筋力低下または脱力とは、筋肉の力が低下することで、どれだけ頑張っても筋肉を正常に動かすことができない状態をいいます。しかし、これらの用語はしばしば誤った使い方をされます。多くの人は、筋肉の力(筋力)は正常であるにもかかわらず、単なる 疲労感 疲労 筋力低下または脱力とは、筋肉の力が低下することで、どれだけ頑張っても筋肉を正常に動かすことができない状態をいいます。しかし、これらの用語はしばしば誤った使い方をされます。多くの人は、筋肉の力(筋力)は正常であるにもかかわらず、単なる 疲労感を「脱力感」と言ったり、痛みや関節のこわばりが原因で動きが制限されているだけなのに「筋力が落ちた」と表現したりすることがあります。 筋力低下は、... さらに読む を「脱力感」と言ったり、痛みや関節のこわばりが原因で動きが制限されているだけなのに「筋力が落ちた」と表現したりすることがあります。
筋力低下は、 神経系の機能不全の症状 脳、脊髄、末梢神経の病気の症状に関する序 脳、脊髄、神経が侵される病気を神経疾患と呼びます。 神経症状とは、神経系の一部または全体が侵された結果起こる症状のことで、神経系は非常に多くの身体機能を制御しているため、該当する症状は多岐にわたります。症状には、 頭痛や 腰痛など、あらゆる種類の痛みが含まれます。筋肉の運動、皮膚の感覚、特殊感覚(視覚、味覚、嗅覚、聴覚)が正常に機能するた... さらに読む である可能性があります。
人が筋肉を意図的に動かそうとするとき(随意的な筋収縮と呼ばれます)、脳から発生した信号は、以下の経路をたどります。
脳
脳幹と脊髄の神経細胞をたどる
脊髄から筋肉へと至る神経(末梢神経)をたどる
神経と筋肉の接続部(神経筋接合部)を越える
脳を使って筋肉を動かす
筋肉の動きは通常、脳と筋肉の間で神経を介して信号が伝達されることによって起こります。筋肉を動かそう(例えば、本を手に取る)と意識的に決めたときなどは、筋肉を動かすための刺激が脳から発せられます。 あるいは、筋肉を動かす刺激が感覚に端を発する場合もあります。例えば、痛みや温度変化は、皮膚の中にある神経の特殊な末端部分(感覚受容器)によって感知されます。この感覚情報は脳に送られ、脳はそれにどう反応するかを指示する司令を筋肉に送ります。このタイプの情報交換には、2つの複雑な神経伝達経路が関わっています。
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強い感覚が突然生じた場合(とがった石を踏んだとき、とても熱いコーヒーを口にしたときなど)には、信号が脊髄に伝わり、脳を介することなく直接、運動神経に戻ることがあります。これにより筋肉が瞬時に反応して、痛みを引き起こしているものから直ちに離れることができます。この反応を脊髄反射といいます。 |
また、筋組織の量も正常でなければならず、神経からの信号に反応して筋肉を収縮させる能力が組織に備わっていなければなりません。したがって、この経路(脳、脊髄、神経、筋肉、神経筋接合部)のどこかに損傷が起きた場合や、経路のどこかが病気に侵された場合にだけ、本当の筋力低下(脱力)が起こります。
筋力低下は、突然現れることもあれば、徐々に現れることもあります。体中のすべて筋力が低下すること(全身の筋力低下と呼ばれます)もあれば、一部の筋力のみが低下することもあります。例えば、脊髄損傷の部位によっては、脚にだけ筋力低下が起こることもあります。
現れる症状は、どの筋肉が侵されるかによって異なります。例えば、胸の筋肉で筋力低下が起きると、呼吸困難をきたすことがあります。眼を動かす筋肉で筋力低下が起きると、ものが二重に見えたりすることがあります(複視)。
筋力が完全になくなることを麻痺といいます。筋力低下の原因によっては、他の症状がみられることもあります。筋力低下には、ピリピリ感、ピンや針で刺されるような感覚、しびれなどの、感覚の異常を伴うこともあります。
筋力低下の原因
原因にかかわらず、信号を伝える経路うち同じ部位の機能不全は、同じような症状を引き起こすため、筋力低下の原因は部位によって分類されます(表「 筋力低下の主な原因と特徴 筋力低下の主な原因と特徴 」を参照)。すなわち、脳を侵す病気、脊髄を侵す病気、末梢神経を侵す病気、筋肉を侵す病気、神経と筋肉の接続部を侵す病気に分類されます。しかし、なかには複数の部位を侵す病気もあります。
