寄生虫感染症の概要

執筆者:Chelsea Marie, PhD, University of Virginia;
William A. Petri, Jr, MD, PhD, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 6月
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寄生虫とは、他の生物(宿主[しゅくしゅ])の体表や体内にすみつき、宿主を利用して(例えば、栄養素を奪うことによって)生きている生物のことです。この定義は細菌、真菌、ウイルスなど多くの微生物に当てはまりますが、「寄生虫」という用語は以下のものを指して用いられます。

  • 単一の細胞のみで構成される原虫(アメーバなど)

  • 多数の細胞から成り、内部器官をもつ線虫(蠕虫[ぜんちゅう])

原虫は、細胞分裂によって人間の体内で増殖します。原虫には、腸に寄生するジアルジアや、血流に乗って移動するマラリアなど、様々な単細胞生物が含まれます。

対照的に蠕虫の多くでは、環境内で産卵と幼虫の成長が進行してから、その後に人間に寄生します。蠕虫は成長過程で、別の動物(中間宿主)を介することもあります。蠕虫には、鉤虫などの線虫、条虫吸虫などの扁形動物が含まれます。

  • 寄生虫感染症は開発が進んだ地域よりも開発途上の地域や農村部で多くみられます。

  • 開発が進んだ地域では、寄生虫感染症は移民や帰国した旅行者、免疫機能が低下している人に起こります。

  • 通常、寄生虫は口か皮膚から人体に侵入します。

  • 医師は感染を診断するとき、血液、便、尿、たんや、その他の感染組織のサンプルを採取して、検査室に送って調べてもらいます。

  • 食べもの、飲みもの、水が汚染されている可能性がある地域に行く旅行者に対しては、加熱調理して食べる、沸かして飲む、皮をむいて食べる、食べないようにするなどのアドバイスがなされます。

  • 大半の寄生虫感染症には治療薬があります。

大半の寄生虫感染症は熱帯および亜熱帯地域でよくみられ、腸管寄生虫には衛生対策が不十分な地域との関連が指摘されます。それらの地域に旅行に行った人は知らないうちに寄生虫に感染していることがあり、帰国して受診してもすぐには診断されないこともあります。米国や他の先進国では、主に移民や外国旅行者、免疫機能が低下している人(エイズを発症した人や、免疫抑制薬[免疫機能を抑制する薬]を使用している人など)が寄生虫感染症になる傾向にあります。衛生状態が悪い場合や、不衛生な習慣が残る場所(一部の精神科病院やデイケア施設など)にも、寄生虫感染症が発生するおそれがあります。

一部の寄生虫は、米国やその他の先進国でよくみられます。例えば、蟯虫(ぎょうちゅう)のほか、トリコモナス症(性感染症の一種)、トキソプラズマ症ジアルジア症クリプトスポリジウム症などの腸管感染症を引き起こす原虫などが挙げられます。

寄生虫の感染

通常、寄生虫は以下の経路から人の体に侵入します。

  • 皮膚

口から入る寄生虫は、飲み込まれて腸にとどまるか、腸壁を通り抜けて他の臓器に侵入します。多くの場合、糞口感染によって寄生虫が口に入ります。

寄生虫の中には、皮膚から直接侵入するものがあります。昆虫に刺されることで感染するものもあります。

まれに、輸血や臓器移植、感染者が使った注射針の再使用によって感染が広がったり、妊婦から胎児へ感染したりすることもあります。

特定のウイルスや細菌など、その他の感染性の微生物も同じ方法で感染します。

寄生虫の糞口感染

糞口感染は、寄生虫に感染する一般的な経路の一つです。「糞口感染」の糞とは大便のことであり、口とは口それ自体と口に入るものを指しています。糞口感染による感染症は、感染した人や動物(イヌやネコなど)の糞便で汚染されたものを何らかの経緯で口から取り込むことで広がります。多くの寄生虫が人間の消化管に侵入し、その中に生息します。そのため、寄生虫やその卵(虫卵)が人間の便に含まれていることは少なくありません。

感染者がトイレの後に十分に手を洗わない場合に、しばしば感染を広げてしまいます。トイレの後は手が汚れているため、その手で触れたものが寄生虫(または消化管の病気を引き起こす細菌やウイルス)によって汚染される可能性があります。レストランや食料品店、家庭などで誰かが汚染された手で食べものを触ると、その食べものが汚染されることがあります。それを食べた人が感染症にかかるおそれがあります。

口からの取り込みに、常に食べものが関係するとは限りません。例えば、ある人が汚染された手でトイレのドアを触り、ドアを汚染したとします。そこに他の人がやってきて、このドアに触れ、その指で自分の口を触ると、糞口感染が起きる可能性があります。

ほかにも次のような行動で糞口感染が起こることがあります。

  • 下水で汚染された水を飲む(衛生状態の悪い地域)

  • 汚染された水で養殖された貝類(カキやハマグリなど)を生で食べる

  • 汚染された水で洗浄した生の果物や野菜を食べる

  • 口と肛門を接触させる性行為を行う

  • 十分に消毒されていないプールや、下水で汚染されている湖や海域で泳ぐ

寄生虫の皮膚からの感染

一部の寄生虫は皮膚から侵入し、体内に寄生します。以下の場合があります。

  • 直接皮膚を破って侵入する

  • 寄生虫に感染した昆虫が刺した傷口から侵入する

一部の寄生虫(鉤虫など)は、汚染された土の上をはだしで歩いている人の足の裏の皮膚から入ります。吸虫の一種である住血吸虫などは、寄生虫がいる水場で泳いだり水浴びしたりしている人の皮膚から侵入します。

