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心不全に使用される薬剤

執筆者:

Sanjiv J. Shah

, MD, Northwestern University Feinberg School of Medicine

最終査読/改訂年月 2017年 3月

心不全も参照のこと。)

心不全の薬物療法は以下を目的とする:

  • 症状の緩和:利尿薬,硝酸薬,またはジゴキシン

  • 長期管理と生存期間の延長:ACE阻害薬,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),またはアンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)

使用薬剤の選択は,患者ごとの特徴と心不全の病型に依存する。現在最も一般的に用いられている心不全の分類では,患者を次のように層別化している:

駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)では,これら全ての薬物クラスが研究されており,長期管理に有益であることが示されている。

駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)では,十分に研究された薬剤が比較的少ない。しかしながら,HFpEFの治療には一般にACE阻害薬,ARB,およびβ遮断薬が使用される。ARNIは依然として研究段階にある。複数のランダム化比較試験により,アルドステロン拮抗薬は有益であるが,硝酸薬はおそらく有益でないことが示唆されている。重度のHFpEF患者では,重度の拡張機能障害のため一回拍出量が比較的固定されているため,心拍数を(β遮断薬などにより)低下させると,症状が悪化する可能性があり,このような患者の場合,心拍出量が心拍数に依存しているため,心拍数を低下させると安静時および/または労作時の心拍出量も低下する可能性がある。

肥大型心筋症の患者では,ジゴキシンは効果的ではなく,有害となる可能性がある。

全ての患者に使用薬剤に関する明確な情報を明示的に伝えるべきであり,具体的には適時な処方の更新と治療アドヒアランスの重要性,有害作用を認識する方法,医師に連絡すべき状況などが挙げられる。

利尿薬

利尿薬は,現在または過去に体液量過剰がみられた全ての心不全患者(駆出率の基礎値は問わない)に投与され,その用量は体重の安定化と症状の緩和が得られる最小限の水準に調節する。

容量負荷のコントロールには,まずループ利尿薬を使用すべきであるが,アルドステロン拮抗薬を優先して,可能になった時点で減量すべきである。

よく使用されるループ利尿薬としては,フロセミド,ブメタニド,トラセミドなどがある。これらの薬剤の開始量は,患者が過去にループ利尿薬を使用したことがあるかどうかに依存する。一般的な開始量は,フロセミドは20~40mg,経口,1日1回または1日2回,ブメタニドは0.5~1.0mg,経口,1日1回,トラセミドは10~20mg,経口,1日1回である。ループ利尿薬の用量は,必要であれば反応と腎機能に応じて,フロセミドは120mg,経口,1日2回まで,ブメタニドは2mg,経口,1日2回まで,トラセミドは40mg,経口,1日2回まで漸増することができる。ブメタニドとトラセミドは,フロセミドよりも生物学的利用能が良好である。別のループ利尿薬に切り替える場合は,同等の用量で薬剤を変更すべきである。フロセミド40mgはブメタニド1mgと同等であり,これらはトラセミド20mgと同等である。

難治例では,相加効果を得るためにループ利尿薬の静注またはメトラゾン2.5~10mgの経口投与を選択することができる。重度の浮腫がみられる患者の一部では,フロセミド(5~10mg/時)またはその他のループ利尿薬の点滴静注が有用となりうる。ループ利尿薬の点滴静注を開始する前と投与速度を引き上げる前には,急速投与を毎回行うべきである。

ループ利尿薬(特にメトラゾンと併用する場合)は,低血圧を伴う循環血液量減少,低ナトリウム血症,低マグネシウム血症,および重度の低カリウム血症を引き起こすことがある。急性期に必要となった利尿薬の用量は,徐々に減量できるのが通常であり,目標用量は安定した体重を維持でき,症状をコントロールできる最小限の用量である。心不全が改善した時点で,他の薬剤により心機能の改善と心不全症状の軽減が得られている場合は,利尿薬を中止することができる。必要以上の高用量で利尿薬を使用すれば,心拍出量が低下し,腎機能が障害され,低カリウム血症が引き起こされ,死亡率が上昇する。血清電解質と腎機能のモニタリングを,当初は毎日(利尿薬を静脈内投与する場合),その後は必要に応じて(特に増量後)行う。

