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多発性内分泌腫瘍症(MEN)

(家族性内分泌腺腫症;多発性内分泌腺腫症)

執筆者:

Patricia A. Daly

, MD, University of Virginia;


Lewis Landsberg

, MD, Northwestern University Feinberg School of Medicine

レビュー/改訂 2021年 4月
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本ページのリソース
  • 多発性内分泌腫瘍症は、遺伝子変異により発生するため、家族内で遺伝する傾向がみられます。

  • 多発性内分泌腫瘍症には、1型、2A型、2B型など、いくつかの種類があります。

  • 症状は多様で、影響を受けた内分泌腺によって異なります。

  • 家族の誰が多発性内分泌腫瘍症かは、遺伝子スクリーニング検査で発見できます。

  • 根治的な治療法はありませんが、それぞれの内分泌腺に発生した異変を手術や薬で治療し、過剰なホルモン生産を抑えます。

多発性内分泌腫瘍症は乳児や70代の高齢者でもみられ、通常は遺伝します。

腫瘍や異常に大きくなった腺は、しばしばホルモンを過剰に生産します。腫瘍または異常な増殖は、複数の内分泌腺で同時に発生することがありますが、多くの場合、変化は徐々に現れます。

多発性内分泌腫瘍症は、遺伝によって受け継がれた遺伝子変異により発生します。1型の原因である単一の遺伝子が確認されています。また、2A型と2B型では、1型と異なる1つの遺伝子に異常が確認されています。

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の病型

多発性内分泌腫瘍症には1型、2A型、2B型の3つがありますが、ときにはこれらの症状が重複します。

多発性内分泌腫瘍症1型

多発性内分泌腫瘍症1型では、以下の腺の2つ以上で腫瘍または過剰な増殖と活性化が発生します。

膵島細胞腫瘍のうち半数超がガストリンというホルモンを過剰に生産し、それによって胃が刺激され、胃酸が過剰に分泌されます。ガストリンを生産する腫瘍があると、しばしば 消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍(かいよう)とは、胃や十二指腸の内面が胃酸や消化液で侵食されて、円形やだ円形の傷ができた状態をいいます。 消化性潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染や、胃や十二指腸の粘膜を衰弱させる薬によって生じることがあります。... さらに読む 消化性潰瘍 ができて出血し、穴があいて(穿孔[せんこう])、胃の内容物が腹部に漏れ出したり、胃の働きが妨げられたりすることがあります。胃酸の濃度が高いと、膵臓から分泌される酵素の活性が妨げられ、下痢になったり脂肪性の悪臭のする便(脂肪便)が出たりします。このような膵島細胞腫瘍の中には、インスリンを多量に産生するものがあり、その結果として(特に数時間食事していない場合)血糖値が大幅に低下します(低血糖 低血糖 低血糖とは、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が異常に低くなっている状態です。 低血糖は、糖尿病を管理するために服用する薬によるものが最も多くみられます。低血糖のまれな原因としては、他の種類の薬、深刻な病態や臓器不全、炭水化物に対する反応(感受性の高い人において)、膵臓のインスリン産生腫瘍、一部の肥満外科手術(減量のための手術)などがあります... さらに読む )。残りの膵島細胞腫瘍は、血管作用性腸管ポリペプチドのような別のホルモンを生産して重度の下痢や 脱水 脱水 脱水は体内の水分が不足している状態です。 嘔吐、下痢、大量発汗、熱傷(やけど)、腎不全、利尿薬の使用により、脱水になる場合があります。 脱水が進むとのどの渇きを感じ、発汗や排尿も少なくなります。 脱水がひどくなると、錯乱やめまいを感じるようになります。 水を飲むか、場合によっては水分を静脈内投与して、失われた水分と血液中に溶けているナトリ... さらに読む を引き起こします。膵島細胞腫瘍の中には、ホルモンをまったく生産しないものもあります。

