右心室と肺動脈の間にある心臓弁が狭くなっています。
大半の患児では、心雑音が唯一の症状になりますが、乳児期に狭窄が重度になると、皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)や右心不全の徴候(疲労や肝臓の腫大など)がみられることもあります。
診断は聴診器で聴取される心雑音に基づいて疑われ、心エコー検査で確定されます。
弁を広げるためのバルーン弁形成術、または弁を再建するための手術が必要になる場合があります。
(心臓の異常の概要 心臓の異常の概要 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む も参照のこと。成人におけるこの病気については、 肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症 肺動脈弁狭窄症は、肺動脈弁の開口部が狭くなり、右心室から肺動脈に向かう血流が遮断(閉塞)される病気です。しばしば出生時から存在し(先天性)、そのため小児にみられます。 ( 心臓弁膜症の概要と動画「心臓」も参照のこと。) 肺動脈弁は、右心室と肺につながる血管(肺動脈)の間の開口部にあります。肺動脈弁は、右心室が収縮し、肺に血液を送り出す際に開きます。特定の病気により弁の開口部が狭くなります(狭窄)。... さらに読む を参照のこと。)
肺動脈弁狭窄症の小児の多くでは、弁の狭窄は軽度から中等度で、弁から血液を押し出すために、右心室は普通より少し強く、高い圧をかけて血液を送り出さなくてはなりません。重度の狭窄があると、右心室内の圧力が高まり、肺に到達できる血液の量が制限されることがあります。右心室内の圧力が極端に高くなると、右心室の前にある弁で血液の漏れが起こることがあり、それにより酸素の少ない血液が右心房に逆流し、さらに心房の壁にある孔(心房中隔欠損 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症 心房中隔欠損症と心室中隔欠損症とは、心臓の右側部分と左側部分を隔てる壁(中隔)に孔が開いた状態です。 その孔は、上側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあれば、下側の2つの心腔を隔てる壁にみられることもあります。 欠損孔の多くは小さいもので、症状を示さず、治療をしなくても閉鎖します。 診断は、典型的な心雑音(狭窄もしくは漏れのある心臓弁または異常な心臓の構造を通る血液の乱流によって生じる音)に基づいて疑われ、心エコー検査によって確定さ... さらに読む )を通過することで、 右左短絡 血流の短絡 約100人に1人は心臓に異常をもって生まれます。重症の場合もありますが、多くはそうではありません。心臓の異常には心臓壁、弁、心臓に出入りする血管の異常形成などがあります。 心臓の先天異常の症状は年齢に応じて変わります。乳児では、努力性呼吸や速い呼吸、哺乳不良、授乳中の発汗または呼吸数の増加、唇または皮膚の青みがかった変色(チアノーゼ)、異... さらに読む が生じます。右左短絡では、心臓の右側からの酸素の少ない血液が、心臓の左側部分から全身に送り出される酸素の豊富な血液と混ざり合ってしまいます。酸素が少ない(青い)血液が全身に流れる量が多くなるほど、体の色が青くなります。
症状
肺動脈弁狭窄症の小児の大半は無症状です。肺動脈弁に重度の狭窄があると、体表、特に唇、舌、皮膚、爪床が青みがかった色になることがあります(チアノーゼ)。新生児と乳児では、年長の小児よりもチアノーゼが起きる可能性が高いです。重度の肺動脈弁狭窄症がある年長の小児では、疲労や息切れがみられる可能性が高いです(図「 心不全:拡張機能障害と収縮機能障害 心不全:拍出と充満の異常 」を参照)。
診断
心エコー検査
医師は多くの場合、聴診器で特定の種類の心雑音が聴取されたときに肺動脈弁狭窄症を疑います。心雑音とは、狭窄もしくは漏れのある心臓弁または異常な心臓の構造を通る血液の乱流によって生じる音です。
心エコー検査 心エコー検査とその他の超音波検査 超音波検査では、周波数の高い超音波を内部の構造に当てて跳ね返ってきた反射波を利用して動画を生成します。この検査ではX線を使いません。心臓の超音波検査(心エコー検査)は、優れた画像が得られることに加えて、以下の理由から、心疾患の診断に最もよく用いられる検査法の1つになっています。 非侵襲的である 害がない 比較的安価である 広く利用できる さらに読む (心臓の超音波検査)により診断が確定されます。
典型的には 心電図検査 心電図検査 心電図検査は心臓の電気刺激を増幅して記録する検査法で、手早く簡単に行える痛みのない方法です。この記録は心電図と呼ばれ、以下に関する情報が得られます。 心臓の1回1回の拍動を引き起こしている、ペースメーカーとしての部分(洞房結節、洞結節) 心臓の神経伝導経路 心拍数や心拍リズム 心電図では、心臓が拡大していること(通常の原因は 高血圧)や、心臓に血液を供給する冠動脈の1つが閉塞しているために心臓に十分な酸素が行き届いていないことが示される... さらに読む と 胸部X線検査 胸部X線検査 心疾患が疑われる場合は、必ず正面と側面から 胸部X線画像を撮影します。通常、患者が直立した状態で撮影しますが、立っていられない患者にはベッドに横になった状態で胸部X線検査を行うことがあります。そして、装置からX線を体に照射し、X線フィルムに画像を記録します。検査は痛みを伴いません。 X線画像では心臓の形と大きさ、肺や胸部を流れる太い血管の輪郭が分かります。心臓の形や大きさの異常、血管内へのカルシウムの沈着といった異常は容易に確認できます... さらに読む も行われます。結果は通常は正常ですが、心電図検査で心臓の右側部分の肥大が示されることもあります。
治療
プロスタグランジンなどの動脈管を開いた状態に保つ薬
バルーン弁形成術または手術
治療法は症状の重症度によって異なります。
新生児にチアノーゼがみられるような重症例は、プロスタグランジンの静脈内投与により治療されます。プロスタグランジンは動脈管を開いた状態に保つため、多くの血液が肺に送られ、乳児の血液中の酸素レベルが上昇します。この薬剤は通常、バルーン弁形成術または外科手術で弁が修復できるようになるまで使用を続けます。バルーン弁形成術では、先端にバルーンを取り付けた細いチューブ(カテーテル)を腕または脚の血管から挿入し、狭窄した弁に到達させます。このバルーンを膨らませることで、狭くなった弁の開口部が拡張されます。
弁の狭窄が中程度または重度である場合、医師は通常、チアノーゼのない乳児にもバルーン弁形成術を行います。
弁が非常に小さいか、著しく肥厚している場合、バルーン弁形成術では不十分なことがあります。その場合は、手術によって、肺動脈弁を開通させたり再建したりします。
歯科受診や手術の前に抗菌薬を服用する必要はありません。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国心臓協会:一般的な心臓の異常(American Heart Association: Common Heart Defects):親と養育者に向けて一般的な心臓の先天異常の概要を提供している
米国心臓協会:感染性心内膜炎(American Heart Association: Infective Endocarditis):親と養育者に向けて感染性心内膜炎の概要(抗菌薬使用の要約を含む)を提示している