰性)ものである。診断は臨床的に行う。頸動脈内膜剥離術またはステント留置術,抗血小板薬,および抗凝固薬は,特定の病型のTIA後に生じうる脳卒中のリスクを低下させる。... さらに読む 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中とは,神経脱落症状を引き起こす突然の局所的な脳血流遮断が生じる多様な疾患群である。脳卒中には以下の種類がある: 虚血性(80%):典型的には血栓または塞栓によって生じる 出血性(20%):血管の破裂によって生じる(例, くも膜下出血, 脳内出血) 明らかな急性脳梗塞の所見(MRIの拡散強調画像に基づく)を伴わない一過性(典型的には1... さらに読む 脳卒中の概要 ,中毒性脳症のほか,中枢神経系の感染性動脈瘤が破裂した場合には脳膿瘍やくも膜下出血などが生じる。腎塞栓が生じると,側腹部痛やまれに肉眼的血尿がみられる。脾塞栓では左上腹部痛が生じることがある。感染が遷延すれば,脾腫や手足のばち指がみられることがある。

感染性心内膜炎の皮膚症状
感染性心内膜炎における結膜出血

急性細菌性心内膜炎と人工弁心内膜炎

急性細菌性心内膜炎および人工弁心内膜炎の症状および徴候は,亜急性細菌性心内膜炎に類似するが,経過はより急速である。病初期の発熱がほぼ必発であり,患者は重症感を呈し,ときに 敗血症性ショック 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む を来す。心雑音は初期には約50~80%の患者で,最終的には90%を超える患者で聴取される。まれに,化膿性髄膜炎が発生する。

右心系心内膜炎

感染性心内膜炎の診断

  • 血液培養

  • 心エコー検査およびときに他の画像検査

  • 臨床基準

症状および徴候が非特異的で,変化に富み,潜行性に生じることがあるため,強く疑わなければ診断できない。発熱があり感染源が不明な患者では,心内膜炎を疑うべきである(特に心雑音がある場合)。心臓弁膜症の既往がある患者,特定の侵襲的処置を最近受けた患者,および静注薬物乱用者では,血液培養が陽性となった場合,心内膜炎を極めて強く疑うべきである。菌血症が確認された患者では,徹底的な診察を繰り返して,新たな弁の雑音や塞栓の徴候がないか確認すべきである。

血液培養の陽性以外には,特異的な臨床検査所見はない。感染が成立すると,正球性正色素性貧血,白血球数増加,赤血球沈降速度の上昇,免疫グロブリン高値,末梢血中の免疫複合体およびリウマトイド因子の出現などがしばしばみられるが,いずれの所見も診断上役に立たない。尿検査では,しばしば顕微鏡的血尿を認め,ときに赤血球円柱,膿尿,または細菌尿がみられる。

微生物の同定

  • 治療方針を決定する上では,起因菌とその抗菌薬感受性の同定が極めて重要となる。

心内膜炎が疑われる場合は,24時間以内に3つの血液検体(各20mL)を採取し培養を行うべきである(臨床像から急性細菌性心内膜炎が示唆される場合は,最初の1~2時間以内に2回の血液培養を行う)。それらの血液培養では毎回,異なる部位で静脈穿刺を行って採血すべきである(すなわち,既存の血管カテーテルからの採取は不可)。ほとんどの患者が持続的な菌血症を呈するため,悪寒または発熱の発生中の検体で血液培養を行う必要はない。心内膜炎がみられ,それまで抗菌薬療法を受けていなかった患者では,菌血症が持続的であるため,通常は3回の血液培養の全てが陽性となる;99%の患者が少なくとも1回の血液培養で陽性となる。後天性か先天性かを問わず弁膜病変または短絡を来す病変が存在する患者では,心内膜炎で培養陰性となる事態を回避するため,時期尚早な抗菌薬の経験的投与は控えるべきである。それまでに抗菌薬療法を受けていた患者でも,やはり血液培養は行うべきであるが,結果が陰性となる可能性がある。