高用量のループ利尿薬によるカリウム喪失作用を相殺するため,アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトンまたはエプレレノンのいずれか)を早期に追加すべきである。その場合も,高カリウム血症を来す可能性があるため(特にACE阻害薬またはARBを併用している場合),電解質のモニタリングが必要であり,特に腎機能障害を引き起こす脱水状態が予想される場合は非常に重要となる。これらの薬剤は,肝うっ血によりアルドステロンの代謝が低下することでアルドステロン濃度が上昇する慢性右室不全において,特に有益となる可能性がある。高カリウム血症のリスクを低減するため,一般にアルドステロン拮抗薬は,カリウム値 < 5.0mEq/L,血清クレアチニン値 < 2.5mg/dL,かつGFR > 30mL/min/1.73m2の患者にのみ投与すべきである。さらに, エプレレノンの同等量はスピロノラクトンの用量の2倍(すなわち,スピロノラクトン25mg = エプレレノン50mg)であることに注意すべきである。

サイアザイド系利尿薬は,高血圧の治療として投与される場合を除き,通常は単剤では使用されないが,利尿効果を高めてループ利尿薬の用量を減らすため,サイアザイド系利尿薬をループ利尿薬に追加することがある。ヒドロクロロチアジド,メトラゾン,およびクロルタリドンは,この用法で使用できる。

信頼できる患者には,体重増加時または末梢浮腫の増悪時に必要に応じて利尿薬を追加で服用するように指導する。体重増加が続く場合は,速やかに医療機関を受診させるべきである。

バソプレシン(抗利尿ホルモン)受容体拮抗薬は,心不全患者で重度かつ難治性の低ナトリウム血症が生じた場合に助けとなる可能性があるが,あまり使用されていない。

ACE阻害薬

HFrEFの患者には,ACE阻害薬の経口投与を,禁忌(例,血漿クレアチニン値 >2.8mg/dL[>250μmol/L],両側腎動脈狭窄,単腎での腎動脈狭窄,ACE阻害薬に起因した血管性浮腫の既往)がない限り全例に行うべきである。

ACE阻害薬は,交感神経系,内皮機能,血管緊張,および心筋機能に影響を及ぼすメディエータであるアンジオテンシンIIの産生とブラジキニンの分解を阻害する。血行動態作用としては,動脈および静脈の拡張,安静時および労作時の持続的な左室充満圧低下,全身血管抵抗の低下,心室リモデリングに対する好ましい作用などがある。ACE阻害薬は生存期間を延長し,心不全による入院を減少させる。動脈硬化および血管疾患を有する患者では,この種の薬剤の投与により心筋梗塞および脳卒中のリスクが低下する。糖尿病患者では,腎症の発症を遅らせる効果がある。したがって,ACE阻害薬は拡張機能障害および上記の疾患のいずれかを有する患者に用いることができる。

開始量は典型的には低く設定すべきである(通常は血圧および腎機能に応じて目標用量の4分の1から2分の1);用量は,忍容性に応じて8週間かけて漸増し,その後は無期限に継続する。代表的な薬剤の通常の目標用量は,エナラプリルで10~20mg,1日2回,リシノプリルで20~30mg,1日1回,ラミプリルで5mg,1日2回などであるが,このほかにも多数の薬剤がある。

