サイトメガロウイルス(CMV)感染症

(巨細胞封入体症)

執筆者:Kenneth M. Kaye, MD, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2019年 10月
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サイトメガロウイルス(CMV,ヒトヘルペスウイルス5型)は,重症度に大きな幅のある感染症を引き起こす。伝染性単核球症に類似するが重度の咽頭炎を欠いた症候群がよくみられる。HIV感染患者,臓器移植レシピエント,およびその他の易感染性患者において,網膜炎など重度の局所疾患が生じうる。新生児および易感染性患者では,重度の全身性疾患が発生することがある。臨床検査による診断は重症例において役に立ち,培養,血清学的検査,生検,抗原または核酸の検出などを行う。ガンシクロビルおよびその他の抗ウイルス薬は,重症疾患,特に網膜炎の治療に使用される。

ヘルペスウイルス感染症の概要先天性および周産期サイトメガロウイルス感染症も参照のこと。)

CMV(ヒトヘルペスウイルス5型)は血液,体液,または移植臓器を介して伝播される。感染は経胎盤的または経産道的に成立しうる。

抗体保有率は年齢とともに上昇し,成人では60~90%がCMV感染歴を有する(生涯にわたり潜伏感染となる)。社会経済的状態が低い集団の方が抗体保有率はより高い傾向がある。

先天性CMV感染症は,無症候性のこともあれば,流産,死産,または出生後死亡の原因となることもある。合併症としては,広範な肝傷害や中枢神経系傷害などがある。

後天性感染は,しばしば無症候性である。

CMV単核球症と呼ばれる急性熱性疾患により,アミノトランスフェラーゼ値の上昇を伴う肝炎(通常は黄疸を伴わず無症状)や,エプスタイン-バーウイルス(EBV)による伝染性単核球症に類似した異型リンパ球増多が生じることがある。

CMVを含有する血液製剤の輸血から2~4週間後に灌流後/輸血後症候群(postperfusion/posttransfusion syndrome)が発生することがある。その場合,2~3週間続く発熱がみられ,CMV単核球症と同じ臨床像を呈する。

易感染性患者では,CMVは合併症および死亡の主要な原因である。疾患はしばしば,潜伏性ウイルスの再活性化に起因する。肺,消化管,または中枢神経系が影響を受ける可能性がある。AIDSの末期段階においては,CMV感染により最大40%の患者に網膜炎が生じ,眼底検査で観察できる網膜異常が発生する。結腸の潰瘍性疾患(腹痛および消化管出血を伴う),または食道の潰瘍性疾患(嚥下痛を伴う)が発生することがある。

CMV感染症の診断

  • CMV抗原またはDNAの検出

  • 乳児では尿培養

  • 易感染性患者ではしばしば生検

  • 血清学的検査

CMV感染症は以下の患者で疑われる:

  • 単核球症様の症候群を呈する健康な患者

  • 消化管,中枢神経系,または網膜の症状を有する易感染性患者

  • 全身性疾患を有する新生児

CMV単核球症は,咽頭炎の欠如,異好抗体検査での陰性,およびCMV血清学的検査により,伝染性(EBV)単核球症と鑑別できる。CMV感染症は,肝炎の血清学的検査によってウイルス性肝炎と鑑別できる。臨床検査によるCMV初感染の確定診断は,その他の(特に治療可能な)病態または重篤な疾患(急性HIV感染症など)と鑑別する場合にのみ必要となる。

抗体陽転はCMV抗体の発現によって証明することができ,これは新たなCMV感染を意味する。しかしながら,CMV疾患の多くは易感染性宿主における潜在的疾患の再活性化に由来する。CMVの再活性化により,尿中,他の体液中,または組織内にウイルスが出現するが,血中や組織中にCMVが存在するからといって必ずしも疾患を意味するとは限らず,単にウイルスが排出されていることを表すに過ぎないことがある。したがって,侵襲性疾患の証明には,生検によってCMVが異常の原因であることを示す必要がしばしばある。末梢血からのCMV抗原またはDNAの定量的検出も非常に有益なことがあり,CMVウイルス価が高い,または上昇しつつあれば,侵襲性疾患が強く示唆されることが多い。

乳児におけるCMV感染症の診断は,尿培養で可能である。

CMV感染症の治療

  • 重篤な疾患には,抗ウイルス薬(例,ガンシクロビル,バルガンシクロビル,ホスカルネット,シドホビル[cidofovir])