膵島細胞腫瘍には悪性のものがあり、体の他の部位に広がる(転移する)可能性があります。1型の患者に発生する悪性の膵島細胞腫瘍は、1型ではない患者に発生する悪性の膵島細胞腫瘍よりも増殖速度が遅い傾向にあります。

1型の患者では、下垂体腫瘍が発生することもあります。下垂体腫瘍の中にはプロラクチンというホルモンを生産するものもあり、その結果、女性では月経異常や授乳中ではないにもかかわらずしばしば乳汁分泌(乳汁漏出症 乳汁漏出症 乳汁漏出症では、男性や授乳期でない女性で乳汁が生産されます。 乳汁漏出症の最も一般的な原因は、下垂体の腫瘍によってプロラクチンというホルモンが過剰に生産されること(高プロラクチン血症)です。 高プロラクチン血症によって、乳汁漏出症、つまり男性および女性の両方で、普通では起こらないはずの乳汁の生産と不妊症が引き起こされます。... さらに読む )が起こり、男性では性欲減退や 勃起障害 勃起障害(ED) 勃起障害(ED)とは、性交を行うのに十分な勃起を達成または持続できないことです。 ( 男性の性機能障害の概要も参照のこと。) どんな男性でもときに勃起に至らない問題を抱えることがあり、そのような問題の発生は正常なことと考えられています。勃起障害(ED)は男性が次のような場合に起こります。... さらに読む (インポテンス)が起こります。また成長ホルモンを生産する腫瘍もあり、 先端巨大症 巨人症および先端巨大症 成長ホルモンが過剰につくられると、極端な発育を招きます。この状態は、小児では巨人症と呼ばれ、成人では先端巨大症(末端肥大症)と呼ばれます。 成長ホルモンが過剰につくられるのは、ほとんどの場合、がんではない(良性の)下垂体腫瘍が原因です。 小児では身長が異常に伸び、成人では身長が伸びない代わりに骨が変形します。... さらに読む 巨人症および先端巨大症 を引き起こします。下垂体腫瘍のごく一部ですが、副腎皮質刺激ホルモンというホルモンを生産するものがあり、これにより副腎が過度に刺激されて、副腎皮質ホルモンが大量につくられ、 クッシング症候群 クッシング症候群 クッシング症候群は、コルチコステロイドが過剰な状態であり、通常はコルチコステロイドの使用または副腎による過剰生産によるものです。 通常、クッシング症候群の原因は、ある病気の治療のためのコルチコステロイドの使用、または副腎でのコルチコステロイドの過剰生産を引き起こす下垂体や副腎の腫瘍です。... さらに読む クッシング症候群 を引き起こします。少数ですが、ホルモンをまったく生産しない下垂体腫瘍もあります。下垂体腫瘍は隣接する脳の一部を圧迫して、頭痛、視覚障害、下垂体の機能低下を引き起こす場合があります。

多発性内分泌腫瘍症2A型

多発性内分泌腫瘍症2A型では、腫瘍または過剰な増殖と活性化が以下の腺のうち、2つまたは3つの腺でみられます。

多発性内分泌腫瘍症2B型

多発性内分泌腫瘍症2B型には以下のものがあります。

2B型患者の多くは、家族内に同じ病気の人がいません(つまり家族歴がありません)。この場合、病気の原因は新たな遺伝子異常(遺伝子変異)です。

2B型患者の大半で粘膜に神経腫がみられます。神経腫は唇の周囲、舌、口内に光沢のあるこぶとして現れます。神経腫はまぶたや、眼の表面の光沢のある部分(結膜や角膜など)にも現れます。まぶたや唇が厚くなったり、唇が裏返しになったりする(めくり返る)こともあります。

消化管の異常は便秘と下痢を引き起こします。ときおり、結腸が肥大して拡張します(巨大結腸症)。これらの異常は、腸管の神経から神経腫が増殖した結果と考えられます。

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の診断

  • 遺伝子検査

  • 血液および尿中のホルモンの値

  • ときに画像検査

各タイプの多発性内分泌腫瘍症にみられる遺伝子の異常を調べる検査が利用できます。通常、多発性内分泌腫瘍症に典型的な腫瘍のいずれかを有する人や、この病気と診断された人の家族に対して、このような遺伝子検査が行われます。多発性内分泌腫瘍症は子どもの約半数に遺伝するため、家族のスクリーニング(ときには出生前でも)は特に重要です。