特定の細菌では血液培養に3~4週間を要することが多いが,特許技術を用いた一部の自動培養モニタリングシステムでは,1週間以内に培養陽性を判定することが可能である。培養で陽性とならないことがある微生物(例,Aspergillus)もある。血清診断が必要な微生物(例,Coxiella burnetiiBartonella属,Chlamydia psittaciBrucella属)や,特殊な培地が必要な微生物(例,Legionella pneumophila),ポリメラーゼ連鎖反応法が必要な微生物(例,Tropheryma whippelii)もある。血液培養での陰性は,それまでの抗菌薬療法による増殖の抑制,標準的な培地では増殖しない微生物の感染,他の病態(例,非感染性心内膜炎,塞栓現象を伴う心房粘液腫,血管炎)のいずれかを示唆している可能性がある。

画像検査

以下の場合には経食道心エコー検査を行うべきである:

  • 人工弁がある

  • 経胸壁心エコー検査で診断がつかない

  • 感染性心内膜炎の診断が臨床的に確立されている(穿孔,膿瘍,および瘻孔の検出ために行う)

CTは,TEEで弁周囲の膿瘍を完全に評価できない場合や,感染性動脈瘤の検出時に使用されることがある。人工弁や心臓内デバイスに起因する心内膜炎を診断するための新しいツールとして,PET(陽電子放出断層撮影)がある。CTおよびPETにおける異常は現在,欧州のガイドラインで大基準に含まれている。

診断基準

感染性心内膜炎の診断は,心臓手術,塞栓除去術,または剖検の際に採取された心内膜組織の疣贅中で微生物が組織学的に確認された場合(あるいは疣贅の培養中に認められた場合)に確定となる。通常は検査に疣贅を用いることができないため,確定診断のための様々な臨床診断基準がある。例えば,改訂Duke基準(感度および特異度 > 90%― 感染性心内膜炎の診断要件 改訂Duke基準による感染性心内膜炎の診断要件 改訂Duke基準による感染性心内膜炎の診断要件 および 感染性心内膜炎の臨床診断のための改訂Duke診断基準 感染性心内膜炎の臨床診断のための改訂Duke診断基準 感染性心内膜炎の臨床診断のための改訂Duke診断基準 の表を参照)やEuropean Society of Cardiology (ESC)による2015年度版改訂基準などがある(1 診断に関する参考文献 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 診断に関する参考文献 )。

ESCの基準は,改訂Duke基準に似ているが,大基準として以下のような幅広い画像所見が含まれる:

  • 心エコー検査で同定される疣贅,膿瘍,仮性動脈瘤,心内瘻孔,弁穿孔もしくは動脈瘤,または人工弁の新たな部分的離開

  • PET/CTまたは放射性標識白血球を用いたSPECT(単一光子放出型コンピュータ断層撮影)/CTにより検出される人工弁(留置から3カ月以上経過しているもの)周囲の異常な活動

  • 心臓CTで特定される弁周囲病変

ESCは,画像検査のみで無症候性の血管系現象を検出すれば十分であると規定している点でも修正Duke診断基準の小基準と異なる。

診断に関する参考文献

1.Habib G, Lancellotti P, Antunes MJ, et al: 2015 ESC Guidelines for the management of infective endocarditis: The Task Force for the Management of Infective Endocarditis of the European Society of Cardiology (ESC).Endorsed by: European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS), the European Association of Nuclear Medicine (EANM).Eur Heart J 36:3075–3123, 2015.

感染性心内膜炎の予後

無治療の場合,感染性心内膜炎は常に死に至る。たとえ治療を行っても,高齢患者および以下のある患者は,死亡する可能性が高く,一般に予後不良である:

  • 耐性菌への感染

  • 基礎疾患

  • 治療の大幅な遅れ

  • 大動脈弁または複数の弁の病変

  • 大きな疣贅

  • 複数の微生物による菌血症

  • 人工弁への感染

  • 感染性動脈瘤

  • 弁輪の膿瘍

  • 大きな塞栓イベント

糖尿病,急性腎機能不全,黄色ブドウ球菌(S. aureus)感染症,15mmを超える疣贅,または持続感染の徴候のある患者では, 敗血症性ショック 敗血症および敗血症性ショック 敗血症は,感染症への反応が制御不能に陥ることで生命を脅かす臓器機能障害が生じる臨床症候群である。敗血症性ショックでは,組織灌流が危機的に減少する;肺,腎臓,肝臓をはじめとする急性多臓器不全が起こる場合もある。免疫能が正常な患者における敗血症の一般的な原因は,多様なグラム陽性または陰性菌などによる。易感染性患者では,まれな細菌または真菌が原... さらに読む の可能性が高くなる。緑色レンサ球菌を起因菌とする心内膜炎における重大な合併症がない場合の死亡率は10%未満であるが,人工弁手術後に発生したAspergillus属真菌による心内膜炎の死亡率はほぼ100%である。