病気を引き起こす微生物を運び、媒介する昆虫のことを媒介生物と呼びます。一部の昆虫が媒介生物となって、原虫と呼ばれる寄生虫(マラリアを引き起こすものなど)や一部の蠕虫(オンコセルカ症を引き起こすものなど)を媒介します。これらの寄生虫の多くは、ライフサイクルが非常に複雑です。

皮膚の表面に生息していたり、皮膚に潜り込んだりする昆虫(シラミなど)やダニ疥癬虫[かいせんちゅう]など)は、外部寄生虫といいます。これらは、感染者やその人の持ち物との濃厚な接触によって感染します。

寄生虫感染症の診断

  • 血液、便、尿、皮膚、たんのサンプルの分析

典型的な症状がみられる人が衛生状態の悪い地域やその感染症の発生地域に住んでいるか、あるいはそうした地域への旅行歴がある場合、寄生虫感染症が疑われます。

検査室でサンプルを分析し、寄生虫から放出されるタンパク質(抗原検査)や寄生虫の遺伝物質(DNA)を調べる特殊な検査を行う場合があります。血液、便、尿、皮膚、たんのサンプルを採取する場合があります。

血液のサンプルを検査し、その中に寄生虫に対する抗体が含まれていないか確認する場合もあります。(抗体とは、寄生虫などによる特定の攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質です。)

また、寄生虫がいそうな組織のサンプルを採取することもあります。例えば、生検で腸の組織またはその他の感染した組織のサンプルを採取します。皮膚がサンプルとして切り取られることもあります。寄生虫を見つけるには、ときに複数のサンプルの採取や再検査が必要です。

腸管内の寄生虫を特定する

消化管に寄生虫がいると、寄生虫自体やその虫卵またはシスト(頑丈な形態に変化した休眠中の寄生虫)が便に排出されるため、顕微鏡で確認することができます。あるいは、便の検査で寄生虫から放出されるタンパク質または寄生虫の遺伝物質が見つかり、寄生虫が特定される場合もあります。抗菌薬、緩下薬(下剤)、制酸薬は、便のサンプルを採取するまで使用すべきではありません。これらの薬を使用すると便中の寄生虫が少なくなり、便サンプル中の寄生虫を発見しにくくなるからです。

寄生虫感染症の予防

一般に、以下のような対策が寄生虫による感染症の予防に役立ちます。

  • 身の回りを清潔にしておくこと

  • 虫刺されを避けること

  • 汚染された水や土との接触を避けること

多くの予防策はどこの地域でも妥当ですが、特定の地域で重要性が増す予防策もあります。地域毎の注意に関する情報は、米国疾病予防管理センター(CDC)の旅行者健康情報ページ(Travelers' Health page)に掲載されています。

口から感染する寄生虫の予防

公衆衛生が不十分な可能性のある地域に旅行するときは、特に注意する必要があります。また、飲食物は事前に内容を確認し、食べものは十分に加熱調理し、汚染された水を飲まないようにします。例えば、湖や川の水は飲まないようにし、プールや親水公園で遊ぶときは水を飲み込まないようにしてください。新鮮できれいに見える水であっても寄生虫が含まれていることがあるため、水の外観を飲用の安全性の判断に使用すべきではありません。

食べもの、飲みもの、水が寄生虫に汚染されている可能性がある地域では、旅行者は以下のアドバイスに従ってください。

  • 水道水は飲まない

  • 「加熱調理する、煮沸する、皮をむく、いずれも無理なら食べない」

冷凍しても死なない寄生虫がいるため、精製された水で作られた氷でなければ、氷を食べて病気になることもあります。

石けんと水での徹底的な手洗いが非常に重要です。他の人に出す食べものを用意する人(レストラン従業員など)は、感染を多くの人に広めてしまう可能性があるため、特に注意して手洗いを徹底する必要があります。手洗いは以下の状況で重要です。

  • トイレを使用した後

  • 小児のおむつを交換した後や、トイレを済ませた小児の世話をした後

  • 食べものを扱う前後や最中

  • ものを食べる前

  • 病気の人の世話をする前とした後

  • 創傷ケアを行う前と行った後

  • 動物やその排泄物に触れた後

皮膚から感染する寄生虫の予防

個々の国で講じるべき予防策については、米国疾病予防管理センター(CDC)の旅行者健康情報ページ(Travelers' Health page)をご覧ください。

虫刺されを防ぐ対策には以下のものがあります。

  • 屋内および屋外で殺虫剤(ペルメトリンまたはピレスラム)のスプレーを使用する

  • 扉や窓に網戸を設置する

  • ペルメトリンかピレスラムをしみこませた蚊帳を使用する

  • 皮膚の露出している部分にDEET(ジエチルトルアミド)を含む防虫剤を塗る

  • 虫に刺されないようにするために長ズボンと長袖シャツを着用する(特に日没後)

  • 虫がいる場所で長時間過ごすことになりそうな場合や、たくさん虫がいそうな場所に行く場合には、衣服にペルメトリンを吹きかける

寄生虫感染症の治療

  • 抗寄生虫薬

一部の寄生虫感染症については、自然に治癒することから、治療は必要ありません。

抗寄生虫薬という種類の薬は、寄生虫を駆除する、あるいは、蠕虫による一部の感染症では、症状が治まる程度まで蠕虫の数を減らすために特別に開発されたものです。さらに、特定の抗菌薬や抗真菌薬も寄生虫感染症に効果的です。

単独ですべての寄生虫に効く薬はありません。また、いくつかの寄生虫感染症には、効果的な薬がありません。

さらなる情報

役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 旅行者の健康(Travelers' Health):米国疾病予防管理センター(CDC)が旅行者向けに発信している旅行勧告、様々な地域の病気、およびワクチンと薬剤の推奨に関する情報

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