
肺炎球菌は、感染者がせきやくしゃみをすると空気中に撒き散らされます。
肺炎球菌感染症により、通常は発熱と全身のけん怠感や、感染部位に応じた他の症状が現れます。
診断は、症状や感染部位のサンプル中で特定された細菌に基づいて下されます。
幼児には肺炎球菌感染症のワクチンを定期的に接種しますが、それ以外にも感染のリスクが高いすべての人にワクチン接種が推奨されます。
通常はペニシリンや他の抗菌薬による治療が効果的です。
(細菌の概要 細菌の概要 細菌は、顕微鏡でようやく見える程度の単細胞生物です。この地球上で最も初期の段階から存在する生命体の1つです。数千種類の細菌が存在し、世界中のあらゆる環境に生息しています。土壌、海水、地中深くはもちろん、放射性廃棄物の中で生きている細菌すら報告されています。多くの細菌が、宿主に害を与えずに、人間や動物の皮膚、気道、口の中、消化管、尿路や生殖... さらに読む も参照のこと。)
90種類以上の肺炎球菌が存在します。しかし、そのうち重篤な感染症を引き起こす菌は、ほんの数種です。
肺炎球菌は自然宿主として、特に冬から春先にかけて健康な人の上気道に存在します。この細菌は以下の行為によって人から人に感染します。
くしゃみやせきで飛散した飛沫を吸入する
感染者と濃厚な接触がある
介護施設、刑務所、軍の拠点、ホームレスのシェルター、デイケア施設などを居住、滞在、作業の場としている集団生活グループでは、感染が広がりやすいようです。
危険因子
肺炎球菌感染症の発症リスクと重症度は、以下の特定の条件によって高まります。
慢性疾患(心臓や肺の病気、 糖尿病 糖尿病 糖尿病は、体がインスリンを十分に産生しないかインスリンに正常に反応しないため、血中の糖分の濃度(血糖値)が異常に高くなる病気です。 排尿が増加し、のどが渇くほか、減量しようとしていなくても体重が減少することがあります。 神経を損傷し、知覚に問題が生じます。 血管を損傷し、心臓発作、脳卒中、慢性腎臓病、視力障害のリスクが高まります。... さらに読む 、 肝疾患 肝疾患の概要 肝疾患は、様々な形で現れます。特徴的な症状や徴候には、以下のものがあります。 黄疸(皮膚や白眼の部分が黄色くなる症状) 胆汁うっ滞(胆汁の流れの減少または停止) 肝腫大(肝臓が大きくなる) 門脈圧亢進症(腸から肝臓に向かう静脈の血圧が異常に高くなること) さらに読む など)
コルチコステロイドや化学療法薬などの 免疫系を抑制する薬 免疫不全を引き起こす可能性がある主な薬剤
長期療養施設での生活
アボリジニ、アラスカ先住民のほか、アメリカンインディアンの特定の集団
インフルエンザ インフルエンザ (流感) インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる肺と気道の ウイルス感染症です。感染すると、発熱、鼻水、のどの痛み、せき、頭痛、筋肉痛、全身のだるさ(けん怠感)が生じます。 ウイルスは、感染者のせきやくしゃみで飛散した飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。 まず悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。... さらに読む や 慢性気管支炎 慢性閉塞性肺疾患(COPD) は、気道の内膜を損傷することがあり、肺炎球菌感染の温床となります。
また、健康であっても、高齢者が肺炎球菌に感染すると症状や合併症が重くなる傾向があります。
症状と診断
肺炎球菌感染症の症状は、感染した部位によって異なります。
ほとんどの肺炎球菌感染症は次の部位で起こります。
この細菌は血流に入り、全身に拡散する場合もあります(菌血症 菌血症 菌血症とは血流に細菌が存在する状態をいいます。 菌血症は、日常的な行為(激しい歯磨きなど)、歯科的または医学的処置、あるいは感染症( 肺炎や 尿路感染症)が原因となります。 人工関節や人工心臓弁を使用している人や心臓弁に異常がある人では、菌血症が長引くリスクや菌血症で症状が生じるリスクが高まります。 菌血症では通常、症状はみられませんが、ときに特定の組織や臓器に細菌が増殖して、重篤な感染症を引き起こすことがあります。... さらに読む と呼ばれます)。脳と脊髄を覆う組織で感染症(髄膜炎 急性細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎とは、急速に進行する髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症のうち、細菌が原因であるものをいいます。 