右心系心内膜炎は左心系心内膜炎より予後良好であるが,その理由は,三尖弁の機能障害は良好に耐容されること,全身性の塞栓が生じないこと,および黄色ブドウ球菌(S. aureus)を起因菌とする右心系心内膜炎は抗菌薬療法に対する反応が良好であることにある。

感染性心内膜炎の治療

  • 抗菌薬の静注(起因菌とその感受性に基づく)

  • ときに弁の感染組織の切除,弁修復術,または弁置換術

  • 歯科的評価および治療(菌血症の口腔内感染源を最小限に抑えるため)

  • 菌血症の潜在的な原因(例,体内のカテーテル,デバイス)の除去

菌血症の感染源が明らかであれば対応が必要であり,壊死組織は切除し,膿瘍は排膿し,異物や感染した器具は抜去する。感染性心内膜炎の患者は歯科医の評価を受け,菌血症とそれに続発する心内膜炎の原因となりうる口腔疾患があれば,その治療を受けるべきある。既存の静脈カテーテル(特に中心静脈カテーテル)は,交換すべきである。新たに中心静脈カテーテルを留置した患者で心内膜炎が持続する場合は,そのカテーテルも抜去すべきである。カテーテルやその他の器具に付着してバイオフィルムに覆われた微生物は,抗菌薬療法に反応せずに治療の失敗や再発につながることがある。間欠的な急速静注ではなく持続静注を採用する場合は,点滴を長時間中断してはならない。

抗菌薬レジメン

使用する薬剤とその用量は,起因菌とその抗菌薬感受性に依存する。(典型的なレジメンについては, 心内膜炎に対する抗菌薬レジメン 米国における心内膜炎に対する抗菌薬レジメンの例 米国における心内膜炎に対する抗菌薬レジメンの例 の表を参照のこと。)

患者のほとんどは安定しているため培養の結果を待つことができるが,重篤な患者では病原体の同定前に経験的抗菌薬療法が必要になることがある。十分な血液培養(1時間のうちに異なる部位から2つまたは3つの検体)が得られるまで,抗菌薬の投与は控えるべきである。抗菌薬は,可能性のある全ての病原体(一般的に感受性および耐性ブドウ球菌,レンサ球菌,腸球菌を含む)をカバーする広域スペクトルのものを使用すべきである。経験的抗菌薬療法のレジメンは,感染症および抗菌薬耐性の地域パターンを反映させるべきであるが,広域抗菌薬の典型的な使用例は以下の通りである:

  • 自己弁:バンコマイシン15~20mg/kg,静注,8~12時間毎(1回の投与で2gを超えないようにする)

  • 人工弁:バンコマイシン15~20mg/kg,静注,8~12時間毎(1回2gまで)+ ゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎 + セフェピム2g,静注,8時間毎またはイミペネム1g,静注,6~8時間毎(1日の最大用量は4g)

経験的薬物療法は培養の結果に基づいてできるだけ早く調整すべきである。

静注薬物乱用者は,しばしば治療方針を遵守せず,静脈ラインを乱用し,予定より早く退院してしまう傾向がある。そのような患者に対しては,短期の静注療法か(次善策として)経口療法を選択してもよい。メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(S. aureus)を起因菌とする右心系心内膜炎には,ナフシリン(nafcillin)(2g,静注,4時間毎)とゲンタマイシン(1mg/kg,静注,8時間毎)の2週間にわたる併用が効果的であり,同様にシプロフロキサシン(750mg,経口,1日2回)とリファンピシン(300mg,経口,1日2回)の併用による4週間の経口レジメンも効果的である。左心系心内膜炎は2週間コースの治療には反応しない。

