ウェルニッケ脳症は、ビタミンB群の1つである チアミンの重度の欠乏 チアミン欠乏症 チアミン欠乏症(脚気やその他の問題を引き起こす)は、食料不安の蔓延率が高い国で食事が主に白米や高度に精製された炭水化物から成る人や、アルコール使用障害の患者に最も多くみられます。 主として白小麦粉や白砂糖、その他の高度に精製された炭水化物から成る食事は、チアミン欠乏症の原因となることがあります。 最初は疲労や易怒性などの漠然とした症状がみられますが、重度の欠乏症(脚気)では神経、筋肉、心臓、脳に影響が及ぶことがあります。... さらに読む が原因で発症します。体内にチアミンが少量しか蓄えられていない場合、炭水化物の摂取が誘因となることがあります。
重度の アルコール使用障害 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む の患者は、長期にわたる過剰なアルコール摂取により、消化管からのチアミンの吸収や、肝臓のチアミンの貯蓄が妨げられるため、しばしばウェルニッケ脳症を発症します。また、アルコール使用障害の患者はきちんとした食事をしていないことが多いため、チアミンを十分摂取していません。ウェルニッケ脳症は長期間の低栄養やビタミン欠乏症の原因となる他の状態でも起こることがあります。このような状態として、透析、重度の嘔吐、飢餓状態、胃バイパス術、がん、エイズなどがあります。
ウェルニッケ脳症の症状
ウェルニッケ脳症は以下のような症状を引き起こします。
錯乱
眠気
眼球の不随意運動(眼振)
眼の筋肉の部分麻痺(眼筋麻痺)
平衡感覚の喪失(バランスを保つために、足を広げ、ゆっくりと小刻みに歩きます。)
体内の処理に異常をきたし、 振戦 振戦 振戦とは、手、頭、声帯、体幹、脚などの体の一部に起こる、不随意でリズミカルなふるえです。振戦は、筋肉の収縮と弛緩が繰り返されたときに起こります。 ( 運動障害の概要も参照のこと。) 振戦には以下の種類があります。 正常(生理的)なもの 病気または薬剤によって引き起こされる異常(病的)なもの さらに読む 、興奮、低体温、立ち上がったときの突然の血圧低下(起立性低血圧 立ちくらみ 一部の人、特に高齢者では、上体を起こしたり、立ち上がったりすると、血圧が極度に低下することがあります(起立性低血圧や体位性低血圧と呼ばれます)。立ち上がると(特にベッドで寝ていた後や長時間にわたって座っていた後に)数秒間から数分間にわたって気が遠くなる、ふらつき、めまい、混乱、かすみ目などの症状が起こり、横になるとそれらの症状は速やかに消失します。しかし、なかには転倒や失神、また極めてまれですが短時間のけいれんが起こる場合もあります。こ... さらに読む )、 失神 失神 ふらつき(失神寸前の状態)とは、気を失いそうな感覚のことです。 失神(気絶)は、突然生じる短時間の意識の消失で、地面に倒れたり椅子の上で崩れ落ちたりした後、意識が回復します。失神した人は動きのない、ぐったりとした状態になるほか、脚と腕が冷たくなったり、脈が弱くなったり、呼吸が浅くなったりすることがあります。 失神前にふらつきやめまいを感じる人もいます。また、吐き気、発汗、かすみ目または視野狭窄、唇や指先のピリピリ感、胸痛、動悸が起こる人... さらに読む などを起こします。
ウェルニッケ脳症の診断
医師による評価
この病気は、特徴的な症状と低栄養またはチアミン欠乏症がみられる場合に疑われ、特にアルコール使用障害がある場合は強く疑われます。
通常は、血糖値を測定する血液検査や血算、肝臓の検査、画像検査などの検査を行うことで、他の原因の可能性を否定します。通常の検査では、チアミン値の測定は行われません。
ウェルニッケ脳症の予後(経過の見通し)
予後は、いかに早く病気を診断して治療を行うかにかかっています。迅速に治療することで、すべての異常が是正されます。眼の障害は通常、治療開始から24時間以内に改善します。しかし、平衡感覚の喪失と錯乱は数日から数カ月続くことがあり、記憶障害は完全には回復しないことがあります。
治療しなければ、約10~20%の人が死亡します。生存者の80%で コルサコフ精神病 コルサコフ精神病 コルサコフ精神病は、 長期に及ぶチアミン欠乏症の合併症であり、最近の出来事に関する記憶障害、錯乱、行動変化が生じます。ウェルニッケ脳症とともに診断されることがよくあります。 ( 薬物使用と薬物乱用も参照のこと。) コルサコフ精神病は、 ウェルニッケ脳症(長期間にわたり大量の アルコールを摂取する人に生じうる一種のビタミン欠乏症によって引き起こされる脳疾患)を治療しないでいる人の80%に発生します。先に典型的なウェルニッケ脳症の発作が生じ... さらに読む (記憶障害、錯乱、行動変化がみられる病気)が生じます。この組合せはウェルニッケ-コルサコフ症候群と呼ばれます。
ウェルニッケ脳症の治療
チアミン
マグネシウム
飲酒をやめる
直ちに静脈内注射または筋肉内注射でチアミンを投与します。1日1回少なくとも3~5日間続けます。体内のチアミン代謝を助けるマグネシウムも注射か経口で投与します。電解質(カリウム 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低いこと) 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カリウム濃度の低下には多くの原因がありますが、通常は嘔吐、下痢、副腎の病気、利尿薬の使用が原因で起こります。 カリウム濃度が低下すると、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつり、さらには麻痺が生じるほか、不整脈を起こすことがあります。 診断は、カリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 通常は、カリウムを豊富に含む食べものを食べるか、カリウムのサプリメントを飲むだ... さらに読む など)濃度の異常は、水分と総合ビタミンを投与すると是正されます。入院が必要になる場合もあります。
ウェルニッケ脳症の人は飲酒をやめなければなりません。最初の治療後、チアミンサプリメントの服用を続ける必要があります。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
アルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous):飲酒問題を抱える人の国際的な自助グループで、メンバーのアルコール依存克服を支援するとともに他の人にもそれができるよう支援する12段階のアプローチの先駆けとなりました。
ハゼルデン・ベティ・フォード財団(Hazelden Betty Ford Foundation):依存症や精神衛生上の問題を抱える成人と若年者を対象とした包括的な入院・外来サービスを提供する非営利団体です。
ライフ・リング(LifeRing):従来の12段階のプログラムに代わるものとして、実際の経験の共有および禁酒サポートを促進することにより、薬物およびアルコール使用の問題を有する人々を支援しています。
フェニックス・ハウス(Phoenix House):アルコホーリクス・アノニマスが使用しているものと同様の12段階のプログラムを通じて、原因となった物質にかかわらず、嗜癖との闘いを支援します。
サマリタン・デイトップ・ビレッジ(Samaritan Daytop Village):ニューヨーク州に本拠地を置く団体で、退役軍人、母親と新生児、ホームレスなど、依存症と闘っている様々な人々を支援しています。