ジフテリア

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University
レビュー/改訂 2021年 3月 | 修正済み 2022年 9月
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ジフテリアは、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)呼ばれる棒状のグラム陽性細菌(図「細菌の形状」を参照)による上気道の感染症で、死に至ることもある病気です。一部の種類のジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)は、強力な毒素を出して心臓、腎臓、神経系に損傷を与えます。

  • 細菌感染によって発症し、現在、先進国ではまれにしかみられません。

  • 典型的な症状としては、のどの痛み、全身のけん怠感、リンパ節の腫れを伴うことのある発熱、のどにできる灰色で粘り気のある偽膜などがあります。

  • 診断は、のどの痛みと偽膜形成などの症状や、培養の結果に基づいて下されます。

  • この感染症の予防にはワクチン接種が役立ちます。

  • 患者は入院させ、抗菌薬を投与して感染症を根治させます。

細菌の概要も参照のこと。)

ジフテリアは、かつては小児の死亡原因の上位にありましたが、今日の先進国では、主としてワクチン接種の普及により、めったにみられなくなりました。例えば米国ではジフテリアの発症は毎年5例未満ですが、ジフテリア菌は今も世界に存在しており、ワクチン接種を十分に行わなければ大発生するおそれがあります。ジフテリアはアジア、南太平洋、中東、東欧の多数の国やハイチ、ドミニカ共和国で多く発生しています。2011年以降、インドネシア、タイ、ラオス、南アフリカ、スーダン、パキスタンで集団発生が起こっています(ジフテリアに関する旅行情報は、米国疾病予防管理センターウェブサイト(Centers for Disease Control and Prevention [CDC] web site)を参照してください)。

知っていますか?

  • 先進国では、定期予防接種のおかげでジフテリアの発生が非常に少なくなっています。

ジフテリアを起こす細菌は、通常はせきをした際に空気中に飛び散る飛沫によって広がり、通常は口やのどの粘膜表面またはその近くで増殖し、炎症を起こします。ジフテリアのこの病型は、呼吸器ジフテリアと呼ばれます。

一部の種類のジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)は、強力な毒素を出して心臓、腎臓、神経系に損傷を与えます。

皮膚症状だけが現れる軽症型のジフテリアは主として成人に発症し、ホームレスなどの不十分な衛生状態で暮らす人々によくみられます。感染した皮膚潰瘍との接触を介して広がります。

ジフテリアの症状

ジフテリアは細菌に接触してから数日(平均5日)で始まり、のどの痛み、ものを飲み込むときの痛み、声がれ、全身のだるさ(けん怠感)、発熱(約38~38.9℃)などの症状が数日のうちに現れます。心拍数の上昇、吐き気、嘔吐、悪寒、頭痛もみられることがあり、首のリンパ節が腫れる場合もあります(ブルネック[牛頸]と呼ばれます)。また、炎症のためにのどが腫れて気道が狭くなり、呼吸が極めて困難になる症例もみられます。

扁桃付近または咽喉の他の部分に偽膜が形成されます。この膜は、細菌が作り出す物質でできた丈夫な灰色のシートのようなもので、死んだ白血球、細菌、その他の物質で構成されています。偽膜によって気道が狭くなります。また、口腔の天井部である口蓋(こうがい)が麻痺して、偽膜があると、息を吸う際に、あえぐような大きな音がすることがあります。また、偽膜は気管または気道内まで進展したり、突然剥がれて気道を完全にふさいだりすることがあります。その結果、呼吸ができなくなることもあります。

特定の種類のジフテリア菌が作る毒素が、ときに特定の神経、特に顔、のど、腕や脚の筋肉に向かう神経に害を与えるため、ものを飲み込みにくくなる(嚥下困難)、眼や腕、脚を動かしにくくなるなどの症状が起こります。横隔膜(呼吸に使われる最も重要な筋肉)が麻痺することがあり、ときには呼吸不全に至ることもあります。これらの症状が治まるには数週間かかります。神経に対する毒素の作用により、心拍数の増加、不整脈、血圧低下が起きる可能性があります。また、細菌の毒素によって心筋炎(心臓の筋肉の炎症)が起きることもあり、ときに不整脈や心不全を起こし、死に至る場合もあります。

重度の感染によって腎臓が傷つく可能性もあります。

ジフテリアが皮膚のみを侵している場合、すり傷(擦過傷)のようなものや様々な見た目のただれが生じます。これらは腕と脚にみられ、湿疹、乾癬(かんせん)、膿痂疹(のうかしん)などの皮膚疾患と類似しています。少数の人では、ただれた部分が治癒しません。ただれた部分は赤くなって痛みが生じたり、じくじくしたりすることがあります。

ジフテリアの画像
ジフテリアによる偽膜
ジフテリアによる偽膜
これは偽膜(死んだ白血球、細菌、その他の物質からなる膜)の写真です。偽膜は扁桃付近または咽喉の他の部分に形成されます。偽膜によって気道が狭くなり、呼吸が困難になります。

Image courtesy of the Centers for Disease Control and Prevention.