左心系心内膜炎に対し,現在のガイドラインでは6週間にわたる静注での抗菌薬療法が推奨されている。ただし,合併症のない左心系心内膜炎を対象とした最近の多施設共同ランダム化非盲検試験により,経口抗菌薬への(少なくとも10日間静脈内投与した後の)切替えは静脈内投与の継続に劣らないことが示されている。さらに,経口投与に切り替えた患者では入院期間が短縮した。このアプローチは,長期入院による静脈内投与に伴う精神的ストレスや一部のリスクを軽減する可能性がある(2 治療に関する参考文献 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 治療に関する参考文献 )。

心臓弁手術

  • 心不全の患者(特に人工弁や,自己弁でも大動脈または僧帽弁に心内膜炎がある患者,および肺水腫または心原性ショックの患者)

  • コントロール不良の感染症患者(感染症の持続,真菌または耐性菌による感染症,繰り返す人工弁心内膜炎,または心ブロック,膿瘍,動脈瘤,瘻孔,もしくは拡大する疣贅を伴う心内膜炎のある患者)

  • 塞栓のリスクがある患者(特に人工弁や,自己弁でも大動脈または僧帽弁に心内膜炎がある患者,および大きな[米国では>10mmと定義される]疣贅または繰り返す塞栓症のある患者)

手術のタイミングには,経験に基づく臨床的判断が要求される。是正可能な病変に起因する心不全が悪化している場合(特に起因菌が黄色ブドウ球菌[S. aureus],グラム陰性桿菌,または真菌の場合)には,抗菌薬療法のわずか24~72時間後に手術が必要となることがある。

人工弁の患者では,以下の場合に手術が必要になることがある:

  • 経食道心エコー検査で,弁周囲の膿瘍上に弁離開が認められる

  • 弁機能不全が心不全を引き起こしている

  • 繰り返し塞栓が認められる

  • 感染症が抗菌薬耐性菌によるものである

右心系心内膜炎は通常,内科的に管理される。手術が必要な場合(心不全または治療に反応しないため),静注薬を継続することによる人工弁への将来的な感染を避けるため,置換よりも弁修復が望ましい。

頭蓋内出血または重度の虚血性脳卒中があれば,手術は通常,その1カ月後に延期される。

治療に対する反応

ペニシリン感性レンサ球菌による心内膜炎患者では,治療を開始すると改善がみられ,通常は3~7日以内に発熱が軽快する。持続感染以外の理由(例,薬物アレルギー,静脈炎,塞栓による梗塞)で発熱が持続することがある。ブドウ球菌による心内膜炎の患者は,反応が緩徐になる傾向がある。一連の心エコー検査により疣贅の縮小を追跡することができる。治療終了時には心エコー検査を行い,弁の外観(無菌の疣贅など)および機能不全に対して新しいベースラインを確立すべきである。

再発は通常4週間以内に起こる。抗菌薬での再治療が効果的な場合もあるが,手術が必要になる場合もある。人工弁のない患者で6週間以降に心内膜炎が再発した場合は,通常は再発ではなく,新たな感染によるものである。抗菌薬療法が成功した場合にも,1年後までは無菌性塞栓や弁破裂が発生する可能性がある。再発リスクが高いため,生涯にわたり歯科および皮膚の衛生管理が推奨される。何らかの理由で抗菌薬療法を必要とする患者には,抗菌薬を開始する前に3セット以上の血液培養を行うべきである。

治療に関する参考文献

感染性心内膜炎の予防

心臓弁膜症または先天性心疾患に対する修復手術を施行する前に,予防的な歯科診察および歯科治療が推奨される。

医療関連の菌血症を減らす対策は,医原性菌血症とそれに続発する心内膜炎の発生率の上昇を抑えることを目的とするものである。

歯科および皮膚の衛生は一般集団に推奨されるが,中程度のリスク(先天性弁膜症の患者)および高リスクの患者には特に推奨される。

高リスク患者

American Heart Association(AHA)は,感染性心内膜炎による望ましくない転帰のリスクが高い患者に対して,抗菌薬の予防投与を推奨している(AHA Guidelinesを参照)。そのような患者としては,以下を有する患者などが挙げられる:

  • 人工心臓弁(カテーテルを介した弁移植を含む)

  • 心臓弁の修復に使用される人工物(例,弁輪形成用リング,人工腱索)

