膜性増殖性糸球体腎炎

(メサンギウム毛細管性糸球体腎炎;小葉性糸球体腎炎)

執筆者:Frank O'Brien, MD, Washington University in St. Louis
レビュー/改訂 2020年 1月
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膜性増殖性糸球体腎炎は,腎炎とネフローゼが混合した特徴と顕微鏡的所見を共有する非均一的な疾患群である。ほとんどが小児で発生する。原因は免疫複合体の沈着で,特発性または全身性疾患への続発性である。診断は腎生検による。予後は一般的に不良である。治療は,適応の場合はコルチコステロイドおよび抗血小板薬による。

ネフローゼ症候群の概要も参照のこと。)

膜性増殖性糸球体腎炎は,光学顕微鏡検査での糸球体基底膜(GBM)の肥厚および増殖性変化を組織学的特徴とする一群の免疫性疾患である。3種類の型があり,それぞれが原発性(特発性)または続発性の原因を有することがある。原発型は8~30歳の小児と若年成人で発生し,小児のネフローゼ症候群の症例の10%を占め,続発型は30歳以上の成人で発生する傾向がある。発生率は男性と女性で同じである。一部の型で報告されている家族性症例から,遺伝因子が少なくとも一部の症例では何らかの役割を果たすことが示唆される。低補体血症には多くの因子が寄与する。

膜性増殖性糸球体腎炎I型

I型(免疫沈着物を伴うメサンギウム増殖)は全症例の80~85%を占める。特発型はまれである。I型はほとんどの場合,以下のいずれかに続発する:

Dense deposit disease(膜性増殖性糸球体腎炎II型)

II型(I型に類似するが,メサンギウム増殖はより少なく,GBMの高電子密度沈着物を伴う)は15~20%を占める。おそらくは自己免疫疾患であり,IgG自己抗体(C3腎炎因子)がC3転換酵素に結合することで,C3に不活化に対する抵抗性が付与される;蛍光抗体染色法では,高電子密度沈着物の周辺とメサンギウム領域でC3が同定される。

膜性増殖性糸球体腎炎III型

III型はI型と類似の疾患と考えられ,症例数は少ない。原因は不明であるが,免疫複合体(IgG,C3)の沈着が関係している可能性がある。補体の終末成分に対するIgG自己抗体が患者の70%で認められる。上皮下沈着物が巣状に発生する可能性があり,GBMを破壊しているようにみえる。

症状と徴候

症状と徴候は,症例の60~80%でネフローゼ症候群と同じである。腎炎症候群(急性糸球体腎炎)の症状と徴候は,I型およびIII型症例の15~20%で診察時の特徴であり,II型ではより高い割合で認められる。診断時点で30%の患者に高血圧がみられ,20%の患者に腎機能不全がみられる;高血圧は糸球体濾過量(GFR)が低下する前から発生している場合も多い。

II型の患者は眼異常(基底層のドルーゼン,びまん性網膜色素変性,円板状黄斑剥離,脈絡叢の新血管新生)の発生率がより高く,最終的に視力低下をもたらす。

診断

  • 腎生検

  • 血清補体プロファイル

  • 血清学的検査

診断は腎生検によって確定される。免疫複合体の沈着部位は,病型を鑑別する上で参考になる可能性があり,典型的にはI型で内皮下およびメサンギウム,II型で膜内,III型で上皮下である。他の検査も施行する。

血清補体プロファイルは,膜性増殖性糸球体腎炎では他の糸球体疾患と比べて異常となる頻度が高く,その診断を裏付ける所見が得られる(膜性増殖性糸球体腎炎の血清補体プロファイルの表を参照)。C3値はしばしば低値である。I型では,古典的補体経路が活性化され,C3およびC4が低下する。診断時にC4と比べC3がしばしば低下していることがあり,フォローアップ中にさらに低下するが,最終的には正常化する。II型では,代替補体経路が活性化され,I型と比較してC3がより頻繁かつ重度に低下するが,C4は正常である。III型では,C3が低下するがC4は正常である。C3腎炎因子は,II型患者の80%,I型患者の一部で検出しうる。終末補体腎炎因子はI型患者の20%,II型患者ではまれに,III型患者では70%で検出しうる。

表&コラム

血清学的検査(例,全身性エリテマトーデスB型およびC型肝炎ウイルス,クリオグロブリン血症)は,I型の続発性の原因を確認するため必要である。

診断評価の過程でしばしば行われる血算では,正色素性正球性貧血が認められ,しばしば腎機能不全の病期とは不釣合いで(おそらくは溶血が原因),さらに血小板消費に由来する血小板減少症が認められる。

予後

予後は続発性膜性増殖性糸球体腎炎の原因である病態の治療に奏効した場合は良好である。特発性I型膜性増殖性糸球体腎炎は,しばしば緩徐に進行するが,II型はより急速に進行する。一般に,長期予後は不良である。末期腎臓病は10年後には患者の50%で,20年後には90%で発生する。II型では自然寛解の発生は5%未満である。I型膜性増殖性糸球体腎炎は腎移植患者の30%で再発し,II型では90%で再発するが,この高い再発率にもかかわらず,移植片の喪失が引き起こされるのはごくまれである。タンパク尿がネフローゼレベルに達している場合は,転帰が不良となる傾向がある。

治療

  • ネフローゼレベルのタンパク尿を呈する小児にはコルチコステロイド

  • 成人にはジピリダモールおよびアスピリン

  • 末期腎臓病患者には腎移植

可能な場合は,基礎疾患を治療する。タンパク尿がネフローゼレベルに達しない(通常は進行が緩徐であることを示唆する)患者は,おそらく特異的な治療法の適応ではない。

ネフローゼレベルのタンパク尿を呈する小児には,コルチコステロイドによる治療(例,プレドニゾン2.5mg/kg,経口,1日1回を隔日[最大80mg/日])を1年間行い,その後は維持量20mgに漸減して隔日投与を3~10年間継続することで,腎機能が安定化する可能性がある。しかしながら,コルチコステロイド治療は発育遅滞および高血圧をもたらす可能性がある。

成人ではジピリダモール225mg,経口,1日1回とアスピリン975mg,経口,1日1日の1年間にわたる併用によって,3~5年後の腎機能を安定化できる可能性があるが,10年後の成績ではプラセボと差がみられない。抗血小板療法に関する試験の結果は一貫していない。

ときに通常とは異なる代替療法が施行される(例,コルチコステロイドは基礎疾患のC型肝炎を増悪させる可能性がある)。代替療法としては,C型肝炎ウイルス関連疾患に対するペグインターフェロンα-2aまたはペグインターフェロンα-2b(クレアチニンクリアランスが50mL/minを超える場合はリバビリンを追加),重症クリオグロブリン血症または急速進行性糸球体腎炎の併発に対する血漿交換とコルチコステロイドの併用などがある。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬はタンパク尿の減少と高血圧のコントロールに役立つ場合がある。

要点

  • 膜性増殖性糸球体腎炎は免疫性疾患の1群であり,いくつかの組織学的特徴を共有する。

  • 患者はほとんどの場合,ネフローゼ症候群の状態で受診するが,腎炎症候群の状態で受診することもある。

  • 診断は腎生検により確定し,さらに血清補体プロファイルおよび血清学的検査を施行する。

  • ネフローゼレベルのタンパク尿を呈する小児はコルチコステロイドにより治療する。

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