CMV網膜炎は,大半がAIDS患者で発生し,抗ウイルス薬の全身投与により治療する。

抗CMV薬は網膜炎以外の重症疾患の治療にも使用されるが,網膜炎の場合に比べ一貫して効果は劣る。

CMV網膜炎

CMV網膜炎の導入および維持療法に使用される薬剤としては以下のものがある:

  • ガンシクロビルまたはバルガンシクロビル

  • ホスカルネット(ガンシクロビルと併用する場合もある)

  • シドホビル(cidofovir)

大半の患者は以下のいずれかの導入療法を受ける:

  • ガンシクロビル5mg/kg,静注,12時間毎,2~3週間

  • バルガンシクロビル900mg,経口,12時間毎,21日間

導入療法が2回以上失敗に終わった場合は,別の薬物を使用すべきである。

導入療法後に以下のいずれかで維持(再発抑制)療法を施行する:

  • ガンシクロビル5mg/kg,静注,1日1回

  • バルガンシクロビル900mg,経口,1日1回

代わりに,ガンシクロビル併用または非併用でホスカルネットが投与されることもある。用法・用量は以下の通りである:

  • 導入療法:ホスカルネット60mg/kg,静注,8時間毎,2~3週間

  • 維持療法:ホスカルネット90~120mg/kg,静注,1日1回

静注ホスカルネットの有害作用は有意であり,具体的には腎毒性,症候性低カルシウム血症,低マグネシウム血症,高リン血症,低カリウム血症,中枢神経系作用などがある。ガンシクロビルとホスカルネットの併用療法では,有害作用が増える一方,効力も上昇する。

シドホビル(cidofovir)療法も別の代替選択肢であり,以下で構成される:

  • 導入療法:シドホビル(cidofovir)5mg/kg,静注,週1回,2週間

  • 維持療法:シドホビル(cidofovir)5mg/kg,静注,隔週

シドホビル(cidofovir)の効力は,ガンシクロビルおよびホスカルネットと同程度である。腎不全などの著明な有害作用があるため,使用は制限される。シドホビル(cidofovir)は虹彩炎または低眼圧(眼圧 ≤ 5mmHg)を引き起こす可能性がある。プロベネシドの投与および投与毎に事前の水分補給を行うことで,腎毒性が起こる確率を低減できる。しかしながら,発疹,頭痛,発熱などのプロベネシドの有害作用が強く現れるために使用が困難になる場合もある。

どの維持療法のレジメンでも,抗レトロウイルス療法(ART)を受けておりCD4陽性細胞数が3カ月間100/μL以上であったHIV感染患者では,CMVの治療を3カ月続けた後,維持療法の中止を考慮できる。

視力を直ちに脅かすCMV網膜炎患者(すなわち,視神経もしくは黄斑またはその周辺の病変)に対しては,抗ウイルス薬の硝子体内投与を全身療法との併用で用いるべきである。眼内注射を受けた患者でも,対側眼および眼球外組織へのCMV感染を防ぐために全身療法が必要となる。

CMV感染症の予防

予防または先制治療(ウイルス量で患者を積極的にモニタリングすること,および感染の証拠がある患者に抗ウイルス薬を投与すること)は,CMVに感染し,CMVによる疾患リスクを有する実質臓器または造血細胞移植レシピエントにおいて,CMV疾患発症予防に効果がある。使用される薬剤としては,ガンシクロビル,バルガンシクロビル,ホスカルネットなどがある。

CMV感染症の要点

  • 60~90%の成人でCMVの潜在感染がみられる。

  • 健康な小児および成人がCMVに初回感染した際の症状は,通常軽度で非特異的であるが,ときに単核球症様症候群を呈することがある。

  • 先天性感染症は死産や,ときに死に至る重度の出生後合併症(広範囲な肝障害もしくは中枢神経系障害など)を引き起こす可能性がある。

  • 重度の易感染性患者では,網膜,肺,消化管,または中枢神経系に及ぶ重症疾患がみられることがある。

  • 抗ウイルス薬は,網膜炎の治療に役立つことがあるが,他の臓器が侵されている場合は有効性が低くなる。

  • CMV感染のリスクがある臓器移植患者では,予防的抗ウイルス療法または感染症初期症候の綿密なモニタリングが必要である。

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