一般的な原因
筋力低下が全身にみられるのか、特定の筋力だけが低下しているのかによって、原因は異なります。
全身的に生じる筋力低下の最も一般的な原因は以下のものです。
全身的な体力の低下(デコンディショニングと呼ばれます)―例えば、体の蓄え(筋肉量、骨密度、心臓や肺の機能)の減少(フレイル)や病気によるもので、特に高齢者に多くみられる
筋組織の減少(萎縮)―例えば、集中治療室(ICU)の患者などで長期間動かない状態や床上安静が続くことによるもの
重い病気またはけがによる神経の損傷―例えば、重度または広範囲の熱傷によるもの
筋肉を損傷する特定の病態―例えば、血液中のカリウム濃度の低下(低カリウム血症 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が低いこと) 低カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カリウム濃度の低下には多くの原因がありますが、通常は嘔吐、下痢、副腎の病気、利尿薬の使用が原因で起こります。 カリウム濃度が低下すると、筋力低下、筋肉のけいれんやひきつり、さらには麻痺が生じるほか、不整脈を起こすことがあります。 診断は、カリウム濃度を測定する血液検査に基づいて下されます。 通常は、カリウムを豊富に含む食べものを食べるか、カリウムのサプリメントを飲むだ... さらに読む )、過度の 飲酒 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む 、またはコルチコステロイドの使用
筋肉を麻痺させる薬―例えば、手術中または人工呼吸器の使用中に患者が動かないようにするために使用される薬剤など
特定の筋肉に生じる筋力低下の最も一般的な原因は以下のものです。
あまり一般的でない原因
ときに、他の様々な病態が筋力低下の原因であることもあります(表「 筋力低下の主な原因と特徴 筋力低下の主な原因と特徴 」を参照)。例えば、電解質の異常(マグネシウム 低マグネシウム血症(血液中のマグネシウム濃度が低いこと) 低マグネシウム血症とは、血液中のマグネシウム濃度が非常に低い状態をいいます。 ( 電解質の概要、 体内でのマグネシウムの役割の概要も参照のこと。) マグネシウムは体内に存在する 電解質の1つであり、血液などの液体に溶け込むと電荷を帯びる ミネラルですが、体内の大半のマグネシウムは電荷を帯びておらず、タンパク質と結合しているか、骨に蓄えられています。血液中に含まれる マグネシウムはごく微量であるものの、骨や歯の形成および、神経や筋肉の正常... さらに読む または カルシウム 低カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が低いこと) 低カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が非常に低い状態をいいます。 カルシウム濃度の低下は、副甲状腺の問題や、食事、腎疾患、特定の薬剤などが原因で発生します。 低カルシウム血症が進行すると、強い痛みを伴う筋肉のけいれんがよくみられ、そのほかに錯乱、抑うつ、忘れっぽくなる、唇や指や足のピリピリ感、筋肉のこわばりと疼きなどの症状が現れることもあります。 通常は一般的な血液検査で発見されます。... さらに読む の濃度の低下など)があると、 筋肉のけいれん 筋肉のけいれん 筋肉のけいれんとは、突然起きて短時間だけ持続する、意図しない(不随意の)筋肉または筋肉群の収縮で、通常は痛みを伴います。筋肉のけいれんは、 神経系の機能不全の症状である可能性があります。 筋肉のけいれんの最も一般的な原因は以下のものです。 明らかな理由なく起こる脚の筋肉の良性のけいれん(典型的には夜間に発生する) 運動に伴う筋肉のけいれん(運動中または運動後に発生する) 筋肉のけいれん(「筋肉がつる」とも表現されます)は、健康な人にもし... さらに読む やひきつりに加えて、ときに現れては消えるを繰り返す筋力低下が生じることがあります。