降圧作用(低ナトリウム血症または体液量減少がある患者でより著明となる)が問題となる場合は,他の降圧薬との併用の回避,併用する利尿薬の減量,長時間作用型ACE阻害薬(例,ペリンドプリル)の使用,就寝時の投与などにより,その影響を最小限に抑えることがしばしば可能である。ACE阻害薬はしばしば,糸球体輸出細動脈の拡張に起因する軽度から中等度の可逆的な血清クレアチニン値の上昇を引き起こす。初期にみられるクレアチニン値の20~30%の上昇は投与を中止する理由とならないが,綿密なモニタリング,より緩徐な増量,利尿薬の減量,またはNSAIDの回避が必要となる。アルドステロンの作用が減弱するため,カリウム貯留を来すことがあり,特にカリウム製剤を使用している患者で多くみられる。咳嗽は5~15%の患者にみられ,これはおそらくブラジキニンが蓄積するためであるが,他の原因も考慮すべきである。ときに発疹や味覚異常がみられる。血管性浮腫はまれであるが,生命を脅かす可能性があり,ACE阻害薬に対する禁忌となっている。代替薬としてはARBを使用できるが,まれに交差反応が報告される。どちらの薬剤も妊娠中は禁忌である。

血清電解質および腎機能を,ACE阻害薬の開始前,1カ月時,および有意な増量または臨床状態の変化があるたびに測定するべきである。急性疾患により脱水または腎機能低下が発生した場合は,ACE阻害薬の減量または休薬が必要となることがある。

HFpEFの患者では,ACE阻害薬であるペリンドプリルのランダム化比較試験にて運動耐容量の改善が実証された。この試験では,プラセボからACE阻害薬へのクロスオーバー率が高かったものの,生存率は改善されなかった(1)。HFpEFでは高血圧の有病率が非常に高いため,ACE阻害薬はこれらの患者の運動耐容量に対して二次的な効果が期待できることから,高血圧のコントロールにACE阻害薬を使用するのは妥当である。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

ACE阻害薬に対する優位性は実証されていないものの,咳嗽および血管性浮腫を引き起こす可能性は低く,これらの有害作用によりACE阻害薬を使用できない場合にも使用することができる。

慢性HFrEFでは,ACE阻害薬とARBは等しく効果的である可能性が高い。通常の目標経口用量は,バルサルタンで160mg,1日2回,カンデサルタンで32mg,1日1回,ロサルタンで50~100mg,1日1回である。ARBの導入,用量漸増,およびモニタリングは,ACE阻害薬と同様である。ACE阻害薬と同様に,ARBは可逆的な腎機能障害を引き起こす可能性があり,脱水を来す急性疾患がある間は,一時的に減量または休薬が必要となることがある。

ACE阻害薬,β遮断薬,およびアルドステロン拮抗薬のレジメンへのARBの追加については,有益となる可能性が低く,高カリウム血症のリスクを踏まえると避けるべきである。ACE阻害薬またはARBを服用している患者で依然として症状がみられる場合は,アルドステロン拮抗薬の投与を開始するか,アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)を使用するか,これら両方で対応すべきである。

HFpEFの患者では,カンデサルタン(2)の大規模ランダム化比較試験にて心不全の再発による入院件数を減少させる効果が実証されたが,入院は二次的なエンドポイントである。別の試験(3)では,イルベサルタンにHFpEF患者の転帰改善は認められなかった。したがって,HFpEF患者へのARBの使用は,すでに高血圧,糖尿病性腎疾患,または微量アルブミン尿の治療に用いられている場合のみに限定すべきである。

ARBは妊娠中は禁忌である。

アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬(ARNI)

ARNIは心不全治療のための新しい併用薬である。この種の薬剤には,ARBに加えて,新たな薬物クラスであるネプリライシン阻害薬(現時点で使用可能なものはサクビトリルのみ)が含まれる。ネプリライシンは,BNPやその他のペプチドなどの血管刺激物質の分解に関与する酵素である。この種の薬剤は,BNPを始めとする有益な血管作動性ペプチドの分解を阻害することにより,血圧を低下させ,後負荷を軽減し,ナトリウム排泄を促進する。ネプリライシン阻害薬はBNP値を上昇させるため,心不全の診断および管理では(この薬剤を使用しても上昇しない)NTproBNPの測定値を参考にすべきである。