ジフテリアによる頸部の腫れ
ジフテリアによる頸部の腫れ
この写真には、ジフテリアの男児の頸部のリンパ節の腫れ(牛頸と呼ばれます)が写っています。

Image courtesy of the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

皮膚を侵すジフテリア
皮膚を侵すジフテリア
皮膚のジフテリア感染症では、この写真のように、皮膚が赤く擦れたように見えることがあります。

Image courtesy of the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

ジフテリアによる潰瘍
ジフテリアによる潰瘍
皮膚のジフテリア感染症では、この写真のように、脚にびらんのようなもの(潰瘍)ができることがあります。

Image courtesy of the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

全体として約3%のジフテリア患者が死亡します。次の場合には、死亡のリスクが増大します。

  • 医師の診察を受けるのが遅れた場合

  • 心臓または腎臓がジフテリアに侵された場合

  • 15歳未満の小児または40歳以上の人がジフテリアにかかった場合

ジフテリアの診断

  • 感染部位から採取したサンプルの培養検査

  • 心臓がジフテリアに侵されていることが疑われる場合は、心電図検査

具合の悪い人に偽膜の形成とのどの痛みがみられる場合、特に口蓋が麻痺しているか、その人がワクチン接種を受けていない場合は、ジフテリアが疑われます。のどからサンプルを採取して、検査室で細菌を増殖させる検査(培養検査)を行い、診断を確定します。

心臓が侵されている疑いがある場合は、心電図検査を行います。

呼吸器ジフテリアの流行中に皮膚のただれがみられる場合は、皮膚ジフテリアを疑います。診断を確定するために、ただれている部分からサンプルを採取し、検査室で細菌を増殖させる培養検査を行います。

ジフテリアの予防

詳細については、ジフテリア・破傷風・百日ぜきワクチンと米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨している小児および成人向けの予防接種スケジュールも参照してください。

ジフテリアワクチンは、ジフテリア毒素の作用から体を守るものであって、ジフテリアの感染を予防することはできません。このワクチンは他のワクチンとの混合で接種します。接種するワクチンは、以下のように年齢によって異なります。

ジフテリア菌にさらされた後の対応

ジフテリア感染者と濃厚接触があった人には、感染状態を調べる検査と抗菌薬の7日間の投与を行います。また、血液と感染組織のサンプルを検査室に送って、細菌を増殖させる検査(培養検査)を行います。サンプル中にジフテリア菌が特定されたら、対象者はさらに10日間(計17日間)抗菌薬を服用しなければなりません。ワクチン接種を受けた人も依然としてジフテリアに感染する可能性があるため、この曝露後発症予防はワクチン接種の有無に関係なく行われます。

ジフテリアの治療

  • ジフテリア抗毒素

  • 抗菌薬

呼吸器ジフテリアの症状がある場合、通常は集中治療室(ICU)に入院させ、ジフテリア毒素を中和するための抗体(抗毒素)を注射します。

また、ジフテリア菌を殺すためにペニシリンやエリスロマイシンなどの抗菌薬も投与します。抗菌薬の投与は14日間続けますが、抗菌薬の投与終了後に細菌培養検査を2回行って細菌が死滅したことを確認できるまでは、隔離を続けなければなりません。これは他の人がジフテリア菌を含んだ分泌物に接触しないようにするための措置です。

皮膚ジフテリアの場合は、石けんと水でただれた部分を十分に洗浄し、抗菌薬を10日間投与します。

過去の感染は免疫があることの保証にはならないため、ジフテリアから回復した人も予防接種を受ける必要があります。この感染症は2回以上かかる可能性があります。

重度の感染症から回復するには時間がかかります。そのため、元の生活に戻るのを急がないようにするべきです。心臓がジフテリアに侵された場合は、通常の運動でも害になることがあります。

ジフテリアに関するさらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国疾病予防管理センター(CDC):推奨されている小児向け予防接種スケジュール(Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Recommended vaccine schedule for children

  2. CDC:推奨されている成人向け予防接種スケジュール(CDC: Recommended vaccine schedule for adults

  3. CDC:ジフテリア(CDC: Diphtheria): ジフテリアに関する情報(伝播、症状、ワクチンとの関連など)

  4. CDC:旅行者の健康:ジフテリア(CDC: Travelers' Health: Diphtheria):予防法や感染リスクのある個人など、旅行者向けのジフテリアに関する情報

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