けいれん性疾患のある人では、発作が止まった後に体の片側の筋肉で筋力低下が起きることがあります(トッド麻痺と呼ばれます)。この筋力低下は通常、数時間で治まります。
疲労
患者が筋力の低下を訴えても、実際には 疲労 疲労 疲労とは、休む必要性を強く感じ、活動を開始したり維持したりするのが困難になるほどエネルギーが不足した状態です。運動や長期のストレス、睡眠不足などの後にみられる疲労は正常です。しかし、疲労が増大したり、以前は疲労の原因にならなかった活動の後に生じたりする場合には、その疲労は何らかの病気の症状(ときに最初の症状)である可能性があります。... さらに読む が原因である場合もあります。疲労の一般的な原因には、重症疾患、がん、慢性感染症(HIV感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症とは、ある種の白血球を次第に破壊し、後天性免疫不全症候群(エイズ)を引き起こすことのあるウイルス感染症です。 HIVは、ウイルスやウイルスに感染した細胞を含む体液(血液、精液、腟分泌液)と濃厚に接触することで感染します。 HIVはある種の白血球を破壊し、感染症やがんに対する体の防御機能を低下させます。... さらに読む 、 肝炎 肝炎の概要 肝炎とは肝臓の炎症です。 ( 急性ウイルス性肝炎の概要と 慢性肝炎の概要も参照のこと。) 肝炎は世界中でみられる病気です。 肝炎には以下の種類があります。 急性(経過が短い) さらに読む 、 伝染性単核球症 伝染性単核球症 エプスタイン-バーウイルスは、伝染性単核球症をはじめ、いくつかの病気を引き起こします。 この ウイルスはキスを介して広がります。 症状は様々ですが、最も多いのは極度の疲労感、発熱、のどの痛み、リンパ節の腫れです。 血液検査を行って診断を確定します。 アセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は発熱と痛みを和らげます。 さらに読む など)、 心不全 心不全 心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。... さらに読む 、 腎不全 腎不全の概要 この章には、 COVID-19および急性腎障害(AKI)に関する新しいセクションが含まれています。 腎不全とは、血液をろ過して老廃物を取り除く腎臓の機能が十分に働かなくなった状態のことです。 腎不全の原因としては、様々なものが考えられます。腎機能が急激に低下する場合( 急性腎障害、急性腎不全とも呼ばれます)もあれば、ゆっくりと低下していく... さらに読む 、 肝不全 肝不全 肝不全は、肝機能が大幅に低下した状態です。 肝不全は、肝臓に損傷が起きる病気や物質により引き起こされます。 ほとんどの患者は 黄疸(皮膚と眼が黄色くなる)になり、疲れて脱力を覚え、食欲を失います。 他の症状には、腹部への体液の貯留( 腹水)や、皮下出血や出血が起きやすい傾向などがあります。 医師は通常、症状と身体診察、および血液検査の結果に基づいて、肝不全の診断を下すことができます。 さらに読む 、 貧血 貧血の概要 貧血とは、赤血球の数が少ない状態をいいます。 赤血球には、肺から酸素を運び、全身の組織に届けることを可能にしているヘモグロビンというタンパク質が含まれています。赤血球数が減少すると、血液は酸素を十分に供給できなくなります。組織に酸素が十分に供給されないと、貧血の症状が現れます。... さらに読む 、 慢性疲労症候群 慢性疲労症候群 慢性疲労症候群とは、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)とも呼ばれ、身体診察や臨床検査で客観的な異常が認められない状況で日常生活を送れないほどの重度の疲労感が長期間続く状態をいい、その原因は、身体的なもの、精神的なものを含め分かっていません。 