最近の大規模ランダム化比較試験において,NYHAクラスII~IVのHFrEF患者を対象として,サクビトリル/バルサルタンがエナラプリルと比較された(4)。サクビトリル/バルサルタンの投与により,心血管系死亡と心不全のための入院を組み合わせた一次エンドポイントが減少し,治療必要数(number needed to treat)は21例であった。サクビトリル/バルサルタンは全死亡率も低下させた。このように,安定したHFrEFの患者,特にガイドラインに基づく至適な薬物療法を受けているNYHAクラスIIまたはIIIの患者については,全例でARNIのサクビトリル/バルサルタンを考慮するべきである。

サクビトリル/バルサルタン合剤には24/26mg, 49/51mg,97/103mgの3つの含量があり,いずれも1日2回の経口投与で使用する。それまでACE阻害薬またはARBを服用していた患者での開始量は49/51mg,経口,1日2回であり,それまでACE阻害薬またはARBを低用量(例,エナラプリル1日10mg以下)で服用していた患者,ACE阻害薬/ARBを服用したことのない患者,および血圧が低値/境界域の患者では24/26mgとする。サクビトリル/バルサルタンの投与を開始する36時間前には,ACE阻害薬を中止する必要がある。それまでARBを服用していた患者では,休薬期間を置くことなく単純にサクビトリル/バルサルタンに切り替えることができる。

ARNIの使用に伴う合併症としては,低血圧,高カリウム血症,腎機能不全,血管性浮腫などがある。サクビトリルの単剤使用またはACE阻害薬との併用では血管性浮腫のリスクが高まるため,サクビトリルはバルサルタン(ARB)と併用する必要がある。このため,ACE阻害薬とARNIの併用療法は絶対的禁忌である。

HFpEFでは,ある第II相試験において,ARNIとしてのバルサルタン/サクビトリルの投与により12週目にNTproBNP濃度の低下が得られ,36週目には左房容量が減少した;同薬剤の大規模な第III相ランダム化比較試験が現在実施中であり,HFpEF患者の転帰が改善されるかどうかが明らかになるはずである。

アルドステロン拮抗薬

アルドステロンにはレニン-アンジオテンシン系とは独立した産生経路があるため,アルドステロンの有害作用はACE阻害薬およびARBを最大量で使用しても完全には抑えられない。そのため,アルドステロン拮抗薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬とも呼ばれる)がしばしば使用され,特に中等度から重度の心不全の症候がみられる患者によく使用される。典型的な薬剤としては,スピロノラクトン25~50mg,経口,1日1回やエプレレノン25~100mg,経口,1日1回(男性で女性化乳房を引き起こさない)などがある。アルドステロン拮抗薬を使用すれば,左室駆出率30%未満の慢性心不全患者または急性心筋梗塞を合併した急性心不全患者において,突然死を含む死亡率を低下させることが可能である。

カリウム製剤は中止すべきである。血清カリウム値およびクレアチニン値を最初の4~6週間は1~2週毎に,また用量を変更するたびに確認すべきである。カリウム値が5.0~5.5mEq/Lの場合は減量し,カリウム値が5.5mEq/Lを超えるか,クレアチニンが2.5mg/dL(220μmol/L)を超えて上昇するか,または高カリウム血症による心電図変化が認められる場合は投与を中止する。アルドステロン拮抗薬は,ACE阻害薬とARBを併用している患者では,高カリウム血症および腎機能障害のリスクが高いため,使用すべきでない。

HFrEFの患者では,ACE阻害薬とARBの併用よりも,アルドステロン拮抗薬とACE阻害薬またはARBの併用が望ましい。

HFpEFの患者では,スピロノラクトンを使用することで心不全のための入院率が低下するほか,心血管系死亡率が低下する可能性が高い(5)。このように,HFpEFの患者には,特に容量負荷があるか心不全での入院の既往がある場合,アルドステロン拮抗薬を使用すべきである。アルドステロン拮抗薬を使用する上で必要であれば,ループ利尿薬は最小限に抑えてもよい。