  • 感染性心内膜炎の既往

  • 特定の先天性心疾患(CHD):未修復のチアノーゼ性CHD(緩和目的のシャントおよび導管を含む),人工材料または器具が使用された場合は完全に修復された術後6カ月までのCHD,修復部位またはその近傍に欠損部が残存する修復されたCHD

  • 弁膜症を有する心臓移植患者

抗菌薬の予防投与を必要とする処置

高リスク患者 高リスク患者 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 高リスク患者 で予防が必要となる処置の大半は,歯肉または歯根尖周囲を操作するか,口腔粘膜を穿孔する口腔外科・歯科の処置である。その他の処置として,粘膜の切開を伴う気道の処置,一部の高リスク患者(人工弁または弁修復に使用される人工物を有する患者,姑息的治療を受けている未修復のチアノーゼ性先天性心疾患の患者)における経腟分娩,および感染が確立された領域に及ぶ消化管,泌尿生殖器,または筋骨格系処置などがある(抗菌薬による心内膜炎予防を必要とする処置 米国の高リスク患者において抗菌薬による心内膜炎予防を必要とする処置 米国の高リスク患者において抗菌薬による心内膜炎予防を必要とする処置 を参照)。心内膜炎の予防に関するガイドラインは地域によって異なる。

予防的抗菌薬レジメン

大半の患者および処置では,処置直前の単回投与が効果的である。口腔外科・歯科処置と呼吸器に対する処置には,緑色レンサ球菌群に対して効果的な薬剤を使用する(口腔外科・歯科処置または気道に対する処置の施行時に推奨される心内膜炎予防 口腔外科・歯科処置または気道に対する処置の施行時に推奨される心内膜炎予防* 口腔外科・歯科処置または気道に対する処置の施行時に推奨される心内膜炎予防* の表を参照)。経腟分娩の場合は,アンピシリン2gの静注または筋注 + ゲンタマイシン1.5mg/kg(最大120mg)の静注を分娩前30分以内に投与し,その6時間後にアンピシリン1gを静注または筋注(またはアモキシシリン1g[三水和物]を経口投与)。

感染組織を含む領域に対する消化管,泌尿生殖器,または筋骨格系の処置では,既知の微生物とその感受性に基づいて抗菌薬を選択すべきである。感染はあるが起因菌はまだ同定されていない場合,消化管および泌尿生殖器の処置に対する予防には,腸球菌に対して効果的な抗菌薬を選択すべきである(例,アモキシシリンまたはアンピシリン,ペニシリンアレルギーのある患者にはバンコマイシン)。皮膚および筋骨格系の処置に対する予防には,ブドウ球菌およびβ溶血性レンサ球菌に有効な抗菌薬を選択すべきである(例,セファロスポリン系薬剤,バンコマイシン,起因菌がメチシリン耐性ブドウ球菌である可能性がある場合はクリンダマイシン)。

予防に関する参考文献

感染性心内膜炎の要点

  • 正常な心臓は感染に対して比較的高い抵抗力を有するため,心内膜炎は基本的に,心内膜に素因となる異常が存在する状況で発生する。

  • 素因となる心臓の異常としては,先天性心疾患,リウマチ性弁膜症,大動脈弁二尖弁,大動脈弁石灰化,僧帽弁逸脱症,肥大型心筋症,心内膜炎の既往,および心臓内デバイスなどがある。

  • 局所的な心臓の影響としては,心筋膿瘍,刺激伝導系の異常,突然かつ高度の弁逆流などがある。

  • 全身的な影響としては,免疫系の現象(例,糸球体腎炎)と敗血症性塞栓があり,これらはあらゆる臓器に影響を及ぼしうるが,特に肺(右心系心内膜炎の場合),腎臓,脾臓,中枢神経系,皮膚,および網膜(左心系心内膜炎の場合)が影響を受けやすい。

  • 血液培養を行い,Duke基準またはEuropean Society of Cardiologyの臨床基準を用いて診断する。

  • 治療は長期の抗菌薬投与により,機械的合併症または耐性菌には手術が必要となることもある。

  • 感染性心内膜炎による望ましくない結果のリスクが高い患者には抗菌薬の予防投与を行うが,そのような患者としては,人工心臓弁または弁修復,感染性心内膜炎の既往,または特定の先天性心疾患を有する患者や,弁膜症のある心臓移植患者などが挙げられる。

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