患者には説明がつかない疲労が6カ月以上継続します。... さらに読む 、 線維筋痛症 線維筋痛症 線維筋痛症は、睡眠不足や疲労、意識障害のほか、軟部組織(筋肉、腱、靱帯など)に広がる、うずくような痛みとこわばりを特徴とします。 睡眠不足、ストレス、挫傷、けが、場合によってはある種の性格上の特性によって、線維筋痛症のリスクが高まる可能性があります。 痛みは広範囲にわたり、体の特定の部分を触ると圧痛があります。 線維筋痛症の診断は、確立された基準と広範囲に及ぶ痛みや疲労などの症状に基づいて下されます。... さらに読む 、気分障害(うつ病 うつ病 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む など)などがあります。
多発性硬化症は、高温多湿の環境にさらされると増大する疲労を引き起こすことがあります。
筋力低下の評価
医師はまず、本当に筋力低下があるのか、単なる疲れによるものなのかを判断します。筋力低下があれば、その重症度または悪化の速さから、生命を脅かす可能性があるかどうかを判断します。医師は原因の特定も試みます。
警戒すべき徴候
筋力低下がみられる場合は、以下の症状に注意が必要です。
数日で重症化する筋力低下
呼吸困難
横になった状態で頭を持ち上げることが難しい
咀嚼、発話、または嚥下が難しい
歩けない
受診のタイミング
警戒すべき徴候がみられる人は、直ちに救急医療機関を受診する必要があります。警戒すべき徴候を伴う筋力低下は、急速に悪化して恒久的な身体障害を残したり、死に至ることもあるため、直ちに医療機関を受診することが極めて重要です。
脳卒中を示唆する症状 脳卒中の警戒すべき症状 脳卒中は、脳に向かう動脈が詰まったり破裂したりして、血流の途絶により脳組織の一部が壊死し(脳梗塞)、突然症状が現れる病気です。 脳卒中のほとんどは虚血性(通常は動脈の閉塞によるもの)ですが、出血性(動脈の破裂によるもの)もあります。 一過性脳虚血発作は虚血性脳卒中と似ていますが、虚血性脳卒中と異なり、恒久的な脳損傷が起こらず、症状は1時間... さらに読む (表「 筋力低下の主な原因と特徴 筋力低下の主な原因と特徴 」を参照)がある場合は、早期治療が機能と感覚の喪失を抑えるのに役立つため、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
警戒すべき徴候がない人は、主治医に電話で相談してください。医師は患者の症状と併存疾患に基づいて、どの程度早急な受診が必要かを判断します。
筋力低下が徐々に(数カ月から数年かけて)悪化している場合、次回の受診時に主治医と話し合ってください。
医師が行うこと
医師はまず、症状と 病歴 神経疾患に関する病歴聴取 医師は身体診察を始める前に、まず問診を行います。 医師はそこで、神経系に関連した症状( 神経症状 )も含めて、その時点での病状を説明するよう患者に求めます。 詳細にどのような症状があるか 症状はどこに、どれくらいの頻度で起きているか 症状はどれくらい重いか さらに読む について質問します。次に身体診察を行います。病歴と身体診察での所見から、多くの場合、原因と必要な検査が推測できます(表「 筋力低下の主な原因と特徴 筋力低下の主な原因と特徴 」を参照)。
医師は、筋力低下の症状について詳しく説明するよう患者に求めます。医師は以下のことを質問します。
筋力低下はいつ始まったか
筋力低下は突然始まったか、徐々に始まったか
症状は変化したり悪化したりするか
どの筋肉に症状があるか
筋力低下のために困難になった動作はあるか(例えば、呼吸する、歯を磨く、髪をとく、話す、飲み込む、座った状態から立ち上がる、階段を昇る、歩くなどの動作)
神経系の機能不全を示す他の症状はあるか(例えば、発話または視覚障害、感覚消失または記憶障害、けいれん発作など)
何らかの活動や状態(発熱や反復的な筋肉の使用など)で筋力低下が悪化するかどうか
ときに、筋力低下が徐々に起こっているにもかかわらず、急に起こったように感じられることがありますが、これは、歩いたり靴を履いたりできなくなって初めて患者が症状に気づくためです。
以下のように、患者の説明に基づいて、最も可能性の高い原因を判断できることがよくあります。