年長の小児や成人では、あごを胸につけるのが難しくなる症状(項部硬直といいます)が現れ、また通常は発熱や頭痛もみられます。 乳児では、項部硬直がみられないことがあり、体調が悪そうに見えたり、体温が高くまたは低くなったり、哺乳が少なくなったり、眠そうにむずかったりするだけのことがあります。... さらに読む )が生じる場合や、それより頻度は少ないものの、心臓弁(心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は、心臓の内側を覆っている組織(心内膜)に生じる感染症で、通常は心臓弁にも感染が及びます。 感染性心内膜炎は、血流に入った細菌が損傷のある心臓弁に到達して、そこに付着することで発生します。 急性細菌性心内膜炎では通常、高熱、頻脈(心拍数の上昇)、疲労、そして広範囲にわたる急激な心臓弁の損傷が突然もたらされます。... さらに読む )、骨、関節、腹腔で感染症が起こる場合があります。
肺炎球菌性肺炎
多くの場合、肺炎球菌性 肺炎 肺炎の概要 肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。 肺炎は、世界で最も一般的な死因の1つです。 重篤な慢性の病気が他にある患者において、肺炎はしばしば最終的な死因となります。 肺炎の種類によっては、ワクチンの接種によって予防できます。 米国では、毎年約200~300万人が肺炎を発症し、そのうち約6万人が死亡していま... さらに読む の症状は突然に始まります。発熱、悪寒、全身のだるさ(けん怠感)、息切れ、せきがみられます。赤褐色のたんの絡んだせきが出ます。
よくみられる症状として、強い、刺すような胸の痛みが左右どちらかに起こります。深く息を吸い込んだり、せきをしたりすると痛みが悪化します。約40%の人で 胸水 胸水 胸水とは、胸腔(厳密には2つの胸膜の間)に液体が異常にたまることや、その液体自体のことをいいます。 胸腔に液体がたまる原因としては、感染症、腫瘍、外傷、心不全、腎不全、肝不全、肺血管の血栓(肺塞栓症)、薬物など、数多くあります。 症状には、呼吸困難や胸痛などがあり、特に呼吸やせきをしたときに現れます。 診断には、胸部X線検査や胸水の検査が用いられ、CT血管造影検査もよく使用されます。... さらに読む (肺を覆う2層の胸膜の間に体液がたまった状態)がみられます。胸水は胸の痛みの一因かもしれず、また、胸水がたまっていると息がしにくくなります。
胸部X線検査を行い、肺炎の徴候がないか調べます。たんのサンプルを採取し、顕微鏡で調べます。たん、膿、血液のサンプルを検査室に送り、細菌を増殖させる検査(培養検査)を行います。肺炎球菌の特定は容易です。どの抗菌薬が効果的かを確認するための検査(感受性試験 微生物の抗菌薬に対する感受性試験 感染症は、 細菌、 ウイルス、 真菌、 寄生虫などの 微生物によって引き起こされます。 医師は、患者の症状や身体診察の結果、危険因子に基づいて感染症を疑います。まず、患者がかかっている病気が感染症であり、他の種類の病気ではないことを確認します。例えば、せきが出て、呼吸が苦しいと訴える人は、肺炎(肺の感染症)の可能性があります。また、喘息や... さらに読む )も行います。
肺炎球菌性髄膜炎
肺炎球菌性 髄膜炎 急性細菌性髄膜炎 急性細菌性髄膜炎とは、急速に進行する髄膜(脳と脊髄を覆う組織層)とくも膜下腔(髄膜と髄膜の間の空間)の炎症のうち、細菌が原因であるものをいいます。 年長の小児や成人では、あごを胸につけるのが難しくなる症状(項部硬直といいます)が現れ、また通常は発熱や頭痛もみられます。 乳児では、項部硬直がみられないことがあり、体調が悪そうに見えたり、体温が高くまたは低くなったり、哺乳が少なくなったり、眠そうにむずかったりするだけのことがあります。... さらに読む では、発熱、頭痛、全身のだるさ(けん怠感)がみられます。また、あごを下げて胸に近づけようとすると痛みが出て首が硬くなる項部硬直という徴候がみられますが、発症早期ではこの徴候がみられない場合もあります。
