在胎不当過大児(LGA児)

執筆者:Arcangela Lattari Balest, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 4月
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在胎期間に対して体重が90パーセンタイル以上の新生児は,在胎不当過大(large for gestational age)に分類される。巨大児とは,出生体重が4000g以上の正期産児をさす。主な原因は母体糖尿病である。合併症には,分娩外傷,低血糖,過粘稠度,および高ビリルビン血症がある。

在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの期間を指す。在胎期間は実際の胎齢とは異なるが,産科医および新生児専門医が胎児の成熟を議論する上での世界共通の基準となっている。

Fenton成長曲線により,在胎期間に対するより正確な発育の評価が可能になる( see figure 早産男児のFenton成長曲線および see figure 早産女児のFenton成長曲線)。

早産男児のFenton成長曲線

Fenton T, Kim J: A systematic review and meta-analysis to revise the Fenton growth chart for preterm infants. BMC Pediatrics 13:59, 2013.doi: 10.1186/1471-2431-13-59; used with permission.Available at www.biomedcentral.com.

早産女児のFenton成長曲線

Fenton T, Kim J: A systematic review and meta-analysis to revise the Fenton growth chart for preterm infants. BMC Pediatrics 13:59, 2013.doi: 10.1186/1471-2431-13-59; used with permission.Available at www.biomedcentral.com.

病因

遺伝的要因以外で,在胎不当過大児(LGA児)となる主な原因は母体糖尿病である。体が大きいことは,在胎中に母体の過剰な血糖に反応して生じる胎児の高インスリン状態による同化作用の結果である場合や,ときに尿中へのグルコース排出を補うための母親によるカロリー摂取増加の結果である場合がある。妊娠中の母体糖尿病のコントロールが不良であるほど,胎児の体は大きくなる。

巨大児のまれな原因には,ベックウィズ-ヴィーデマン症候群(巨大児,臍帯ヘルニア,巨舌症,および低血糖を特徴とする),Sotos症候群,Marshall症候群,およびWeaver症候群がある。

症状,徴候および治療

LGA児は大きく,肥満で,多血である。5分時のアプガースコアは低いことがある。このような乳児は元気がなく,だらりとしており,哺乳不良を呈することがある。分娩合併症はどのLGA児でも起こる可能性がある。先天異常ならびに一部の代謝性および心合併症は,母体糖尿病のLGA児に特異的である。

分娩合併症:

新生児の体が大きいために経腟分娩が困難となる場合があり,ときに分娩損傷が生じる;特に以下がみられる:

他の合併症は体重が4000g以上の場合起こる。以下により,罹病率および死亡率が比例的に上昇する:

糖尿病母体児(IDM):

糖尿病母体児には以下のリスクがある:

高インスリン状態,および臍帯切断によって母体からのブドウ糖供給が突然絶たれるため,出生後最初の数時間に低血糖が生じる可能性が非常に高い。出生前に母体糖尿病を綿密に管理し,早期に頻回の哺乳を行うことによって,新生児低血糖を低減できる。生後24時間は,ベッドサイドでの検査により血糖値を注意深くモニタリングすべきである。まず40%グルコースゼリーによる経口治療を試みることもあるが,低血糖が持続する場合は,ブドウ糖の静脈内投与を行う。

低カルシウム血症および低マグネシウム血症が起こる可能性があるが,通常一過性かつ無症候性である。出生前の血糖管理が良好な場合,新生児低カルシウム血症のリスクは低下する。低カルシウム血症の臨床徴候を認めるか,正期産児で血清総カルシウム値が7mg/dL(1.75 mmol/L)未満またはイオン化カルシウム値が4mg/dL(1 mmol/L)未満の場合を除いて,低カルシウム血症は一般に治療を要しない。イオン化カルシウム値は利用可能なカルシウムをより正確に反映するため,治療はイオン化カルシウム値に基づくべきである。治療は通常,グルコン酸カルシウムを静脈内投与で補給する。低マグネシウム血症は副甲状腺ホルモンの分泌を妨げることがあるため,マグネシウムの値が是正されるまで低カルシウム血症が治療に反応しない可能性がある。

赤血球増多は,糖尿病母体児でみられることがやや多い。インスリン値上昇により胎児の代謝が亢進するため,酸素消費量が増大する。胎盤が酸素消費量増大に対応できない場合,胎児低酸素血症が起こり,エリスロポエチン増加を誘発しそのためヘマトクリットも上昇する。

高ビリルビン血症はいくつかの原因から生じる。糖尿病母体児は,生後数日間にわたり経口での栄養摂取に耐えられないことが多く(特に早期産の場合),そのためビリルビンの腸肝循環が増大する。また赤血球増多症がある場合,ビリルビン負荷が増大する。

呼吸窮迫症候群(RDS)の発生は,インスリン値の上昇によりサーファクタント産生が減少することによる;肺成熟が在胎後期まで遅延しうる原因でもある。RDSは,後期早産児または正期産児でも発生する可能性がある。呼吸窮迫症候群の治療については本マニュアルの別の箇所で考察されている。

新生児一過性多呼吸は,胎児の肺液排出遅延のため,糖尿病母体児でみられる可能性が2~3倍高い。

先天異常は,器官発生時の母体高血糖が有害であることから,糖尿病母体児で起こる可能性が高い。特異的な異常としては以下のものがある:

  • 先天性心疾患(肥大型心筋症,心室中隔欠損症,大血管転位症,および大動脈弁狭窄症)

  • 尾部退行症候群(caudal regression syndrome)

  • 二分脊椎

  • small left colon syndrome

また持続的なインスリン値上昇によって,心筋細胞でのグリコーゲンおよび脂肪の沈着が増加する可能性がある。この沈着によって,一過性の心筋肥大が主に中隔に起こりうる。

要点

  • 母体糖尿病が在胎不当過大児の主な原因である。

  • 体が大きいこと自体が分娩損傷(例,鎖骨骨折または四肢長管骨骨折)および周産期仮死のリスクを増大させる。

  • 糖尿病母体児では,低血糖,低カルシウム血症,および赤血球増多症などの代謝性合併症が分娩直後にみられる可能性がある。

  • 糖尿病母体児には,呼吸窮迫症候群および先天異常のリスクがある。

  • 母体血糖値の良好な管理によって,合併症リスクが最小となる。

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