筋肉の病気:筋力低下が腰や太ももまたは肩から始まり(そのため、立ち上がる、腕を頭上に上げるなどの動作が難しくなります)、感覚には異常がありません
末梢神経の病気:筋力低下が手足から始まり(そのため、コップを持つ、字を書く、縁石をまたぐなどの動作が難しくなります)、感覚消失を伴います
医師は、その他の症状についても尋ねることがあり、そういった症状から何らかの原因が示唆されることがあります。例えば、腰痛とがんの病歴のある患者が脚の筋力低下を訴えている場合には、がんが脊髄に広がって脊髄を圧迫している可能性があります。
医師は、筋力低下を引き起こす病気のリスクを高める条件について質問します。例えば、高血圧や動脈硬化(脳卒中のリスクを高める)があるかや、ライム病の流行地域に旅行したことがあるかを尋ねます。
また、本当の筋力低下ではなく、 疲労 疲労 疲労とは、休む必要性を強く感じ、活動を開始したり維持したりするのが困難になるほどエネルギーが不足した状態です。運動や長期のストレス、睡眠不足などの後にみられる疲労は正常です。しかし、疲労が増大したり、以前は疲労の原因にならなかった活動の後に生じたりする場合には、その疲労は何らかの病気の症状(ときに最初の症状)である可能性があります。... さらに読む やその他の問題を示唆する症状についても尋ねられます。疲労は真の筋力低下より漠然とした症状を引き起こす傾向があり、また疲労は特定のパターンに従いません。すなわち、症状が常にあり、全身にみられるということです。本当の筋力低下がある人は、しばしば何か特定の作業ができないことを訴え、筋力低下にはパターンがあります(例えば、歩いた後に悪化するなど)。
医師は、重い病気や気分障害(うつ病 うつ病 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む など)といった、よく疲労を引き起こす病気に最近かからなかったか、今かかっていないかを尋ねます。
現在や過去の薬物(アルコールやレクリエーショナルドラッグを含む)の使用についても尋ねられます。
家族に同様の症状がある人がいるかどうかは、原因が遺伝するものかどうかを判断する際の助けになります。
身体診察では、医師は神経系(神経学的診察 神経学的診察 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む )と筋肉の評価に重点を置きます。
医師は患者の歩行を観察しますが、その歩き方から、症状を引き起こしている病気や、異常がある部位を推測できることがあります。例えば、片脚を引きずっている場合、歩くときの腕の振り方が左右で異なる場合、これらの両方の症状がみられる場合には、脳卒中が原因である可能性があります。医師はまた、神経系の機能不全を示す他の徴候(協調運動障害や感覚低下)がないかも確認します。
脳神経 脳神経の概要 脳神経は12対の神経で構成され、脳から直接出て頭部、頸部、体幹の様々な部位へと伸びています。脳神経には、特殊な感覚(視覚、聴覚、味覚など)を担うものと、顔の筋肉を制御したり腺を調節したりするものがあります。脳神経は、それぞれの位置に応じて、脳の前から後ろに向かって番号と名前が付けられています。... さらに読む (脳と目、耳、顔など様々な部位とをつなぐ神経)の検査を行い、例えば、眼を動かせるか、はっきりしゃべれるか、頭を回すことができるかなどを確認します(表「 脳神経の機能を調べる検査 脳神経の機能を調べる検査 」を参照)。
筋肉 運動神経 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む を診察し、筋肉の量が正常であるか、意図しない異常な運動(不随意に起こるひきつりやふるえ)がないかも確認します。また、筋肉がどの程度滑らかに動くか、ほかから加えられた動きに対して意図しない抵抗が生じるかどうか(患者が筋肉をリラックスさせているときに医師が筋肉を動かすことで確認します)を見ます。