年長の小児や成人とは異なり、 髄膜炎の乳児 新生児および生後12カ月未満の乳児 細菌性髄膜炎とは、脳と脊髄を覆う膜( 髄膜)に起きる感染症です。 細菌性髄膜炎は、月齢の高い乳児と小児では、通常、呼吸器系に入った細菌が原因になり、新生児では、しばしば血流の細菌感染( 敗血症)から引き起こされます。 年長児や青年では発熱を伴う項部硬直、頭痛、錯乱がみられ、新生児や幼若な乳児では通常、むずかる、食べなくなる、嘔吐するなどの症状が現れます。 診断は、腰椎穿刺と血液検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む で項部硬直がみられることはほとんどありません。乳児は、食事を嫌がったり、不機嫌になったり、動作や反応が緩慢になったりします。
肺炎球菌性髄膜炎は、次のような合併症を引き起こす可能性があります。
難聴(患者の最大50%)
けいれん発作
学習障害
精神機能障害
肺炎球菌性髄膜炎を診断するには、 腰椎穿刺 腰椎穿刺 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む を行い、髄液(脳と脊髄の周囲を流れている体液)のサンプルを採取します。このサンプルを用いて、白血球や細菌などの感染の徴候がないか調べます。
肺炎球菌性中耳炎
肺炎球菌性 中耳炎 急性中耳炎 急性中耳炎は、ウイルスや細菌の感染により中耳が炎症を起こした状態です。 急性中耳炎は、かぜやアレルギーの患者によく起こります。 感染した耳には痛みが出ます。 医師は、鼓膜を診察して診断を下します。 特定の小児予防予防接種によって、急性中耳炎のリスクを低減することができます。 さらに読む では、耳が痛み、鼓膜が赤く膨らんだり、鼓膜の奥に膿がたまったりします。この感染症は以下のことを引き起こす可能性があります。
バランスの異常
小児に起こる中耳炎のうち30~40%は、肺炎球菌が原因です。肺炎球菌性中耳炎はよく再発します。
肺炎球菌性中耳炎の診断は通常、症状と身体診察の結果に基づいて下されます。通常は培養検査などの診断検査は行いません。
予防
肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチン 肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae(肺炎双球菌)によって引き起こされる細菌感染症の予防に役立ちます。 肺炎球菌感染症としては、 耳の感染症、 副鼻腔炎、 肺炎、 血流感染症、 髄膜炎などがあります。 詳細については、CDCによる肺炎球菌結合型(PCV13)ワクチン説明書(Pneumococcal Conjugate (PCV13)... さらに読む には以下の2種類があります。
13種類の肺炎球菌を対象とする結合型ワクチン(PCV13)
23種類の肺炎球菌を対象とする非結合型多糖体ワクチン(PPSV23)
5歳未満の小児で脾臓がないか脾臓が機能不全に陥っている場合は、ワクチンに加えて抗菌薬(ペニシリンなど)を投与することがあります。こうした小児には、小児期から成人期まで抗菌薬の使用を続ける場合があります。
結合型ワクチン(PCV13)
PCV13は次の人に対して推奨されます。
すべての小児
65歳以上のすべての成人
PCV13は以下の高リスク条件のいずれかに該当する6~64歳の人にも推奨されます。
髄液の漏れを引き起こす損傷や病気
免疫機能が低下している(先天性疾患、特定の慢性腎臓病、HIV感染症、白血病、リンパ腫、その他のがんや、免疫抑制薬の使用などが原因)
非結合型ワクチン(PPSV23)
PPSV23は次の人に推奨されます。
65歳以上のすべての成人
PPSV23は次の項目のいずれかに該当する2~64歳の人にも推奨されます。
上記の高リスク条件のいずれか
慢性心疾患(高血圧を除く)
慢性肝疾患
慢性のアルコール乱用
喫煙
治療
ペニシリンなどの抗菌薬
ほとんどの肺炎球菌感染症の治療には、ペニシリン(またはアンピシリンやアモキシシリンなどの類似薬)が使用されます。通常は内服薬として使用されますが、重症の場合は静脈内投与も行われることがあります。
ペニシリンに対する耐性をもつ肺炎球菌が増加しつつあります。そのため、セフトリアキソン、セフォタキシム、フルオロキノロン系(レボフロキサシンなど)、バンコマイシン、またはオマダサイクリン(omadacycline)など、他の抗菌薬が使用されることもあります。バンコマイシンは肺炎球菌による髄膜炎に対して常に効果的とは限りません。そのため髄膜炎の患者には通常、バンコマイシンに加えて、セフトリアキソンもしくはセフォタキシム、リファンピシン、またはその両方を投与します。
さらなる情報
米国疾病予防管理センター:肺炎球菌感染症(Centers for Disease Control and Prevention: Pneumococcal Disease)