β遮断薬

HFrEFの患者では,β遮断薬は(喘息,第2度もしくは第3度房室ブロック,または不耐容の既往による)禁忌がない限り治療に極めて重要であり,この状態の患者でACE阻害薬に追加できる重要な薬物である。HFrEFでは,β遮断薬は肺うっ血の所見が認められない時点で開始するのが最善である。カルベジロールやメトプロロールコハク酸塩(すなわち,長時間作用型メトプロロール)などの特定のβ遮断薬は,重度の症状がみられる患者を含む慢性のHFrEF患者の左室駆出率,生存期間,および他の主要な心血管系のアウトカムを改善する。

HFpEFの患者では,β遮断薬は臨床試験で十分に検討されていないが,HFpEFでは変時性不全(chronotropic incompetence)の有病率が比較的高いものの,β遮断薬の使用にはHFpEFのアウトカムの改善を伴うことを多くの登録記録が示している。

開始量は低く(目標1日量の4分の1)設定すべきであり,その後は忍容性に応じて8週間かけて漸増する。β遮断による急性の陰性変力作用により,初期には心抑制や体液貯留が生じることがある。そのような場合は,利尿薬の一時的な増量とβ遮断薬の緩徐な漸増が必要である。忍容性は時間経過とともに改善する場合があり,目標用量の達成に努めるべきである。通常の目標経口用量は,カルベジロールで25mg,1日2回(85kg以上の患者には50mg,1日2回),ビソプロロールで10mg,1日1回,メトプロロールで50~75mg,1日2回(酒石酸塩)または200mg,1日1回(コハク酸塩の徐放性製剤)である。第3世代の非選択的β遮断薬であるカルベジロールは,α遮断作用および抗酸化作用を有する血管拡張薬でもあり,好んで使用され,最も広く研究されているβ遮断薬であるが,多くの国ではより高価である。一部のβ遮断薬(例,bucindolol,キサモテロール)は有益ではないようであり,有害となる可能性がある。

重度の急性代償不全時には,β遮断薬は患者の状態が安定し,体液貯留の所見がほとんど認められなくなるまで開始してはならない。すでにβ遮断薬を服用している急性心不全増悪のあるHFrEF患者に対しては,絶対に必要でない限り,減量あるいは投与停止をするべきではない。急性心不全増悪のある患者に対しては,利尿薬を一時的に増量するとしても,β遮断薬の投与を続けることができることが多い。

HFrEFでは,初期治療後に心拍数および心筋酸素消費量が低下するが,一回拍出量および充満圧は変化しない。心拍数の低下に伴い,拡張機能は改善する。心室充満はより正常なパターンに回復し(拡張早期の増加),拘束性パターンの程度が軽くなる。一部の患者では,心筋機能の改善が6~12カ月後に認められるが,より長い期間を要する場合もある;駆出率および心拍出量は増大し,左室充満圧は低下する。運動耐容量は改善する。

血管拡張薬

ACE阻害薬またはARBに真に不耐容(通常は有意な腎機能障害が原因である)の患者にはヒドララジン + 硝酸イソソルビドが有用であるが,この併用療法の長期的な有益性は限られている。黒人患者では,標準療法にこの併用療法を追加することで,死亡率および入院率が低下し,生活の質が向上することが示されている。血管拡張薬として,これらの薬剤は血行動態の改善,弁逆流の軽減,運動耐容量の向上をもたらし,一方で有意な腎障害を引き起こさない。

ヒドララジンは25mg,経口,1日4回から投与を開始し,目標総用量である300mg/日まで3~5日毎に増量するが,多くの患者は低血圧のため200mg/日を超える量には耐えられない。硝酸イソソルビドは20mg,経口,1日3回(12時間の硝酸薬非使用時間を挟む)から投与で開始し,目標用量である40~50mg,1日3回まで増量する。より低用量(日常診療でしばしば用いられる)での投与が長期的に有益かどうかは不明である。一般に,血管拡張薬はACE阻害薬に取って代わられており,ACE阻害薬の方が使用しやすく,忍容性も通常は良好であり,より大きな便益も証明されている。