反射 反射 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む の確認も行います。反射とは、刺激に対して自動的に起こる反応のことです。例えば、医師はゴム製のハンマーで膝頭の下にある筋肉の腱を軽くたたくことで、膝蓋腱反射(しつがいけんはんしゃ)を調べます。そうすると、正常であれば膝が意図せず跳ね上がります。以下のように、異常がある部位に応じて反射の現れ方が変わるため、神経系のどの部位が侵されているのかを特定する上で役立ちます。
脳または脊髄の場合:反射が非常に容易にかつ非常に強く現れます
末梢神経の場合:反射が出にくく、遅れてみられるか、まったくみられません
筋力 筋力 神経の病気が疑われる場合、医師は身体診察を行って、すべての器官系の評価を行いますが、特に神経系に重点が置かれます。神経系の診察(神経学的診察)では、以下の要素が評価されます。 精神状態 脳神経 運動神経 感覚神経 さらに読む の検査では、抵抗に逆らって押したり引いたりする動作や、一定の筋力を必要とする動作(つま先またはかかとだけで歩く、立ち上がるなど)を行います。
原因を示唆する他の症状(息切れ[心臓または肺の病気によって生じる場合があります]など)を探すため、全身の身体診察も行います。
一般に、病歴と身体診察の結果から、脳、脊髄、神経、または筋肉の病気を示唆する特定の異常が見つからなければ、疲労が原因である可能性が高くなります。
検査
重度または急速に進行する全身の筋力低下がみられる場合や、呼吸に問題がある場合は、まず呼吸筋の筋力を評価する検査(肺機能検査 肺機能検査 肺機能検査では、肺にためることができる空気の量、肺から空気を出し入れする能力、肺に酸素を取り込む能力を測定します。 肺機能検査は、肺疾患の具体的な原因を突き止めるというより、一般的なタイプや重症度を調べるのに適していますが、 喘息や 慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの特定の病気を診断するために使用されることもあります。 ( 肺疾患に関する病歴聴取と身体診察および 呼吸器系も参照のこと。)... さらに読む )を行います。その検査の結果は、突然起こる重度の肺機能不全(急性呼吸不全 呼吸不全 呼吸不全は、血液中の酸素レベルが危険なほど低くなったり、血液中の二酸化炭素濃度が危険なほど高くなる病気です。 呼吸不全の原因としては、気道をふさぐ病気、肺組織を損傷する病気、呼吸を制御する筋肉を衰えさせる病気、呼吸を促す仕組みが抑制される病気などがあります。 激しい息切れ、皮膚の青みがかった変色、錯乱または眠気などの症状がみられることがあ... さらに読む )を評価する上で役立ちます。
疑われる異常に応じて、ほかに以下のような検査が行われます。
脳の病気:MRI検査、またはMRI検査を行えない場合はCT検査
脊髄の病気:MRI検査または(MRI検査を行えない場合)脊髄造影CT検査のほか、ときに腰椎穿刺
末梢神経の病気(多発神経障害を含む)または神経筋接合部の病気:筋電図検査と通常は神経伝導検査
筋肉の病気(ミオパチー):筋電図検査と通常は神経伝導検査のほか、ときにMRI検査、筋酵素の測定、筋生検、遺伝子検査
ときにMRIを行えない場合もあり、例えば、ペースメーカー、その他の金属製の植込み式器具、その他の金属(散弾片など)が体内にある人では、MRI検査は行えません。そのような場合は、別の検査で代用します。
CT 脊髄造影検査 脊髄造影検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む では、針を腰に刺して、脊髄の周りを流れる液体に造影剤(X線画像に写る物質)を注射してから、CTの撮影を行います。
筋電図検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む では、筋肉に小さな針を刺し、その筋肉が休んでいるときと収縮しているときの電気的活動を記録します。
神経伝導検査 筋電図検査と神経伝導検査 病歴聴取と 神経学的診察によって推定された診断を確定するために、検査が必要になることがあります。 脳波検査は、脳の電気的な活動を波形として計測して、紙に印刷したりコンピュータに記録したりする検査法で、痛みを伴わずに容易に行えます。脳波検査は以下の特定に役立つ可能性があります。 けいれん性疾患 睡眠障害 一部の代謝性疾患や脳の構造的異常 さらに読む では、電極または小さな針で神経を刺激します。そして、信号が神経を伝わる速さを測定します。