血液検査と尿検査を行い、ホルモンの値が上昇していないかを調べます。

腫瘍の位置を特定するために、 超音波検査 超音波検査 超音波検査は、周波数の高い音波(超音波)を用いて内臓などの組織の画像を描出する検査です。プローブと呼ばれる装置で電流を音波に変換し、この音波を体の組織に向けて発信すると、音波は体内の構造で跳ね返ってプローブに戻ります。これは再度、電気信号に変換されます。コンピュータが、この電気信号のパターンをさらに画像に変換してモニター上に表示するととも... さらに読む 超音波検査 CT検査 CT検査 CT検査(以前はCAT検査とよばれていました)では、X線源とX線検出器が患者の周りを回転します。最近の装置では、X線検出器は4~64列あるいはそれ以上配置されていて、それらが体を通過したX線を記録します。検出器によって記録されたデータは、患者の全周の様々な角度からX線により計測されたものであり、直接見ることはできませんが、検出器からコンピ... さらに読む CT検査 MRI検査 MRI検査 MRI検査は、強い磁場と非常に周波数の高い電磁波を用いて極めて詳細な画像を描き出す検査です。X線を使用しないため、通常はとても安全です。( 画像検査の概要も参照のこと。) 患者が横になった可動式の台が装置の中を移動し、筒状の撮影装置の中に収まります。装置の内部は狭くなっていて、強い磁場が発生します。通常、体内の組織に含まれる陽子(原子の一... さらに読む MRI検査 PET検査 PET検査 PET(陽電子放出断層撮影)検査は 核医学検査の一種です。放射性核種とは放射線を出す元素のことで、エネルギーを放射線の形で放出することで、安定した状態になろうとする原子です。放射性核種の多くは高いエネルギーの光子をガンマ線の形で放出しますが、PET検査では陽電子と呼ばれる粒子を放出する放射性核種を使用します。... さらに読む PET検査 などの画像検査も必要になります。

多発性内分泌腫瘍症(MEN)の治療

  • 腫瘍の切除

  • 多くの場合、甲状腺の摘出

多発性内分泌腫瘍症には根治的な治療法がありません。治療は各内分泌腺のそれぞれの変化に対して行われます。

可能な場合は、手術で腫瘍を摘出します。小さな膵島細胞腫瘍の場合はすぐには摘出しないこともありますが、大きくならないかをチェックし、問題が生じるほど大きくなった場合は、治療します。摘出が不可能な場合(また、摘出する前にも)、薬を投与して、腺の機能亢進により引き起こされたホルモンの不均衡を是正します。腫瘍がなくても顕著な肥大や機能亢進がある場合は、腺の機能亢進を抑える薬で治療します。

甲状腺髄様がんは治療しなければ死に至ります。そのため、遺伝子検査で多発性内分泌腫瘍症2A型または2B型である証拠が得られれば、ほとんどの場合、医師から予防的な甲状腺の摘出が勧められます。この予防的手術は、甲状腺髄様がんの診断が確定していなくても行われます。他の甲状腺がんと違い、このがんは悪性度が高く放射性ヨードで治療できません。甲状腺が摘出されると、その後生涯にわたり甲状腺ホルモンを補充しなければなりません。甲状腺がんが他の場所に広がっている場合は、別の治療法(化学療法や他の薬など)が延命に役立つことがあります。褐色細胞腫は、適切な薬で血圧をコントロールしてから手術で切除する必要があります。

腫瘍がすべて同時期に発生するわけではないため、多発性内分泌腫瘍症の人は、別の腫瘍がいつ発生するか、また発生するかどうかを不安に感じ、心配するようになります。このような不安に対処するためにカウンセリングが必要になることがあります。

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