硝酸薬はHFrEF患者の心不全症状を単独で緩和でき,急性呼吸困難には舌下ニトログリセリンスプレーの頓用を,夜間または労作時呼吸困難にはパッチ剤を使用するよう患者を指導することが可能である。HFrEFでは,硝酸薬は安全かつ効果的で忍容性も良好であり,特に心不全と狭心症を呈する患者に有用である。有害作用としては低血圧や頭痛などがある。HFpEFに対する一硝酸イソソルビドの試験(6)では,有害作用(例,頭痛)の増加および身体活動の減少との関連が示された。したがって,HFpEFでは長時間作用型硝酸薬のルーチンな使用は避けるべきである。

カルシウム拮抗薬などの他の血管拡張薬は,左室収縮機能障害の治療には使用されない。短時間作用型のジヒドロピリジン系(例,ニフェジピン)および非ジヒドロピリジン系(例,ジルチアゼム,ベラパミル)薬剤は有害となる可能性がある。一方,アムロジピンやフェロジピンの忍容性は良好であり,心不全に狭心症や高血圧を合併している患者に有用となりうる。どちらの薬剤も末梢浮腫を引き起こす可能性があり,まれに,アムロジピンは肺水腫を引き起こす。フェロジピンはグレープフルーツジュースとともに服用させてはならず,グレープフルーツジュースのチトクロムP450に対する代謝阻害作用により血漿中濃度の大幅な上昇と有害作用の有意な増加がもたらされる。HFpEFの患者では,高血圧または虚血を治療するために必要に応じてアムロジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を使用することができ,心房細動における心室拍数をコントロールするためには,ジルチアゼムやベラパミルなどジヒドロピリジン系以外の薬剤を使用することができる。肥大型心筋症には,しばしばベラパミルが使用される。

ジゴキシン

ジゴキシンはナトリウム-カリウムポンプ(Na+, K+-ATPase)を阻害する。その結果,これらの薬剤は弱い陽性変力作用を生じさせ,交感神経活動が減弱し,房室結節が遮断され(心房細動における心室拍数の減少または洞調律におけるPR間隔の延長),血管収縮が減弱し,腎血流量が改善する。ジゴキシンは腎臓から排泄され,消失半減期は腎機能正常の患者で36~40時間である。

ジゴキシンの延命効果は証明されていないが,利尿薬およびACE阻害薬と併用した場合には,HFrEF患者における症状のコントロールと入院リスクの低減に役立つ可能性がある。ただし,HFrEFにはエビデンスに基づく治療法が数多く存在するため,ジゴキシンの使用例は顕著に減少しており,使用対象は死亡率を低下させる他の薬剤による至適治療を受けても有意な症状がみられる患者に限定されている。ジゴキシンは,併発した心房細動に対して心拍数をコントロールするため,または右室不全のある患者で右室機能を強化するために用いられている場合を除き,HFpEFでは使用すべきではない。ジゴキシンは,拡張末期左室容積が増大してIII音が聴取される患者で最も効果的となる。ジゴキシンの急激な中止は,入院率の上昇と症状の悪化につながる可能性がある。