筋力低下以外の症状がなく、診察でも異常がみられなければ、通常は検査を行っても結果は正常となります。しかし、ときに血液検査を行って、以下のような項目を調べることがあります。
血算
電解質(カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)、糖(グルコース)、甲状腺刺激ホルモンの濃度の測定
赤血球沈降速度(赤沈)(炎症を検出できる)
ときに血液検査を行って、腎機能と肝機能を評価し、肝炎ウイルスの有無を確認することもあります。
筋力低下の治療
原因が特定された場合は、可能であれば、それに対する治療を行います。筋力低下が突然始まり、呼吸困難を伴う場合は、 人工呼吸器 人工呼吸器 人工呼吸器は、肺への空気の出入りを補助するために用いる機械です。 呼吸不全の患者の一部は、人工呼吸器(肺に出入りする空気の流れを補助する機械)による呼吸の補助を必要とします。人工呼吸器によって命が助かることもあります。 人工呼吸器には、多くの使い方があります。通常は、合成樹脂製のチューブを鼻または口から気管に挿入します。人工呼吸器が数日以上必要な場合は、首の前側を小さく切開して(気管切開)、気管に直接チューブを通すこともあります。人工呼... さらに読む が必要になることがあります。
理学療法や作業療法は、患者が恒久的な筋力低下に適応し、失った機能を補う助けになります。理学療法は、筋力の維持のほか、ときに筋力の回復にも役立つことがあります。
高齢者での重要事項:筋力低下
人は歳を重ねるに従い、筋組織の量と筋力が減少する傾向があります。これらの変化が起こる理由として、高齢者はあまり体を動かさないことが挙げられますが、筋肉の発達を刺激するホルモンの分泌が減少することも関係しています。そのため高齢者の体は、病気で床上安静の状態が続くと、壊滅的なダメージを受けます。高齢者は若い人に比べて、病気が始まった時点ですでに筋組織の量と筋力が少ない上、病気の経過によってより急速に筋組織を失います。
高齢者では、薬剤も筋力低下の一般的な原因の1つであり、これは高齢者が多くの薬剤を服用しているためだけでなく、薬剤の副作用(筋肉の損傷や神経の問題など)が出やすいためでもあります。
筋力低下を訴える高齢者を医師が診察する際には、筋力低下を引き起こすのではなく、バランス感覚、協調運動、視覚、歩行などを妨げる病態や、動くと痛みが生じる病態(関節炎など)にも重点が置かれます。高齢者は、このような病態の影響を筋力低下と誤認することがあるためです。
筋力低下の原因が何であるかに関係なく、高齢者の機能改善には通常は理学療法が役立ちます。
要点
多くの人は、単に疲れているだけであるにもかかわらず「脱力感」があると言ったり、痛みや関節のこわばりが原因で動きが制限されているだけなのに「筋力が落ちた」と言ったりしますが、このような言葉の使い方は医学的には正確ではありません。
本当の筋力低下は、随意的な筋肉の動きに必要な(脳から筋肉に至る)経路の一部が機能しなくなったときにのみ発生します。
筋力低下が数日で重症化する場合や、筋力低下とともに 警戒すべき徴候 警戒すべき徴候 筋力低下または脱力とは、筋肉の力が低下することで、どれだけ頑張っても筋肉を正常に動かすことができない状態をいいます。しかし、これらの用語はしばしば誤った使い方をされます。多くの人は、筋肉の力(筋力)は正常であるにもかかわらず、単なる 疲労感を「脱力感」と言ったり、痛みや関節のこわばりが原因で動きが制限されているだけなのに「筋力が落ちた」と表現したりすることがあります。 筋力低下は、... さらに読む がみられる場合は、直ちに医師の診察を受ける必要があります。
多くの場合、医師は症状のパターンと身体診察の結果に基づいて、筋力低下が本当にあるかどうかを判断し、原因を特定します。
通常は、筋力低下の原因にかかわらず、理学療法が筋力の維持に有用です。