腎機能が正常な患者では,ジゴキシンを年齢,性別,体格に応じた用量(0.125~0.25mg,経口,1日1回)で投与することにより,およそ1週間(半減期の5倍)で十分なジギタリス飽和が得られる。より速やかなジギタリス飽和を得るには,ジゴキシン0.5mgを15分かけて静注して8および16時間後に0.25mgを静注するか,あるいはジゴキシン0.5mgを経口投与して8,16,および24時間後に0.25mgを経口投与するればよい。処方のパターンは医師や国によって大きく異なるが,一般に,以前より低用量で使用されており,ジゴキシンのトラフ濃度(投与8~12時間後)は0.8~1.2ng/mLが望ましい。さらに,心房細動の治療とは異なり,心不全患者に対してジゴキシンを急速に投与する理由は一般的にほとんどない。このように,心不全患者に対するジゴキシン投与の開始量は,単純に0.125mg,経口,1日1回(腎機能が正常の場合)または0.125mg ,経口,毎週月曜,水曜,金曜(腎機能に異常がある場合)とすれば十分である。

ジゴキシン中毒が懸念され,腎機能障害のある患者とおそらく女性患者では特に注意が必要である。これらの患者のほか,高齢者,除脂肪体重の低い患者,およびアミオダロンを併用している患者では,低用量で経口投与する必要がある。ジゴキシンは治療域が狭い。最も重要な毒性作用は生命を脅かす不整脈である(例,心室細動,心室頻拍,完全房室ブロック)。二方向性心室頻拍,心房細動存在下での非発作性接合部頻拍,および高カリウム血症はジギタリス中毒の重篤な徴候である。悪心,嘔吐,食欲不振,下痢,錯乱,弱視,およびまれに眼球乾燥症が起こりうる。低カリウム血症または低マグネシウム血症(しばしば利尿薬使用による)がある場合,より低い用量および血清中濃度でも毒性が生じることがある。利尿薬およびジゴキシンを服用中の患者では,可能であれば異常を予防できるように,電解質値をモニタリングすべきであり,カリウム保持性利尿薬が有用となりうる。

ジゴキシン中毒が発生した場合は,その薬剤は中止するべきであり,電解質異常は是正すべきである(異常が重度で毒性が急性の場合は静注)。重度の毒性を示す患者はモニタリング下のユニットに収容し,不整脈が認められるか,または顕著な過剰摂取で血清カリウム値が5mEq/Lを超える場合には,digoxin immune Fab(ヒツジ抗ジゴキシン抗体断片)を投与する。Digoxin immune Fabは,植物の摂取による配糖体中毒にも有用である。用量は定常状態の血清ジゴキシン濃度または総摂取量に基づく。心室性不整脈はリドカインまたはフェニトインにより治療する。房室ブロックに心室拍数の低下を伴う場合は,一時的な経静脈ペースメーカーが必要になることがある。イソプロテレノールは,心室性不整脈のリスクを上昇させるため,禁忌である。

その他の薬剤

イバブラジンは,房室結節に作用して心拍数を低下させるIf(inward "funny")チャネル阻害薬である。イバブラジンは現在,ガイドラインに基づく薬物療法(β遮断薬を含むはずである)を受けているにもかかわらず,症候性の心不全がみられ,洞調律ながら心拍数が70/分を超えているHFrEF患者への使用が承認されている。一般的に,イバブラジンが有益となる可能性があるのは,β遮断薬の投与を目標用量で受けていながら心拍数が70/分を超えているか,またはβ遮断薬のさらなる増量に耐えられない,NYHAクラスIIまたはIIIの症状がみられるHFrEFの患者である。

これまでに心不全に対して種々の陽性変力薬が評価されてきたが,ジゴキシンを除き,それらの薬剤は死亡リスクを上昇させる。この種の薬剤は作用機序により,アドレナリン作動性( ノルアドレナリン アドレナリン,ドブタミン,ドパミン)と非アドレナリン作動性(エノキシモン,ミルリノン,levosimendan[カルシウム感受性増強薬])に分けることができる。外来患者への定期的な強心薬(例,ドブタミン)の静注は,死亡率を上昇させるため,推奨されない。しかし,重度のHFrEF患者には,症状緩和を目的としたドブタミンやミルリノンなど強心薬の継続静注で対応が可能である。

壁在血栓のリスクが高い非常に大きな心室を有する患者には,抗凝固薬を考慮してもよい。

薬物治療に関する参考文献

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